大学入学から二カ月後・・・
『シン君・チェギョンちゃんお疲れ様。』
名残惜しそうにアルバイト代を二人に手渡す≪▼■食堂≫のオーナー
『本当にお世話になりました。俺まで無理言って働かせて貰って感謝しています。』
『なんのなんの~!いやいや・・・正直言っちゃうと二人を目当てに来るお客さんが増えて、
このままずっと来て貰えたらうちは大助かりなんだけどねえ・・・。
どうだい?週に一回・・・いや、月に二回だけでも構わない。土日のどちらかに来て貰えないかい?』
『そうですね。では月に二回ほど・・・来ます。』
『本当かい?助かるよ。シン君・チェギョンちゃん♪』
二人にとっては微々たるアルバイト代なのだが、シンにはこれも立派な社会経験となっている
何よりもそこに集うサラリーマンや近所の女性客の為の≪ボランティア≫のような感覚だったのである
その日二人は返済金額を用意でき意気揚々と帰宅の途についた
『チェギョン・・・明日その男に逢うんだろう?』
『うん。』
『俺も一緒に行くよ。』
『ホント?助かる。私だけじゃ・・・見くびられそうで・・・』
『大学に来るんだろう?』
『うん。』
『時間が決まったら連絡をくれ。』
『解ったよ。シン君・・・疲れたでしょう?ごめんね、一緒にアルバイトなんかさせちゃって。』
『いや・・・俺が望んだ事だ。とにかく明日な。』
『うん♪』
これで漸く・・・この借金問題から解放される・・・そう思うとチェギョンは胸のすく思いだった
『シン・・・最近帰りが遅いじゃないか。』
家に帰りついたシンはリビングで寛いでいる父ヒョンに声を掛けられた
『あぁ。でも明日からは早く帰れるよ。』
『ああ?なぜだ?』
『あ・・・ちょっとそれは・・・』
口ごもるシン・・・母ミンもそんなシンの様子に興味を持ったのか、ヒョンの隣に腰をおろしシンを追及に掛かる
『一体どうしたって言うの?チェギョンさんと一緒なんだと思っていたのだけど・・・』
『あ・・・チェギョンと一緒だったよ。それは本当だ。』
『じゃあ・・・明日から早く帰るっていうのは?なぜ?』
『あ~・・・二人でアルバイトしていたんだよ。』
『アルバイト?一体どうして・・・?』
『そうだシン。アルバイトしなきゃならない理由でもあったのか?』
『あ~~・・・だから・・・』
綻びなど・・・すぐに見つかってしまうものである
母ミンの鋭い追及・・・父ヒョンの説得に負け、シンは大学入学と同時にチェギョンの身に起こった災難を
両親に告白した
『なんてことなの・・・。チェギョンさんの居場所を突き止めて請求に来るなんて・・・』
『だがシン・・・その借用書は本物なのか?』
『それが問題なんだよ父さん。チェギョンと二人で亡くなった育ての母の荷物を調べてみたが
チェギョンが見たという借用書などどこにもないんだ。それにその金額を返済したという記録もない。
その借用書のサインが亡くなった育ての母の筆跡だったという事だけでチェギョンは信じたようだ。』
『つまり・・・その借用書を書いた本人がもうこの世に居ない今・・・その借用書が本物であるという
保証はどこにもないんだな?』
『そうなのか?父さん!!』
『シン・・・お前はその借用書を見たのか?』
『いや・・・チェギョンが見ただけだ。』
『チェギョンさんもきっといきなりそんな物を見せられてパニックに陥った事だろう。
なんだか胡散臭いな。その男は・・・』
『だから明日俺もチェギョンと一緒に逢おうと思っている。』
『何時に逢うんだ?その男に・・・』
『チェギョンから連絡が来る事になっている。』
『そうか。連絡が来たらすぐに私に電話しなさい。』
『えっ?それは・・・どういう意味だ?』
『もしその借用書が偽造されたものだったとして、そんなものを返済したら・・・チェギョンさんはまた同じ手口で
狙われるだろう?これは大人が出ていくべき問題だ。顧問弁護士を同行させ一緒に行こう。』
『解ったよ父さん。申し訳ない!!』
