宮殿に戻る車中・・・コン内官は俺に問い掛けた
『殿下・・・マスコミに発表してしまってもよろしかったのですか?』
コン内官のいいたい事も解る。チェギョンはまだ妊娠初期の状態だ。
この先まだ何が起こるか解らない時期である事も確かだ
だが俺は、この厳しい状況を切り抜けチェギョンのお腹の中にしっかりしがみついている
まだ見ぬ我が子の生命力を信じたいと思った
『あぁ。国民はきっと妃宮の味方になってくれるだろう。』
厳しい状態でありながらお腹の子を守ったチェギョンは、きっと国民の深い共感を得る事だろう
そしてその共感は犯人に対する憎しみに変わるだろう
そこが俺の狙いだ
国民感情と言うものは、時に優しい目で見守っていたかと思えば、とんでもない暴動へと発展する
今回のチェギョンの雄姿はニュースなどで広く国民の目に触れている
そのチェギョンが実は懐妊していたと知った時の国民の反応が実に楽しみだ
大丈夫だ。きっと強い子だ。チェギョンのお腹に宿った子だから間違いない
天は俺達にきっと味方をしてくれる・・・
一旦東宮に戻り着替えを済ませた俺は、本殿で俺の報告を心待ちにしている三陛下の元に向かった
『陛下・・・戻りました。』
『太子!!妃宮の様子はどうなのだ。懐妊は・・・事実なのか?』
『はい陛下、間違いございません。治療も皇太后様と皇后様がさし向けてくださった医師のおかげで
無事済みました。』
『そうか。妃宮は大変な思いをしたな。』
『はい。私の為に大変な思いをさせてしまいました。』
『だが・・・なぜ妃宮はお前が狙われていることがわかったのだろうか。』
『妃宮は私の話をずっと信じてくれていました。幼い頃の話からすべてです。
だからこそ私と不仲の振りをしていても、どこから狙われているか解らない私を守ろうと、
周辺に気を配っていたのではないでしょうか。
暫くはあまり表に出ない事にいたします。妃宮が病院のベッドの上で気を揉むといけませんからね。』
『そうだな。余計な心配を掛けてはいけない。』
『ところで陛下・・・目撃証言は入ってきませんでしたか?』
『いや・・・それがなんの報告もないのだ。』
『そうですか。そのうち国民が騒ぎ出すのではないかと思います。』
『そなたの考えでは、犯人はやはり・・・』
『ええ、間違いないと思います。ですがユルは・・・関与していないと確信しています。』
『なぜ・・・そういい切れるのだ?』
『妃宮が運び込まれた病院で、妃宮の治療が終わるまでユルは一人でずっと待っていました。
それはもう憔悴し切った表情で・・・』
『信じられるのか?ユルを信じるのか?』
『はい。ユルは私の血を分けた従兄弟ですから、私を殺めてまでも皇太子の座を欲しいとは思わない筈です。
ですが・・・』
俺は一旦息をのんで皇太后様と皇后様に視線を向け、覚悟を決めて次の言葉を口にした
『恵政宮様は違います。どんな手を使っても私の座をユルにとお考えでしょう。』
俺のその言葉を聞いた皇后様は顔色を変えた
『な・・・なんと・・・太子や、恵政宮殿の仕業だと考えておるのか?』
『はい。その通りです。』
『いくらなんでも人として親として、その様な事は出来まい。』
『いいえ、女官を使って偽りを皇后様に吹き込み、陛下と皇后様を仲違いさせようとした女性です。
それほど前から計画されていたことなのですよ。』
俺のその言葉を聞いて陛下が話に割って入って来る
『何なのだ太子、その偽りを吹き込んだとは・・・』
『ユルのDNA鑑定をなさった頃、皇后様に仕えていた女官が・・・陛下と恵政宮様の密会を目撃したと
告げ口したそうです。』
陛下は顔色を変えた。もちろんそうだろう。俺に話したように婚姻後ソ・ファヨンと
不適切な関係がなかったとしたら・・・陛下は13年も皇后様に誤解され続けた事になるのだから・・・
『皇后よ・・・まさかそなた、その者のいう言葉を信じていたのか?』
『信じたくはありませんでした。ですが陛下はあの時・・・私になにも仰らなかった・・・』
『それは・・・信じてくれると思っていたからだ・・・』
言葉にしなければ解らない事もある。それに漸く気がついた俺の両親は、互いにバツの悪そうな顔をして俯いた
後は二人の問題だろう。ちゃんと話し合って心のわだかまりを解いて欲しいと願う
皇太后様が俺に問い掛けた
『太子・・・だが今のままでは証拠が何もない。これ以上罪に手を染めさせずに
穏便に事を終息させたいものだが・・・』
『皇太后様・・・残念ですがそれは無理だと思います。』
『なぜだ?』
『妃宮の懐妊を私はマスコミに発表してしまいました。更に懐妊している状態で治療を受けた事も話しました。
恐らく・・・今後恵政宮様はマスコミに追い回されることになります。』
『だが・・・恵政宮も皇族の一員だ。メディアも迂闊な報道は出来まい。』
『ええそうでしょうとも。だからこそ躍起になって犯人探しに乗り出す筈です。まぁ見ていてください。』
『とにかく太子と妃宮の護衛はもっと増やさねば・・・』
心労の重なった皇太后様は、ここ数日で小さくなったように感じられた
早くこの件を解決しなければ、チェギョンは安心して子供も産めないだろう
そして皇太后様の平穏な日々も来ないだろう
入院期間中に夏休みを迎えた私・・・入院が夏休みに掛かったのは本当に助かった
だって出席日数が足りなくなっちゃったら、≪皇太子妃落第≫なんてとんでもないゴシップネタになるもん
手術から三日後・・・微熱も下がった私に、シン君はお客さんを連れて来てくれた
おずおずと扉を開けて入ってきたのは、なんとガンヒョンだ~~~♪
シン君はガンヒョンと一緒にやって来たギョン君と廊下に出て、私達を二人きりにしてくれた
『チェギョン・・・』
『ガンヒョン~~来てくれたの?』
『来てくれたのじゃないわよ。アンタ・・・どんだけ心配したと思ってんの?』
『ごみん・・・』
『傷は痛まない?』
『うん。もう随分楽になって来たよ。化膿すると困るからこまめに消毒されてるの。』
『その上アンタ・・・妊娠って・・・』
『えっ・・・』
『え・・・じゃないわよ!!殿下が会見ではっきりそう言ったわ。』
ま・・・マジ?まだこれから6週だよ。普通だったら安定期に入ってから発表するもんじゃないの?
