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Channel: ~星の欠片~
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孤独な皇子に愛の手を 22

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『じゃあね~~ガンヒョン♪』

高校入学以来部活にも入らず、何やら忙しそうにしていると思ったら・・・大変な事情を抱えていたチェギョン

そんなチェギョンに手を振りながらガンヒョンは小さく溜息を吐く

(まったく・・・アンタの一番楽しい時期はどうなるのよ・・・)

そう思ってもその状況を変えることなどできないガンヒョンは、自分の無力さを嘆きながら

親友チェギョンの将来を案じた

そして一番の親友に自分の身の上を暴露してしまったせいで、心配を掛けてしまったと思いながらも

どこか気持ちが軽くなったような気がするチェギョンは、宮殿に向けて必死にペダルを漕ぐ

『あぁぁ・・・汗だくだぁ・・・。運動部に入っているわけでもないのに、
女子がこんなに汗臭いってどうなの~~!!』

そんな事を呟きながら漸く到着した宮殿

『ただいま戻りました~♪』

鞄の中から入宮証を出そうとするチェギョンに、門の警護をしている人物は笑顔で話しかけた

『チェギョンさんお帰り。いいよ。解っているから。』
『ありがとうございます♪ではっ!!』

自転車を降りそれを引いて走るチェギョン・・・

『チェギョンさん、宮殿内は走ってはいけないよ~~!!』

そんなチェギョンの背中に警護の者は声を掛けた

『はっ・・・はいぃ~~~。』

チェギョンはなるべく大股で女官宿舎まで急いだ

『はぁ~遅くなっちゃったよぉ・・・』

宿舎に入っていくと、チェギョンは先輩女官と鉢合わせをする

『あ・・・お姉さんただいま戻りました~♪今すぐ着替えて皇太后様の元に向かいますぅ。』
『ちょっと待って!』

徐に腕を掴まれたチェギョンは、驚いてその女官を見上げた

『あの・・・なにか?』
『チェギョンさん・・・汗臭い。』
『あ・・・すみません・・・』
『まさかそのまま着替えて皇太后様のところに行くつもり?』
『はい。いけませんか?』

女官は顔を顰めて首を横に振った

『皇太后様に失礼に当たるわ。シャワーを浴びて着替えてからいらっしゃい。』
『あ・・・でもっ、もう既に時間を過ぎているのに・・・』
『いいから!この状態よりましよ。それと着替えの制服をオーダーしておいたから毎日着替えるのよ。
女官たるもの身だしなみには気を使わないとね。』
『あ・・・はい。ご配慮感謝いたします。ではシャワーを済ませて着替えたら、すぐに参ります。』
『そうしてね。あ・・・そうだわチェギョンさん、猫耳が届いているから、後で着けてみて♪』
『もっ・・・もう届いたんですか・・・』
『通販サイトのアニャゾンなら翌日には届くわ。ふふふ・・・じゃあまたあとで。』
『はい。すぐに参ります。』

チェギョンは先輩女官に言われた通り、宿舎でシャワーを浴び身を清めてから慈慶殿に向かう

大急ぎで乾かした髪は頭上で結いあげられ、仄かに香るコンディショナーの匂いがチェギョンの心を弾ませる

だがふと、今日ユルから言われた事が頭に浮かび、皇太后なら真実を知っている筈と

問い掛けてみるつもりで皇太后の部屋の扉をノックした

<トントン>
『皇太后様、大変遅くなりました。シン・チェギョンです。』
『おぉ~いいところに帰ってきたな。おほほ・・・』

なにがいいところなのだろうとその扉を開けると、驚いた事に皇太后の前にはイ・ユルが座っていた

そして驚いたのはユルも同様である

チェギョンがまさかそのような格好をさせられているとは、思いもしなかったのである

『ちぇ・・・チェギョンどうしたの?その格好・・・』
『あ・・・』

部屋に入るなりユルに指摘されたチェギョンは、非常に困り果て皇太后に救いを求める目を向けた

その視線に気が付いたのか、皇太后はユルに微笑み説明を始めた

『おぉ・・・これか?これは私が着ろと命じ用意した物だ。』
『えっ?皇太后様が・・・ですか?』
『そうだ。いけないか?』
『いえ・・・そんな事はありませんが・・・』
『そうだろう?可愛いだろう?おほほほほ・・・とても気に入っておるのだ。』
『シンは?シンもチェギョンのこの姿を見たのですか?』
『おぉ・・・ちょっとだけ見たなぁチェギョンや。』
『あ・・・はい。皇太后様・・・』
『そうかぁ。でもシンには少し刺激が強すぎるんじゃないの?』

ユルからそう言われチェギョンは≪勉強会の前には着替えた方がいいかな。≫と密かに思った

やはりメイド服で勉強を教わるなど、チェギョンの中の常識が許さなかったのである

結局、ユルはその日ずっと皇太后の部屋に居座る事となり、皇太后と夕食を共にしていったせいで

チェギョンは皇太后に≪借金の肩代わりの裏に隠された真実≫を聞き出す事は出来なかったのである




『では、皇太后様お休みなさい。』
『おぉ。チェギョンも勉強を早く終えて休むのだぞ。』
『はい!そういたします。ご配慮感謝いたします。』
『気にせずともよい。』

皇太后が就寝前の茶を飲み終わり寝室に消えた後・・・チェギョンは茶器を片づけると一旦女官宿舎の

自分の部屋に戻っていく

そして普段着に着替え宿題道具をすべて持ち、再び皇太后の部屋に向かった




皇太后が寝室に消え程なくして、シンは皇太后の部屋を訪れていた

部屋のソファーに深く腰掛け、昨日ネット検索してみた≪猫耳カチューシャ≫なるものを思い出していた

(そう言えば兎の耳・・・なんて言うのもあったな。あいつ女官に色々着けさせられて
遊ばれているんじゃないのか?まぁ・・・チェギョンは小動物の様な雰囲気があるから
あ~いうのも似合うかもしれないな。まっ・・・まさかと思うが、俺に見せようと着けてくるかも・・・。
うっ・・・なんだか胸の辺りが煩いぞ・・・)

