もう・・・とことん落ち込みモードの私の背中に、イ・シンさんの声が響いた
残念会?・・・正直言うとそんな気分ではない
でも私の心の中にあるわだかまりを、吐き出してしまいたいのも事実・・・その誘惑には勝てず
私はイ・シンさんに素直に従った
店の外で逢うなんて初めて。でもこんな形で逢いたくは無かったな・・・
駐車場に連れて行かれ助手席のドアが開けられた
さすがにイ・コーポレーションの専務さんだけあって、大きな車に乗っているのね・・・高そう
促がされるまま助手席に乗り込み、運転席に彼が乗りこんだ時、私は一番の大きな疑問を投げ掛けた
『イ・シンさん・・・同業者なのに、どうしてうちの店で買い物なんかしたんです?
それにユル先生と従兄弟の関係なのを内緒にして、私の相談に乗るなんて酷いです。』
棘がある・・・自分でも驚くほどの棘のある言葉に、私は自分が接客業に従事している事を思い出し慌てた
でもイ・シンさんは慌てる風でもなく平然と答えた
『確かに・・・最初はユルのお気に入りの子を見てやろうと言う興味本位だった。
だが・・・君の花に対する愛情の掛け方を間近に見ているうちに、見習うべきものがあると感じて
つい毎日通ってしまったんだ。』
『つまり・・・偵察に来ていたと言う事ですか?ユル先生が言ったように・・・』
まさかと言う思いで口にした・・・
ユル先生の言った事が真実だったら、私はこの人について来るべきじゃなかった
『偵察?なんの為に?』
『うちの店を偵察に来ていたのですか?』
『いや。そんなつもりは全くない。俺がイ・コーポレーションの人間であることを黙っていたのは悪かったと思うが
俺はあくまでも一個人として通っていただけだ。
なぜそんなことを言うんだ?』
『ユル先生からそう聞いたんです。』
『ユルから?一体いつ・・・』
『コンテストの開始前です。お付き合いをお断りしたら、急にそんなことを話してくれました。』
『俺が偵察に行っているって?くくっ・・・
しかし・・・コンテスト前にそんなことを言うなんて、きっと君に振られた腹いせだな。』
『振られた・・・腹いせ?』
『あぁそうとしか考えられない。君は決していい気分じゃなかっただろう?』
『確かに・・・』
イ・シンさんの車は夕暮れの街を走り、一軒の小さな建物の前で停車した
『降りよう。』
『ここは?どこですか?』
『行きつけのレストランだ。ワインが美味いんだ。花は後に置いたらいい。』
『でも後部座席が・・・散らかってしまいます。』
踏まれてしまった薔薇までも記念に持ち帰って来たのだ。きっと散らかるに違いないと私は躊躇する
『そんなことは構わない。ほら・・・貸して!!』
イ・シンさんはただ包んであるだけの私の今日の成果を、大切そうに後部座席に移動させた
それから運転席から降り助手席側に回ると、ドアを開け私を車から降ろした
こんなエスコートをされるのは・・・もちろん初めてだ
さすがこの業界トップ企業の後継者だけある
いや・・・誰からも彼がイ・コーポレーションの後継者だなんて聞かされてはいない
だけどお母様が秘書を持っているくらいだもの、恐らく私の勘に狂いは無いだろう
イ・シンさんに誘われ入って行ったレストラン。彼は本当に常連らしく、一番奥のVIP席に案内された
席に着いてメニューを見ながら私に好き嫌いがない事だけ確認すると、イ・シンさんは料理とワインを注文した
運ばれてきたボトルに入った深紅のワインは、踏まれてしまった私の薔薇の花に似て私は悲しくなって俯いた
『どうぞ・・・』
イ・シンさんは私のグラスにワインを注ぐと、自分のグラスにも少しだけワインを注ぎ
『今日はお疲れ様。』
そう言ってグラスを鳴らした
『さぁ飲んでみて。』
『はい。すごく美味しいです。香りもいいし・・・仄かに甘いです。』
『そうだろう。くくっ・・・。さぁお腹いっぱいに食べて、元気にならないとな。』
『シンさんは・・・飲まないんですか?グラスに口をつけていませんが・・・』
『あぁ、形だけ俺のところにも置いておくが・・・車だからな。君が全部飲んでいい。』
『えっ?こんなに飲めませんよぉ・・・』
美味しいお料理に手をつけながら、喉を通っていくワインが私の冷え切ってしまった心を温めてくれる
『さっきの誤解は解けたかな?』
『えっ?誤解?』
『俺が偵察に行っていたんじゃないかって・・・』
『ええ。自分でもわかっているんです。うちみたいな小さな規模の店の偵察に来ても、得にはなりませんから。
くすくす・・・』
『偵察と言うより・・・君の観察に行っていた様な気もするが・・・』
『観察ですか?なんか動物園の熊になった気分です。』
