イ・スンレとチェギョンの親子鑑定を依頼した医師からの電話を受け、ミンは逸る想いを必死に鎮めながら
病院に駆けつけた
その医師の部屋の扉を開け、取り乱さない様良家の奥様らしく振舞い勧められた椅子に腰を降ろす
『早速ですが・・・先生、いかがでしたか?』
『奥様・・・その前に一つお尋ねしてもよろしいですか?』
『えっ?ええ構いませんわ。なんですの?』
『この鑑定結果は・・・もしやこの病院で起こった事なのですか?
もしそうだとしたら病院の信用に関わりますので・・・』
『えっ?・・・あらやだ~~ごめんなさいね。そうではありませんわ。ご心配なく~♪』
ミンは自分の返事を聞いた医師が、安堵の表情を浮かべるのを見て益々確信した
『奥様・・・これが鑑定結果です。ご覧ください。』
『では・・・』
ミンはその鑑定結果を開き、そして口角を上げた
『先生?つまりこの99.9%の確率で親子であるというのは・・・』
『はい。間違いなく血を分けた母子であるということです。』
『そうですか。先生・・・少し相談があるんですけどぉ・・・
出生時に赤ちゃんの取り違えがあったとしたら、どう対応するべきです?』
『そうですね。裁判所にこの書類を持ち込んで、取り違えた子供達を本当の両親の元に戻すことが
一番よろしいかと思いますが・・・』
『たとえばですよ。その取り違えた赤ちゃんが、片方の親の悪意によってひき起こされたとしたら?』
『それは刑事事件ですよ。何かの過失でも大変なことなのに故意の行いだとしたら
その事件を起こした張本人には刑事罰が下されるでしょう。』
『それが・・・既に亡くなっているんです。』
『そうですか・・・罪に問えないということなのですね。
ですが何れにせよこれはなかなか難しい問題ですよ。
被害に遭ったご夫妻も他人の子供を自分の子供としてずっと育ててきたわけですから、
そこには情もあるでしょうし簡単に割り切れる問題ではないかと・・・』
『そうですよねぇ・・・』
『まさかと思いますが奥様ご自身のお話ですか?』
『あら~~違いますわ。大変懇意にしているお宅の問題なんですの。
先生・・・大至急のお願いを聞いていただき本当に感謝いたしますわ。』
『いえ、お役に立てて良かったです。』
病院を後にし車に乗り込んだミンは、即座にチェギョンに電話を掛けた
2コール3コール・・・漸くチェギョンが電話を取った時、ミンは必死に気持ちを落ち着かせながら話し掛けた
『チェギョンさん!!今すぐお逢い出来るかしら?』
ところが電話の向こうからはざわざわと人の声が響いていて、なかなかチェギョンは返事をしない
漸くチェギョンの声が聞こえて来たと思ったら、随分とくぐもった声である
恐らく電話を掌で覆い、こっそり話しているのだろう
『あ・・・おば様こんにちは。あのっ・・・今アルバイト中で夜10時にならないと身体が空かないんです。』
『えっ?10時?・・・(そんな時間までアルバイトを・・・)
解ったわ。10時過ぎた頃、あなたのアパートに伺うわ。よろしいかしら?』
『はい。構いません。すみませんおば様・・・』
『いいのよ。じゃあまた夜にね。』
電話を切った後ミンは自宅に戻りながら考えた
イ・スンレとの親子鑑定が間違いないと解った以上、事を引き伸ばすのは得策ではない
自宅に戻ろうとしていた行き先を変更し、ひとまずイ・スンレにこの事実を話してみようと思い
ミンはシン家へと向かった
アポイントを取らずに行ったにも拘わらず幸いにもイ・スンレは在宅中だった
『まぁ~ミンさん、どうなさったの?連絡もなしにいらっしゃるなんて珍しいわ。』
『スンレさんに至急話したい事があって来たのよ。お邪魔してもいいかしら?』
『ええどうぞ♪』
リビングで向かい合い、出されたお茶で喉を潤し・・・それから意を決してミンは口を開いた
『あのねスンレさん・・・驚かないで聞いて欲しいのだけど・・・』
ミンは話し始めた
偶然●×産婦人科の前でチェギョンに出逢った事・・・
チェギョンがあまりにも憔悴していたので声をかけたら、チェギョンからイ・スンレの名前が出て来た事・・・
事故で亡くなった母親の遺品の日記帳に・・・とんでもない言葉が書かれていた事・・・
それを知ったミンはチェギョンとイ・スンレの毛髪を手に入れ親子鑑定を依頼した事・・・
