皆を守るために急いだユル君とユミの結婚
身重な私があまり宮殿内を駆け回れないせいか、ユル君が宮殿を出たと同時にユミもあまり姿を見せなくなり
途端に宮殿内はなんだか寂しくなった
特に慈慶殿は火が消えたように静かになってしまったらしい
そんな噂を小耳に挟んだシン君は皇太后様を心配し、事あるごとにユル君を宮殿に呼び寄せる様になった
もちろんユミもユル君と一緒に宮殿を訪れるのだが、その度に私はユミの惚気話と愚痴を
交互に聞かされるようになった
『ねえチェギョン聞いてよ・・・私新妻だって言うのに、ユル君とまだお友達・・・』
既婚者の私にはその意味がよく理解できた
なぜなら恋愛する間もなく結婚を急いだユル君。まだ今はチョン家に慣れる事とユミと恋愛途上中なのだから
お友達なのも頷ける
『ユミの事がきっと・・・大切なんだよ。』
『ん~~大切なのはいいけど、余りストイックなのもね~~!!』
まぁ確かに・・・その気持ちもわかる
『あ・・・そうそう!先日恵政宮様のところに行って来たの。』
『えっ?二人で行ったの?』
『うん、ユル君が結婚の報告をしたいって・・・』
恐る恐る私は尋ねた
『御加減・・・どうだった?』
『それが・・・残念ながら自己紹介から始めたよ。』
『・・・自己紹介・・・から?』
『うん。もうユル君の事も初対面の人だった。』
ますます記憶が退行しているのだろう。
『ユル君は大丈夫だった?』
『うん。もう≪仕方がない≫って微笑んでいたけど、きっと寂しいだろうな。』
『ちゃんとユミが支えてあげてね。』
『もちろん♪』
恵政宮様の病状はどこまで進んでいってしまうのだろう。でももしかしたらこのままの状態の方が
心穏やかに余生を生きていけるんじゃないかと思われた
幸い・・・恵政宮様の企みで心に傷を負った人間はたくさんいるけど、命まで落とした人はいない
心の傷はいつか癒えていくだろうから、恵政宮様はこのままなんの憂いもないまま生きてくれたらいい
・・・そう願った
なぜなら正気に戻ったとしたら、きっとその罪を問われてしまうのだろうから・・・
ユル君が宮殿から出ていった寂しさから、皇太后様がようやく立ち直ろうとしている頃
大学への入学を目前に控えた私は・・・いよいよ出産の時を迎えた
前夜からシクシクする痛みをお腹に感じていた私は、チェ尚宮さんに付き添われ王立病院を訪れた
そして出産が近づいている事を知らされた私は、そのまま入院することとなった
次第にお腹の痛みが増していき、時折呻き声が出るほど辛い
『妃宮様・・・まだいきんではなりません。辛抱なさってください・・・』
チェ尚宮さんのそんな声に励まされながら、私は銃撃を受けた時に麻酔もせずに縫合手術を受けた日の事を
思い出していた
思えばあの時もお腹に力を入れない様に、痛みを逃すのに必死だった
アクシデントから始まった妊娠生活・・・そんな事を思い出し私はその痛みに耐えた
やがて分娩室に運ばれていった私は、その時に一瞬だけシン君の励ましを受けた
ここからは私の戦場だ。見事打ち勝って我が子と対面するんだ
時間の感覚がわからなくなるほどの時が流れた・・・漸く私の耳に元気な赤ちゃんの泣き声が響く
あぁ・・・勝った♪
意識が薄らいでいく私の耳に主治医の声が聞こえた
『妃宮様・・・親王様御誕生です。』
チェギョンが・・・男の子を出産した
生まれたばかりの赤ん坊を看護師長が連れ俺に逢わせてくれた
なんてしっかりした赤ん坊なのだろう。この小さな手や足が、チェギョンの安眠を妨げていたのか?
