夏休みの間にシンは、あの飛行機事故で訪問が遅れていた隣国へ向かった
チェギョンはどうしてもついて行くと言って聞かなかったが、やはり妊娠初期の飛行機は身体に障るという理由で
同行を断念した
その代わりと言っては妙な人選なのだが・・・次期チャン航空の後継者が、万が一の為に乗務員として
乗り合わせた
まぁそれはギョンの類稀なる好奇心ゆえか、親友を心配するあまりの行動なのかはわからないが
あの時と同じ機長・そして乗務員で向かった二泊三日の隣国への旅は、何のトラブルも無く無事終わった
隣国の王との対談では・・・やはり失踪事件の事について聞かれたようだが・・・
そこは海を隔てた国の事・・・≪個人所有の島に不時着≫という説明で、それ以上追及される事も無く
無事に済んだようだ
シンが隣国へ公務に出掛けている最中・・・東宮殿にはシン家の両親が訪れていた
皇太子殿下が無事戻ったとの会見で、娘の懐妊が発表されたのを祝いに来たのである
『チェギョン!!』
『お母さん♪お父さんも・・・どうぞ中へ入って♪』
ナムギルにとっては宮殿は職場であるが、それでも滅多なことでは皇太子夫妻の住まう東宮殿に来る事は無い
スンレにしたらそれはとんでもないほど敷居の高い場所だった
おどおどしている両親に向かい、チェギョンっは屈託なく二人を招いた
『早く早く~~♪遠慮なんかしないで。』
『ええ・・・』『ああ・・・』
娘の住まいだと言うのになんとも緊張気味の両親・・・チェギョンの部屋に通されチョン女官が茶を出して
部屋を去っていった後、漸く二人はチェギョンの両脇に並んで座った
『お父さんもお母さんも狭いのに・・・』
『いいのよ。こうやってたまには近くにお前を感じていたいのよ。』
『全くだよチェギョン。今ではテレビで見掛ける遠い人になっちゃったような気分だ。
それより・・・皇太子殿下が無事戻られて本当に良かったなぁ。』
『うん♪心配したでしょう?心配掛けてごめんね。』
『そう言う時くらい家に来たらいいのに・・・』
『お母さんまさか!!そんなことできる筈ないよ。シン君の所在がわからなかったのに、
私が里帰りだなんて・・・』
もうすっかり皇室の一員になったのだとスンレは寂しさを感じた
『ご懐妊・・・おめでとう。驚いたわ。皇太子殿下の無事ご帰還会見だと思ったら、
いきなり懐妊発表なんだもの。』
『うん。どうもありがとう♪私も驚いたよ。まさかと思っていたからね。』
『チェギョン・・・体調は悪くないのかい?』
『うん♪至って健康だよ。さすがに海外公務には連れて行って貰えなかったけど・・・』
『皇太子殿下とも上手くいっているのね?』
『うん、もちろん。あの事故の事があるから、一日に何度も連絡くれるの。くすくす・・・』
『お父さんは宮殿内でお仕事しているから、たまにはチェギョンの様子も聞けるけど
私はそうはいかないからなんだか寂しいわ。』
『お母さん・・・寂しくなったらいつでも来てくれていいんだよ。
私が行く事は・・・なかなかできなくなっちゃったけど、お母さんには顔を見せて欲しいな。』
『また来てもいいかしら?』
『もちろん♪』
娘であっても娘ではない。もう遠い存在となってしまったチェギョン
なかなか敷居の高い場所ではあるが、自らが出向かなければ娘の大切な妊娠生活を拝む事も出来ない
(また来なくっちゃ♪)
里帰り出産など普通の家と違ってできないチェギョンである
少しでも母として娘の力になりたい・・・そう思うスンレだった
皇太子妃シン・チェギョンのご懐妊が発表され、国中はまさにご懐妊フィーバーとなっていった
二人が初めて出逢った無人駅(今はもう無人駅ではないが)では、縁結びと同時に子宝の駅として人気を博し
またチェギョンの大好物の≪エッグタルト≫のお店では、チェギョンの懐妊にあやかり新製品を発売した
その名も≪安産タルト≫
従来のエッグタルトよりカロリーを控えめにし、妊婦でも安心して≪たくさん≫食べられるようにと
職人が開発し作り上げたものだった
もちろんそれは皇室に献上され・・・チェギョンの口にも≪たくさん≫入ったようだ
新学期が始まり皇太子夫妻が登校して行くと、やはり学校の正門前はマスコミ関係者や近隣の住人で
溢れ返っていた
だがその大勢の人達も懐妊中のチェギョンの身体を案じてか、無理な取材などを強いるでもなく
ただ遠巻きに二人の姿を写真に収め満足して帰っていく様な状態だった
校内では常にガンヒョンがチェギョンに寄り添い、そして何かの折にはユルもチェギョンに力を貸した
ユルにしてみたら≪もう安心して留学することができる≫状態だったのである
王族もあの失踪事件から無事帰還したシンが、以前よりもずっと逞しく成長した事を認めざるを得なかった
皆に見守られながらチェギョンの高校生活最後の年が過ぎていく・・・
妊婦であるにも拘らずシンと共に勉学に励み、同系大学に合格できたのも嬉しい知らせだった
『はぁ~シン君、お腹が重いよぉ・・・』
何度作り替えたか解らない制服を着用し、シンと二人卒業式に向かったチェギョン
『卒業式が終わったら暫くのんびりできる。だから頑張れ!!』
『うん♪頑張るよぉ~~♪』
もう春休み中・・・チェギョンは公務の予定を入れていない
残りわずかな妊娠生活をエンジョイさせてあげたい・・・いやそれ以前に心配だと言う、シンの計らいだった
沢山の後輩・・・そして教師にまで花束を贈られたチェギョン
それは皇太子であるシンにも負けていなかったそうだ
むせかえるほどの花束に囲まれ東宮に帰っていく二人
二人の高校生活は臨月間近のチェギョンの姿で幕を下ろした
今日のお昼に・・・
アナゴのてんぷら定食食べて
上あご火傷した可哀想なムーミンに
愛の手を(爆)