互いの間にしんみりとした空気がどうしても流れてしまう
それは相手の気持ちに気が付きながら、自分の想いを伝えられない切なさだろうか・・・
チェギョンの宿題を片付けながら、シンはそんな空気を払拭しようと思いつくまま言ってみる
『あ・・・そうだ。あの猫耳カチューシャってやつは届いたのか?』
『えっ?猫耳カチューシャ?うん。女官のお姉さんのところにね。』
『着けてみたのか?』
『うん~♪なんだかすごく面白くて可愛いの。くすくす・・・』
『それを・・・まさか皇太后様の前でも着けているわけじゃないよな?』
『当然でしょう?女官の休憩室だけだよ。』
『そうか。』
安堵したと同時に自分は見ることが出来ないと悟ったシンは、少し残念な気分になる
『女官のお姉さん方が交代で着けて喜んでいたよ~~♪』
『慈慶殿の女官も意外と幼稚だな。』
『それがね~~不思議な事に女官服にも似合うの~くすくす・・・』
『あれが女官服に似合うって?そんな訳ないだろう?あれが・・・』
あまりにも≪あれ≫と連呼してしまった為、シンは≪猫耳カチューシャ≫を検索した事が
チェギョンに気付かれてしまったようだ
『シン君~ひょっとして猫耳カチューシャ、検索したの?』
『あぁ?・・・あぁ。お前の説明では解らなかったからな。だが・・・猫もだが兎っていうのもあったぞ。』
『もぉ~~シン君!!そんなものに興味持たないでね。』
『別に興味など・・・』
『嘘ばっかり!興味持ったくせに・・・。皇太子殿下が怪しいカチューシャコレクションしてるなんて
私、嫌だからね~~!!』
『そんなもの・・・買う筈ないだろう。まったく・・・』
なんとなく友達の会話を取り戻した二人・・・このままこの先はなるべく重苦しい雰囲気にならないよう努めようと
心に決めたシンだった
その翌日・・・夜の宿題タイムでチェギョンに逢っていることもあり、シンは校内の自分の部屋に
チェギョンを呼び出す事は自粛していた
学校でも顔を見たいのは正直な気持ちだが、そんなことが皇帝陛下の耳に入るとチェギョンの立場が悪くなる
そう思ったシンは昼休みの時間を一人で持て余していた
そんな時・・・
<トントン>
シンの返事も待たずに開けられた皇太子の部屋・・・中に入ってきたのは日曜日にハン家の当主に連れられ
宮殿にやって来たあの娘だった
『なんだお前は・・・』
『皇太子殿下こんにちは。』
『入ってよいと許可した覚えはない。』
『固い事仰らないでお話させてください。』
ミン・ヒョリンはシンの言葉も聞かずソファーに腰掛け、そして不敵に微笑んで見せた
シンは敵に向かって警戒を示すように、足を組みそれから腕組みをしてヒョリンを睨みつけた
『一体何の用だ!!』
『話を聞いてくれる気になったんですね。ふふふ・・・
単刀直入に申し上げますわ。私を皇太子妃に任命してください。』
『あぁ?・・・』
あまりの暴言に返す言葉を失くすシンである
日曜日に皇帝陛下はじめとする皇室一家の前で、あれだけの失態を犯していながら・・・この期に及んで
皇太子妃に自分を任命して欲しいと願い出るとは・・・
さすがのシンもこの厚顔無恥なミン・ヒョリンには呆れてものが言えなくなってしまった
『恐らくそれは無理だろうな。』
ミン・ヒョリンに向けた視線は既に憐みを帯びていた
この女には謙虚さがない。自分の私利私欲の為に皇太子妃の位が欲しいと言うのだ
沢山の皇太子妃候補が挙がっているが、シンにとってミン・ヒョリンは一番最初に落とす存在でしかなかった
『なぜですか?私の身分が今は平民だからですか?』
『そう言う事を言っているのではない。お前は端から、皇太子妃の条件にそぐわない。』
『条件に・・・そぐわない?それでしたら納得のいく条件を作ればよいのです。』
ミン・ヒョリンは徐に制服のブレザーのボタンを引きちぎりそれを肌蹴ると、ブラウスも自ら引き裂いた
『なっ・・・何をするつもりだ!!』
『周りが私を認めざるを得ない状況を作り出すんです。
今・・・ここで私が大声を上げたら、皇太子殿下の護衛が駆け付けるでしょう。
私は殿下に乱暴された憐れな弱者を演じればいいだけ・・・』
『そんな事をしてどうする?』
『皇帝陛下はこの一件を揉み消す為に、私を皇太子妃に迎える道を選ぶことでしょう。』
『くっ・・・本当にそう思っているのか?』
『ええ、スキャンダルは皇室にとって命取りですから・・・』
『そうか。ならやってみるがいい。』
『えっ?・・・大声を上げてもいいと仰るのですか?』
『あぁ。好きにしたらいい。そんな脅しに屈する様では皇太子は務まらないのでな。』
にわかに動揺しだすミン・ヒョリン
肝が据わっているという点では、この皇太子殿下イ・シンに敵う筈もない
『呼ばないのか?大声で呼ばないのか?なら・・・私が呼ぼう。』
シンはポケットの中に入れてあったスマホの緊急ボタンを押した
