突然の皇帝陛下付きの内官さんの訪問・・・両親も私と全く同じ事を考えていたようだった
≪借金取り≫さんが散々暴れて去ったあとの室内は、非常に乱雑としていたが・・・
それを家族中で大急ぎで片付け、キム内官さんをリビングに招いた
私も両親も膝に手を置き、死刑判決を待っている様な心境だ
なのにそのキム内官さんの出した一枚の書面を見るなり、私達親子は・・・弟までもが口と目を見開いたまま
唖然としてしまった
『あの・・・何かの間違いではないでしょうか。私の父が前皇帝陛下と親交があったなんて
聞いた事もありません。』
『ごく一部の者しか知らない親密なお付き合いだったそうです。』
『あの・・・それでこの許嫁と言うのは?』
『皇太子殿下とこちらのお嬢さんシン・チェギョンさんの事をお約束されたそうです。』
『えっ?』『そんなまさか!!』『嘘でしょう?』
『真実にございます。現在、慈慶殿で皇太后様がシン・チェギョンさんにお逢いしたいと申しております。
シン・チェギョンさん、ご同行いただけますか?』
私と・・・シン君が許嫁?嘘でしょう?あり得ない・・・そんな棚から牡丹餅みたいな話ある筈ない
でも・・・もしこの夢のような話を私が受ければ、私の人生はまさに地獄から天国
更にはあの誰もが羨むシン君が、素敵な男性になる事を近くで見守ることが出来る
迷う気持ちなんか何処にもなかった
『一緒に伺います。』
私は二つ返事で答えると、すぐに母に着替えを手伝って貰いおめかしをして宮の車に乗り込むと
慈慶殿へ向かって行った
『そなたがシン・チェギョン嬢か?』
『はい。皇太后様・・・』
『とても愛らしい顔をして居る。太子と似合いの夫婦になりそうだ。ほほほ・・・』
優しそうな皇太后様・・・私の家庭の状況をご存知ないのだろうか
なんとなくぎこちない笑顔を浮かべながら、この許嫁の話は本当なのか確認しようと口を開いた時
皇太后様の部屋がノックされ、シン君がその部屋に入って来た
シン君は私が許嫁と聞かされ相当驚いた様子だ。それは当然の事だろうと思う
私も開いた口が塞がらなかったもの
だけどその話を聞いた後シン君の口から出てきた言葉は、皮肉めいたものばかりだった
夢を操作?そんなことできる筈ない。たとえば人為的に幽体離脱させることが出来るとしたら、
私はエスパーかとんでもない力を持った霊能者だ
そんなことできる筈ない・・・
次々と浴びせられる冷たい言葉・・・そのシン君の表情は、私が退院した翌日壁ドンした人とはまるで別人だった
『良かったじゃないか。売られて行くのが怖い借金取りじゃなくて・・・。』
私はシン君に私の心の中にある打算を見透かされたような気がした
恥ずかしかった。顔から火が出るほど恥ずかしかった
彼は卑しい私の身分を心底軽蔑しているのだと思った
『ごめんなさい。』
まるで夢物語のような話に浮かれ一も二もなくここに来てしまったが、やはり私はここに来るべきではなかった
地獄から天国へ昇った気分は再び地獄へ堕ちた。一度天国に昇った分だけ地獄が辛そうだ
家に送って貰う車の中・・・よく考えてみたら、彼にはヒョリンと言う恋人がいる事を思い出した
そんな事も気に掛けないで自分の事しか考えられなくなっていたから、私には罰が当たったんだ
身の程知らずな夢を・・・一瞬でも描いた天罰が当たったんだ・・・
家に戻ると案の定≪借金取り≫さんは大暴れをしていた
弟は顔に痣を作り、父や母まで傷だらけになっている
あらゆる家財道具には札が貼られ、もう残された手段は私が首を縦に振る事だけ
もういい・・・
『私が行きます。だから両親や弟に手を出さないでっ!!』
漸く首を縦に振った私に≪借金取り≫さん達は不敵な笑みを浮かべると、私の両腕を掴んだ
抵抗する気力なんかもうどこにも残ってない
これが一番いい方法なんだ・・・確実に私は心を追い込まれていたのだろう
≪借金取り≫さんの手で家の門が開けられようとした時、いきなりその門が外から開いた
その時視界に入ってきた顔を私は信じられない思いで見つめた
目の前に見えたのは皇太子殿下であるシン君の顔だった
一体何をしに来たの?こんな私を笑いに来たの?ささくれ立った気持ちのまま彼を睨みつけたが
彼の口から出て来たのは意外な言葉だった
つまり・・・地獄から天国に昇ってまた堕ちてまた昇る?
