<トントン>
シンの皇子ルームがノックされた時、チェギョンは慌てふためきシンに哀願する眼差しで問い掛けた
『シン皇子・・・どこか隠れるところは?』
『あ?それなら・・・そのカーテンの向こうに・・・』
『はいっ!!じゃあ私はひとまず身を潜めますっ!!』
シンの指差す方向のカーテンにチェギョンが隠れたあと、シンはなんでもない風を装い返事を返す
『どうぞ。』
言ったすぐあとで気がついてしまった・・・チェギョンの食べていた弁当箱はテーブルの上に置かれたままだ
シンは慌ててそのテーブルをノックしてきた者から見えない様、ドアに向かって駆け寄った
『シン兄貴♪あれっ?チェギョン来なかった?』
入ってきたのは弟のギョン皇子だった
『あ・・・つい先ほど野暮用で立ち寄ったが、すぐに帰った。』
『ふ~~ん。そうなんだぁ~~~・・・』
シンの背後を窺う様にギョンは首を横に曲げて部屋の中を覗いた
そしてテーブルの上に明らかに宮廷弁当ではないランチバッグが置かれたままなのを確認し、それからシンに
視線を戻した
『シン兄貴・・・』
『なんだ?』
『兄貴はさ・・・皇位継承権にも今回のシン家との縁談にも、全く興味が無いって言ってたよな?』
『あぁ。それがどうかしたか?』
『皇位継承権は勝手に決まっちゃうんだからともかくとして、
結婚相手はもっと真剣に悩んだ方がいいんじゃないの?』
『くっ・・・弟のお前に、言われる筋合いの事ではない。』
『ほら~そうやっていつもクールに構えているけどさぁ・・・。皇室の結婚なんて一生ものだよ。
一般人みたいに簡単に別れられないんだからね~~!!
クリスマスにその相手が決まったら・・・好きだろうとそうじゃなかろうと、一生その女の寝顔・・・
見続けなきゃならないんだよ!兄貴っ!今のままでいいわけ?ヒスンかスニョンに決まっていいわけ?』
『っつ・・・なぜその二人なんだ?』
『だって~~ガンヒョンはもう俺が離さないしっ、ヒョリンだってイン兄貴が離さないだろう。
チェギョンはファン兄貴とユル兄貴が取り合ってるしさぁ・・・』
『・・・』
ぐうの音も出ないシンである・・・ギョンの言っている事は図星なのだ。だからこそ腹が立つ
『ちゃんと考えているから安心しろっ!』
『そう・・・そっか~~♪じゃあ中でお弁当食べてる彼女によろしくね~~♪」
シマッタ・・・ギョンの言葉尻にすべて見通されている事に気が付き、シンは扉が閉まってから動揺する
『はぁ・・・ビックリした。ギョン皇子でよかった。』
扉が閉まったのを確認し、チェギョンが安心してカーテンから姿を現す
『だが・・・お前がいた事はバレていたようだがな。くくっ・・・』
『あぁーーーっ・・・お弁当箱・・・バレてましたか・・・』
『あいつはお調子者だが、この非常事態に混乱を招く軽口は叩かない。』
『うん。それを聞いて安心した。じゃあ…シン皇子、私は教室に戻るね。』
『あぁ。そのキスシーンの描き直しは明後日までな。』
『えっ?そんなに早く?』
『あぁ。そのくらいちゃちゃっと描き直せるだろう?』
『冗談言わないでよ!!毎日色んなお稽古事で忙しいんだからねっ!!』
本日は月曜日である・・・週末になればまた、シン家の娘達はやってくるに違いない
なんと言っても宮は集団交際の場には一番安全な場所なのだ
マスコミや危険人物だって・・・ここにはそう易々と侵入できない
『それなら・・木曜まで待ってやる。』
『解りました。木曜のこの時間にまた来ます。』
(みてろ~~!!シン皇子め!!今度こそ納得のいくキスシーンを・・・)
意気込んでチェギョンは自分の教室に戻って行った。
チェギョンが皇子ルームを去った後、シンは先程弟のギョンに言われた言葉が頭の中から離れなくなっていた
昨日会ったヒスンとスニョンが、自分の隣で眠る姿を想像し・・・どうにも気持ちの収まりがつかなくなっている
(これは無理だろう・・・)
試しに・・・そのヒスンとスニョンを、先程までここにいたチェギョンに差し替えてみる