すぐさまイギサ達は皇太子の部屋に駆けつけた
『殿下どうかなさいましたか!!』
『この者が私を侮辱した。』
イギサはシンの向かいに座る女生徒の格好に気が付き顔色を変えた
『皇室警察を呼ぶのだ。皇太子を犯罪者に仕立てようとした娘だ。部屋に仕掛けてある監視カメラ映像を
提出したらいい。』
『は・・・はい!かしこまりました殿下。』
ミン・ヒョリンはその格好のままイギサに両腕を拘束された
部屋の中に監視カメラがあったと聞き顔面蒼白となっていくミン・ヒョリンに向かってシンは追いうちを掛けた
『今の会話もすべて映像に入っている。残念だったなミン・ヒョリン・・・』
『待ってください殿下。私は・・・』
『お前とこれ以上話す事はない。後は皇室警察でせいぜい言い逃れでもするんだな。』
『殿下っ・・・お願いです殿下っ・・・』
遠ざかっていくミン・ヒョリンは何度も振り返り、シンに哀願したがシンは冷たい視線を投げかけただけで
平常心を取り戻すと自分の教室に戻っていった
その夜の宿題タイムの時、やはりチェギョンの一番の質問はその事だった
『シン君・・・今日映像科の前に警察車両が来ていたよ!!それも皇室の・・・。一体何があったの?』
『あぁそのことか?馬鹿な女が皇太子妃の座欲しさに、俺を犯罪者に仕立てようとしただけだ。』
『えっ?シン君を犯罪者にって・・・・』
一体何が起こったのだろうかと心配そうにシンを見つめるチェギョン
シンは余り後味の良くなかったその事件を言いたくはなかったが、チェギョンにそんな目をされてしまうと
説明せざるを得ない
『俺の部屋があるだろう?』
『うん。皇太子ルームの事?』
『あぁ。あの部屋にいきなりやって来て、制服を自ら破いた。』
『えっ・・・・・・』
『人を呼ばれたくなかったら皇太子妃に任命しろってな。』
『うそ・・・信じられない。』
『皇太子妃なんて・・・何がそんなに魅力があるんだろうな。俺は皇太子の身分だって捨てたいくらいなのに・・・』
『そんなこと言っちゃあダメでしょう?シン君はこの国を担って行く人なんだから・・・
でも、よくそれが証明できたね。』
『証明?あ・・・俺が無実だってことか?くくっ・・・あの部屋には監視カメラがあるからな。
俺が一歩も動いていないことも証明できるし、あの女が自ら制服を破った事もその時の会話も
映像を見れば一目瞭然だ。』
『そっか・・・シン君の無実が証明できてよかったね。』
『あぁ。』
どこか不貞腐れた様な表情になるシンに、チェギョンは笑顔で励ました
『でもシン君、そんな人だけじゃない。きっとシン君が知らないだけで皇太子妃候補の中には
素敵な人だっている筈。だから・・・そんな顔しないで!!』
励ましたつもりが自分の心は沈んでいくチェギョンと・・・励まされた言葉が心に重くのしかかるシン
どうなる事も出来ない縁だと解っていながら、心の中では互いに叶わない夢を見ていた
その翌日・・・学校から戻りいつもの如くシャワーを済ませメイド服に着替えたチェギョンは、
皇太后の部屋に向かった
そこには皇后の姿もあり、チェギョンは皇太后から言いつけられお茶を運んだ
その時皇后の表情がいつになく疲れている事に気が付いてしまった
アルバイトをしていたのが学年主任に見つかり、それを助けて貰って以来・・・チェギョンは皇后にも親近感を
覚えていた
『あの・・・皇后様、お顔の色が優れない様ですが・・・』
『ああ。ここ色々とあってな。肩が凝っておるのだ。今日は頭痛までして来る始末で、
先程侍医から薬を処方して貰ったところだ。』
『肩凝り・・・ですか?あの・・・差しでがましいのですが、私・・・母に肩揉みが上手だといつも言われるんです。
良かったら・・・肩を揉ませていただけませんか?』
『チェギョンが肩を揉んでくれると言うのか?』
『はい。』
『おぉ~皇后、良かったではないか。やって貰ったらよい。チェギョン・・・その次でよいから私もな。
おほほほ・・・』
『はい。皇太后様♪では皇后様、失礼いたします。』
チェギョンは皇后の背後に回ると、その細い肩に小さな手を載せじんわりと力を込めた
『くぅ・・・』
『本当です。すごく凝っていますね。痛かったら仰ってください。』
『くぅ・・・痛いが心地よい・・・くぅ・・・』
背中から首筋の上まで揉んで貰い、すっかり気分の良くなった皇后は・・・順番を待っていた皇太后の
肩を揉んでいるチェギョンに話しかけた
『チェギョンや・・・すまないが。後で私の部屋でもう一度肩を揉んで貰えぬか?』
『あ・・・はい!!』
『よろしいですか?皇太后様・・・♪』
何か言いたげな皇后ミンの願いに皇太后は快諾をした
『おぉ・・・・かまわぬ。くぅ・・・・こ・・・これは効くのぉ・・・くぅ・・・・・』
いよいよ皇后ミンが愛息の為に、活発なアクションを起こそうとしているようだ
明日は第二王子の入学式❤
更新は出来たら・・・ってことにさせてね♪