大学の入学直前に第一子ギョムを出産した私・・・同期の学生に一カ月遅れて登校して行った私は
新入生でありながら母・・・そして皇太子妃という身分に、学生たちからの好奇と羨望の眼差しは集中した
別に恥じる必要も動じる事もない
私は皇太子妃として親王を出産するという大仕事を成し得て大学の門をくぐったのだ
とはいっても・・・やはり事情を知っている高校の同級生だけではない。大学には広く全国から受験して
この大学に入った学生の方が断然多いのだ
うっ・・・堂々として居なくちゃ・・・
そう思いながらもちょっと遠慮のない視線に怯んでしまう
そんな私を迎えに来てくれた高校からの同級生たちの姿が、私の胸を安堵させた
『チェギョ~~ン♪』
『来た来た~~久し振り~~♪』
ガンヒョンとヒスンにスニョン・・・その後ろにユル君とユミだ
皆の歓迎の声に私は満面の笑みを浮かべ、胸の前で小さく手を振って見せた
『久し振り~♪』
『ギョム皇子は・・・どうしているの?大きくなったでしょう?』
これはかねてからギョムを見に来たいと言っていたガンヒョンのセリフ・・・
ガンヒョンはユミが携帯で写していった写真を見せて貰い狂喜乱舞したらしい
『うん。一カ月で随分成長したよ。私が宮に戻るまでは担当の乳母が見てくれているの。』
乳母に預ける・・・これは正直不安なものだ
だけどそんな私の気持ち以上に、皇帝陛下をはじめとする三陛下はギョムが皇位継承者という事もあり
何十人もの育児経験者を宮殿内に集め、その働き振りを見た上でたった三名だけを採用したという逸材だ
もちろんその生い立ちから病歴・・・現在の生活状況に至るまで調べ上げ・・・間違いのない人を選んだ
私自身も出産前からその方達と東宮で共に過ごし、すっかり信用できる先輩として色々教えを受けている
あ・・・ギョムの事なんか話題に出たから、お乳が張って来ちゃったじゃない・・・
東宮に戻ったらまた、乳母達と乳搾りだな。くすくす・・・
ユル君とユミはすごく自然な様子で、着実に愛を育んでいるのがわかる
いや・・・ユミに言わせるときっとまだ≪お友達≫なんだろうけどね・・・くすくす
皆と一カ月の遅れを取っている私は、特別講義を受けるためシン君と一緒に帰る事は出来なくなった
登校する時は一緒でも帰りはいつも別々だ
だけどシン君はそんな時・・・東宮に戻るなり、執務の前にギョムのお相手をしてくれているらしい
思った以上に子煩悩な夫だ
私も産後一カ月を過ぎた頃から学業に復帰し、特別講義の他シン君に同行しての公務などもあり
なかなか身体を休める暇がなかった
そんな私への皇后様の配慮で、夜は交代で乳母がギョムに付いていてくれることとなり・・・
私は普通の産後の主婦と異なり、睡眠時間はしっかり確保されるようになった
もちろんそれは・・・夫の協力があれば・・・の話なんだけど、その夫がなかなか気を遣わない
いや・・・私を気遣ってはいるのだろうけど、その言葉通りにはいかない
シン君はあまりにも夫として若過ぎるということなのかも。あははは・・・
新入生として新米母として、慌ただしくも忙しい毎日を過ごしていたある日
それはあの銃撃があった日からちょうど一年を迎えた頃の事だった
真夜中・・・ベッドサイドに置かれたシン君の携帯が鳴り響いた
シン君は寝ぼけ眼でその携帯の発信者を確認した後、電話を取った
『どうしたんだユル・・・こんな時間に・・・
えっ?あ・・・そんなっ・・・
あぁ・・・俺もすぐに駆け付ける。じゃ後で病院で・・・』
ベッドから身を起こしクローゼットに向かったシン君
その様子に私は驚き慌ててベッドから飛び起き、シン君の後に続いた
