翌朝、シン・ナムギルがチェギョンとの親子鑑定を友人に依頼している頃、シンはチェギョンに
初めて電話を掛けた
もとより友人関係にあったので、電話番号の交換はしていたが・・・今まで互いに電話する事もなかった
初めての電話に少し緊張するシンである
チェギョンはすぐにその電話を取った
『もしもし?シン君?』
『あぁ。俺だ。』
『どっどうしたの?何か用事でも?』
『あぁ逢って話したい事があるんだ。今から逢えないか?』
『えっ・・・?』
いきなり逢おうという電話。その口ぶりはどこか母親のミンと似ていると思った
(ミンおば様もシン君も今すぐ・・・とか今からとか・・・なんか似てる。くすくす・・・)
『えっとあの・・ごめんね。これからバイトなんだ。そうだなぁ・・・午後二時半には身体が空くけど?』
『あぁっ?バイト?だったら仕方ないな。二時半にどこに行ったらいい?』
『★※公園はどうかな?私またバイトに戻らなきゃならないから・・・』
『あぁ解った。じゃあ二時半に★※公園な。』
『うん。じゃあまたあとでね~♪』
もちろんチェギョンは、シンがチェギョンの出生の秘密を知った事など知らない
一体何の用事だろうかと首を傾げながら、アルバイトに向かうチェギョンだった
約束の時間・・・シンは★※公園に出向いた
チェギョンが来たらなんと言って励まそうか、必死に考えていた
昨日から考えていたというのに、この期に及んで上手な言葉が見つからないでいた
『シン君♪』
チェギョンの声が聞こえたと同時に、小走りに走り寄ってくる足音がする
シンはチェギョン声がする方向に目を向けた
『チェギョン!』
チェギョンはどこにでもいる飾り気のない服装の上に、お店のエプロンを付けていた
『▼■食堂?』
『わっ!ごめん・・・バイトの途中だったからエプロンつけたまま来ちゃった。』
『バイトって・・・』
チェギョンは恥ずかしそうにエプロンを外し、それを手に掛けた
『あ・・・ほら、あそこに見えるでしょう?あの食堂だよ。サラリーマンが通う店。くすくす・・・』
『昼食は食べたのか?』
『うん。バイトしているから昼夜と賄いが食べられるの。助かっちゃう♪』
『何時までバイトなんだ?』
『10時までだよ。』
『10時?まさか・・・夜の10時か?』
『うん。そう。家に帰っても一人だし・・・お店に居た方が寂しくないよ。だから私には一石二鳥。』
『もうバイトなんかする必要ないだろう?』
『えっ?』
『お前が・・・シン家の本当の娘だって聞いたんだ。』
『あ・・・シン君、おば様から聞いちゃったの?』
『あぁ。最近母さんの様子がおかしくて昨日は遅い時間まで帰って来ないから、父さんと二人で問い詰めた。』
『そっか・・・』
『おじさんが納得したらきっとシン家に引っ越すよう言われる。だからもう生活の心配なんかしなくていい。』
『えっ?まさかぁ・・・シン家にはヒョリンが居るんだよ。
今更、私がどんな顔してあの大きなお屋敷に引っ越せるの?』
『堂々としてだ。何も心配なんかすることない。』
『でも・・・シン家のご主人が納得されないかもしれないし・・・。それにね、私・・・
波風の原因になりたくないんだ。』
『だがきっと真実が明らかになったら、おじさんはお前を放っておかないと思う。』
『そうかなぁ。血の繋がりより18年も傍に居たヒョリンの方が絆は深いと思うよ。』
『お前もそうなのか?亡くなったお母さんとそんな絆があったか?』
『私は・・・空気みたいな存在だったから・・・
お母さんにとって私は居ないも同然だった。』
『不公平だろう?なぜお前だけがそんな想いをしなきゃならない?』
『なぜかは・・・私が聞きたいよ。でも・・・こういう星の下に生まれたってことなのかな・・・。
とにかくバイトは辞めないよ。今までだってずっとして来たんだし、就職するまではお世話になるつもり。』
『就職?進学しない気か?』
『うん。だって降って湧いた様な話に踊らされていい職場を逃したら大変だもん。
自慢じゃないけど成績だっていいんだから~♪望みの会社に入れるよ。』
シン家の主人ナムギルが動かない限り、チェギョンを説得するのは無理だと感じたシンは
一生懸命自分をバリケードで守ろうとしているチェギョンが痛々しく思えた
これ以上傷つかない様に期待はしない・・・そんな風にシンには感じられた
『バイト辞めろよって言いたくてここに来たんだが・・・無理のようだな。』
『無理だって。くすくす・・・』
『だったら・・・今度美味しい物でも食べに行こう。』
『えっ?』
『デートに誘っているんだ。賄いなんかよりもっと美味しい物食べに行こう。』
『シン君・・・それって私がシン家の娘だって知ったから誘っているの?それとも母を亡くして可哀想だから?』
『お母さんを亡くして傷心中だからだ。いいな!約束だ。』
『うん。ありがとう。あ・・・そろそろバイトに戻らなくちゃ・・・』
『あぁ。じゃあまたな。帰り道気を付けろよ。』
『うん♪』
チェギョンを誘った本当の理由は、チェギョンが出した二択のどちらでもない
自分の素性を知りながらも今まで生きて来た道を歩んでいこうというチェギョンが不憫だったのもあるが
友人と遊びに行くことも一切なかったチェギョンに、楽しい時間を過ごさせたい・・・そんな理由だった
(シン家のおじさん・・・早くチェギョンを認めてやってくれ!!)