『いや・・・これは親の出る幕だからな。ははは・・・・』
強い後ろ盾を得て気持ちが軽くなったシンである
翌日・・・チェギョンはその男と夕方5時に約束をし、大学の正門の前で待ち合わせた
チェギョンの隣にはもちろんシンがいる。そして少し離れたところではヒョンとイ・コーポレーションの顧問弁護士
チャン・ジヌが待機していた
シンとチェギョンの姿を見つけ、不敵な笑みを浮かべその場にやってきた男
『お金は用意できたんですね?』
『えっとあのっ・・・もし用意できなかった場合、どこの店で働くんですか?』
『おや・・・用意できなかったんですか?ふふふ・・・繁華街にある≪パラダイス≫っていうお店なんですけどね。』
その話を遠巻きに聞いていたヒョンは、その店名に覚えがあった
経済界でもあまり評判の良くないコ社長の経営する飲食店だ
ぼったくりパブ・・・そんな異名を持っているいかがわしい店である
『いえ・・・お金は用意してきました。一応聞いてみただけです。借用書を見せていただけますか?』
シンと共にその借用書を再び見つめるチェギョン・・・やはり母の筆跡なのは間違いない
だが・・・その時シンは気が付いてしまった
『これって・・・コピーですよね?なぜ原本じゃないんですか?』
『あ・・・原本はうちの金融会社の金庫に保管してあります。ところであなたは?』
『彼女の保護者です。普通・・・こう言う時には原本を持ってくる筈では?』
その時・・・シンとチェギョンの元に父ヒョンと顧問弁護士のチャン・ジヌが歩み寄った
チャン・ジヌはその借用書を一瞥し、その男に鋭い視線を向けた
『原本を持って来られない事情でもあるんですか?たとえば・・・サインの部分だけ切り貼りしているとか・・・』
『あなたは誰です?言いがかりはよしてください!!』
『こんな書類はいくらだって偽造が出来るでしょう?この借用書は本物ですか?
もしなんでしたら警察官と共にお宅の事務所に伺いますが?』
『ちょ・・・ちょっと待ってくださいよ。私は何も悪いことなど・・・』
『だったら事務所に伺いましょう。今警察を呼びますから。』
『まっ・・・待ってください!!頼まれたんです。』
『頼まれた?・・・なにを・・・』
『借用書を偽造してシン・チェギョンさんを脅せと・・・』
『誰に?』
『勘弁してください。それは・・・言えません。』
顧問弁護士チャン・ジヌの追及に顔を歪める男・・・ヒョンは畳みかける様に追求した
『≪パラダイス≫って言ったら確かコ社長の系列だね?
なんならここにコ社長に来て貰うが?』
『えっ?ちょっと待ってください。そんなことされたら私は解雇されてしまう・・・
解りました。言いますよ。言えばいいんでしょう!!お嬢さんです。』
『お嬢さんとは?』
『コ社長の一人娘です。』
そこまで聞いてシンは何かが頭の中を過っていくのを感じた
『コ・ユナ・・・か?』
『ええ。そうですよ!!』
何れにしてもこんな輩がうようよしていたのでは、チェギョンがまた危険な目に遭わされると
ヒョンと顧問弁護士はその場に警察官を呼び、その男を連行させた
もちろんコ・ユナも事情を聞かれるところとなり、その後コ家はシン家とイ家に頭が上がらなくなったようだ
『チェギョンさん・・・もう二度とこんな話に騙されちゃあいけないよ。』
『おじ様・・・本当に申し訳ありませんでした。自分で解決しようと思ったのが間違いでした。』
『世の中には人の立場や財産を利用しようという悪い奴が沢山いる。もうこんなことは起きてははいけない。
解ったねチェギョンさん。』
『はい。ありがとうございましたおじ様・チャン弁護士・・・』
『アルバイトしたお金は有効に使いなさい。』
『あ・・・そうでした。いきなり小金持ちになってしまった気分です。』
『だったら・・・もうすぐご両親の結婚記念日だ。何か贈ってあげたらどうだろう。』
『わ!それはいい考えです。なにからなにまでありがとうございます♪』