(まぁこれなら・・・)
なぜか自分の中で納得し頷きそうになっている事に気が付き、シンは≪違う違う!≫と首を横に振る
だが・・・いくら自分が否定しようにも、女生徒をこの部屋に呼んだ事など今まで一度としてなかったシンである
シン家の娘の中でチェギョンは一番人気だ。早くファン皇子とユル皇子に宣戦布告しなければ
取り返しのつかない人生になる
木曜日・・・この部屋にチェギョンが訪れた時に、シンはさりげなく自分との事を打診してみる事に決めた
教室に戻ってからのチェギョンは、ただ漫画を見せに行っただけなのに・・・姉妹たちに後ろめたい気がして
ガンヒョンの目を見ることが出来ない
嘘を吐く事は元々得意ではないのである
チェギョンの心の中でも、二人の皇子のうちどちらかを選ばなきゃならない事は苦痛でしかなく
できる事なら嫁になど行かず、のほほんと好きな事をして生きて行きたかった
(でもな~~そうもいかないよね・・・)
幼い頃から五人揃って習わされた論語や四経・・・それらはすべて皇室に嫁ぐ日の為に身につけたもの
逃れようにも逃れられない
(確かにファン皇子の住まいは素敵だったけど、そこに住む自分なんか想像もつかない。
ユル皇子は?ユル皇子・・・優しそうだけどただそれだけ・・・
お!!シン皇子は?シン皇子は私の漫画を見てくれたよね?もしかしたら・・・
結婚しても漫画を描く事を許してくれるかも♪
よく考えてみたら、さっきキスシーンの再現した時、顔近くて・・・
うわぁ~~~!!今頃になってドキドキして来た。どうしよう・・・)
真っ赤な顔になって自分の世界に入ってしまったチェギョンを、ガンヒョンは隣の席で観察しながら心の中で呟く
(この子・・・なんか怪しくない?チェギョンがこんな顔するなんて初めて見たわ。)
元々どこかとぼけたところがあって、普通の女の子とはかけ離れたところのあるチェギョン
そんなチェギョンの初めて見せる、照れた顔付きだったのである
いつも通りシン家の五姉妹は、全員揃って家に帰る
もちろん学校の正門には二台の車が迎えに来ており、遊んでいる時間などない五姉妹なのだ
ところが本日・・・正門の外にはシン家の車以外に黒塗りの車が二台停まっていた
五姉妹が出てきたのを確認すると、その車の後部座席からはファン皇子とイン皇子が姿を現し
共に目当てのチェギョンとヒョリンの元に歩み寄った
『チェギョンさん・・中宮殿に遊びに来ませんか?』
『ヒョリン・・・北宮殿に行こう。』
二人共目的は同じだったようである
だが、チェギョンとヒョリンは示し合わせたわけでもないのに、同じ断りのセリフを口にする
『『これからお稽古事があるので無理ですっ!!』』
無残にも一国の皇子が二人揃って、振られる結果となったようだ
それからのチェギョンは家に戻りお稽古事が終わると、深夜まで漫画の描き直しに精を出した
『えっと~~こうするとこうなるでしょ?ここで首を傾げたら・・・無理な体勢じゃないかな?
あ~~~!!もう経験ないんだからこんなのわかんないっ!!
でもな~~シン皇子にまたダメ出しされるの癪だしな。頑張ろう!おぉ!!』
チェギョンがそんな事をしている間にも、両親は皇帝陛下と週末に姉妹を宮に行かせる約束を取り付けたらしい
チェギョンもチェギョンで、姉妹からどちらかに決めろと言う矢の催促に気持ちを焦らせていた
(シン皇子に・・・言ってみようか・・・)
少しの打算もあったが、約束の木曜日チェギョンは描き直した漫画と精一杯の勇気を背負い
再びシンの皇子ルームへと向かったのである
あらら~~?五話で急展開の兆し❤
でも・・・そこから耐えてゾーンに入りそうね
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
でも・・・そこから耐えてゾーンに入りそうね
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!