別荘の中に入り一旦荷物を部屋に下ろしたナムギルとスンレは、隣の別荘に今年もまたイ家がやってきた事に
気がついた様だ
『ああ・・・イ家は今年もここだったか。今年くらいは気を遣ってくれてもいいだろうに・・・』
『あなた・・・一体イ家が我が家に、何を気を遣う必要があるっていうんです?』
『ヒョリンの事だよ。ヒョリンは・・・気位は高いがシン君との結婚を心から望んでいた。
それはスンレ・・・お前にも解るだろう?』
『ええ。よく解っていますよ。でも結婚なんて一方の気持ちだけが盛り上がったところで、
上手くいくものじゃありません。
それにチェギョンの気持ちを考えたら、そんな事は言えない筈です!!
チェギョンとシン君はもうとっくに気持ちが通じ合っているのに、あなたの言いつけを守って
じっと我慢しているんですよ!
ヒョリンにはもうイン君がいるんですよ。お忘れですか?』
『ああそうだ。それも解っている。だがな・・・スンレ、私は苦労知らずで育ってきたヒョリンが
これから先どんな苦労を背負うのかを考えると切なくなるんだ。』
『でしたらあなた!チェギョンはどうなんですか?チェギョンのしてきた苦労は、やり直しがきかないんですよ!』
『確かに・・・そうだな・・・』
18年育ててきた娘と育てられなかった娘・・・その二人に囲まれてナムギルもスンレも、
様々な想いに胸を痛めていた
チェギョンがその広すぎる別荘の一室で暇を持て余していた時、ドアがノックされた
チェギョンは寝そべっていたベッドからはね起き、ドアに駆け寄った
そしてそのドアを開けた時そこに立っていたのはヒョリンだった
『チェギョン・・・お風呂に行きましょう。』
『えっ?お風呂?』
『そうよ。チャン家の温泉が凄く気に入ったんでしょう?ここの温泉も泉質が凄くいいのよ。』
『行く行く~~ちょっと待ってて♪』
チェギョンは着替えを両手で抱えるとヒョリンの後に続いた
階下に降りるとヒョリンは両親に声を掛けた
『パパママ~チェギョンとお風呂に入って来るわ。』
『ゆっくりしてきなさい。』
『は~い。』
『行ってきま~~す♪』
ヒョリンに促がされ向かった先は、チャン家の様に露天風呂ではなかったが
大きな窓から外の風景や空の様子が望めるタイル張りの温泉だった
二人は身体を洗いそして湯船に浸かった
その時・・・ヒョリンはチェギョンの身体を見て驚き声を上げた
『ちょっとチェギョン・・・あなたその傷は一体何?脚も手も傷だらけじゃないの!
ひょっとして・・・育ての母があなたを虐待していた・・・とか・・・?』
ヒョリンの余りにも驚いた様子に、チェギョンは慌てて首を横に振った
『ちっ・・・違うって!!お母さんっていう人はそんなことをする人じゃなかったよ。
ただ私に興味がなかっただけ・・・』
『そう・・・だったらその傷はどうしたの?』
『あ~これ?これはアルバイトしている最中にできた物ばかり。自転車で転んだり厨房で火傷したり・・・
私そそっかしいからね。くすくす・・・』
『そう。ねえ?お母さんってどんな料理が得意だったの?』
『えっ?・・・えっと・・・・知らない・・・』
『えっ?知らない?』
『お母さんは食事の支度をする人じゃなかったから・・・』
『そう・・・』
上手い嘘がつけるなら・・・出来る事ならヒョリンの為に嘘をつきたかったチェギョン
だが嘘の下手なチェギョンに、咄嗟に演技など出来る筈もない
チェギョンは少し困ってしまい口を噤んで外の景色を眺めている振りをした
『私・・・逢った事があるわ。』
『えっ?誰に?』
『お母さんっていう人よ。』
『ほ・・・ホント?』
『ええ。バレエのコンクールで優勝した時、話しかけられたわ。』
『そう。そっか~~良かった。ヒョリン・・・お母さんと会話していたんだね。よかった~~!!』
本心である
生前ヒョリンとヒョリンの生みの母が逢っていたのなら、それはヒョリンにとって大切な記憶の一こまとなる
『あのアパートの荷物って処分した?』
『ううん、していないよ。家のトランクルームを一つ借りてそこに全部の荷物をしまってある。』
『そう。』
『ヒョリン・・・いつかお母さんの荷物、見てやってくれる?』
『ええそうね。いつかね・・・』
そう答えながらヒョリンは自分の顔を湯で拭った
(お母さん・・・私の代わりにチェギョンを連れて行ったのなら、どうして私だと思ってチェギョンを
可愛がってあげなかったの?
