その夜・・・家に戻ったナムギルは、妻のスンレを捕まえ今日あった出来事を必死に説明していた
『スンレ・・・今日・・・大変なんだよ。うちのチェギョンが・・・皇太子妃に・・・』
『なにを馬鹿なこと言ってるのよあなた。』
『だから皇帝陛下に呼ばれて食事をしたら・・・そこにチェギョンが居て・・・』
『どうせお食事でも運んでいたのでしょう?』
『違うって!!食事を運んでいたんじゃない。皇帝陛下と一緒に食事していたんだって!!』
『はぁ~?・・・あなた何寝ぼけた事を言ってるの?女官見習いが皇帝陛下と食事をする筈がないでしょう?』
『本当なんだよスンレ。信じてくれ!!』
『もぉ・・・あなたの言っている事は絵空事ばかりでさっぱり要領を得ないわ。
今日はチェギョン・・・仕事がお休みだって聞いてるし、電話して聞いてみるからいいわ。』
ナムギルは自分の話をさっぱり信じてくれない妻に焦れながらも、娘から直接その事実を聞いて驚くがいいと
電話を掛ける妻の横でその反応を見ていた
チェギョンはすぐに電話を取ったらしく、妻は笑顔で話し始めた
『あ・・・チェギョン?お母さんよ。元気そうね。よかったわぁ~♪
いえね・・・お父さんがさっき家に帰って来たんだけど、なんだか変なことばっかり口走るのよ。
あなた・・・なにかあった?
えっ?・・・えぇぇぇぇ~~~~っ!
そんな・・・馬鹿な。
だってあなた、皇太子殿下とお知り合いだなんてひとことも・・・
ええ?そっそうなの?まぁ~~~~っ・・・・
まさかあなたと皇太子殿下が、そんな間柄にあったとはね・・・驚いたわ。
えっ?お部屋を引っ越したの?そう・・・皇太后様のお部屋の隣・・・へぇ・・・・
そう・・・えっ?反対?反対など出来る立場じゃないでしょう?
元々一生女官として働く覚悟で宮殿に入ったんでしょう?
考えてみればあの時に嫁に出した様なものよ。
ええ・・・解ったわ。これから大変だろうけど頑張るのよ。
また・・・電話するわね。』
電話を切ったスンレは電話を両手で握り締めたまま大きく溜息を吐いた
『はぁ~~~~~っ・・・あなたの言った事・・・本当だったみたい。』
『そうだろう?私だって信じられなかった。』
『あのチェギョンが皇太子妃ねぇ・・・うちみたいな家の出身で大丈夫かしら?』
『それは心配ないだろう。なにしろ皇太子殿下がすごくチェギョンを気に入っているようだ。』
『大事にしてくれるかしら。』
『それは心配ないだろう。今もすごく可愛がられている。』
『でも荷が重いわね・・・』
『荷は重いがチェギョンも望んでいる事だから仕方ないだろう。私達はダメな親なりに、あの子を支えて行こう。』
『そうね・・・でも、あの子ったら図々しいのよ!≪皇太子がパーティーで誰の手も取れなかったから
私が手を差し伸べてあげたの。皇太子は私じゃなきゃダメだから・・・≫なんて言うのよ。信じられないわ。』
『一体いつ・・・そんな間柄になったんだろうな。いつかチェギョンに聞いてみよう。』
『そうしましょう・・・』
宮殿に上がった日から嫁いだも同然の娘チェギョン
だが決定的に違う事は、今後は易々と家に帰って来られない事であろう
同じ場所に娘は居るのに、その立場が全く変わってしまったことで我が娘がとても遠い存在に思える
スンレとナムギルであった
少し時間は遡り・・・チェギョンが慈慶殿女官宿舎から引っ越しをしている最中のことだった
さほども無い荷物を女官達と一緒に運ぶのだが、チェギョンは非常にバツが悪い思いをしていた
『お姉さん達・・・自分で持てますから~~!』
『何を仰るんですかチェギョン様。私達がお運びいたします。』
『く~~ん・・・』
今まで懇意にし可愛がってくれた女官達が、急に遠く感じられ少し寂しい思いのチェギョンである
だが女官達も其々の立場があり、馴れ馴れしい振舞いはできないものである
たとえチェギョンに対する感情が同じであっても、やはりそこは今後皇太子妃となるチェギョンを敬うのが
女官の務めなのだ
『えっ・・・こんなに広いお部屋ですか?』
皇太后の隣の部屋に案内され、その部屋を開けたチェギョンは驚いて立ち尽くした
『さようでございますよチェギョン様。さぁ早くお片付けを済ませてしまいましょう。』
『あの・・・お姉さん・・・今後私って何を着たらよいのでしょう?』
『そうでございますね・・・さすがにメイド服って言うのは・・・くすくす・・・』
『ですよね~♪くすくす・・・』
『普段着でよろしいかと思いますよ。恐らく皇太后様が、宮殿で着られる洋服は
既にご用意されているのではないかと思います。』
『解りました。では着替えて参ります~♪』
『そうなさってくださいませ。』
女官が部屋を出て行き、チェギョンは皇太后が本日用意してくれたドレスから普段着に着替え
そのドレスをハンガーに掛けた時だった
<トントン>
ドアがノックされチェギョンはその扉の向こうに立つ人物が誰なのだろうと、胸をときめかせドアを開けた
『あ・・・ユル君・・・』
『聞いたよチェギョン。一体どうして?』
『え・・・』
確かにユルにとっても寝耳に水の話だった。シンがチェギョンに好意を抱いている事は知っていたが
まさかチェギョンがシンの手を取る事など夢にも思っていなかったユルである
こういう場合部屋に通すべきだろうか・・・チェギョンは少し悩み、部屋から出ようと決めた
シンとの関係が確立した以上、女官の手前怪しいところが一点もあってはならないと感じたのだ
『ユル君・・・お庭をお散歩しようか。お散歩しながら説明する。』
『うん。ちゃんと説明して!!』
二人は慈慶殿の庭を歩きながら話をする
『正直・・・シン君に惹かれていたのは事実。だけど・・・もちろん宮殿に来たのは邪な考えじゃなくて
皇太后様に借金を返す為だよ。
でも学校と仕事の両立をしていると、出された宿題もままならない時が多くって・・・
そんな私にシン君が勉強を教えてくれるようになったの。
勉強を教わっているうちに・・・シン君の気持ちに気がついた。
だけど・・・お互いどうこうできる状況じゃないって解ってた。
今日のお妃選びのパーティーで・・・シン君は誰の手も取れずにすごく困った顔をしていた。
でも私にはどうする事も出来ないでしょう?