彼の内官と言う人が≪借金取り≫さんの応対をしてくれている間に、彼に返事を求められ
私はただただ頷くしかなかった
シン君は両親に頭を下げ挨拶をすると、私を再び宮に連れて行く為に車に乗せた
今日の私はもう行ったり来たりの連続で、目は腫れ上がっているし頭も朦朧として上手く考えがまとまらない
そんな私の乱れた三つ編みをシン君は両側に引っ張ると、ポツリと言う
『お前・・・あのお団子頭の方が似合う。髪が乱れているから直したらどうだ?』
『うん。』
私が必死でお団子頭を作っている間に、彼は私の顔をハンカチで拭いてくれていた
『ちっとも大丈夫じゃないのに大丈夫だなんて言うな。』
でもあの時の私に助けて欲しいなんて言えただろうか・・・
『あのね言いたいことがあるんだけど・・・』
『なんだ?』
『私・・・何も操作なんかしてない。そんなことできないよ。』
『あぁ。考えてみれば操作してできる事じゃないよな。あの時の俺達の状態は・・・
さっきはあまりにも動転して、とんでもない事を言ってしまった。』
『でしょ?あとね・・・さっき気がついたんだけど、ヒョリンはいいの?』
『ヒョリン?あぁ・・・確かあの時もそう聞かれたな。ヒョリンは恋人と言う間柄じゃない。』
『そうなの?でも好きだったでしょう?本当に・・・いいの?』
『あぁ。確かに憧れみたいな気持ちはあったかもしれないが、今は好きな子が出来たから。』
『えっ?』
好きな子がいるのに私との許嫁の話を受けるの?と私は彼の目をじっと見つめた
彼はあの壁ドンの時と同じ様に優しい目をしていた
何も聞く必要はない・・・その表情で彼の気持ちが伝わってくるようだった
再び慈慶殿を訪れた時、先程よりも満面の笑みを浮かべた皇太后様が私達を迎えてくれた
『仲直りはできたのか?』
『はい。』
シン君の返事に同調するように、私もコクリと頷いた
『ところで太子や・・・そなた達は元々そんなに親しい間柄だったのか?』
『いえ、つい最近知り合ったばかりです。』
『ほぉ・・・どのようにして知り合ったのだ?』
『それは・・・皇太后様と言えど内緒です。くくっ・・・』
『そうだチェギョン・・・そなたのお父上は仕事を探しておるとか?』
『はい。』
『宮中の職員の食堂に勤めるのはどうだろうか?』
『あ・・・ありがとうございます。父は料理がとても上手なので、こんなありがたい話はありません。』
それで皇太后様・・・もう一つお願いしたい事があるのですが・・・』
『なんだ?言ってみなさい。』
『私がアルバイトをするのをお許しいただけますか?』
『アルバイト・・・とな。それは好ましくない。』
『あ・・・でも・・・アルバイトしないとちょっと困るんです。』
『何が困ると言うのだ?お小遣いなら私が用立てよう。』
『あ・・・いえそうではなく・・・』
『すぐに家族になる私にも話せないと言うのか?』
すぐに家族になる?許嫁から結婚ってそんなに早いの?
