『殿下・・・どちらに行かれるおつもりですか?危険ですからここでお待ち下さい。』
コン内官はその島の奥に入って行こうとするシンを遮ろうとした
もちろん皇太子に仕える内官としてみれば当然のことだろう
だが・・・この事態からいつ抜け出せるとも限らない状況下で、シンは立ち止まる事など出来なかった
『まずは飲料水の確保と、この島に食料になるものがあるか探しに行くだけだ。
コンにはきついだろうからここに残ってくれ。
イギサの中から数名、一緒に来てくれると嬉しいが・・・』
『もちろんお供いたします。』
シンに三名のイギサが同行する
もちろんどのような獣が生息しているか解らない未開の地である・・・それに対抗できる武器もイギサは所持し
シンの後に続く
さほど広く思えないこの島・・・だが奥に行くと昏々と湧き出す泉があった
『この水が飲めるかもしれない。』
『殿下・・・私が試してみましょう。』
一人のイギサはその泉に近づき手で水を汲もうとした
だが・・・
『待て!!一度煮沸してからの方が安心だ。ひとまずここに泉がある事が確認できただけでも大きな収穫だ。
もう少し奥に行ってみよう。』
まるでシンが通るのを待っていたかのように、草木の生えていない一人通れるだけの道が出来ている
一人のイギサがシンに話しかけた
『殿下・・・もしこの道がけもの道だったら危険です。私が先に参りましょう。』
『いや、それには及ばない。後からついてくれば良い。』
シンは島の奥へと足を進めた。もちろんイギサ達も遅れを取らない様について来る
すると・・・サラサラと小川の流れる音が耳に響いて来た
シンはその方向に足を向けた
『川だ・・・。』
シンの後に続いたイギサもその川に沿って一列に並んだ
『殿下・・・魚がいます!!』
『あぁ。あの魚は確か食べられる筈だ。君達・・・魚が獲れるか?』
『いえ・・・魚を獲った事はありませんが。』
『そうか。』
シンは靴と靴下を脱ぎスーツのパンツの裾を捲り上げた
『で・・・殿下っ!!まさかっ素足で川に入られるおつもりですか?』
『あぁそうだ。』
『それは危険です。おやめ下さい。』
『いや・・・見たところ危険な魚は生息していないようだ。心配ならついてくれば良い。』
『はっ!!』
イギサ達は皆慌ててシンの後に続く
無事帰れる保証はどこにもないが、それでも皇太子殿下イ・シンに対する忠誠心は何ら揺らぐことはなかった
『ほら・・・意外と簡単に捕まえられる。』
シンは何匹もの魚を捕まえると川べりに投げた
イギサ達もそれに準じ必死に魚を捕まえようとする
『君!!その魚は小さすぎる。まだ可哀想だ・・・』
『そうですか。』
シンの指導の元、折角捕まえた稚魚をリリースするイギサ・・・シンが捕まえたのと同等の大きさを捕まえ
嬉しそうに微笑む
『しかし殿下・・・なぜこのような事がお出来になるのですか?』
『くくっ・・・ボーイスカウトで覚えたことが、まさか役立つ日が来るとは思わなかった。』
『そうだったんですか。』
感心しながらも童心に帰り魚を捕まえる四人・・・機内に居た人数が食べられるほどの魚を捕まえて
漸く小川から上がって行く
『なんだか・・・楽しいものですね。』
『あぁ…本当に楽しいな。』
このような非常事態ではあるが、必ず生きて帰ると決めた以上この状況を受け入れ出来る事をするしかない
それには皇太子もイギサと言う身分の差も無かった
『さぁ・・・ひとまず帰ろう。同乗していた副料理長が・・・これを見たら驚くぞ。』
『本当ですね。殿下・・・』
なぜか皆笑顔である
悲壮感を漂わせても生き残る事などできないと、本能的に知っているのかもしれない
四人で魚を抱え戻っていったシン達。コン内官や副料理長・チャン航空の職員は皆目を丸くした
『一体・・・この魚はどうなさったのです?』