『君はすごく花に対して愛情深いから、見ていてすごく癒された。』
癒された?それは私のセリフ・・・あの短い時間が私の疲れを毎日吹き飛ばしてくれていた
『ミン秘書に花を踏まれたんだって?』
『あ・・・それは故意に踏んだんじゃないんです。』
『だとしても君の材料は床に堕ちて傷んだ。違うか?』
『はい・・・』
『しかも大会前にユルからは嫌な言葉を言われただろう・・・』
『そんなのはいい訳になりません。あれが私の実力なんでしょう。』
あの会場の中で一番脆弱だった私の作品を思い出し、私は思わず俯いた・・・
シン・チェギョン嬢を車に乗せ、行きつけの店に向かった
ユルの奴・・・大会前にチェギョンさんを動揺させるような言葉を態々言うなんて、
振られた腹いせとしか思えない
恐らく・・・俺の存在を彼女に警戒させたかったのだろう。
彼女はどうやら・・・俺が≪来夢生花店≫の偵察に行っていたのではないと信じてくれたようだ
まさか傷心の彼女に≪君が目当てで行っていた≫と・・・弱っている気持ちにつけ込む様な真似は出来ない
彼女は大会前に気持ちを揺さぶられ・・・花を踏みつけられどんな気持ちで大会に臨んだのだろう
それを考えると胸の奥が痛んでついその手を握り締めたくなる
たった三枚だけ残った赤い薔薇の花弁を飾ったのは、彼女の精一杯の花に対する愛情だったのだろう
他の参加者がメインで使っている花を使えない悔しさ・・・
落してしまって元気のない花達。完璧なコンディションじゃなかった彼女
頼むから泣かないでくれ・・・泣かれたら君を帰せなくなる
そんな想いを感じてなのか、彼女は涙を見せなかった
会場を出る時、今にも泣き出しそうな顔をしていたと言うのに・・・
『ユル先生が言ったんです。≪僕の彼女になっていれば入賞できたのに・・・≫って・・・
でも私、そんな裏工作をしてまで入賞したいとは思いません。
ミン秘書さんでしたっけ?あの方の作品を見て解りました。
このコンテストで私は絶対に入賞できないって・・・感性が違いすぎるんです。』
俺はユルの言ったという言葉に、胸の中で怒りをたぎらせ・・・その一方で彼女の言うとおりだと思った
感性が違いすぎる・・・まさにその通りだ
上辺の華やかさを追求したアレンジメントになど、俺の心は動かない
脆弱でも彼女のアレンジした花を抱きしめたい気持ちになったのも確かだ
いや・・・抱きしめたいのは彼女の方かもしれないが・・・
彼女と携帯の番号を好感し家まで送り届けたあと。自宅に俺が戻ると母は心配そうな顔で俺を待っていた
『シン・・・彼女大丈夫だった?相当落ち込んでいたみたいだけど・・・』
『あぁ。なにやら精神的にも大会前に追い込まれたみたいだ・・・』
『まぁっ・・・一体何があったの?』
『それは言えないが・・・とにかく元気になって送り届けたよ。』
『そう・・・良かったわ。』
『優勝祝賀会はどうだった?』
『ミン秘書が・・・あなたが来ないって嘆いていたわ。』
『っつ・・・勝手に嘆かせておけよ。俺は元々彼女に興味は無い。』
『確かにね・・・あの子を見て解ったわ。あなたがあの子を好きになった気持ち♪』
『あぁ?っつ・・・』
『で?ちゃんとお付き合いするの?』
『あ?いや・・・それはまだ。』
『あなた・・・今日一体何をして来たの?』
『残念会と言う名の食事だが・・・』
『そう言う話にはならなかったの?』
『いや・・・弱みにつけ込む様な事は出来ないからな。』
『シン・・・あなたそんなことじゃ、一生独身かもよ。トンビに油揚げ浚われないうちに・・・
彼女をゲットしなさいよ。そんなところ・・・お父さんにそっくりね。』
『母さん・・・応援してくれる気になったのか?』
『ええ。いつかイ・コーポレーションの入り口フロアーを彼女のアレンジメントフラワーが
一杯飾られたらいいわね。』
母の誰よりも強力な後押しを得て、俺はこの先・・・客から友人・・・そして恋人へと昇格するべく
努力する事を決意した
残念会?・・・正直言うとそんな気分ではない
でも私の心の中にあるわだかまりを、吐き出してしまいたいのも事実・・・その誘惑には勝てず
私はイ・シンさんに素直に従った
店の外で逢うなんて初めて。でもこんな形で逢いたくは無かったな・・・
駐車場に連れて行かれ助手席のドアが開けられた
さすがにイ・コーポレーションの専務さんだけあって、大きな車に乗っているのね・・・高そう
促がされるまま助手席に乗り込み、運転席に彼が乗りこんだ時、私は一番の大きな疑問を投げ掛けた
『イ・シンさん・・・同業者なのに、どうしてうちの店で買い物なんかしたんです?