ヒョンとチャン弁護士を笑顔で見送ったチェギョン。その笑顔に一点の曇りもなかった
何よりも亡くなった母が借金を残して死ぬような人ではなかった事が、チェギョンには嬉しくて仕方がなかった
その日の帰り道、シンの運転する車で送られながらシンはチェギョンに問いかけた
『だが・・・実の親でもないのになぜチェギョンがその借金を返済しようと思ったんだ?』
『だってヒョリンは今、自分の力で一生懸命頑張っているんだもの。これは私が解決しなくちゃって思ったの。
最後の後始末だと思えば容易いことだったから。でも亡くなったお母さんがそんなルーズな人じゃなくて
本当に良かった。よかったよ♪シン君・・・なにもかも本当にありがとう。』
『いいや。俺はお前と一緒に居られたから、バイトも楽しんだよ。くくくっ・・・』
一年前・・・誰も頼る人のいなかったチェギョンが、今ではこんなに頼りがいのある恋人もできた
その上少し過保護すぎるが愛情を十分すぎるほど注いでくれる両親も出来た
チェギョンは一カ月半一生懸命働いたお金で、両親の結婚記念日に済州島への旅行チケットを贈った
大学入学してから半年ほども経った時・・・シンはヒョリンのフェイスブックを見つけチェギョンに教えた
『チェギョン・・・見てみな。ヒョリンが・・・こんな事を書いている。』
『えっ?どこどこ?え・・・ええぇぇぇぇぇーーーーっ・・・』
そのフェイスブックには日々の食事の内容などが写真付きで紹介されていた
≪初めて作ったの。フライドチキン・・・色はちょっと濃い目だけど、インは美味しいって言ってくれた。≫
遡っていくとヒョリンの悪戦苦闘している姿が、まざまざと映し出されている
『ヒョリン・・・頑張ってるんだ。』
『あぁ。別人かと思うよな。』
『うん。信じられない。』
もちろんシンとチェギョンは登録をし、フェイスブックを通じてヒョリンとインの様子を知ることが出来た
チェギョンはもちろん両親にもそれを知らせ、ヒョリンが頑張っている姿を見せた
両親も驚きと感心の想いで涙ぐみ・・・それからはチェギョンと一緒にヒョリンの日常をチェックするのが
日課となった
大学生になって初めての冬・・・シンは一人何やら悩んでいた
(っつ・・・ギョンの奴、今年はガンヒョンと二人で旅行だって?ファンも撮影旅行に行くっていうし・・・
ヒスンやスニョンも同じ大学内に彼氏が出来て・・・今年のクリスマスパーティーはどうする!!)
眉間に皺を寄せ悩んでいるシンに気がついたミンは、シンの顔を覗きこむようにして問い掛けた
『シン・・・一体どうしたの?』
『あ・・・今年のクリスマスはギョンの別荘に行けないんだ。チェギョンがあそこの露天風呂・・・
すごく気に入っていたのに・・・』
『あら・・・だったらうちの別荘に行ったらいいじゃない~~♪』
『それが・・・他のメンバーも皆都合が悪いらしくって・・・』
『二人で行ったらいいじゃない。一番大きな別荘にチェギョンさんを案内したら?』
『えっ?だが・・・おじさんが許さないだろう・・・』
『そうね~~二人だって言ったら許さないかもね。言わなきゃ・・・出して貰えるわよね。』
『母さん!!まさか・・・二人きりだという事を内緒にしろと言うのか?』
『あら・・・説得できるの?』
『それは・・・難しいかもな・・・』
『じゃあ~~内緒で行っちゃえばいいのよ。おほほほ~~♪若い時は一度きりなのよ~~♪』
『う~~む・・・』
クリスマスにはチェギョンと一緒に過ごしたい。だが・・・二人きりと言うのは少々ハードルが高い
悩んでいるシンを横目で見ながら、ミンはイ家の一番大きな別荘のお風呂の改築工事に着手するのだった
さすがミン様・・・やる事スケールでかいですな。
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
さて~その年のクリスマスは
一体どうなるのかな~♪