『捕まえて来たんだ。四人で・・・くくっ・・・
副料理長、この魚は食べられると記憶しているが、料理できそうか?』
副料理長は満面の笑みで頷くと、女官やチャン航空の職員に薪を集めて来るよう指示をする
『殿下・・・塩焼きくらいしかできませんが・・・』
『それで十分だ。では・・・今度は水を汲んで来よう。』
シンと三人のイギサは水を汲める容器を其々に持つと、湧き水の場所に向かって行く
(チェギョンとこんな場所に放り込まれたら・・・きっと何も考えることなく
二人きり幸せでいられるだろう。
なぜお前が一緒に居ないんだ?一日も早く戻らなければ・・・な。)
胸の中に浮かび上がる妻への想い・・・だがその思いも無事生還できてこそ伝えられる
今はこの状況を必死に切り抜けるしかないシンであった
皇太子殿下イ・シンの乗った皇室小型ジェット機が消息を絶ってから三日
チェギョンの元をユルとチャン・ギョン・・・そしてイ・ガンヒョンが訪れた
『チェギョン・・・まだ連絡は無いの?』
『うん・・・』
沈痛な面持ちなのはユルも一緒だった
ギョンは憔悴しきった顔でチェギョンに詫びた
『チェギョン・・・ごめんね。うちのパイロットが・・・』
『ギョン君、まだ何も分からないんだから謝る事なんかないよ。』
『うん。だけど・・・』
『ギョン君・・・ちゃんと食べてる?眠れてる?すごい顔しているよ。
シン君は絶対に戻って来る。だからそんな顔しないで・・・』
実際、何も喉を通らず眠れないのはチェギョンも一緒なのだが、敢えてそう言ってみる
そうでも言っていないと・・・シンが帰って来ると自分に暗示を掛けないと、
チェギョンも不安で仕方が無かったのである
『おばあ様は・・・どうなさってる?』
『まだ寝込んだままなの・・・』
『ショックなんだろうな。はぁ・・・僕も気持ちが落ち着かない。』
『何か手掛かりがあればいいのだけどね・・・』
かと言って皇室小型ジェット機の残骸とか・・・絶望を与えるものであるなら見つからない方がいい
『一体今、どうしているんだろう・・・』
得を見つめ呟くチェギョンのその言葉に、ユルもギョンもガンヒョンも・・・何も言えなくなってしまった
結局励まそうと思ってもどうする事も出来ず、チェギョンの様子だけ見て帰る三人
ガンヒョンはチェギョンに掛ける言葉が見つからず、帰り際その肩をそっと抱き締めて去っていった
日を追う毎に気持ちは沈んでいく
さすがに登校する事も出来ないチェギョンは、本殿と慈慶殿を行ったり来たりしながら日々過ごした
夜になるとシンがいつも座っていた執務室の椅子に腰掛け、机に突っ伏してシンを恋しく思う
(シン君・・・一体どこに居るの?
陛下も皇后様も皇太后様もみんな食事も召し上がらないの。
早く帰って来て・・・一日も早く・・・)
もちろんその想いは、小型ジェット機に乗っていた人間の家族すべての想いだろう
(強くならなきゃ・・・私は皇太子妃なんだから。今こそしっかりしないと・・・)
そう自分を戒めても弱冠18歳・・・まだ高校生のチェギョンである
シンを想う気持ちと皇太子妃としての立場の狭間でチェギョンは苦しんでいた
そんなチェギョンが・・・矢面に立たされる事態が起こった
皇室小型ジェット機失踪から七日目の朝・・・皇太子妃シン・チェギョンに今回の件に関する
マスコミの取材が押し寄せたのだった
こうなると・・・一体誰が耐えてゾーンなのか
分からなくなってきますな(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
ふと【策略結婚のススメ】を思い出したのは
私だけじゃない筈(激爆)
しかし・・・暑すぎる。
頭の中が半分溶けた状態です。
皆さん体調気をつけてくださいね❤