謁見の間からお茶の用意がされている本殿に向かう間、シンはチェギョンの下ろした髪の毛先を
指先で弄びながらチェギョンに話しかける
『チェギョン・・・お前の考え過ぎだっただろう?』
『うん・・・』
『あんな不穏な事を言い出すから、俺は気が気じゃなかった・・・』
『不穏なことって?』
『俺にシム・ウンジュをけしかけるような言葉・・・言っただろう?』
『意地悪するつもりはなかったんだ。でも・・・彼女があまりにも一生懸命だったから、もしかしたら・・・
って考えちゃったの。』
『俺にはどう見てもお前のことが大好き・・・そんな風に見えたがな。』
『えっ?私が大好き?』
『あぁ。そうだ。』
『でも・・・彼女は女の子だよ!』
『くくっ・・・そう言う意味じゃなくて、性別を超えた大好きがあるだろう?俺にはそう見えた。
とにかくもう・・・何も心配はなくなったな。後は婚約発表を待つばかりだ。』
『うん。でも友達になんて言おう。親友のガンヒョンにすら・・・女官見習いをしているとしか話してないんだ。』
『くっ・・・≪そう言うことになった。≫それだけで十分だろう?何も弁解する事はない。
俺がお前を好きでお前も俺が好きだ。だから婚姻することになった・・・それだけだ。』
『うん♪そうだね。ただそれだけだね♪』
『あぁ。』
シンは指先に絡めていたチェギョンの髪を解放し、チェギョンの手を握ると歩く速度を速めた
『ところでさ・・・シム・ウンジュさんに去り際何か言われた?ポーカーフェイスのシン君が、
珍しく動揺していたからすごく気になっていたんだけど・・・』
『あ・・・あれか?あれはな・・・≪夜這いはほどほどに・・・≫って言われたからだ。』
『えっ?まさかあの時・・・』
『そのまさかだろうな。くくっ・・・あの日のことがばれていたと知り、さすがの俺も動揺した。』
『そっか。シン君が顔を赤らめるなんて・・・一体どうしたんだろうって気になっていたの。』
『あぁ?顔を赤らめる?・・・そんな筈ないだろう!俺はお前と違う。』
『でもぉ・・・あの時確かに顔が赤く・・・』
『チェギョン!!それ以上言うと、口を塞ぐぞ!』
今度はチェギョンが顔を赤らめる番の様だ
『えっ?シン君・・・ここは宮殿の庭だからそれはやめて。』
『あぁ解ってる。そう言うのは二人の時にな。くくっ・・・』
漸く静かな宮殿が戻ってきたようだ
真夏の照りつける太陽をものともせず二人は本殿に向かって歩く
そしてその日のお茶会で、それから三日後に婚約発表をすると皇帝陛下が決定を下され、
宮殿内は婚約の為の準備が急ピッチで進められた
皇太子殿下イ・シンの婚約発表は、マスコミにもまったく漏れていない情報だった
その朝チェギョンはチョン女官と共に慈慶殿から東宮殿に引っ越しを済ませた
女官見習い時代からチェギョンと親しくしていたチョン女官に、これから訓育の始まるチェギョンの
面倒を見る様にと、皇太后が異動命令を下したのだ
チェギョンとしてもこれ以上心強い味方はいなかった
そして皇太后はチェギョンを迎えにやって来たシンに固く釘をさすのを忘れなかった
『太子やよいか?よく聞くのだ。婚約したとはいっても婚姻までにはまだ時間がある。
国民に顔向けのできない様な事態は避けねばならぬ。私と約束できるな?