それにユル先生と従兄弟の関係なのを内緒にして、私の相談に乗るなんて酷いです。』
棘がある・・・自分でも驚くほどの棘のある言葉に、私は自分が接客業に従事している事を思い出し慌てた
でもイ・シンさんは慌てる風でもなく平然と答えた
『確かに・・・最初はユルのお気に入りの子を見てやろうと言う興味本位だった。
だが・・・君の花に対する愛情の掛け方を間近に見ているうちに、見習うべきものがあると感じて
つい毎日通ってしまったんだ。』
『つまり・・・偵察に来ていたと言う事ですか?ユル先生が言ったように・・・』
まさかと言う思いで口にした・・・
ユル先生の言った事が真実だったら、私はこの人について来るべきじゃなかった
『偵察?なんの為に?』
『うちの店を偵察に来ていたのですか?』
『いや。そんなつもりは全くない。俺がイ・コーポレーションの人間であることを黙っていたのは悪かったと思うが
俺はあくまでも一個人として通っていただけだ。
なぜそんなことを言うんだ?』
『ユル先生からそう聞いたんです。』
『ユルから?一体いつ・・・』
『コンテストの開始前です。お付き合いをお断りしたら、急にそんなことを話してくれました。』
『俺が偵察に行っているって?くくっ・・・
しかし・・・コンテスト前にそんなことを言うなんて、きっと君に振られた腹いせだな。』
『振られた・・・腹いせ?』
『あぁそうとしか考えられない。君は決していい気分じゃなかっただろう?』
『確かに・・・』
イ・シンさんの車は夕暮れの街を走り、一軒の小さな建物の前で停車した
『降りよう。』
『ここは?どこですか?』
『行きつけのレストランだ。ワインが美味いんだ。花は後に置いたらいい。』
『でも後部座席が・・・散らかってしまいます。』
踏まれてしまった薔薇までも記念に持ち帰って来たのだ。きっと散らかるに違いないと私は躊躇する
『そんなことは構わない。ほら・・・貸して!!』
イ・シンさんはただ包んであるだけの私の今日の成果を、大切そうに後部座席に移動させた
それから運転席から降り助手席側に回ると、ドアを開け私を車から降ろした
こんなエスコートをされるのは・・・もちろん初めてだ
さすがこの業界トップ企業の後継者だけある
いや・・・誰からも彼がイ・コーポレーションの後継者だなんて聞かされてはいない
だけどお母様が秘書を持っているくらいだもの、恐らく私の勘に狂いは無いだろう
イ・シンさんに誘われ入って行ったレストラン。彼は本当に常連らしく、一番奥のVIP席に案内された
席に着いてメニューを見ながら私に好き嫌いがない事だけ確認すると、イ・シンさんは料理とワインを注文した
運ばれてきたボトルに入った深紅のワインは、踏まれてしまった私の薔薇の花に似て私は悲しくなって俯いた
『どうぞ・・・』
イ・シンさんは私のグラスにワインを注ぐと、自分のグラスにも少しだけワインを注ぎ
『今日はお疲れ様。』
そう言ってグラスを鳴らした
『さぁ飲んでみて。』
『はい。すごく美味しいです。香りもいいし・・・仄かに甘いです。』
『そうだろう。くくっ・・・。さぁお腹いっぱいに食べて、元気にならないとな。』
『シンさんは・・・飲まないんですか?グラスに口をつけていませんが・・・』
『あぁ、形だけ俺のところにも置いておくが・・・車だからな。君が全部飲んでいい。』
『えっ?こんなに飲めませんよぉ・・・』
美味しいお料理に手をつけながら、喉を通っていくワインが私の冷え切ってしまった心を温めてくれる
『さっきの誤解は解けたかな?』
『えっ?誤解?』
『俺が偵察に行っていたんじゃないかって・・・』
『ええ。自分でもわかっているんです。うちみたいな小さな規模の店の偵察に来ても、得にはなりませんから。
くすくす・・・』
『偵察と言うより・・・君の観察に行っていた様な気もするが・・・』
『観察ですか?なんか動物園の熊になった気分です。』
『君はすごく花に対して愛情深いから、見ていてすごく癒された。』
