このお話はPHD2014 運命≪魂の空中散歩≫をチェギョン目線で書いたものです。
かなり内容を省略しております。
初めてお越し下さった方は、この書庫の最初から読み進めていただけると幸いです。
かなり内容を省略しております。
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あれあれっ?っと思った瞬間、私の自転車は車道に引き寄せられるように飛び出した
何の障害物もないところ・・・こんなことってあり得ない
背後から走ってきた車が急ブレーキを掛け、そのけたたましいブレーキ音で振り向くと、そこには驚くべきことに
この国の皇太子殿下が乗っていた
うそっ・・・彼と目が合った瞬間、私の意識は遠く彼方へと飛んで行った
【チェギョン!!チェギョン!!】
母の声がする。あぁ~もう~うるさいな。もっと寝かしておいてよ・・・そう思った瞬間
ふわっと浮き上がる様な感覚に、私は自慢の大きな目をパチリと見開いた
ん?なんで私が見えるんだろう・・・・えっ・・・えっと・・・えぇぇぇ~~~っ?
自分の置かれた状況を認識するまでに少し時間が掛かった
ベッドに寝かされた私には色んな器具が取り付けられ、額の一角には大きな絆創膏・・・う~~ん。
一体何が起きたんだろう・・・私は自分の記憶を辿ってみる
ん?もしかして私は・・・皇室の車とぶつかっちゃったのかな
瀕死の状態だとか?それは困るよぉ・・・
花も恥じらう18歳。恋も知らずに死ぬなんて惨すぎる~っ!!
そんな私の疑問に答える様に、父は私の身体を揺すり必死に話しかけている
【チェギョン・・・どうして皇室の車の前になんか飛び出したんだ。
しかも車はぶつかっていないと言うのに、皇太子殿下までが意識不明だなんて・・・
私は一体どうしたらいいんだ!!】
自分に繋がれている機械の数値をじっと見てみる。でも・・・至って安定した様子。
なぜそんなことがわかるかって?よくそんなシーンをテレビで見るもん!誰だって知ってる
ということは・・・ぶつかって大怪我しているわけじゃないんだね?
だとしたらなぜ幽体離脱なんかしちゃってるの?
あわわ・・・ここはひとまず私と同じく意識不明の、皇太子殿下の様子を見に行こう
私は難なくドアをすり抜け辺りを見渡した
≪皇太子殿下の病室はどこですか?≫なんて・・・誰に聞く事も出来ない。聞いたって私の声は届かない
今私は透明人間と一緒だ。ヤッホ~~♪
恐らく・・・特別室とやらに運ばれているよね?私はスイスイと床もすり抜け上の階に上がって行った
あっ・・・なんだか人だかりができている。スーツを着た男の人達が≪特別室≫と書かれた病室の前で
警備していた
ここだな・・・よ~~し!!
私は思い切ってその部屋の中に潜入した
あ・・・皇太子殿下が私と同じ様に宙に浮いている。実体はベッドに寝かされたままだ
『俺は・・・死んだのか?』
愕然としながら呟く皇太子殿下。これは大変なことになった。私は平静を装って皇太子殿下の傍に近づいた
『死んでないって!お医者さんもそう言ってるでしょ?』
『おっ・・・お前はお団子頭!!』
まさか私と同じ様に皇太子殿下も幽体離脱していたなんて思わなかった
ただその意識不明の状態が気になって来てみたら、二人揃って異次元の世界に放り込まれたような状態
他に話せる人もいないまま、私達は≪魂の空中散歩≫を楽しんだ
ううん・・・彼にとっては驚きの連続だっただろうな。だって彼が興味を持ったのは、
自分の知らない貧困の世界ばかりだったから・・・
恐れ多くも皇太子殿下に名前で呼ぶ事を許された私は、その後もあらゆる場所に彼を連れて行った
なんとなく学校に案内した時・・・シン君のヒョリンを見つめる目があまりにも優しくてちょっと嫌な気分になった
遠巻きにもあんな優しい顔をしたシン君を私は知らない
いたたまれない気持ちになった私は一人で病院に戻ろうとしたけど、不思議なことに彼も一緒に戻ると言う
まぁ・・・不安だよね。こんな状態じゃあ・・・。彼女の事どころじゃないかも
宙を一緒に飛んだ時、なびいた彼の髪が彼の切れ長の瞳が遠くで見ているシン君よりも凄く素敵だと思った
動物学的に男の方が美しいって本当だね。あぁこれじゃあ皇室マニアの友人ヒスンやスニョンと変わらないな
自分の身体に戻ったら現実が待っていると言うのに、私はシン君と二人だけの世界を彷徨う事に
心が浮かれていた
そんなことが続いてシン君の病室に戻った時、不意にお医者さん達がざわめき始めた
あ・・・今私と一緒に居るシン君の身体が透けて来ている
本体に戻る時が来たんだね。良かったねって言う気持ちともう接点がないと言う二つの気持ちの狭間で
私はシン君にお別れを言った
もちろん≪魂の旅人≫だった時の事を、シン君が覚えているとは限らない
私への記憶はあとかたもなく消えているかもしれない
でも・・・一応念を押してみる。≪この一件は罪に問わないでね。≫って・・・
きっと目覚めたら煩わしいことがいっぱい起こるだろう私に、これ以上のダメージは与えて欲しくなかったんだ