そんなことシン君、一言も私に言ってくれなかったよ・・・
『うん。もうすぐ妊娠6週目に入るところ・・・。だから強い薬が使えなくてさ・・・』
『なのにアンタ、あんな無謀な真似をしたの?』
『ちっ・・・違うってガンヒョン!!この病院に来て初めて妊娠していることが発覚したの。』
『そうだったの・・・。とにかく母子共に無事でよかったわ。』
『うん。』
『マスコミ各社もネットもすんごい事になっているわよ。』
『すごい事って?』
『皇太子夫妻を狙った犯人探し・・・』
『えっ・・・なぜそんなことに?』
『殿下がそれらしいことを匂わせたからね・・・会見で。』
『ホント?』
『まだここだけの話だけど、目撃者もいるみたい。』
『犯人の・・・目撃者?』
『そう、アンタを撃った奴・・・』
『えっ・・・それ早く皇室警察に知らせてくれればいいのに・・・』
『いや・・・それがね、ネットではユル君のお母さんが主犯格っていう噂が広まっていて
証言したくても相手が皇族じゃ、恐ろしくて出て来られないみたいよ。』
『そっか・・・早く解決してほしいな。』
『写真も出回っているの。』
『なんの?』
『狙撃犯の目撃写真・・・』
『えっ?そんなものまで?』
『しかも出てきたのが、アンタが撃たれたビルからだったから信憑性は高いわ。
撮影した日時も入っているしね。』
これはもしかして実行犯に辿りつくんじゃないの?なんだか私はあの日に感じた胸騒ぎと同じくらい
胸がドキドキする思いだった
ガンヒョンと病室の外で待っていたギョン君を送っていったシン君は、暫く戻ってこなかった
漸く戻って来たシン君は息を切らせ興奮状態で私に話しかけた
『チェギョン・・・実行犯が出頭した。』
『えっ?なぜ?』
なぜと聞きたくなるのも当然だろう。皇太子殿下を狙撃しようとしたのだから、それ相応の刑罰が待っている筈
普通なら自首なんてせず海外逃亡を企てるだろう
『ガンヒョンから聞いているだろうが、実行犯の顔は広くネットに広まってしまった。
どうやら主犯格の人間は実行犯を消そうとしたらしい・・・』
『つまり・・・狙撃した犯人が命を狙われたって事?』
『あぁ。殺されるよりもまだましと出頭したそうだ。何れにしてももう・・・
名前や住所までネットに流れていたからな。』
そうか・・・シン君はこんな風に世間を巻き込んでの犯人逮捕をしようとしていたんだ
『主犯格の名前を・・・言うかな。』
『まだ黙秘を続けているようだが・・・それも時間の問題だろう。
狙撃犯は今、皇室警察と言う場所で命を守って貰っているのだから・・・』
『警察内部に・・・スパイは居ない?』
『それも心配ない。失態が起こらないよう内部の人間もしっかり管理されている。』
『だったらいいけど・・・。でも命を狙ってくる人はその狙撃犯だけじゃないって言う犯人のアピールかも・・・』
『そうかもな。だがもうここまできたからには戦うしかない。チェギョンはここで大人しくしていろ。』
『嫌だよ。離れるなんて・・・嫌だ。退院までここに居てくれない?』
他にもスナイパーが潜んでいるかと思うと、私の不安はますます大きくなっていく
『くっ・・・解ったよ。退院するまでここに居る。だから安心して身体を休めないとな。』
『うん。』
出頭した狙撃犯は素直に主犯格の名を言ってくれるのかな・・・
私の不安は、やはり大元から絶たないと拭えないみたいだ
でもそのおかげでシン君とたくさん話す時間が持てた
あ・・・そっか・・・もう宮に戻ってもお芝居しなくていいんだ
早く退院したい。そして早く・・・不安の種が取り除けますように・・・
まぁね・・・ネットに顔まで出回って
命狙われたら・・・犯人も堪ったもんじゃございません。
と・・・呆気なく・・・主犯格に辿りつきそうな予感
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
命狙われたら・・・犯人も堪ったもんじゃございません。
と・・・呆気なく・・・主犯格に辿りつきそうな予感
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!