皇太子の髪をミストで濡らし、小分けにした毛の束をクルクルと巻いてクリップで留める
最後に前髪を上げた時に、この間ニキビの巣窟だった額をじっと観察する
おぉ~♪かなり良くなってるじゃん。やればできるじゃ~~ん♪
そう思い私はいつも貶してばかりの皇太子を褒めてやろうと、視線を額から下ろしていった
『ニキビ・・・良くなって・・・えぇっ!!!!!!』
皇太子は目を伏せたままじっとしている
<カシャーーーン!!>
あまりの驚きに私は持っていた鋏を床に落とした
あのマッシュルームカットの下に、こ~~んなビジュアルが隠されていたとは・・・シン・チェギョン一生の不覚
大したことないどころじゃない・・・これは今まで出逢った事のないほどの逸材
うわぁ・・・やらかしちゃったよ。どうする?私・・・
『ちょっと殿下・・・こっち見て!!』
私は徐に皇太子の顎を右手で捉え、グィッと顔を持ち上げた
必然的に皇太子は私を見る
げっ・・・・マジですか。これがあのキノコ男の正体?
切れ長の瞳・・・通った鼻筋・・・クールな薄い唇
自分で素材はいいと言っていただけのことはある
私は左手をそっと黒縁眼鏡に伸ばした
『殿下!!これ取ってみて!!』
フレームをこっそり掴んだつもりだったが、皇太子の意外なほどの抵抗に阻まれた
『嫌だっ!!絶対にそれだけはダメだっ!!』
あぁ・・・惜しい。もうちょっとで素顔が見られたのに・・・
仕方がない。でもこんなにも素材がいいなら、私も腕の振るい甲斐があるってもんよ
よ~~し!!やってやるぅ~~~!!
私は皇太子の髪に鋏を入れた
<ジャキジャキッ・・・>
私が思い切りよく波を入れる音に、皇太子は動揺が隠せないらしい
『おい!!そんなに切るなっ!』
『じゃあ~途中でやめちゃおっかな~~変な頭~~ぎゃはははは・・・』
『っつ・・・加減しながら切れ。』
加減なんかしてられる筈もない。思い切りいかせていただきま~す!!
ケープに次々と切り離された毛の束が落ちていく・・・
皇太子は非常に緊張しているみたい。目を白黒させている。
別に取って喰わね~~し観念しなっ!
ふと気が付くと部屋の中にはギャラリーが一杯・・・怖~~いイギサのお兄さんとかチェ尚宮さんはじめ女官の
お姉さん達とか・・・
みな心配そうに私を見てる?いや・・・業務遂行と言う名目の元、皇太子の変わり様を見学しているようだ
なかなかやりにくいけど仕方がない
大体大まかな長さをカットした私は、鋏を梳き鋏に持ち替えて髪のボリュームを軽くしていく
<シャッシャッシャッシャッ!!>
この位ボリュームダウンした方が、顔全体が軽く見える・・・
いや、顔自体がシャープなのだから、こうしないとおかしい
左サイドを短くしたアシンメトリー。左は耳のラインでカットし、右サイドは顎のあたりと少し長めにしておいた
最後に前髪・・・
左に分け目を作っちゃったので、目の見える長さで切り揃えてから前髪も梳く
うん♪爽やかだ~~~♪
櫛を通し前髪を少し右になびかせ・・・シン・チェギョンヘアメイクの完成だ~~♪
『ふぅ~~・・・』
満足のいく出来栄えに思わず溜息を吐いた私・・・気が付くとギャラリーのお兄さんお姉さん方から
小さく拍手が起こった
『殿下・・・とてもお似合いです。』
『爽やかな印象になりました。殿下・・・』
当の本人はまだ鏡を見ていないから疑心暗鬼の表情だ。そこで私は特大の手鏡を皇太子に渡してみる
『殿下・・・見て♪』
『あぁ。おぉっ・・・』
思わずパイプ椅子から転げ落ちそうになっている皇太子。ぶはは~~シン・チェギョン様の実力を思い知ったか
でも・・・素材がいいからここまでになったんだけどね・・・
何の躊躇いもなく俺の髪に鋏を入れるシン・チェギョン・・・少しは加減しろよと思ったが、
真剣そのものの眼差しにそのうち俺は何も言えなくなってしまった
変身させて欲しいと願ったのも俺だ・・・今更足掻いてどうする
だが、長年被り続けてきた厚い殻は俺をこの場に引き留めようとする
そんな俺の眼鏡までr外そうとしたシン・チェギョン・・・おっとこれだけは絶対に譲れない
眼鏡越しでないとやはり人と向き合うのが怖いのだろう
カットが済んだ時、チェギョンは俺に大きな手鏡をよこした
その鏡の中に映る自分に思わず心の中で問い掛けた
≪誰だ・・・お前はっ・・・≫
確かに顔は俺だ。だがその印象は俺ではないかのようだった
≪これがお前だよ。≫
鏡の中の俺が俺に向かって囁いた様な気がした
『少し待っていてくれ。一度髪を洗って来る。』
俺はそう言い残しシャワールームに向かった
素材がいいのは知っていた。だがまさかここまでとは・・・さすがイケメンメーカーシン・チェギョンだな
俺はチェギョンに絶対的な信頼をその時寄せたのだろうと思う
髪を洗いあげラフなスタイルに着替えた後、シン・チェギョンの元へ戻っていく
すでに散らかった髪の残骸は綺麗に掃除されていた
俺は濡れ髪のままシン・チェギョンに問い掛けた
『この髪・・・どうしたらいい?』
『セットの事?』
『あぁ。』
『じゃあやってみるからちゃんと見ていてね。』
俺は促がされるまま、チェギョンの指差したパイプ椅子に再び座った
チェギョンはドライヤーの風を髪に当てながら、手櫛で俺の髪をセットしていく
『ここを・・・こう流すでしょう?トップは少しボリュームを持たせてね♪』
前髪を随分薄くされたからか、少し居心地が悪い
必死に前髪を引っ張る俺の手を、チェギョンは退けると≪ピシャリ≫と叩いた
おい・・・俺は皇太子だぞ。ホント無礼な奴だな・・・
『前髪はそのくらいの方が涼しげなの。折角涼しげな眼元をしているのに、台無しにしないで!
それと!!!人と話すときはちゃんと相手の目を見るっ!!』
『相手の目を?』
『そう・・・それが礼儀よ。解った?』
っつ・・・皇太子も形無しだ
だがチェギョンの言うことは間違っていない。今までの俺がどこか卑屈だったんだ
『解ったよ・・・』
『よしっ!最後にワックスを指先で毛先にだけ付けてね。』
俺はチェギョンが見本を見せた様にやってみる
『こうか?』
『うん。上手上手♪』
子供みたいな褒められ方だが、俺にはそれがものすごく嬉しかった
ひとまずクローゼットは片付けられ、髪も切られた
シン・チェギョンの手によって、俺の改造はまだまだ続いていくだろう・・・
では~明日は本当にお休みします❤
休眼日ってことでよろしく~♪
次回は金曜日にね~~❤