そして結果が先程出た事・・・
『ミンさん・・・なんの冗談なの?』
『冗談でこんな話はしないわ。あなたの家族に波風を立てることになるのだし・・・。
でも私・・・チェギョンさんがどうしても放っておけなかったの。これを見ていただける?』
ミンは先程病院から受け取って来た親子鑑定結果の書類をスンレに見せた
『母子に・・・間違いない。でも信じられないわ。』
『私がチェギョンさんの毛髪とスンレさんの毛髪を鑑定に出した結果よ。信じられないのも無理はないけど・・・。
でもあなた以前・・・≪子供の顔が変わったような気がする≫って言っていなかった?』
『出産して帰ってきた時ね。ミンさんに私が電話を掛けてそう言ったのよ。
そうしたらミンさん、≪子供の顔なんか毎日変わるわよ~♪≫って言ったじゃないの。』
『確かに・・・子供の顔って変わるから・・・。
でもこの話は本当のことなの。退院前にすり替えられたのよ。あなたの産んだ子とヒョリンが・・・』
『どうしたらいいの・・・。夫はヒョリンを溺愛しているし、そんな話は絶対に信じないわ。』
『信じないのなら信じなくてもいいわ。
あの子は≪もし本当の両親が生きているのなら、一目だけでも逢いたい≫という気持ちから
あなたを探したかっただけだから・・・。多分一目逢えればそれで満足でしょう!!』
なんだか半ば悔しい気持ちになって来るミン
スンレは戸惑いの方が大きく、本当の娘に逢うことを躊躇っているように思えた
鑑定結果をバッグにしまいソファーから立ち上がったミン。これではチェギョンがあまりにも憐れに思えた
『もし逢う気があるのなら電話くださるかしら?私は帰ります。』
『ちょっと待って!!ミンさん、その子といつ逢うの?』
『今夜の10時過ぎよ。』
『そんなに遅い時間に?』
『ええ。彼女天涯孤独になったからアルバイトしないと生活していけないのよ。
正直私が家に連れて帰りたいくらいだわ!!』
『行くわミンさん。その子に逢いに・・・。一緒に連れて行っていただける?』
『解ったわ。夜迎えに来るわね。』
スンレがチェギョンに逢いたいと言った事で、少しは憤った気分が収まったミン
その返答次第では長年培ってきた友情にさえもヒビが入りそうだった
そうしてその日の夜・・・ミンはスンレを助手席に乗せチェギョンの住んでいるアパート近くの駐車場に車を停めた
そしてアパートに案内しながらその周辺を歩く
『ミンさん・・・ここはあまり治安がよくなさそうね。』
大声を張り上げながら闊歩する酔っぱらいを横目で見ながらスンレは呟いた
『だから・・・こんな時間だけど、今日中に結果を知らせてあげたかったの。』
出来る事ならスンレがシン家に連れ帰ってくれればよいのだが・・・なかなかそう簡単にはいくまいとミンは思った
だが・・・この場所をスンレに見せることができて、チェギョンの現状を知って貰える・・・
そうしたら情の深いスンレは心を動かされることだろう・・・そう思ったのである
アパートの前でミンを待っていたチェギョンは、ミンがイ・スンレを連れて来たことに大層驚いたようだ
『おば様・・・』
『チェギョンさんこんばんは。少しお邪魔しても良いかしら?』
『あ・・・はい。散らかっていますがどうぞ。』
チェギョンに促がされるまま、軋む階段を上っていったミンとスンレ
よもや一生足を踏み入れることがないと思われるような、古びたアパートの一室に入っていく・・・
『あ・・・どうぞお掛けください。』
二人に座布団を勧めお茶を煎れて来ると、チェギョンはその向かい側に座った
チェギョンの母の遺影だろうか・・・その写真にスンレは目を向けそしてその顔に見覚えがある事に気がついた
(こ・・・この人って確か出産した病院で一緒だった人よ。
私が特別室だと知ったら嫌味を言った人・・・
そう言えば・・・病院の乳児健診で逢った時にうちのヒョリンを見て≪まぁ~綺麗なお嬢さんですね。
着ているお洋服も可愛いらしくて・・・。うちの子は何をやらせてものろまで、
お宅のお嬢さんが本当に羨まし・・・≫
そうだ!!そうだわ!!まるで舐めるようにヒョリンを褒めちぎっていった人。あの人だわ。
じゃあ・・・あの時、頭を小突かれて泣きながら出ていったのが・・・この子・・・)