『シン君・・・どうしたの?病院って・・・何か起こったの?』
『ソ・ファヨンが・・・息を引き取ったそうだ。』
『えっ・・・』
恵政宮様が・・・亡くなられた?その後の言葉を失った私は、急いで着替えているシン君に気が付き
漸く口を開いた
『私も・・・行く。』
『チェギョン・・・お前は休んで居ていい。』
『いや行くよ。すぐに着替えて来る。』
私はシン君の部屋を出ると自室に戻り慌てて着替えを済ませた
確かに恵政宮様の記憶は後退し続けていたと聞いている
私は出産などがあってその後逢いに行けていなかったのだが、命に別条のある状態だとは全く聞いていない
一体なぜ?どうして・・・
一言も口を利けないまま公用車は警察病院に到着した
深夜に受け取ったユルからの電話・・・それはソ・ファヨンの訃報を報せるものだった
そう言うことがあり得るというのは俺もユルも医師から聞かされていた
現にユルとユミが結婚報告に行ってから後、俺も二度ユル夫妻とソ・ファヨンを見舞ったが
最後には意味不明なことを口走り子供のように笑っているだけだった
ユルはきっと自分を責めている事だろう。自分の母を死に至らしめたのは自分のせいだと悔やんでいる事だろう
だが・・・ユルが自分の身を犠牲にしてチェギョンと子供を守ったことで、ソ・ファヨンは極刑になる事を
免れたのだ
ユルがソ・ファヨンにしてあげられる最大の親不幸で親孝行だったと言えよう
動揺のあまり病院の裏口で待っていたユル夫妻・・・俺とチェギョンはユル夫妻を伴って
ソ・ファヨンの病室を訪れた
深夜に訪れたその病室は、いつもならベッドに腰掛け微笑んでいたソ・ファヨンは静かに横たわっていた
顔には白い布を掛けられその布は微動だにしない
ユルは震える手でその布を静かに外した
『お母様・・・お母様・・・』
既に死後硬直の始まっているその頬に手を添え必死に撫でる
まるで微笑んでいるかの様なその死に顔は、いつにも増して美しく見えた
これが・・・幼い頃から俺を苦しめ続けた魔女の末路なのか・・・
余りにも幸せそうな顔に俺の胸の中はなんとも言えない感情が渦巻く
冷たくなったソ・ファヨンの遺体に縋り慟哭するユル・・・俺はその姿に思わず貰い泣きしそうな気分だった
いや・・・泣くまい。ソ・ファヨンの死に直面して悲しみの感情は湧いてこないのだから、そんな理由で涙したら
ユルに失礼だ
ひとしきり泣いたユルは、葬儀の準備を始めた
俺も一緒にその場に立ち会った
罪人である以上、皇族として弔うことはできない
密葬という形を取りソ・ファヨンの葬儀は俺とユル・そしてユミとチェギョンの四人・・・宮殿に仕える僅かな者達
そんな寂しい葬儀だった
集合墓地の一角に納められたソ・ファヨン・・・その場所にはユルの考えで写真さえ飾られなかった
広く世間に顔を知られていらソ・ファヨンの墓は、元皇太子妃の華やかさはどこにもない
だがこれでユルは・・・いつでもソ・ファヨンに逢いに来れる
誰に許可を取る必要もなく遠慮もいらない
それだけが救いに思えた
『シン・・・チェギョン・・・色々ありがとう。』
何か吹っ切れた様な顔をするユルの肩を叩き、俺は微笑んだ
『気を落とすなよユル。お前は何も間違っていない。』
そんな言葉が慰めになるかどうかは分からない。だが・・・自分のしたことを否定しそうなユルに
そう言わずにはいられなかった
『うん。解ってるよ。これが一番・・・いい方法だったんだ。』
ユミの肩に凭れるように車に乗り込んだユル。その様子を心配そうに見つめながら、俺達夫婦もまた
慌ただしく済ませたソ・ファヨンの葬儀から東宮に戻って行った
この重苦しい天気になんとも重苦しい31話だったけど