癒された?それは私のセリフ・・・あの短い時間が私の疲れを毎日吹き飛ばしてくれていた
『ミン秘書に花を踏まれたんだって?』
『あ・・・それは故意に踏んだんじゃないんです。』
『だとしても君の材料は床に堕ちて傷んだ。違うか?』
『はい・・・』
『しかも大会前にユルからは嫌な言葉を言われただろう・・・』
『そんなのはいい訳になりません。あれが私の実力なんでしょう。』
あの会場の中で一番脆弱だった私の作品を思い出し、私は思わず俯いた・・・
シン・チェギョン嬢を車に乗せ、行きつけの店に向かった
ユルの奴・・・大会前にチェギョンさんを動揺させるような言葉を態々言うなんて、
振られた腹いせとしか思えない
恐らく・・・俺の存在を彼女に警戒させたかったのだろう。
彼女はどうやら・・・俺が≪来夢生花店≫の偵察に行っていたのではないと信じてくれたようだ
まさか傷心の彼女に≪君が目当てで行っていた≫と・・・弱っている気持ちにつけ込む様な真似は出来ない
彼女は大会前に気持ちを揺さぶられ・・・花を踏みつけられどんな気持ちで大会に臨んだのだろう
それを考えると胸の奥が痛んでついその手を握り締めたくなる
たった三枚だけ残った赤い薔薇の花弁を飾ったのは、彼女の精一杯の花に対する愛情だったのだろう
他の参加者がメインで使っている花を使えない悔しさ・・・
落してしまって元気のない花達。完璧なコンディションじゃなかった彼女
頼むから泣かないでくれ・・・泣かれたら君を帰せなくなる
そんな想いを感じてなのか、彼女は涙を見せなかった
会場を出る時、今にも泣き出しそうな顔をしていたと言うのに・・・
『ユル先生が言ったんです。≪僕の彼女になっていれば入賞できたのに・・・≫って・・・
でも私、そんな裏工作をしてまで入賞したいとは思いません。
ミン秘書さんでしたっけ?あの方の作品を見て解りました。
このコンテストで私は絶対に入賞できないって・・・感性が違いすぎるんです。』
俺はユルの言ったという言葉に、胸の中で怒りをたぎらせ・・・その一方で彼女の言うとおりだと思った
感性が違いすぎる・・・まさにその通りだ
上辺の華やかさを追求したアレンジメントになど、俺の心は動かない
脆弱でも彼女のアレンジした花を抱きしめたい気持ちになったのも確かだ
いや・・・抱きしめたいのは彼女の方かもしれないが・・・
彼女と携帯の番号を好感し家まで送り届けたあと。自宅に俺が戻ると母は心配そうな顔で俺を待っていた
『シン・・・彼女大丈夫だった?相当落ち込んでいたみたいだけど・・・』
『あぁ。なにやら精神的にも大会前に追い込まれたみたいだ・・・』
『まぁっ・・・一体何があったの?』
『それは言えないが・・・とにかく元気になって送り届けたよ。』
『そう・・・良かったわ。』
『優勝祝賀会はどうだった?』
『ミン秘書が・・・あなたが来ないって嘆いていたわ。』
『っつ・・・勝手に嘆かせておけよ。俺は元々彼女に興味は無い。』
『確かにね・・・あの子を見て解ったわ。あなたがあの子を好きになった気持ち♪』
『あぁ?っつ・・・』
『で?ちゃんとお付き合いするの?』
『あ?いや・・・それはまだ。』
『あなた・・・今日一体何をして来たの?』
『残念会と言う名の食事だが・・・』
『そう言う話にはならなかったの?』
『いや・・・弱みにつけ込む様な事は出来ないからな。』
『シン・・・あなたそんなことじゃ、一生独身かもよ。トンビに油揚げ浚われないうちに・・・
彼女をゲットしなさいよ。そんなところ・・・お父さんにそっくりね。』
『母さん・・・応援してくれる気になったのか?』
『ええ。いつかイ・コーポレーションの入り口フロアーを彼女のアレンジメントフラワーが
一杯飾られたらいいわね。』
母の誰よりも強力な後押しを得て、俺はこの先・・・客から友人・・・そして恋人へと昇格するべく
努力する事を決意した
(薔薇の画像は薔薇の奥様こと『花が好き』のkakoさんからお借りしております。
お持ち帰りはご遠慮ください。)
お持ち帰りはご遠慮ください。)
更新遅くなりました~♪