実家を後にした俺達は他愛もない会話をしながら車に乗り込んだ
『あれっ?シン君・・・送ってくれるんじゃあないの?』
『渡したい物があるんだ。俺のマンションに寄って行く。』
『うん♪』
そう・・・あのチェギョンの誕生日の日、渡すことのできなかったプレゼントを漸く渡せる気持ちになった俺だ
チェギョンの未来を縛るものはもうない・・・チェギョンは自由になった
俺の感情はどこまでも高揚していく
チェギョンを誘って俺の部屋に入る
『シン君の部屋・・・久し振りに来た気がする。』
バイト尽くめであまり遊ぶ時間などないチェギョンは、俺の部屋に入ったのも久し振りだ
俺の部屋のセンス抜群の小物など眺め、楽しそうにしている
俺は机の引き出しからあの時渡せなかった物を取り出すと、口に放り込み・・そしてチェギョンに近づいた
チェギョンの肩をトントンと叩き、チェギョンが振り向いた瞬間・・チェギョンに口移しでそれを渡した
『んんっ・・・んんっ???』
飲み込まれたら大変だとすぐ唇を離した俺・・・チェギョンは目をぱちくりとさせながら口元に手を持って行き
唇の間からそれを取りだした
『なにっ?シン君これ・・・あ!!指輪だ・・・』
親指と人差し指で摘んだ指輪をチェギョンはじっと眺めている
『遅くなったけど21歳の誕生日プレゼントだ。』
『ありがとう。すごく綺麗・・』
俺はチェギョンからその指輪を取りあげると、チェギョンの左手薬指に填めてやった
『ぴったり。シン君すごい!サイズぴったりだよ~~♪』
『くっ・・・そりゃあ、いつも手を繋ぐ時に確認していたからな。』
うっとりと左手を翳し指輪を眺めているチェギョンを、俺に向かい合わせるとそっと唇を寄せた
今度は指輪を飲みこむ心配がない為、俺も手加減できなかった
その夜・・・俺はチェギョンを帰さなかった
父の手配でその後チェギョンは引っ越しをした
俺の住むマンションの同じフロアーに、母名義で部屋を用意してくれたのだ
それはもちろん、シン家との関わりを一切断とうと言う両親の配慮だったが・・・その恩恵を一番に受けたのは
どうやら俺の様だ
チェギョンの部屋は必然的に倉庫と化し、ほとんど半同棲のような生活の俺達
両親からの≪生活費の面倒を見る≫・・・という申し出は、さすがにチェギョンも断り
卒業までアルバイトを続けることとなった
俺はというと・・・父の会社に入るための準備に追われ、チェギョンと一緒のバイトには就けなくなってしまったが
それでも一緒の部屋に居ると言う安心感が、なによりも俺を奮起させた
大学四年になったある日・・・チェギョンは相談したいことがあるので実家に行くと言う
もちろん俺はチェギョンに同行した
事あるごとに呼び出され、食事を共にしているうちに・・・両親とチェギョンは随分打ち解けた様だ
いつになく神妙な面持ちのチェギョンは、両親を目の前にし頭を下げた
『あのっ・・・おじ様おば様、折り入ってお願いしたいことがあるのですが・・・』
一体どうしたのだろうと父も母も顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げた
『なんだね?一体。そんなに改まって。』
『そうよぉ~~どうしたの?チェギョンさん。相談事なら何でも言いなさい。』
『あのっ・・・就職試験を受けたいのですが、もしも本採用になった時に保証人が必要で・・・
もしできましたらおじ様かおば様にお願いできないかと思いまして。』
『保証人?いいだろう。一体どこの企業を受けるのかね?』
『あの・・・ここなんですけど・・・』
恐る恐るチェギョンの出した企業パンフレット・・・それを見て父も母も大声で笑い出した
『はははっ!!なんだチェギョンさん・・・』
『ほほほほほ・・・可笑しすぎるわ。』
二人の反応に困惑の表情のチェギョンは項垂れてしまった
『ダメでしょうか・・・』
『ダメって・・・はははははっ、別にうちの会社に入るのに保証人など必要ない。』
『そうよ~~。そんなこと気にしないでいいの。どこに所属したいの?』
『あ!!いえそうではなく・・・ちゃんと採用試験を受けて採用されたいんです。
でももし本採用になった時・・・保証人が・・・』
父はこのチェギョンという人間が本当に面白いと思ったようだ
『よかろう。私がなってあげよう。』
満面の笑みの父に、俺はつい水を差すような言葉を言ってしまった
『父さんが保証人になったら、いくら採用試験を受けて入社したとしても
縁故入社だって言われてしまうだろう?』
『えっ・・・』
チェギョンは眉毛を八の字に下げて今にも泣きそうな顔になる
その顔を見た母は、すぐさまフォローに向かう
『いいわよ~~、私が保証人になってあげる。私だったら誰も縁故入社だなんて言わないわ。
おほほほほ・・・』
いや、母だって一緒だ。財閥会長夫人の名前を知らない社員なんて、もぐりとしか思えない
通りで最近チェギョンは、マンションに戻ると必死になって勉強しているわけだ
俺は漸くその理由がわかった気がした
母を味方につけたチェギョンは、俺に挑戦的な視線を向けてくる
『シン君はいいよ~~。だって採用試験なしで管理職でしょう?』
マンションに戻ってから勉強するチェギョンに、ついちょっかいっを出す腹いせか・・・
チェギョンはそんな事を俺に言ってくる
『採用試験なんか・・・俺が受けたらトップ採用に決まってるだろう?
他の社員に悪いからな。』
『へっ・・・?くすくす・・・』
『なんだよチェギョン。俺の実力を疑っているのか?っつ・・・そこまで言うんなら俺も採用試験を受けてやる。
もちろんトップ採用は誰にも譲らないがな!!』
『楽しみにしてま~~す♪』
『おい!もし採用試験に落ちたら、お前は専業主婦だからな。いいな!!』
そう俺が言った途端、母は満面の笑みで高らかに叫んだ
『まぁ~~それもいいわね~~♪じゃあ・・・チェギョンさんがもし落ちたら、この家にお引っ越しね~♪』
縁起でもない事を言って、藪から蛇を突いて出してしまった
失言だったと反省する俺・・・
あぁ・・・つい売り言葉に買い言葉で、両親の前で俺は宣言してしまった
あろうことか後継者の立場のこの俺様は・・・チェギョンのせいで入社試験を受ける羽目になった
あと二話・・・こんな調子でほのぼの参ります。
最後までお付き合いくださいね~~★
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