母スンレは癇癪を起こし自分の部屋に閉じこもってしまったヒョリンの元へ向かった
『ヒョリン!ここを開けなさい!!』
ドアをノックし何度も声を掛け、それでも開かないドアを前にスンレは溜息交じりに踵を返した時
<ガチャリ>とそのドアが開いた
『ヒョリン・・・』
『ママはもう私の事なんかどうでもいいんでしょ?』
『そうじゃないわ・・・』
『だって私が帰国してからショッピングになんか連れて行ってくれないじゃない!なぜチェギョンが先なの?』
『ヒョリン・・・それは何度も言っているでしょう?チェギョンはあなたのお母さんから、
愛されずに育った子なのよ。洋服だって自分でアルバイトをして買っていたのよ。』
『だけど私は18年間ママの娘だった。その私を無視するの?』
『はぁ・・・』
スンレは落胆した。自分の育てた子のヒョリンは、人に対する思いやりなど微塵も兼ね備えていないと・・・
『解ったわ。今からお買い物に行きましょう?』
『ご機嫌を取る気?』
ヒョリンのその言葉に一瞬カッとなるスンレ・・・頭に全身の血が上りつめた感覚に陥る
『ご機嫌?あなたのご機嫌を取る義理は・・・私にはないわ。行かないのならそれでもいいわ。』
『あ・・・ママ、行くわ。ショッピングに行きましょう。』
母スンレのこんな怒りの形相を見たことがなかったヒョリンは、一瞬にして怯んでしまった
このままでは母に捨てられる・・・瞬時に頭の中で計算を働かせたヒョリンだった
『じゃあ・・・車で待っているわ。』
スンレはそのまま玄関を出て行き、ヒョリンも慌てて出掛ける支度を整えスンレの後に続いた
一方、自分の部屋に戻ったチェギョンは、メイドと共に真新しい洋服を紙袋から出し洋服ダンスに掛けていた
そしてメイドのチョンに向かって恥ずかしそうに話しかけた
『沢山の洋服を買って貰っちゃいました♪』
『すごい数ですね。ですが奥様のお気持ちではないかと思いますよ。』
『下着まで買って貰っちゃったんです。見てくださいよ!!朝とワンサイズ違うでしょう?』
チェギョンはチョンに向かって胸を張ってみせた
『はい。とってもお綺麗なラインですよ。』
『えへへ~~♪恥ずかしいですね。くすくす・・・』
『今着ていらっしゃるお洋服もとても良くお似合いで・・・』
『本当ですか?なんだか身分不相応な気がするんです。』
『とんでもない!!チェギョンお嬢様は大変愛らしくていらっしゃるから、何を着ても素敵に着こなしますよ。』
『そんなこと・・・今まで言われたことなかったです・・・』
思わぬところで言われた褒め言葉に、チェギョンは過去を思い出したかのように俯き・・・
そしてそんな自分を戒めるよう口角を上げ顔を上げた
『あ・・・そうだ!!お母さん大丈夫でしょうか。ヒョリンが相当怒っていたようですけど・・・』
『それなら大丈夫でございますよ。奥様はヒョリンお嬢様の癇癪にも慣れておられますから。』
『いつも・・・あんな調子なのですか?』
『はい。気に入らないことがございますと、あの様な状態に・・・。
あ・・・今、車が出て行きました。恐らく奥様がヒョリンお嬢様をお買い物に連れて行かれたのでしょう。』
『なんだかお母さんに申し訳ない気分です。』
『気になさることはございません。あ!!そうですチェギョンお嬢様、
旦那様からプレゼントが届いておりますよ。』
『えっ?もしかして・・・自転車?』
『さようでございます。』
『わぁ・・・早く見に行かなくちゃ♪』
メイドのチョンと一緒に買って来た衣類をタンスにしまったチェギョンは、父から初めて貰ったプレゼントを見に
庭に出て行った
そこにはパールピンクのギア付き自転車が置かれていた
『すごい。このマークって・・・確か・・・』
『はい。ポル●ェでございます。』
『えっ・・・自転車でポル●ェ?』
『旦那様がお選びになったのですから、恐らく最高級の品ではないかと・・・』
『きっと速いんでしょうね~~♪』
『さ・・・さぁ、それは私にもわかりかねますが・・・』
『あ・・・あのっ!ちょっとお出かけして来てもいいですか?』
『どちらにお出かけになるのですか?』
『イ家に。ミンおば様にこの自転車を見せてあげたいんです。』
『そうですか。ですが・・・イ家は自転車で行くにはちょっと距離が・・・』
『いえ~~近いです。スイスイ~~って行って来られます。』
『本当に大丈夫ですか?事故に遭ったりしないですか?』