今後は明るい未来に向かって行きます~~★
新入生でありながら母・・・そして皇太子妃という身分に、学生たちからの好奇と羨望の眼差しは集中した
別に恥じる必要も動じる事もない
私は皇太子妃として親王を出産するという大仕事を成し得て大学の門をくぐったのだ
とはいっても・・・やはり事情を知っている高校の同級生だけではない。大学には広く全国から受験して
この大学に入った学生の方が断然多いのだ
うっ・・・堂々として居なくちゃ・・・
そう思いながらもちょっと遠慮のない視線に怯んでしまう
そんな私を迎えに来てくれた高校からの同級生たちの姿が、私の胸を安堵させた
『チェギョ~~ン♪』
『来た来た~~久し振り~~♪』
ガンヒョンとヒスンにスニョン・・・その後ろにユル君とユミだ
皆の歓迎の声に私は満面の笑みを浮かべ、胸の前で小さく手を振って見せた
『久し振り~♪』
『ギョム皇子は・・・どうしているの?大きくなったでしょう?』
これはかねてからギョムを見に来たいと言っていたガンヒョンのセリフ・・・
ガンヒョンはユミが携帯で写していった写真を見せて貰い狂喜乱舞したらしい
『うん。一カ月で随分成長したよ。私が宮に戻るまでは担当の乳母が見てくれているの。』
乳母に預ける・・・これは正直不安なものだ
だけどそんな私の気持ち以上に、皇帝陛下をはじめとする三陛下はギョムが皇位継承者という事もあり
何十人もの育児経験者を宮殿内に集め、その働き振りを見た上でたった三名だけを採用したという逸材だ
もちろんその生い立ちから病歴・・・現在の生活状況に至るまで調べ上げ・・・間違いのない人を選んだ
私自身も出産前からその方達と東宮で共に過ごし、すっかり信用できる先輩として色々教えを受けている
あ・・・ギョムの事なんか話題に出たから、お乳が張って来ちゃったじゃない・・・
東宮に戻ったらまた、乳母達と乳搾りだな。くすくす・・・
ユル君とユミはすごく自然な様子で、着実に愛を育んでいるのがわかる
いや・・・ユミに言わせるときっとまだ≪お友達≫なんだろうけどね・・・くすくす
皆と一カ月の遅れを取っている私は、特別講義を受けるためシン君と一緒に帰る事は出来なくなった
登校する時は一緒でも帰りはいつも別々だ
だけどシン君はそんな時・・・東宮に戻るなり、執務の前にギョムのお相手をしてくれているらしい
思った以上に子煩悩な夫だ
私も産後一カ月を過ぎた頃から学業に復帰し、特別講義の他シン君に同行しての公務などもあり
なかなか身体を休める暇がなかった
そんな私への皇后様の配慮で、夜は交代で乳母がギョムに付いていてくれることとなり・・・
私は普通の産後の主婦と異なり、睡眠時間はしっかり確保されるようになった
もちろんそれは・・・夫の協力があれば・・・の話なんだけど、その夫がなかなか気を遣わない
いや・・・私を気遣ってはいるのだろうけど、その言葉通りにはいかない
シン君はあまりにも夫として若過ぎるということなのかも。あははは・・・
新入生として新米母として、慌ただしくも忙しい毎日を過ごしていたある日
それはあの銃撃があった日からちょうど一年を迎えた頃の事だった
真夜中・・・ベッドサイドに置かれたシン君の携帯が鳴り響いた
シン君は寝ぼけ眼でその携帯の発信者を確認した後、電話を取った
『どうしたんだユル・・・こんな時間に・・・
えっ?あ・・・そんなっ・・・
あぁ・・・俺もすぐに駆け付ける。じゃ後で病院で・・・』
ベッドから身を起こしクローゼットに向かったシン君
その様子に私は驚き慌ててベッドから飛び起き、シン君の後に続いた
『シン君・・・どうしたの?病院って・・・何か起こったの?』