私は本当に困り果てた。なぜなら私は病院の入院費を分割払いにして来たのだから・・・
だけどそれをここで言ってしまったら、きっと皇室の体面もあるだろうからとそれを払ってしまうだろう
自分の事くらいは・・・自分で始末をつけたいのだ
少々威圧的ともとれる皇太后様に続き、シン君までもが私を追及して来る
『一体何のためにアルバイトをしたいんだ?』
『あ・・えっと入院費を分割にして来たの。それを払わないと・・・』
非常にバツが悪い、だけど皇太后様はそんな私の返事を聞いて、大きな声を上げて笑いだした
『おほほほ・・・そんなことだったか。それなら私の指示で支払いを済ませておる。』
『えっ?皇太后様が肩代わりしてくださったんですか?』
『そうだ。だからなにも心配はいらない。』
『ですがお借りした物は返さないと・・・少しずつでもお返ししたいんです。』
『ほほほ・・・親子揃って律儀な性分だ。そなたのお父上も同じことを内官に言ったそうだ。』
『そうでしたか・・・』
『だったらこう言うのはどうだろう。チェギョンは学校が終わってから、毎日宮の書物の整理をして
それから私のお茶の相手になっておくれ。これをアルバイトとしたらどうだ?』
『でもそれでは申し訳なくて・・・』
『いやいや、申し訳ないなんて事はない。書物の整理をしておれば、この先訓育の時にも
何かと役に立つだろうし、何よりも宮中に馴染めるだろう。どうだろうか?』
『はい!有難くそのアルバイトを引き受けさせていただきます。』
『おぉ?太子や・・・そんな不服そうな顔をするでない。そなたのところにも毎日顔を出せば不服はないだろう?』
『はい。皇太后様。』
『では太子・・・チェギョンにそなたの住む東宮を案内して差し上げなさい。』
『そういたします。皇太后様・・・』
東宮に続く庭をシン君と手を繋ぎ歩く。あの≪魂の空中散歩≫の時の様な解放感はないが
しっかり地に足をつけて夕暮れ時の庭園を散歩するなんて、とても幸せな気分だ
『チェギョン・・・お前にはあの一週間で色々な事を教わった。
これからもお前の目で見た世界を、俺に教えて欲しい。
どうしたら国民が幸せになれるのか、一緒に考えて欲しい。』
『うんもちろん♪』
『まずは一人、就職難民を救えたな。くくっ・・・』
『うん、すごく感謝してる。これでお父さんも頑張れるよ。』
心に巣食った煩わしい事は、シン君と出逢った事により払拭された
やはりこのタイミングでシン君に出逢った事・・・また≪魂の空中散歩≫をしたことは運命だったのかな
だとしたら私の運命は・・・これから先、誰にも負けない輝きを放つのだろう
運命 ≪魂の空中散歩≫side C 完
皆様~PHD運命に沢山の方にお越しいただき
またナイスやコメントもたくさん頂戴し
誠にありがとうございました。
こちらはお礼といたしまして
チェギョン目線で書かせていただきました。
チェギョン目線だと、ちょっと切なくなります(爆)
沢山の運命を読まれたと思いますが
心のほんの片隅にでも≪魂の空中散歩≫が
残っていただけたら嬉しく思います。
どうもありがとうございました❤
~星の欠片~ 管理人 ★ emi ★
皆様~PHD運命に沢山の方にお越しいただき
またナイスやコメントもたくさん頂戴し
誠にありがとうございました。
こちらはお礼といたしまして
チェギョン目線で書かせていただきました。
チェギョン目線だと、ちょっと切なくなります(爆)
沢山の運命を読まれたと思いますが
心のほんの片隅にでも≪魂の空中散歩≫が
残っていただけたら嬉しく思います。
どうもありがとうございました❤
~星の欠片~ 管理人 ★ emi ★