あなたはいつも私の前に来る時は、綺麗な身格好をしていたわよね?
でもチェギョンはどう?長い間食事の支度もしてくれない人を母と慕い、家計を助けるためにバイトして・・・
それでも粗末な物しか身につけていなかったわ。
どうして私に罪悪感を持たせるような事をしたの?
私はこの先・・・あなたの犯した罪をどう償ったらいいのかしら・・・
インのお母様の仰る通りシン家の両親にこれ以上負担を掛けない様に、やっていくことしか
私の誠意を示す方法は無いわ・・・)
チェギョンの傷跡だらけの身体を見て、ヒョリンは今まで自分が恵まれ過ぎて生きてきた事を思い知った
そしてその環境をもたらしたのは、間違いなく母の罪深い行為の結果だった
『ヒョリン・・・すごく気持ち良かったね~♪
ここに通ったらお肌がスベスベになりそうだ~♪』
『ここの泉質は最高だから当然よ。さぁ・・・食事の支度を手伝いましょう。』
『えっ?・・・ヒョリン、今何か言った?』
『出来た料理を運ぶことくらい・・・私にだってできるわ。』
『あ・・・そうだね。うん。そうしよう~♪』
キッチンに入っていったチェギョンとヒョリン
だがそこには既に隣家のミンが腕を振るっていた
スンレにミン・・・そしてメイド達もいるのである。キッチンの人口密度が高すぎる
仕切る二人の母に圧倒されチェギョンもヒョリンもとても手が出せる雰囲気ではなく、その場で立ち尽くした
『あら~チェギョンさんにヒョリン♪こんばんは~♪
ヒョリンはお帰りなさい。素敵な住まいは見つかった?』
『ええ。見つかりました。』
『二人共湯あがりなのね~♪湯冷めしちゃあ困るわ。リビングで待っていてね~~♪
スンレさん・・・もっと大きなお皿ないかしら?』
『はいはい。今持って来るわ。』
これは自分達の出る幕はないと二人はすごすごとリビングに入っていった
リビングのソファーではナムギルが一人座って茶を飲んでいた
『パパ~~退屈そうね。』
『ああヒョリンにチェギョン、二人共座りなさい。どうやらイ家の皆さんもここに来るらしい。』
『毎年のことでしょう?パパ・・・なぜそんな不機嫌な顔を?』
『いや・・・別に不機嫌なんかじゃないさ。』
そのうちにはイ家の男性陣もシン家を訪れ、七人は楽しい夕食の時間となった
向かい合って座る両家・・・シンはやはりチェギョンと向かい合って座り食事を楽しんだ
その夜・・・チェギョンの携帯が鳴り響きシンからの着信を知らせた
チェギョンは携帯を手に持ったまま窓辺に向かいカーテンを開けた
『シン君~~♪』
『温泉入ったんだって?』
『うん。チャン家の別荘に勝るとも劣らない温泉だったよ~♪』
『そうか。よかったな。』
『今回はまだお付き合いしていないから無理だけど、いつかシン君ちの別荘にも行ってみたいな。』
『あぁ。連れて行くよ。一番大きい別荘にな。』
『ホント?』
『本当だ。約束する。』
その時までに一番大きな別荘に温泉を作りたいと思うのだが、恐らく学生の内ではそんな経済力は無いだろうと
少し残念な気持ちになるシンである
穏やかにそして賑やかに・・・イ家とシン家の年末年始は過ぎていった
もう一話・・・年末年始を書くつもりだったんだけど
クリスマスのお話までに
盛り上げないと困るのよ~(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
なので・・・次回は卒業・そしてヒョリンの旅立ちです。
クリスマスのお話までに
盛り上げないと困るのよ~(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
なので・・・次回は卒業・そしてヒョリンの旅立ちです。