韓国芸術大学入学式から三日後・・・ギョンとガンヒョンはチャン航空旅客機に乗りこみ機上の人となっていた
もちろんその座席はファーストクラスである
広々と寛げる空間で長時間の空の旅を楽しむ二人・・・もちろん目的は観光などではなく
シン・チェギョンの捜索なのである
二人は並んだ座席のテーブルの上に、チェギョンが入学したと思われる大学構内の見取り図を広げ
どこから捜索しようか相談中であった
『あ!!ギョン、例の物は殿下に渡してくれた?』
『ああもちろん♪抜かりはないよ。契約も俺の名前だしね。』
『そう…ありがとう。殿下の分はアンタが負担してよ。チェギョンの分はアタシが負担するから。』
『ふふふ・・・そんなこと心配しないで~~♪』
『ところでチャン航空機って、機内食美味しいわね。そんじょそこらの三ツ星レストランに引けを取らないわ。』
『だろう?空の旅の楽しみは、リラックスできる時間と美味しい食事だ。その辺りは社訓だからさ。』
『ふぅ~ん。アンタって意外と愛社精神があるのね。』
『当然だろう?俺はこの会社の跡取りだもん♪』
快適な空の旅の時間・・・ギョンとガンヒョンは、互いの夢についても語り合っていたようだ
同じ頃・・・ギョンとガンヒョンがイギリスに向け旅立ったのを聞いたシンは、
身動きの取れない自分の立場に苛立ちを募らせていた
宮から大学に通う間も常に公用車に送迎され、宮に戻ってきてからも東宮から出るだけで行き先を尋ねられる
自由など全くない生活・・・行動を起こそうにも飛行機に乗ることさえできない
(あいつは今…どうしている?不自由な思いをしているんじゃないのか?)
公式のお見合いパーティーの日程が発表され、一月後にはその会場の主役を務めることとなった自分
頭の中にチェギョンの言った言葉が響く
≪王族会推薦のご令嬢方とお逢いしてみたらいかがですか?≫
シンは目を閉じ首を横に振ると心の中で呟いた
(皇太子ルームで過ごしたほんのわずかな時間・・・あの時間が俺の唯一の憩いの時間だった
お前にダメ出しされたり、お前のくるくる変わる表情だけ見て我慢できていればよかったんだ
だがもう遅い。そんな風に後悔しても遅いんだ。もうお前は俺から引き離され遠くに追いやられた
ただ見ているだけで満足できていたら、お前は遠くに行かずに済んだのにな
今はお前をこの国に連れ帰ることだけ考えよう
チェギョン・・・逢いたいよ・・・)
気持ちが焦れば焦るほどチェギョンへの恋しさは募る
頭の中にいつでも思い描くことのできるチェギョンの笑顔を思いだし、シンはその拳をぎゅっと握りしめた
やはり同じ頃・・・ロンドンでは、入学したばかりの大学でチェギョンが窓の外を眺め祖国に思いを馳せていた
最後に皇帝陛下の部屋で聞いた、シンが自分の名前を叫ぶ声が耳から離れない
(殿下・・・元気にしてるかな。相変わらず体鍛えてるんだろうか。くすっ・・・
どうせなら遠慮しないで見せてもらえばよかったな。
大学でもハーレム作ってるのかな。ますます・・・モテるんだろうな。
そのうち・・・韓国皇太子結婚!なんてニュースが入ってくるんだろうな。)
現段階・・・永久追放を命じられていたチェギョンは、シンが婚姻したからと言って祖国に帰れるわけではない
なんとなく窓の外を眺めふぅ~っと溜息を洩らす・・・そんなチェギョンに、ユルは隣の席に腰掛けると話しかけた
『ふふふ・・・どうしたの?チェギョン溜息なんか吐いちゃって。ホームシック?』
『あ!!ユル君・・・うん。ホームシックかな。そうかもしれない・・・』
『そんなに寂しいんじゃ、夏休みに帰ったらいいよ。』
『う~~ん。。。くすくす…』
『なんだよ!その意味深な笑いは・・・』
チェギョンの瞳に憂いが宿るのを感じたユルは、なんとなくチェギョンに自分と同じ匂いを感じ取ったようだ
『韓国に…彼氏が居るの?』
『彼氏?う~~ん。。。好きな人はいるよ。』
『相手は?君のこと想ってくれてるの?』
『う~~ん。多分ね・・・・』
『だったら彼氏になるんじゃないの?』
『・・・くすくす・・・色々と難しいの♪』
笑って返した返事だったが、その笑顔はどこか寂しげだった
もちろん同じ民族の血が流れているということもあるが、それからユルはチェギョンが気になって
仕方が無くなっていった
長い空の旅を終えイギリスに降り立ったギョンとガンヒョンは、ホテルに一旦荷物を預けると
その足で目指す大学に向かって行った
そして二人がかりでその大学の正門を通る学生に、チェギョンのことを尋ね続けた
ただでさえ時差ボケで頭が冴えない中、初日は何の手がかりもなく日が沈んでいく・・・
そして正門を通る学生も無くなった頃、二人は足を引きずる様にしてホテルに戻って行った
隣り合わせに取った部屋の前で、別れ間際ガンヒョンが言う