そんなスンレの心の声が聞こえたかのように、ミンは親子鑑定結果の書類をテーブルの上に置いた
『イ・スンレさんを連れてきてしまった事で、結果はもう解っていると思うけど・・・
やはり間違いなく親子だという結果よ。』
『そうでしたか・・・』
『ごめんなさいね。相談もしないで勝手なことを・・・』
『いいえ。おば様、どうもありがとうございます。』
『チェギョンさん、亡くなったお母様の日記帳・・・スンレさんに見せていただける?』
『いえおば様・・・もういいんです。こうして正面からお顔が見られたので、もう満足です。』
『そんな・・・』
チェギョンの言葉に驚くミン。だがスンレの気持ちは納まりがつかなくなっていた
『チェギョンさんと仰るのね。イ・スンレです。この間ミンさんの車に乗ってらしたわね。』
『はい。お逢い出来て嬉しいです。』
『私に亡くなったお母様の日記帳を見せていただける?』
『えっ?・・・でも、余りいい気分のすることは書いていないと思うのですが・・・』
『真実を知らないといけないでしょう?見せて頂戴。』
『わかり・・・ました。』
チェギョンは母の遺影の前に置いた黒い革の日記帳をスンレに手渡した
スンレはすぐさまそれを開いてみる
すると・・・今日の今日まで娘だと思って育てて来たヒョリンの名前が、いきなり目に飛び込んできたのだ
≪○月×日・・・今日ヒョリンのバレエの発表会を見に行った。
なんて美しく踊るのだろう。ヒョリンをあの家に託して良かった。
私だったらヒョリンを輝かせることは出来なかった。≫
スンレは手が震えだすのを押さえられなかった
『チェギョンさん・・・あなたこの日記、全部読んだの?』
『いえ・・・自分の名前が書かれていないか探してみたんですが、ほとんど書かれていなくて・・・
生まれた日のあたりを見て・・・今回の事を知ってしまったんです。』
『そう・・・お母様はどうやら、ご自身が生んだ娘に逢っていたみたいね。』
『えっ?・・・』
『ここを見て・・・』
チェギョンはスンレが読んでいたページを目にし愕然とする
バレエ・・・そしてヒョリン・・・チェギョンには思い当たる人物が一人いたのである
『あの・・・まさかと思いますが、韓国芸術高校三年シン・ヒョリン・・・』
『そうよ。』
『えっ・・・』
『お友達だった?』
『いえ、友達というほどではありません。私とは住む世界の違う人ですから・・・』
チェギョンの言ったその言葉に、同じ学校に通いながらも生活レベルの差があったことを悟ったスンレ
『チェギョンさん・・・この日記帳お借りしてもいいかしら?』
『えっ?はい構いませんが・・・』
『主人に見せるわ。』
『あ・・・あの・・・今更波風立てる様なことはしたくないんです。私・・・この環境で18年生きてきましたから
これからも大丈夫です。でも時々・・・逢っていただけると嬉しいですが・・・』
『チェギョンさんこれはね、私だけの胸に留めておける問題じゃないのよ。
主人も真実を知るべきだわ。ただ・・・主人はとてもヒョリンを溺愛しているの。
恐らくこの日記帳と親子鑑定の結果だけでは納得しないと思うの。
本当に申し訳ないんだけど、今度は主人と親子鑑定をしてみるわ。髪を少しいただける?』
『はい。それは構いません。
もしかして私は・・・とんでもない疫病神なのかもしれません。
ですから、ご主人が拒否なさったらもうこの話は終わりにしてください。
母が急に亡くなって心細くなっただけなんです。私は・・・大丈夫ですから・・・』
スンレはチェギョンから毛髪を数本と黒い革の日記帳を受け取り、ミンと共に部屋から出ていこうとした時
チェギョンに封筒を手渡した
『これは・・・なんですか?』
『お金。こんな時間までアルバイトなんかしないでこれを使って頂戴。』
『いただけません。』
『お願いだから受け取って!!でなければここから帰ることが出来ないわ。』
『解り・・・ました。お預かりしておきます。』
チェギョンはスンレから手渡された封筒を胸の前で握り締め、二人を見送った
車に乗り込んだ二人。ミンは黙ったままシン家に向かって車を走らせた
助手席ではイ・スンレが時折声を洩らしながらずっと泣いているのだった・・・
あらやだわ奥さん!!