シンはアルバイト先に戻っていくチェギョンの後姿に叫びたい衝動に駆られた
その日シンが帰宅して、母ミンとの会話の中でチェギョンの様子を事細かに追及されたシンは
チェギョンが言っていた言葉・アルバイトしている場所・・・すべて残らず報告させられた
その翌日ミンの元に珍しくシン・ナムギルから電話が入る
ナムギルはチェギョンの住まいの場所を聞きたいと言い出し、ミンはその問いに答えアパートの場所を教えた後
『あ・・・でもぉ・・・チェギョンさん★※公園近くの▼■食堂って言うところでアルバイト中なので~
この時間帯はアパートにはいないと思いますわ♪』
そう付け加えた
スンレからの報告でナムギルが親子鑑定に踏み切ったことを聞いていたミンは、今この時間に
チェギョンの居る場所をさりげなく教えたことで、電話を切った後満足そうに高笑いをする
つまり・・・鑑定結果が出る前からチェギョンが気になって仕方がないというナムギルの意思表示だったのだ
(行くかしら・・・きっと行くわよね♪
あ~~私も行ってみたいけどチェギョンさんに顔が知られているから~~行けないわ。しょぼ~~ん。)
しょぼ~~んと心の中で呟きながらも、ミンの顔には期待の笑みが浮かんでいた
『いらっしゃいませ~~♪』
元気の良い明るい声が店内に入っていった男に掛けられた
『どうぞ~空いているお席にお座りください。』
▼■食堂のランチタイムに場馴れしない男は少しおどおどしながら空いている席を見つけ、そこに腰を降ろす
するとまあるい顔をした弾けるような笑顔の女の子が水を運んで来る
『お客様、ご注文がお決まりになりましたら声を掛けてください♪』
『あ・・・君のお勧めは・・・なにかな?』
『あ~~今日はですね、この≪店主のおすすめ定食≫が最高ですよ♪
海鮮チゲ鍋にお惣菜も三つ付いてきますしご飯もお替わり自由なんです。』
『そっ・・・そうかい。じゃあこれをいただこうかな。』
『はい!かしこまりました~~♪』
ぺこりと頭を下げ去っていった店員は厨房に向かって叫んだ
≪お勧め定食ひとつお願いしま~~す!≫
男は店内を見渡しそこで働いている店員を確認する
同じ年頃の女の子が三人。後は中年の女性が数人働いている
だが・・・どうしても先程注文を取りに来た女の子に目が向いてしまう
(あのふっくらした頬も・・・真ん丸な目も若い頃のスンレに良く似ている・・・)
胸の辺りが若い頃に感じた様なときめきを覚えた
ドキドキ・・・ドキドキドキドキ・・・
そしてその胸の高鳴りは、その名前を聞いた瞬間ピークに達した
≪チェギョンちゃ~~ん!お勧め定食あがったよ~~!!≫
『は~~い!!』
トレーに載った注文品をチェギョンがナムギルの元へと運ぶ
ナムギルはわざとらしくスマホに視線を落とす
『大変お待たせいたしました~~♪』
チェギョンはナムギルの前にトレーを置き、にっこりと微笑んだ
『ご飯のお替わりはお気軽にお申し付けくださいね♪ではどうぞごゆっくり♪』
『あ・・・どうもありがとう。』
テキパキと働くチェギョンに時折視線を向けながら、ナムギルは俯くと知らぬ間に涙が頬を伝わっていることに
気がついた
(あの子はスンレの産んだ私の子だ!間違いない・・・なんて・・・なんてことだ!!)
涙は後から後から零れ落ちる
他の客に気取られない様にそっと涙を拭い、また食事が口に合わなかったかと心配されるのを恐れ
ナムギルは必死に≪おすすめ定食≫を流し込んだ
味などまったくわからない。胸がいっぱいで味の感覚などない
どこか懐かしさを覚えるチェギョンという娘を、親子鑑定が出る前から娘であると
確信してしまったナムギル
それからその男は・・・毎日のように▼■食堂に通い詰めた
そして・・・ヒョリンが帰国する前日、ナムギルが親子鑑定を依頼した友人から連絡が入り
ナムギルは友人の元へすぐに駆け付けた
ヒョリンが帰国する前日っていうのが・・・ポイントね(激爆)
昨日ご褒美コメントくださった皆様
ありがとうございました~~❤
感謝感謝❤