でなければ婚姻までチェギョンを慈慶殿に留まらせるが?』
シンは心の中で舌打ちをしながらも、必死に笑顔を浮かべ頷いた
『もちろんです!!皇族は国民の手本とならねば・・・』
そう言いながらも若干シンのこめかみ辺りが引き攣っていたのを、皇太后は見逃がさなかった
『解っておればよい。おほほほほ・・・
ではチェギョンや、困ったことがあったらすぐ慈慶殿に戻ってくるのだぞ。よいな。』
『はい皇太后様・・・』
皇太后に深くお辞儀をしシンと共に東宮殿に向かうチェギョン
同じ宮殿内に居るのであるから寂しいと思う事はない
だがそれでも三か月近く過ごした慈慶殿を去る事は、少し寂しさを感じてしまうチェギョンだった
東宮の玄関口に到着すると女官や内官が一列に並び、チェギョンを出迎えてくれていた
『チェギョン様・・・』
口々にチェギョンの名を呼びながら頭を下げる職員達。チェギョンは非常にくすぐったい気分になりながら
大きな声で挨拶をする
『シン・チェギョンです。どうぞよろしくお願いいたします♪』
職員の一番手前にいるコン内官などは、5か月前の春休みの事を思い出す
無人駅で出逢った少女に密かな恋心を抱いた皇太子殿下イ・シン
決して実る筈の無い恋を切ない想いで見守っていたコン内官
それを実らせたのは、この二人の努力があってのことだと胸の奥を熱くする
『さぁチェギョン・・・お前の部屋に案内しよう。』
シンに誘われ連れて行かれた部屋は、シンの部屋の真向かいにあった
『ここだ。開けてごらん。』
『うん♪』
部屋を開けると真新しい家具がすぐに使えるように配置されていた
クローゼットの中には皇太后の用意してくれた洋服の他に、チェギョンが驚くほど沢山の洋服で溢れていた
『すごい・・・こんな贅沢していいのかなぁ。』
『これからお前は皇太子の婚約者として世間の注目を集める。その為の戦闘服だ。』
『そっか~♪一生懸命頑張ります!!』
『あぁ。そろそろ婚約発表が行われる頃だ。俺の部屋に行こう。』
『うん♪』
ごく自然な流れでシンはチェギョンの手を取ると、握り締めたまま自分の部屋に誘う
そして以前は向かい合って座っていたソファーに並んで座り、テレビのリモコンを押した
大型のテレビモニター一面にキム内官の顔が映し出された
『あ・・・もう始まるよ♪キム内官さんだ~~!!』
『あぁそうだ。キム内官が婚約を発表してくれる。さっき出迎えてくれたコン内官は、今お前の家に行っている。』
『えっ?私の家?』
『あぁ。婚約の品を届けにな。』
『そっか~~。うちの近所大騒ぎになるね。』
『きっとな。くくっ・・・』
『大丈夫かなぁ。』
『皇室からシン家を警備する者がこれからは派遣される。心配はいらない。
あ・・・始まるみたいだ。』
画面に映し出されたキム内官は、皇室からの緊急発表を読み上げ始めた
【皇室からお知らせいたします。皇太子殿下イ・シン様は、かねてより交際中のシン・チェギョン様と
本日婚約が整った事をここにご報告申し上げます。
なお婚約者のシン・チェギョン様は、現在宮殿で訓育に励まれておられます。
婚姻に関しましては皇太子殿下が18歳を迎えた頃行います。日取りは追って発表いたします。
まだお二人共高校生ゆえ、どうぞ温かく見守ってくださいますよう
国民の皆様よろしくお願い申し上げます。】
取材陣が次々と質問を投げかけたが、キム内官はただ微笑んだだけで会釈をすると会見を終わらせた
『チェギョン・・・これで正式な婚約者だな。』
『うん。でも今の会見・・・偽りがあったよ。』
『偽り?・・・どこがだ?』
『≪かねてから交際中≫ってところ・・・ほとんど交際なんかしてないしっ!!』
シンはチェギョンの両手を握り締め口角を上げた
『くっ・・・馬鹿だな。これからの婚約期間中に恋をするんだ。そうだろう?嘘も方便だ。』
『くすくす・・・そうだね。』
シンは片方の手をチェギョンの背中に回し、その身体を引き寄せた
胸元に抱き締めたチェギョンの感触に・・・彼女と婚約できた喜びを実感する
『チェギョン・・・』
『ん?』
チェギョンは胸に顔を埋めたまま返事をする。それが不満だったシンは再びその名前を呼んだ
『チェギョン・・・』
『ん~~?』
漸く胸元からチェギョンはシンを見上げた
『くくっ・・・』
チェギョンの額に唇が触れる・・・そしてそれは鼻先・頬・・・チェギョンが焦れた頃に漸くシンはチェギョンの唇に
自分の唇を重ねた
今までの触れあうだけのキスじゃない
その甘く柔らかい唇を心ゆくまで堪能し、互いが蕩けそうな心地になるまでそれは続いた
もちろん皇太后から掛けられた呪文はシンを抑制させる
だがその抑制・・・一体どこまで持つのだろうか・・・
台風が来ているんだって。
沖縄や九州の皆さん、ご無事ですか?
管理人地方は雨が降り始めました。
マジカルキューティーはハウスの中で
雨をしのいでおります。
今後強い風雨が見込まれる地方の皆様
どうぞお気を付け下さいね❤