シン君・・・今日は一度も登場しないってか?
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
すまぬ~~次回にね❤
病院に駆けつけた
その医師の部屋の扉を開け、取り乱さない様良家の奥様らしく振舞い勧められた椅子に腰を降ろす
『早速ですが・・・先生、いかがでしたか?』
『奥様・・・その前に一つお尋ねしてもよろしいですか?』
『えっ?ええ構いませんわ。なんですの?』
『この鑑定結果は・・・もしやこの病院で起こった事なのですか?
もしそうだとしたら病院の信用に関わりますので・・・』
『えっ?・・・あらやだ~~ごめんなさいね。そうではありませんわ。ご心配なく~♪』
ミンは自分の返事を聞いた医師が、安堵の表情を浮かべるのを見て益々確信した
『奥様・・・これが鑑定結果です。ご覧ください。』
『では・・・』
ミンはその鑑定結果を開き、そして口角を上げた
『先生?つまりこの99.9%の確率で親子であるというのは・・・』
『はい。間違いなく血を分けた母子であるということです。』
『そうですか。先生・・・少し相談があるんですけどぉ・・・
出生時に赤ちゃんの取り違えがあったとしたら、どう対応するべきです?』
『そうですね。裁判所にこの書類を持ち込んで、取り違えた子供達を本当の両親の元に戻すことが
一番よろしいかと思いますが・・・』
『たとえばですよ。その取り違えた赤ちゃんが、片方の親の悪意によってひき起こされたとしたら?』
『それは刑事事件ですよ。何かの過失でも大変なことなのに故意の行いだとしたら
その事件を起こした張本人には刑事罰が下されるでしょう。』
『それが・・・既に亡くなっているんです。』
『そうですか・・・罪に問えないということなのですね。
ですが何れにせよこれはなかなか難しい問題ですよ。
被害に遭ったご夫妻も他人の子供を自分の子供としてずっと育ててきたわけですから、
そこには情もあるでしょうし簡単に割り切れる問題ではないかと・・・』
『そうですよねぇ・・・』
『まさかと思いますが奥様ご自身のお話ですか?』
『あら~~違いますわ。大変懇意にしているお宅の問題なんですの。
先生・・・大至急のお願いを聞いていただき本当に感謝いたしますわ。』
『いえ、お役に立てて良かったです。』
病院を後にし車に乗り込んだミンは、即座にチェギョンに電話を掛けた
2コール3コール・・・漸くチェギョンが電話を取った時、ミンは必死に気持ちを落ち着かせながら話し掛けた
『チェギョンさん!!今すぐお逢い出来るかしら?』
ところが電話の向こうからはざわざわと人の声が響いていて、なかなかチェギョンは返事をしない
漸くチェギョンの声が聞こえて来たと思ったら、随分とくぐもった声である
恐らく電話を掌で覆い、こっそり話しているのだろう
『あ・・・おば様こんにちは。あのっ・・・今アルバイト中で夜10時にならないと身体が空かないんです。』
『えっ?10時?・・・(そんな時間までアルバイトを・・・)
解ったわ。10時過ぎた頃、あなたのアパートに伺うわ。よろしいかしら?』
『はい。構いません。すみませんおば様・・・』
『いいのよ。じゃあまた夜にね。』
電話を切った後ミンは自宅に戻りながら考えた
イ・スンレとの親子鑑定が間違いないと解った以上、事を引き伸ばすのは得策ではない
自宅に戻ろうとしていた行き先を変更し、ひとまずイ・スンレにこの事実を話してみようと思い
ミンはシン家へと向かった
アポイントを取らずに行ったにも拘わらず幸いにもイ・スンレは在宅中だった
『まぁ~ミンさん、どうなさったの?連絡もなしにいらっしゃるなんて珍しいわ。』
『スンレさんに至急話したい事があって来たのよ。お邪魔してもいいかしら?』
『ええどうぞ♪』
リビングで向かい合い、出されたお茶で喉を潤し・・・それから意を決してミンは口を開いた
『あのねスンレさん・・・驚かないで聞いて欲しいのだけど・・・』
ミンは話し始めた
偶然●×産婦人科の前でチェギョンに出逢った事・・・
チェギョンがあまりにも憔悴していたので声をかけたら、チェギョンからイ・スンレの名前が出て来た事・・・
事故で亡くなった母親の遺品の日記帳に・・・とんでもない言葉が書かれていた事・・・
それを知ったミンはチェギョンとイ・スンレの毛髪を手に入れ親子鑑定を依頼した事・・・