なんてやつだ・・・思わず笑みが零れる
我が子を胸に抱きその握り締めた掌に自分の指をあてがうと、驚いた事に奴は俺の指を握り締めようとする
この小さな手にこの国の未来が委ねられるのだ・・・そう思うと少々不憫な気もする
大きな責任と期待を背負って生まれてきた事にすまなさを覚える
この先どんなことがあっても、俺の様な想いはさせるまい・・・そう心に誓った
分娩室から出てきたチェギョンの無事な様子を確認し、暫く話をした後・・・俺は宮殿へ戻らねばならなかった
後ろ髪引かれる思いで病室を出て公用車に乗り込む
妊娠が発覚した時には、この妊娠が継続できるかどうか解らずすぐに発表が出来なかったが
今回の親王の誕生はもうすっかり国民にも知れ渡っているらしい
街の至る所に≪親王様御誕生おめでとうございます≫などの垂れ幕が下がり、国全体がお祝いムードだ
深夜だというのに街のあちこちがライトアップされ、花火まで上がっている
その花火はきっとチェギョンの病室からも見える事だろう
国民が共に祝ってくれる事を知り、チェギョンも喜びを一層深めるに違いない
三陛下にチェギョンと生まれたばかりの赤ん坊の様子を報告した俺は、東宮に戻り仕える者達の祝福を受けた
皆・・・深夜だというのに待っていてくれたのだ
ひとしきり祝いの言葉が掛けられ、皆が下がった後・・・俺は途轍もない寂しさを覚えた
チェギョンがいない東宮は・・・なぜこんなに寂しいのだろう
あの表情豊かな顔・甘えたように俺を呼ぶ声・・・
それがここにないと言うだけでこんなに寂しいなんて・・・
いや、この寂しさも一時の物・・・すぐにあの腕白な奴を連れて帰ってくるのだ
チェギョンと子供が退院してくる前に大学の入学式を済ませた俺・・・
チェギョンは産後一カ月は休学することとなり、その間の講義は後日詰め込み式にこなすこととなった
ユルとユミそしてギョンとガンヒョン・・・皆チェギョンに逢いたがった
そして寂しいなんて言って居た俺の日常は、チェギョンの退院と共に覆された
少しでもチェギョンが傍を離れると泣き叫ぶその暴れん坊に、俺は≪ギョム≫と名付け国民に向けて発表した
子供を産んだチェギョンは急に大人びた顔をするようになった
女の本能なのだろうか。ギョムをあやす時の顔などは嫉妬に値するほど神々しい
まぁ・・・ギョムにチェギョンを独占されるのもしばしの間だ。我慢するとしよう
チェギョンが退院してから二週間も経った頃、ユルとユミがギョムの出産祝いに東宮を訪れた
『チェギョン~~おめでとう♪』
『あ・・・ユミ、来てくれたの?』
『うん~~♪ギョム皇子見せて~~♪』
『どうぞ♪』
ユミはギョムの眠っているベビーベッドにそっと近づいた
『うわ・・・イケメン♪』
『でしょ~~♪目を開けたらもっとイケメンなんだよ。』
『将来が楽しみだね。チェギョンが髪をカットしてあげるんでしょう?』
『えへへ~~そうなるかも♪』
っつ・・・まだカットするほど髪もないだろう?それにチェギョンは俺専属なのに・・・いやダメだ。
子供に嫉妬するなんて・・・・
『シン・・・良かったね。親王様誕生で安心したよ。』
『あぁ、ひとまずはな。それよりユル・・・挙式はしないのか?』
『うん。挙式は大学を卒業してからひっそりしようかなと思ってる。』
『そうか・・・』
『王族の結婚式だからシンやチェギョンに来てくれとは言えないしね。』
『なぜだ?俺達は従兄弟だ。俺達夫婦がお祝いに駆けつけてもおかしくないだろう?』
『いやシン・・・そんな前例を作ったら王族の結婚式にすべて、皇太子夫妻は出なきゃならなくなるだろう?
だからチョン家の家族と僕だけでひっそりしようと思ってる。』
『そうか・・・』
確かに母であるソ・ファヨンに参列することはできない
ソ・ファヨンは病院という名の鉄格子の中だ
どんな形であれユルの未来が今後曇らない様にと祈るしかない俺だった
そして産後一カ月を過ぎた頃、チェギョンは俺と共に大学に通うこととなった
朝晩めっきり涼しくなりました。
でも日中はものすごく暑い・・・
体調崩さないように気を付けてくださいね❤
でも日中はものすごく暑い・・・
体調崩さないように気を付けてくださいね❤