『しませんしません~~♪お母さんはいつ頃帰って来るでしょうか。』
『恐らくお食事の時間・・・くらいになってしまわれるかと思いますが・・・』
『でしたらその前に帰ります。あ・・・お夕飯の支度がお手伝いできないので、代わりに洗い物は私がします!』
『とんでもない!!そんなことは気になさらず、どうぞ楽しんでいってらっしゃいませ。』
『はい!!では行って参りま~~す♪』
広い敷地の舗装された道路を走りだしたチェギョン
残暑の熱い風さえも爽快に感じる
その道の状態によってギアを切り替え、チェギョンを乗せた自転車は颯爽と街を駆け抜ける
『サ~イクリングサ~イクリング~ヤッホ~ヤッホ~♪』
つい・・・ご機嫌になって歌いたくなってしまうチェギョンなのである
『すごいや。この自転車・・・坂道でも楽ちん。こんな自転車がこの世にあるなんて思わなかった・・・』
思えば自転車なんて幼いころ近所の子供のお古をいただいた時に乗ったきり
だが、、幼いころに身体に染みついた感覚というのは、大きくなっても忘れないものの様だ
『こんな素敵な自転車・・・ミンおば様とシン君にも見せてあげなくっちゃね~~♪』
軽快にペダルを漕ぎながら、ご機嫌な様子である
ふと・・・ついこの間までの切羽詰まった暮らしを思い出し、チェギョンは今が夢の様だと思う
『あ・・・そうだ。いつまでもアパートをそのままにしておけない。引き払わなきゃ・・・』
ヒョリンは手伝ってくれるだろうか・・・ふとそんな想いが頭を過るが、チェギョンは溜息を吐いて首を横に振った
(きっとヒョリンは二度と・・・あのアパートに行くことはないだろうな。)
遺された母の荷物を自分が処分してもいいものかどうか悩んでいるうちに、自転車はイ家の門の前に到着した
『う~~ん、さっきお逢いしたばかりなのになんて言おう。』
インターフォンの前でしばし緊張を募らせるチェギョン
『え~~い!押しちゃえ!!』
<ピンポ~~ン♪>
すぐにインターフォンの中から声がする
『はい。どちら様ですか?』
『あ・・・あのっシン・・・シン・・・シン・チェギョンですぅ。』
『あ・・・チェギョン様でいらっしゃいますね。シン家のメイド仲間から電話を受けております。
どうぞお入りください。』
『はい。失礼いたします。』
チェギョンの自転車の為にすぐに門扉は開かれ、チェギョンが敷地内に入ったのを確認すると
音を立てて閉まって行く
『すごいなぁ。さてと・・・お家に向かおうっと♪』
イ家の私道はシン家よりも長い。再び颯爽と自転車に跨ったチェギョンは、イ家の屋敷を目指して
ペダルを漕いだ
暫くするとイ家の屋敷が見えてくる。玄関には既にミンとシンがチェギョンを待っていた
『おば様~シン君♪』
全速力で二人の前に辿りつき、自転車を降りたチェギョン
『先程お逢いしたばかりなのにすみません。自転車を買って貰ったんです。どうしてもお見せしたくて~♪』
『まぁ~なんて綺麗な色なの?今時は素敵な自転車が売っているのね。』
『母さん・・・素敵なだけじゃない。これ・・・ポル●ェだ。』
『えっ?ポル●ェって車のメーカーでしょう?この自転車・・・エンジン積んでるの?』
『母さん・・・この自転車のどこにエンジンが搭載されているんだよ!!
ただポル●ェが作った自転車と言うだけだ。』
『まぁそうなの。でもとっても速そうね。』
『はい~~すごく速いんです。自慢したくって・・・くすくす・・・』
『良かったわねチェギョンさん。それで・・・スンレさんはあれからどうしたの?』
『あ・・・お母さんはヒョリンとお買い物に行きました。』
『ヒョリンと・・・お買い物?そう・・・』
一瞬曇ったチェギョンの表情で、ミンはスンレがヒョリンに我儘を言われている姿を想像した
実の娘に必要最低限の物を購入しただけなのに、義理の娘の機嫌も伺わなければならないスンレが
ミンは不憫でならなかった
『さぁチェギョンさん、中に入ってお茶でも飲みましょう♪』
『はいっ!!』
チェギョンはミンに促がされ、イ家に入っていく
今後シン家の娘としてふさわしい女性になるために、チェギョンはこの愛車に乗って足繁くイ家を訪れることに
なるのだった
次回は話をぶっ飛ばして新学期❤
いやいや季節がずれていてすまぬ。
なんとか頭の中で変換してくださいね~~♪
いやいや季節がずれていてすまぬ。
なんとか頭の中で変換してくださいね~~♪