そして結果が先程出た事・・・
『ミンさん・・・なんの冗談なの?』
『冗談でこんな話はしないわ。あなたの家族に波風を立てることになるのだし・・・。
でも私・・・チェギョンさんがどうしても放っておけなかったの。これを見ていただける?』
ミンは先程病院から受け取って来た親子鑑定結果の書類をスンレに見せた
『母子に・・・間違いない。でも信じられないわ。』
『私がチェギョンさんの毛髪とスンレさんの毛髪を鑑定に出した結果よ。信じられないのも無理はないけど・・・。
でもあなた以前・・・≪子供の顔が変わったような気がする≫って言っていなかった?』
『出産して帰ってきた時ね。ミンさんに私が電話を掛けてそう言ったのよ。
そうしたらミンさん、≪子供の顔なんか毎日変わるわよ~♪≫って言ったじゃないの。』
『確かに・・・子供の顔って変わるから・・・。
でもこの話は本当のことなの。退院前にすり替えられたのよ。あなたの産んだ子とヒョリンが・・・』
『どうしたらいいの・・・。夫はヒョリンを溺愛しているし、そんな話は絶対に信じないわ。』
『信じないのなら信じなくてもいいわ。
あの子は≪もし本当の両親が生きているのなら、一目だけでも逢いたい≫という気持ちから
あなたを探したかっただけだから・・・。多分一目逢えればそれで満足でしょう!!』
なんだか半ば悔しい気持ちになって来るミン
スンレは戸惑いの方が大きく、本当の娘に逢うことを躊躇っているように思えた
鑑定結果をバッグにしまいソファーから立ち上がったミン。これではチェギョンがあまりにも憐れに思えた
『もし逢う気があるのなら電話くださるかしら?私は帰ります。』
『ちょっと待って!!ミンさん、その子といつ逢うの?』
『今夜の10時過ぎよ。』
『そんなに遅い時間に?』
『ええ。彼女天涯孤独になったからアルバイトしないと生活していけないのよ。
正直私が家に連れて帰りたいくらいだわ!!』
『行くわミンさん。その子に逢いに・・・。一緒に連れて行っていただける?』
『解ったわ。夜迎えに来るわね。』
スンレがチェギョンに逢いたいと言った事で、少しは憤った気分が収まったミン
その返答次第では長年培ってきた友情にさえもヒビが入りそうだった
そうしてその日の夜・・・ミンはスンレを助手席に乗せチェギョンの住んでいるアパート近くの駐車場に車を停めた
そしてアパートに案内しながらその周辺を歩く
『ミンさん・・・ここはあまり治安がよくなさそうね。』
大声を張り上げながら闊歩する酔っぱらいを横目で見ながらスンレは呟いた
『だから・・・こんな時間だけど、今日中に結果を知らせてあげたかったの。』
出来る事ならスンレがシン家に連れ帰ってくれればよいのだが・・・なかなかそう簡単にはいくまいとミンは思った
だが・・・この場所をスンレに見せることができて、チェギョンの現状を知って貰える・・・
そうしたら情の深いスンレは心を動かされることだろう・・・そう思ったのである
アパートの前でミンを待っていたチェギョンは、ミンがイ・スンレを連れて来たことに大層驚いたようだ
『おば様・・・』
『チェギョンさんこんばんは。少しお邪魔しても良いかしら?』
『あ・・・はい。散らかっていますがどうぞ。』
チェギョンに促がされるまま、軋む階段を上っていったミンとスンレ
よもや一生足を踏み入れることがないと思われるような、古びたアパートの一室に入っていく・・・
『あ・・・どうぞお掛けください。』
二人に座布団を勧めお茶を煎れて来ると、チェギョンはその向かい側に座った
チェギョンの母の遺影だろうか・・・その写真にスンレは目を向けそしてその顔に見覚えがある事に気がついた
(こ・・・この人って確か出産した病院で一緒だった人よ。
私が特別室だと知ったら嫌味を言った人・・・
そう言えば・・・病院の乳児健診で逢った時にうちのヒョリンを見て≪まぁ~綺麗なお嬢さんですね。
着ているお洋服も可愛いらしくて・・・。うちの子は何をやらせてものろまで、
お宅のお嬢さんが本当に羨まし・・・≫
そうだ!!そうだわ!!まるで舐めるようにヒョリンを褒めちぎっていった人。あの人だわ。
じゃあ・・・あの時、頭を小突かれて泣きながら出ていったのが・・・この子・・・)
そんなスンレの心の声が聞こえたかのように、ミンは親子鑑定結果の書類をテーブルの上に置いた
