いや・・・俺様に至っては、ただチェギョンに実力を見せつけたいだけなのだ
俺は父の下で経営の勉強もする傍ら、マンションに戻ると参考書を開きチェギョンと一緒に勉強した
チェギョンはもちろんバイトが終わってから勉強タイムとなるわけで、眠る時間はいつも深夜を廻っていた
そりゃあ一緒に居るわけだから、時折恋人の甘い時間を持ったりなんかしているだろうと思われるだろうが
そういうタイミングが訪れるといつも≪チェギョン爆睡≫の仕打ちに遭い・・・俺様はいつも取り残された
そんな忙しい日々とも漸く決別だ
俺達は力の限りを尽くし、採用試験に臨んだんだ
採用試験が済んで数日後の事・・・俺とチェギョンは父に呼び出された
もちろん正式発表に先駆けて、試験結果を教えてくれるためだった
残念なことに・・・俺様だけは役員との面接を強く拒まれ、面接を受けさせては貰えなかった
まぁ…それも当然か?くくっ・・・
役員もこれから上司になる人間の面接は、遣り難いに違いない
その日ちょうどバイトが休みだったチェギョンを連れ、俺は夕食時に実家に向かった
もちろん母には一緒に食事すると連絡を入れておいた。母はとても上機嫌な様子で≪待ってるわ~♪≫と答えた
この母って奴が実は結構曲者で、数カ月に一度マンションの抜き打ち検査にやってくる
もちろんチェギョンは不在の事が多いので、ずっと一緒に居るなんて思っても見ないだろうが・・・
実に侮れない母なのだ
実家に帰る途中、有名なケーキ店に立ち寄り・・・チェギョンは手土産のケーキを購入する
そんなに毎回手土産など要らないと俺は言うのだが、チェギョンはそれが出来ない性分らしい
実家が近づいてくるとチェギョンは急に採用試験の結果が気になりだしたようで、そわそわしだす
『ねえシン君。結果どうだったかなぁ。もし落ちていたらどうしよう~~~!!』
『落ちていたら専業主婦だろ?今更じたばたするな!』
『えっ?あれ・・・冗談じゃなかったの?』
『本気だ。』
『あぁぁ・・・でも落ちていたらホント私、立場ないなぁ・・・』
『精一杯努力した結果だ。受け入れろ。』
『う~~ん・・・・』
敷地内に入って行く車・・・駐車スペースに車を停めると、チェギョンは土産のケーキの箱を大事そうに抱え
俺と一緒に家に向かって歩く
何やら一人ぶつぶつ唱えているようだが、俺は気にしない
どうせ≪落ちたらどうしよう≫を繰り返しているんだ
『ただいま~~母さん。』
『おば様こんばんは~~♪』
二人揃って玄関で声を掛けると、母はいそいそと出迎えに現れた
『いらっしゃい♪さぁ早く上がって。お父様ももうすぐ戻って来られるわ。』
『おば様・・・これお土産です♪』
『まぁ~チェギョンさん、私ここのお店のケーキ大好きよ♪食後にいただきましょう。』
『はいっ♪』
リビングに通され出されたお茶を飲んでいると、父が帰ってきたようだ
俺達は着替えを済ませた父と一緒にリビングのテーブルに着席をした
やはり…結果は気になるものである。俺は早速父に問い掛けてみた
『父さん・・・採用試験の結果はどうだったんだ?』
『シン・・・まずは食事を楽しく摂ろう。話しは食事の後だ。』
『あぁ・・・解った。』
採用試験の結果を前に食べた気などしない俺とチェギョン・・・実に楽しそうな両親を前に、俺達は何を食べたか
解らないありさまだ
食事が済んでソファーに移動した俺達・・・チェギョンの持参したケーキとお茶が其々の前に置かれた時
漸く父は俺達二人を見つめ、それから口を開く
『まず・・・シン。危ないところだったな。あと3点でトップ採用は奪われるところだった。』
『ということは・・・・トップだったと言う事?』
『ああ、おめでとう。役員達も褒めていたよ。さすが後継者だって・・・私も鼻高々だ。はっはっは・・・』
『聞いたか?チェギョン・・・どうだ?俺様の実力は。』
『すごい!!すごいなぁシン君。
あの・・・おじ様・・・私は・・・どうだったでしょうか・・・・』
『チェギョンさんは・・・』
父の言葉を固唾を飲んで待つチェギョンは、ものすごい緊張感で隣に居る俺にもそれが伝わって来るようだ
『採用試験を受けた学生123名のうち・・・17番だったよ。申し分なく採用だ。』
『本当ですか?おじ様・・・きゃ~~~やった~~シン君♪』
思わず俺の両手を握り振り回すチェギョン・・・チェギョンには悪いが、俺はちょっと合格したのが
残念な気もしていた
それは母も同じ気持ちだったようで、向かいのソファーでぽつりと呟いた
『あら・・・受かっちゃったのね・・・』
チェギョンは満面の笑みで母に再度願い出る
『おば様・・・保証人、よろしくお願いしますっ♪』
母は渋々と言った感じをあからさまに漂わせ、それでも笑顔を浮かべた
『解ったわ。チェギョンさん。』
『近々人事担当者からチェギョンさんには入社案内が届くだろう。その時はお母さんに書類を持って来なさい。』
『はいっ!』
『父さん・・・俺は?』
『お前にそんな書類は届く筈ないだろう?それに・・・世間的にはトップ採用は試験で二位の学生になるからな。』
『えっ?なぜですか?』
『考えてもみなさい。お前は入社式に役員席に座るんだ。もちろん繰り上がりでトップ採用の者が
新入社員の代表となる。』
『俺の雄志は・・・新入社員の誰にも知らされないってことなのか?』
『もちろんだ。元々役員として入社する者が、採用試験を受けるなんて前代未聞だ。
それにシンは、チェギョンさんに実力を見せたかっただけだろう?
トップの成績だとここに居る四人と役員が知っていればいい話だろう。』
『まぁそれもそうだけど・・・』
なんだか釈然としない気持ちがありながらも、やはりその辺りは普通の新入社員ではない立場の違いを
自覚しなければと思う俺だった
なんにせよ二人揃って同じ会社に就職できたわけだが、チェギョンは希望通りの広報部に所属することとなった
俺はいきなりの専務取締役だ
同じ会社と言ってもなかなか逢うことはできない
まぁ家に帰れば一緒だから、その辺りはなんとか耐えられそうだ
大学の卒業式が済んだ頃、チェギョンは長年世話になったバイト先を辞めることになった
バイトの最終日、俺は花束を持ってチェギョンを迎えに行ったさ
店長や一緒に働いたスタッフにも挨拶したかったし、秘密にしておいた二人の仲も暴露して来たかったんだ
店長及びスタッフはチェギョンが辞めてしまう事を非常に残念がっていたが、俺様が迎えに行ったことで
そのしんみりとした空気は払拭された
『チェギョン・・・長年お疲れ様。店長お久し振りです。みんなも久し振り。
チェギョンが長らくお世話になりました。』
みんなそれはそれは驚いた顔をし、その後はチェギョンと俺を囲んでの送別会となった
学生生活の大騒ぎも・・・もうこれでおしまい
それを名残惜しむかのように俺もチェギョンも、そしてドーナツショップのみんなも・・・浴びるほど酒を飲んだ
心地よい感傷を残して・・・俺達は社会人になって行くんだ
さて、次回社会人になった二人の様子をお見せして
このお話を完結させます~~★
このお話を完結させます~~★