『ソ・ファヨンが・・・息を引き取ったそうだ。』
『えっ・・・』
恵政宮様が・・・亡くなられた?その後の言葉を失った私は、急いで着替えているシン君に気が付き
漸く口を開いた
『私も・・・行く。』
『チェギョン・・・お前は休んで居ていい。』
『いや行くよ。すぐに着替えて来る。』
私はシン君の部屋を出ると自室に戻り慌てて着替えを済ませた
確かに恵政宮様の記憶は後退し続けていたと聞いている
私は出産などがあってその後逢いに行けていなかったのだが、命に別条のある状態だとは全く聞いていない
一体なぜ?どうして・・・
一言も口を利けないまま公用車は警察病院に到着した
深夜に受け取ったユルからの電話・・・それはソ・ファヨンの訃報を報せるものだった
そう言うことがあり得るというのは俺もユルも医師から聞かされていた
現にユルとユミが結婚報告に行ってから後、俺も二度ユル夫妻とソ・ファヨンを見舞ったが
最後には意味不明なことを口走り子供のように笑っているだけだった
ユルはきっと自分を責めている事だろう。自分の母を死に至らしめたのは自分のせいだと悔やんでいる事だろう
だが・・・ユルが自分の身を犠牲にしてチェギョンと子供を守ったことで、ソ・ファヨンは極刑になる事を
免れたのだ
ユルがソ・ファヨンにしてあげられる最大の親不幸で親孝行だったと言えよう
動揺のあまり病院の裏口で待っていたユル夫妻・・・俺とチェギョンはユル夫妻を伴って
ソ・ファヨンの病室を訪れた
深夜に訪れたその病室は、いつもならベッドに腰掛け微笑んでいたソ・ファヨンは静かに横たわっていた
顔には白い布を掛けられその布は微動だにしない
ユルは震える手でその布を静かに外した
『お母様・・・お母様・・・』
既に死後硬直の始まっているその頬に手を添え必死に撫でる
まるで微笑んでいるかの様なその死に顔は、いつにも増して美しく見えた
これが・・・幼い頃から俺を苦しめ続けた魔女の末路なのか・・・
余りにも幸せそうな顔に俺の胸の中はなんとも言えない感情が渦巻く
冷たくなったソ・ファヨンの遺体に縋り慟哭するユル・・・俺はその姿に思わず貰い泣きしそうな気分だった
いや・・・泣くまい。ソ・ファヨンの死に直面して悲しみの感情は湧いてこないのだから、そんな理由で涙したら
ユルに失礼だ
ひとしきり泣いたユルは、葬儀の準備を始めた
俺も一緒にその場に立ち会った
罪人である以上、皇族として弔うことはできない
密葬という形を取りソ・ファヨンの葬儀は俺とユル・そしてユミとチェギョンの四人・・・宮殿に仕える僅かな者達
そんな寂しい葬儀だった
集合墓地の一角に納められたソ・ファヨン・・・その場所にはユルの考えで写真さえ飾られなかった
広く世間に顔を知られていらソ・ファヨンの墓は、元皇太子妃の華やかさはどこにもない
だがこれでユルは・・・いつでもソ・ファヨンに逢いに来れる
誰に許可を取る必要もなく遠慮もいらない
それだけが救いに思えた
『シン・・・チェギョン・・・色々ありがとう。』
何か吹っ切れた様な顔をするユルの肩を叩き、俺は微笑んだ
『気を落とすなよユル。お前は何も間違っていない。』
そんな言葉が慰めになるかどうかは分からない。だが・・・自分のしたことを否定しそうなユルに
そう言わずにはいられなかった
『うん。解ってるよ。これが一番・・・いい方法だったんだ。』
ユミの肩に凭れるように車に乗り込んだユル。その様子を心配そうに見つめながら、俺達夫婦もまた
慌ただしく済ませたソ・ファヨンの葬儀から東宮に戻って行った
この重苦しい天気になんとも重苦しい31話だったけど
今後は明るい未来に向かって行きます~~★