したたかだな私って・・・
シン君が本体に戻ってしまってから、私は自分の病室に戻っても両親の嘆きを聞くだけだと
シン君の病室をふわふわと彷徨っていた
だけど深夜になった時シン君が『チェギョン・・・早く身体に戻れよ。』と宙に向かって呟くのを聞いて
私は自分がここに居る事を悟られたような気がして、慌てて自分の病室に戻って行った
翌日、シン君が退院した事を両親やお医者さんの話で知った私は、なかなか自分の身体に戻れないジレンマと
話相手のいない寂しさでどうにかなりそうになった
彼にそんな感情を持つ方がどうかしてる。シン君は皇太子殿下だ・・・
両親は私が意識不明だからと油断してか、家の内情を切々と話し合っている
母が言ったようにもうこの身体に戻るのやめようかな・・・そこまで追い込まれた時、皮肉にも私の目覚めの時は
やってきたようだ
一週間も意識不明だった私の覚醒に、涙ながらに喜ぶ両親。
でも聞かなくてもいい事まで聞いてしまった私は、益々途方に暮れて行った
≪やはり金目のものは私だけ・・・≫そう思い知らされてしまったのだ
意識が戻った私は即座に退院手続きを取った
病院の支払いに困惑する両親の代わりに、私は窓口の女性に事情を説明し≪入院費の分割≫をお願いした
なんとかしなくちゃ・・・この家の状況。
その時の私はそれほどまでに切羽詰まっていた
翌朝から私は元気に登校して行く。だって・・・いつ≪怖い借金取り≫さんからの強引なお迎えがあるか解らない
学校だって何時まで行けるか・・・そう思ったら、転んだ時に調子が悪くなってしまった自転車をギコギコ走らせ
それでも私は登校して行く
あ・・・シン君だ♪あぁ・・・あの一緒にお散歩した時とは違うクールな横顔~♪
なんて浮かれている場合じゃないよね。あの一緒にお散歩した一週間の様々な出来事・色んな人達を、
心に留めてくれるといいけど彼は忙しい人だから忘れちゃうのかな・・・
10日ぶりに学校に行くと、私の親友達は涙ながらに私を迎えてくれた
『チェギョン・・・アンタ、どんだけ心配したか。』
ありがとうガンヒョン・・・私も逢いたかったよ~♪
『もう~~皇太子殿下と一緒に意識不明だなんて、本当に驚いたよ。』
私だって驚いたよヒスン・・・でも本当はその間一緒に居たんだ~なんて口が裂けても言えない。
『映像科の御曹司達がアンタのこと聞きに来たわよ。』
そうなの?ヒスン・・・私の情報なんか得ても、なんの得にもならないのにね。
とにかく学校はやっぱり楽しくて、一人きりで彷徨った三日分の憂さを晴らすように、私は親友とおしゃべりに
熱中した
そんな時・・・
『チェギョンお客さんだよ~♪』
クラスメイトの一人が私を呼んだ。ドアまで行ってみるとシン君の取り巻きが私を手招きする
『お前がシン・チェギョンか?皇太子殿下がお呼びだ。』
えっ?まさか・・・。
シン君が本体に戻ってからも私の事を覚えているのは解ってた。だって病室で呼び掛けたもの
もしかしてシン君がここに来た理由って、皇太子意識不明の事故の責任を取らせる為?
私はおどおどしながら廊下に出て行った
あ・・・本当だシン君だ。彼の真意がわからず困惑する私
そんな私の手を徐に引っ張ると、シン君は美術科の棟の外れまで歩いて行った
私から手を繋いだ事はあっても、シン君からされたのは初めて・・・
いや、そんなことで浮かれている場合じゃない
シン君はその廊下の端っこの角に私を追い遣り、左手を壁に着くと私を見下ろした
ひぇ~~~っ壁ドン・・・憧れの壁ドンをいい男にされたなんて、女冥利に尽きるぅ~♪
リアルに並ぶとこんなに背が高いんだとか、鼻筋が通っているんだとかそんなことばかりに気を取られる私
彼は私を咎めに来たんじゃないみたい。『大丈夫か?』そう家の状況を聞かれた時、私の胸はドキンと高鳴った
『だっ・・・大丈夫だよ♪』
他になんと答えられる?私はその時よりも更に切羽詰まった自分の状況を、彼に言う事は無かった
たった一週間の≪魂の旅人≫の間に親しくなった私達。私も彼の治める国の民の一人・・・
だから少しは気に掛けてくれたのかもしれないね
日に日に≪借金取り≫さんの言動は酷くなる。家に帰ると私は気の休まらない日が続いていた
その日も物は投げるわ暴力は振るうわの≪借金取り≫さん達
自分が首を縦に振ってしまえば、家族には平穏な暮らしが戻るだろう
いよいよ自分自身の強気の心も折れ、≪借金取り≫さんの言うところの≪金目のもの≫になる覚悟を
決めようとした時だった
いきなり現れた数台の車・・・その車に乗っていた男性が恭しく頭を下げてこう言った
『皇室から参りました。私は皇帝陛下付きの内官でキムと申します。』
同時に敷地内に入って来た護衛の人達を見て、≪借金取り≫さん達は慌てて退散して行った
私は先程とは違う意味で腹を括った。
だって・・・皇室の人がうちにやって来るなんて、あの事故の事を罪に問う為にやって来たのに決まってる
シン君にとって私はやはり罪人でしかないんだ。私は胸が痛んで泣きそうな気持ちになってしまった
後編に続く