『イ・スンレさんを連れてきてしまった事で、結果はもう解っていると思うけど・・・
やはり間違いなく親子だという結果よ。』
『そうでしたか・・・』
『ごめんなさいね。相談もしないで勝手なことを・・・』
『いいえ。おば様、どうもありがとうございます。』
『チェギョンさん、亡くなったお母様の日記帳・・・スンレさんに見せていただける?』
『いえおば様・・・もういいんです。こうして正面からお顔が見られたので、もう満足です。』
『そんな・・・』
チェギョンの言葉に驚くミン。だがスンレの気持ちは納まりがつかなくなっていた
『チェギョンさんと仰るのね。イ・スンレです。この間ミンさんの車に乗ってらしたわね。』
『はい。お逢い出来て嬉しいです。』
『私に亡くなったお母様の日記帳を見せていただける?』
『えっ?・・・でも、余りいい気分のすることは書いていないと思うのですが・・・』
『真実を知らないといけないでしょう?見せて頂戴。』
『わかり・・・ました。』
チェギョンは母の遺影の前に置いた黒い革の日記帳をスンレに手渡した
スンレはすぐさまそれを開いてみる
すると・・・今日の今日まで娘だと思って育てて来たヒョリンの名前が、いきなり目に飛び込んできたのだ
≪○月×日・・・今日ヒョリンのバレエの発表会を見に行った。
なんて美しく踊るのだろう。ヒョリンをあの家に託して良かった。
私だったらヒョリンを輝かせることは出来なかった。≫
スンレは手が震えだすのを押さえられなかった
『チェギョンさん・・・あなたこの日記、全部読んだの?』
『いえ・・・自分の名前が書かれていないか探してみたんですが、ほとんど書かれていなくて・・・
生まれた日のあたりを見て・・・今回の事を知ってしまったんです。』
『そう・・・お母様はどうやら、ご自身が生んだ娘に逢っていたみたいね。』
『えっ?・・・』
『ここを見て・・・』
チェギョンはスンレが読んでいたページを目にし愕然とする
バレエ・・・そしてヒョリン・・・チェギョンには思い当たる人物が一人いたのである
『あの・・・まさかと思いますが、韓国芸術高校三年シン・ヒョリン・・・』
『そうよ。』
『えっ・・・』
『お友達だった?』
『いえ、友達というほどではありません。私とは住む世界の違う人ですから・・・』
チェギョンの言ったその言葉に、同じ学校に通いながらも生活レベルの差があったことを悟ったスンレ
『チェギョンさん・・・この日記帳お借りしてもいいかしら?』
『えっ?はい構いませんが・・・』
『主人に見せるわ。』
『あ・・・あの・・・今更波風立てる様なことはしたくないんです。私・・・この環境で18年生きてきましたから
これからも大丈夫です。でも時々・・・逢っていただけると嬉しいですが・・・』
『チェギョンさんこれはね、私だけの胸に留めておける問題じゃないのよ。
主人も真実を知るべきだわ。ただ・・・主人はとてもヒョリンを溺愛しているの。
恐らくこの日記帳と親子鑑定の結果だけでは納得しないと思うの。
本当に申し訳ないんだけど、今度は主人と親子鑑定をしてみるわ。髪を少しいただける?』
『はい。それは構いません。
もしかして私は・・・とんでもない疫病神なのかもしれません。
ですから、ご主人が拒否なさったらもうこの話は終わりにしてください。
母が急に亡くなって心細くなっただけなんです。私は・・・大丈夫ですから・・・』
スンレはチェギョンから毛髪を数本と黒い革の日記帳を受け取り、ミンと共に部屋から出ていこうとした時
チェギョンに封筒を手渡した
『これは・・・なんですか?』
『お金。こんな時間までアルバイトなんかしないでこれを使って頂戴。』
『いただけません。』
『お願いだから受け取って!!でなければここから帰ることが出来ないわ。』
『解り・・・ました。お預かりしておきます。』
チェギョンはスンレから手渡された封筒を胸の前で握り締め、二人を見送った
車に乗り込んだ二人。ミンは黙ったままシン家に向かって車を走らせた
助手席ではイ・スンレが時折声を洩らしながらずっと泣いているのだった・・・
あらやだわ奥さん!!
シン君・・・今日は一度も登場しないってか?
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
すまぬ~~次回にね❤