まだ肌寒さの残る春の日・・・チェギョンとヒョリンは卒業式を迎えた
チェギョンにとっては両親が揃って門出を祝ってくれるこの上なく幸せな日であった
そしてヒョリンにとってその日は・・・旅立ちの日でもあった
見送りに行くという友人達を断りシン家の車で自宅に戻ったヒョリンは、
心の中に一陣の風が吹き抜けていくのを感じていた
チェギョンも夕刻から行われる卒業記念パーティーの準備の為、ヒョリンと共に自宅に戻った
ヒョリンはすっかり旅支度を整え、準備万端にしてカン家の迎えを待っている
『ヒョリン・・・本当に見送りに行っちゃあダメなの?』
『そうよヒョリン。せめて見送りくらい・・・』
『私達も空港まで行こう。』
『パパママ・・・それにチェギョン。インのお母様が迎えに来てくださるの。見送りはいらないわ。
チェギョン・・・パパとママの事頼んだわよ。』
『うん。しっかり勉強して来てね。』
メイドがカン家の車が敷地内に入ってきた事を知らせた
ナムギル・スンレ・・・そしてチェギョンは其々にヒョリンの手荷物を運ぶのを手伝い、
カン家の車のトランクにそれらを載せた
『イン・・・あなたカメラ持って来たんでしょう?』
『ああヒョリン・・・』
『一枚写真を撮って貰えるかしら?』
『いいよヒョリン。皆さん並んでください。』
ヒョリンとチェギョンを真ん中に四人は並び、インのカメラの中にシン家の家族写真が収まった
『じゃあ・・・行って来ます。』
『身体に・・・気を付けるんだよヒョリン。』
『余りダイエットなんてしないのよ。解ったわねヒョリン・・・』
『元気で・・・ね。ヒョリン・・・』
『永遠の別れじゃあるまいし湿っぽいわね。じゃあ行って来ます♪』
涙ぐむ三人にヒョリンは笑顔でそう答えると、颯爽と車に乗り込んだ
ヒョリンに向かって手を振る三人・・・振り返ろうともしないヒョリン・・・
だが、車が動き出しシン家の家族と屋敷が見えなくなる寸前・・・ヒョリンはそっと後ろを振り向いた
その瞳はみるみる涙に潤んでいった
(18年育った家が霞んでいく・・・
まるで蜃気楼みたいに揺れている。
ここはもう・・・私の家ではない。これからは地に足を付けて歩いて行かなければ・・・。
パパママ・・・ありがとう。チェギョン・・・本当にごめんなさい。)
決してヒョリンが悪いわけではない。ヒョリンにはなんの罪もない
だが・・・実母のしでかした過ちのせいで、シン家の家族は人生を大きく狂わされたのだ
その責任の一端を担い、この家を離れることを決めたヒョリンである
『ヒョリン・・・大丈夫か?』
隣の席で心配そうに問いかけるインに、ヒョリンはぎゅっと目を一度閉じると涙を閉じ込めた
そしてインに顔を向け笑顔で答えた
『もちろんよイン・・・』
ヒョリンの出発を見送ったシン家の三人は、なんとも言いようのない気持ちのまま無言で家の中に入っていった
チェギョンは・・・まるで自分がヒョリンを追い出したかのような罪悪感に襲われ、やりきれない思いで
今まで一度も入った事のないヒョリンの部屋に入ってみる
(ここが・・・ヒョリンの部屋。これがお嬢様の生活なのか・・・あれっ?)
机の上に手紙の様な物が置かれていることに気がついたチェギョン・・・封筒の宛名には≪パパママへ≫と
記されている
その封筒の上にヒョリン名義のクレジットカードが置いてあるのに気がつき、チェギョンは慌ててそれらを
手に持つと両親の元へ向かった
『お父さん・・・お母さん・・・ヒョリンの部屋にこんな物が・・・』
『えっ?』
『クレジットカード・・・なぜ・・・』
ナムギルは慌ててその封筒を開けて手紙を読んでみる
≪パパそしてママへ・・・
今まで私、我儘放題でパパの財産を食い潰す勢いでこのカードを使って来たけれど
バレエの先生にも言われたの。『あなたにはハングリー精神がない』って・・・。
だからこれからはこのカードは私には必要ないわ。
ただでさえ生活費はパパとママが送金してくれるんだもの・・・
自分のお小遣いくらい自分で用立てることにするわ。
もう留学先でアルバイトも決めて来たのよ。インのお母様との約束でもあるの。
必要以上に親に頼らない・・・これが二人一緒に留学することを許してくれた、インのお母様の出した条件なの。
インも私と同じ様にアルバイト生活を始めるわ。チェギョンがずっとして来たことだもの、
私にできない筈がないでしょ?