でも・・・そんな私の背中を皇帝陛下が押してくださったの。
シン君が本当に望む人を選べるように、背中を押してきなさいってね・・・
許される筈がないって思っていたの。でも・・・許された。
だから私からシン君に手を差し伸べたの。私の手を取ってくれって・・・』
ユルは落胆した顔付きのまま、ポツリと呟いた
『そうか。そうなのか。だけど・・・何も一番大変な相手を選ばなくてもいいのに。
苦労するのがわかっているだろう?チェギョン・・・君は馬鹿だな。』
『うん。馬鹿かもしれない。でも・・・私が救えるのはシン君だけだから。
もしこう言う形にならなくても、女官として一生彼の救いでありたいと思っていたよ。』
『そこまで・・・そこまで好きなの?』
『うん。そうだよユル君。』
ユルは曇った顔に少しだけ笑みを浮かべた
『そうか。そこまで覚悟しているなら、僕が言う事は何もない。
ただ困ったことがあった時や、僕の助けが必要な時はいつでも言って。』
『うん。ありがとう♪』
入学式でチェギョンに一目惚れをしたユル・・・だがその時チェギョンの心には、既にシンが住みついていた
大変そうなチェギョンを見守ってきたユルだったが、結局その心は手に入らなかった
(仕方ないな。潔く・・・二人を受け入れるよ。)
その日からユルは慈慶殿に顔を見せなくなっていった
その夜の勉強タイム・・・既に季節は夏であり、二人は夏休みの宿題を片付けていた
『チェギョン・・・先程陛下と話をして来たのだが、夏休みの間に婚約発表をしてしまいたいと思っている。』
『えっ?そんなに早く?』
『あぁ。新学期が始まってからの発表では、生徒達が騒がしいだろう?
夏休みの間だったら・・・少しは騒ぎも収まっているだろうし・・・』
『あ・・・そうだね。』
『問題は王族の反応だ。』
『だろうね・・・きっと受け入れ難いと思うよ。』
『まぁパーティーであれだけアピールしたのだから、少々の反対にあっても平気だ。』
『だといいけど・・・。でもどうしてそんなに婚約を急ぐの?』
『婚約しないと皇太后様がお前を離してくれないからな。東宮に引っ越してくればお妃教育も早く始められるし
何より朝も夜も・・・そして昼間はあの部屋で一緒に居られる。』
『もぉっ・・・シン君、私がそんなに好きだったの?』
『あぁ。知らなかっただろう?』
『ううん知っていたよ。バイト帰りの私をイギサのお兄さんに送らせたり・・・』
『知っていたのか?』
『知っていたよ~~!だってひったくりから助けてくれたお兄さんがシン君の護衛していたらね
解るって・・・くすくす・・・』
『笑うな!!お前だって俺が婚姻してもずっと傍に居るって言っただろう?』
『うん。まさかこんな形で傍にいられるとは思ってもみなかったけどね。』
満面の笑みを浮かべるチェギョン。その笑顔は憂いのあるものではない
初めて逢った日エッグタルトを頬張った時の、屈託のないチェギョンの笑顔だった
『ちょっと・・・』
『なに?』
『何かついてる。』
『えっ?』
シンに言われるままソファーから身を乗り出したチェギョン。シンはソファーから立ち上がると身をかがめ
チェギョンの両頬を押さえこみ、その愛らしい唇にそっと触れた
『あっ・・・』
『あ・・・ついていたのは唇だったか・・・・』
『も・・・///もぉ~~っ///誰にだってついてるでしょう?』
恥ずかしくて目を逸らしたチェギョンにシンは口角を上げ答えた
『俺には特別だから・・・くくっ・・・』
シンとチェギョンの甘い宮廷生活が漸く始まりそうである
行く手を阻みそうな王族が・・・すんなりと受け入れてくれると良いのだが・・・なかなかそうはいきそうにない
ユル君は・・・二人を認めてくれました。
あ・・・ハン・チョルスはどうかな?
ちょっとゴネそうな予感がします。
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
あ・・・ハン・チョルスはどうかな?
ちょっとゴネそうな予感がします。
(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!