『ギョン・・・今日は収穫なしって殿下に報告しておいて。言っておくけど殿下の携帯に掛けちゃあダメよ。
例のアレによ。殿下の携帯・・・恐らくチェックされているからね。』
『解ってるさそんなこと。例のアレに掛けるよ。』
そしてその日ギョンから≪収穫なし≫の連絡を貰ったシンは、落胆するどころか二人の労をねぎらった
自分のために海外にまで足を運んでくれたギョンとガンヒョン。。。
本音を言えば、シンは二人が自由にチェギョンの現在暮らしている場所に行けることが
羨ましくて仕方が無かったのである
翌日も学生が大学に姿を現すかなり前から二人は正門で張り込み、通る学生を捕まえては
シン・チェギョンの情報を得ようと必死だった
ギョンは男子学生にガンヒョンが女子学生にと二手に分かれ、聞きこみを続けた
何度か大学の警備員に咎められたが、必死なギョンとガンヒョンの表情に根負けした警備員は
大学の事務局に案内してくれると言う
そこで警備員に連れられ大学事務局に向かおうとしたその時、一人の女子学生がガンヒョンに声を掛けた
『あなた達・・・シン・チェギョンを探しているの?』
その声に呼び止められ、ガンヒョンは即座に答えた
『ええそうなの。シン・チェギョン…知ってますか?』
『ええ知ってるわ。高校からの友人よ。私…マンナって言うの。』
『アタシはイ・ガンヒョン。マンナ・・・チェギョンに逢いたいのよ。逢わせて貰える?』
『もちろん♪ちょっと待っててね♪』
マンナは携帯を取り出すと電話を掛け始めた
そしてその電話を切るとガンヒョンに向かって微笑んだ
『今ここに来るわ。あなた達・・・チェギョンに逢いに韓国から来たの?』
『ええそうよ。マンナ・・・感謝するわ。』
程なくして遠くから歩いてくる人影が、徐々に徐々に正門に近づいてくる
そしてある一定の距離まで来た時、チェギョンは立ち止り口を開け目を見開いた
『がっ・・・・ガンヒョーーーーン!!』
叫ぶなり走り出したチェギョン・・・ガンヒョンもチェギョンに向かって走った
そして手の触れられる距離で共に立ち止り、互いの顔を見つめ合いそして抱き合った
『ガンヒョーーーン・・・逢いたかった。』
『アタシもよチェギョン。』
『でも・・・よくここが解ったね。どうやって調べたの?』
『アンタんちのおじさんにヒントを貰ってここまで来たけど、昨日からここで聞きこみしてたわよ。』
『あ・・・ギョン君も一緒?』
『ええ。ボディーガードに連れて来てやったわ。ひとまずチェギョン・・ちょっと場所変えましょう。』
『うん♪』
チェギョンとガンヒョンはマンナに礼を言い、ギョンと三人で大学付近にあるカフェに向かった
席に着くなりガンヒョンは、鞄の中から一台のスマホを取りだしチェギョンに手渡した
『チェギョン・・・これ、アンタにあげる。』
『えっ?くれるって・・・どういう意味?』
『アンタ・・・宮から支給されたスマホ使ってるんでしょ?殿下のスマホも管理されているらしいからね。
このスマホだったら・・・契約者は私だから足がつかない。殿下と連絡が取れるでしょう?』
『えっ?でもっ・・・殿下のスマホ管理されてるんでしょう?だったら・・・』
横からギョンが口を挟んだ
『シンには俺が契約したスマホを持たせたよ。シンのスマホにはこのスマホの番号が入れてあるから
安心して電話していいよ。』
『まさか・・・二人はこのために、こんなところまで来てくれたの?』
ギョンとガンヒョンの顔を見つめるチェギョンの目に涙が浮かんだ
『だって…俺達もう、共犯者だろう?』
『乗りかかった船よ。付き合いましょう。ふふふ・・・』
『あり・・・がとう。』
もっと伝えたい言葉はたくさんあった。。。だがチェギョンは胸がいっぱいになり、この言葉を絞り出すのが
精一杯だった
『とにかくアタシ達は、明日の一番早い飛行機で帰るわ。
なんたって入学早々サボってここまで来ちゃったからね。』
『えっ?ガンヒョ~ン、もう一日くらいゆっくりして行こうよ♪
ほら~~デートもしてないだろう?』
『アンタね!!学生は勉強が本分よ!!明日帰るからね!!』
『チェッ・・・解ったよ。』
『チェギョン・・・アンタが元気そうでよかったわ。』
『うん。元気にやってるよ。』
『アンタが韓国に戻れるように、アタシ達協力するからね。』
『ありがとうガンヒョン・・・ギョン君・・・』
なんとも息がピッタリな二人を見送り、チェギョンはガンヒョンから受け取ったスマホをそっと開いてみる
中のアドレスにはGとSのアドレスだけが入っていた
もちろんGはガンヒョン・・・そしてSはシンだろう
そしてその夜・・・マナーモードに設定されたそのスマホに着信が入った。。。
ーーーー今回は、話があっちに行ったりこっちに来たりで忙しなくてすまん。---
次回・・・・お話できるかな?♪
次回・・・・お話できるかな?♪