だから・・・このカードはお返しします。
それと・・・生活費は提示してくれた金額の四分の一で大丈夫。
インのお母様の選んだアパート・・・狭いのよ。家賃も安いの。ふふふ・・・
パパママ・・・今まで散々我儘言いました。本当にありがとう。
成長して帰ってきます。楽しみにしていてね。 ヒョリン≫
『あの子・・・アルバイトなんかした事もないのに・・・』
『ヒョリンが勤労しながら学生をするなんて・・・』
堪えていた涙が思わず頬を伝った
『お父さんお母さん・・・私がヒョリンを追い出しちゃったのかもしれません・・・』
チェギョンまでもが瞳から涙を溢れさせた
『違う!!チェギョンそれは違う。ヒョリンはきっとお前の事を理解して・・・お前のしてきた苦労を垣間見て
自分の進む道を選んだんだ。ヒョリン自身が言う様に、きっと成長して戻ってくる。
チェギョンのせいなんかじゃ決してないんだよ。』
『本当ですか?本当に・・・私のせいじゃない?』
『そうよチェギョン。あなたの普段の振る舞いを見ていて、ヒョリンも変わらなきゃと思ったんだわ。
だからこれは・・・ヒョリンの成長の証なの。あなたが自分の事を責める必要はどこにもないわ。
あなたが自分を責めたら・・・私達も辛いわ。』
『はい・・・』
そう言いながらもやはりヒョリンが居なくなった寂しさは消せない
いつか本物の姉妹のようになんでも話し合える二人になりたい・・・チェギョンは両親と涙にくれながら
ヒョリンが帰国する四年後に希望を描いた
日が傾きかけた頃・・・メイドのチョンは客が来た事を知らせた
『チェギョンお嬢様・・・イ・シン様がお見えになっておりますが・・・』
『あ!!忘れてた・・・』
大切なことを忘れていたチェギョン・・・今日は夕刻から卒業記念パーティーが開かれるのだ
玄関先に現れたシン・・・チェギョンは慌ててシンに哀願をする
『しっ・・・シン君、ヒョリンの出発で、すっかり卒業記念パーティーの事忘れてたの。
今すぐ着替えるからちょっと待ってて・・・って・・・シン君スーツ?
私もドレスにした方がいい?≪アレ≫しか・・・持ってないけど・・・』
アレとはチェギョンが社交会デビューの時に着た薄ピンクのドレスのことだった
『馬鹿・・・今日高校を卒業したばかりなんだ。アレはちょっとまずいだろう?
ワンピースに薄手のコートを羽織ったらいい。』
『解った~~すぐに支度するから待っていて。』
『ああ。』
シンの声に気がついたナムギルは、玄関先に顔を出した
『シン君・・・』
『おじさん、お約束通り本日からチェギョンと正式にお付き合いさせていただきます。
帰りは安全運転で送り届けますのでご安心ください。』
『あぁ。』
正直を言うとヒョリンの留学ですっかり寂しくなってしまったナムギルである
何もこんな日に迎えに来なくてもいいのにと思いながらも、男が一度口にした約束を反故にすることはできず
最後の悪足掻きのように言ってみる
『だがシン君・・・まだ二人共学生だ。学生らしいお付き合いを約束してくれるかい?』
『ええもちろんです。』
なにが学生らしいのか・・・その辺りの定義はどこにもない
そしてシンもナムギルが意図するところの≪学生らしい≫に少々自信がない
それでもここは敢えて爽やかに快諾してしまうシンであった
二階からパタパタと階段を駆け下りてくる音がする
『シン君お待たせ♪これで・・・どう?』
『あぁ、とっても綺麗だ。じゃあ行こうか?』
『うん♪じゃあお父さんお母さん、行って来ます♪』
『行ってらっしゃいチェギョン。楽しんで来るのよ。』
『早く帰るんだよチェギョン・・・』
やはりナムギルの悪足掻きは当分続きそうであった
ヤバいわ。クリスマスまでに
あまり日がないじゃん・・・
次回から大学生編に話をぶっ飛ばします。
だって~~クリスマスの話は四年後なんだもん。
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
あ~~なんだか大荒れのお天気ですね。
気温が低かったり高かったりいきなり大雨だったり
風が強かったり大変です。
皆様体調に気を付けてくださいね★