そんなありもしない妄想を、頭の中のチェギョンに演じさせてしまうシンは自身の顔が熱くなって来るようで

思わず掌で顔を煽いだ

そんな不自然な仕草をしている時、小さくドアがノックされチェギョンがやってきたようだ

『シン君・・・遅くなってごめんね。』
『あ・・・あぁ?お前・・・着替えて来たのか?』

明らかに落胆したシンの表情

『うん。今日、皇太后様のところにユル君が来ていてね、余りにもあの格好を驚いていたから・・・
勉強を教わる格好じゃないかなって思って着替えて来たんだ♪』
『そうか・・・』

メイド服に猫耳カチューシャを着けたチェギョンが現れるのではないかと、勝手に思い込んでいたシンは

なんとなく肩の力が抜けた様な残念そうな表情をする

そしてその直後、平常心を取り戻しチェギョンに微笑みかけたシンである

その辺りの意志の強さはさすが皇太子と言えよう

『さて・・・今日はどこだ?』
『あ・・・うん。シン君、その前に聞きたい事があるんだ。』

チェギョンはテーブルの上に宿題を並べながら、気になっていた事を切り出した

『皇太后様がうちの借金をハン家から譲渡して貰う条件に、シン君・・・あの女の人と結婚することになったの?』
『あぁ?・・・・あの女の人とは?』
『昨日ハン家のご主人が連れて来ていた子。ミン・ヒョリン・・・さん?だっけ?』
『くっ・・・そんな事か。』
『そんな事かじゃないよぉ。私のせいでシン君の人生が左右されるなんて、私は絶対に嫌だからねっ!!』
『そう言う訳じゃない。』
『じゃあ・・・どういう訳?』
『つまり昨日来ていたミン・ヒョリンって言う女は、≪候補に名前を上げることを許可した≫だけだ。
あの女が皇太子妃?くくくっ・・・お前も見ただろう?皇太后様のあの反応。
あり得ないと思わなかったか?』
『まぁ・・・正直言うとあり得ないと思ったけど・・・』
『王族の娘と婚姻しろと言うのは、もうずっと前から言われている話だ。あのミン・ヒョリンに限っての事じゃない。』
『そうか。よかった。』
『まぁ別に俺は・・・あのミン・ヒョリンだろうが他の娘だろうが、気持ちの通わない相手と婚姻する訳だから
相手が誰だろうと一緒だがな。だから・・・チェギョンの家の借金問題が、
俺の人生を左右するなんて思わなくていい。どの道好きな相手とは婚姻できないしな。』

シンの視線が切なそうにチェギョンを見つめた

その瞬間、チェギョンも同じ様に切なそうな目でシンを見つめ返した

『そっか・・・。そうだよね。でもさシン君、だからって投げやりにならないで!
私はこの宮殿で頑張って修行を積んで、難しい試験もいっぱい受けていつか尚宮さんになるからさ。
そうしたら・・・シン君の悩み事もいつでも聞いてあげられるよ。』
『あぁ?・・・だが・・・』
『今日女官のお姉さんに聞いたんだ。女官として宮殿に仕える以上、結婚することなどあり得ないって・・・。
それにね、どの道皇太后様が肩代わりしてくれた借金は、私と父で返しても
一生返し終わらない程莫大な金額なの。
だから私はずっとここに居る。シン君の愚痴・・・今度は私が聞くよ。』
『っつ・・・』

シンが皇太后から説明を受けたところによると、チェギョンが結婚を望んだ時には借金の残金はすべて

≪結婚祝い≫としてくれると言っていた

だが冷静になって考えてみれば、女官で結婚退職したなどと言う話は聞いたことがない

(俺はもしかして・・・チェギョンを一番自由の無い場所に閉じ込めてしまったのか・・・)

ハン家からチェギョンを救いだしたかった。だがシンの取った行動は、よりチェギョンを苦しめている様な気がして

シンは胸が痛くなって来る

『だから・・・頑張って勉強しなくっちゃ♪』

女官としてずっと自分の傍に居てくれると言うチェギョン

有難くて悲しくて・・・そしてそれが自分の唯一の救いになりそうで、思わず目頭が熱くなる

『っつ・・・こんな問題も解らない様では、尚宮になるのは婆さんになってからだな。くくっ・・・』
『もぉ~酷いなぁ。解るまで教えて♪』

悪態を吐きながらも・・・そして互いの心は口にしなくとも、今二人の気持ちは確実に互いを一番に考えていた

そして互いが相手も同じ気持ちであると知る事となった夜だった




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互いに自分の気持ちは言えず
だけど相手の気持ちがわかるって
なかなか切なかったりします。

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