もう出産予定日も目前と迫ったある晩・・・チェギョンは神妙な面持ちで縁起でもない様な事を口走る
冗談かと思った・・・だが彼女のその瞳はとても真剣だった
万が一の話など聞きたくない。俺の頭の中にはもう俺と君と生まれて来る子供の未来が思い描かれているんだ
俺は初めて・・・彼女からのお願いに応じる事を拒んだ
そんな不吉な事は絶対にない・・・そう思いたかった
彼女の縁起でもない話に不機嫌になってしまう辺り、俺もやはり不安だったのだろう・・・
シン・アパレルファッション春夏物発表会の日・・・俺は何気なく彼女の出産準備用入院バッグを、
出社する時に持って出掛けた
それを見ていた彼女は『用意周到なのね♪』と笑っていたが、俺の予感は見事的中した
秋冬物の発表会の時、出血が起こり急遽入院する事となった彼女だ。今日だって大勢の人前に姿を現し
緊張も疲れもいつもの日常とは比ではないだろう
案の定・・・俺の予感は当たってしまった。
発表会用の衣装がすべて出揃い、大きな拍手とフラッシュを浴びながらステージ中央に歩く彼女は
一歩歩くごとに顔を歪めていた
必死に取り繕う笑顔は普段見慣れているものとは全く別物で、前列の方に席を用意された俺には
額に浮かんだ汗さえも見えるようだった
彼女が一語一語を絞り出す様に発するのをただ見守るのは辛かったが、その挨拶が終わるまでは席を立たず
拳を握り締め彼女を見守った
漸く彼女の挨拶が終わった。その場に招待を受けたマスコミ関係者や業界関係者も
彼女の異変に気がついたようでざわめき始めた
よくやったチェギョン・・・
俺は悠然と席から立ち上がると彼女の立つ舞台中央の下で彼女に声を掛けた
『チェギョン・・・病院だな。』
『ん・・・』
俺は舞台に上がると蹲りそうな彼女の身体を抱き上げ、観客に向かって一礼すると舞台から降りた
恐らくその場にいた両家の両親は事の次第を察してくれているだろう
そんな事よりも今は彼女の状況の方が心配だ
助手席で荒い呼吸を繰り返し呻く彼女を気にしながら、俺はかかりつけの産婦人科に向かって急いだ
『イ・シンさん、出産に立ち会われますか?』
分娩室に入って行く彼女を不安げに見ていた俺に、看護師は救いの手を差し伸べてくれた
『はい。立ち会えますか?』
『ええ。でしたらこれに着替えてください。』
手術着の様なものを渡された俺は、それを持って彼女の入院する病室に入って行った
上着を脱ぎネクタイを緩めワイシャツのボタンをひとつ外し、その上に手術着の様なものを羽織った
分娩室の前に戻っていくと看護師は俺を部屋の中に促がしてくれた
『ん~~~ん・・・ひぃっ・・・・・はっ・・・はぁっ・・・』
チェギョンの横たわる分娩台横に用意された椅子に腰掛け、俺は彼女に声を掛けた
『チェギョン・・・頑張れ!!』
こんな時、掛ける言葉が本当に見つからない。彼女は俺の声にきつく閉じた瞼を開き俺の顔を確認すると
どこか安堵の表情を浮かべ俺に右手を伸ばした
『シン・・・く・・・ん・・・』
『ここにいる。だから頑張れ!!』
『うん・・・』
目に涙を溜めて息も絶え絶えの俺の妻・・・俺はその手をしっかり両手で握り締めた
どれだけ長い時間耐えたら・・・赤ん坊に逢えるのだろう
こんなに苦しんでいると言うのに、俺には成す術が無い
そのうち彼女は痛みのピークに達したようで、絞り出すような言葉にならない声を上げていた
握り締めている手は、華奢な彼女のどこにこんな力があるのだろうと思うほど強い力で俺の手に縋る
彼女の名を呼び彼女の額に流れる汗を拭い・・・ただ手を握り締めているだけ
こんな時・・・男の俺は本当に無力だと知った
その痛みや苦しみさえもただ見ている事しかできず、共有してあげることすら出来ないのだ
彼女の様子が急に変った・・・浅い呼吸を繰り返し力まない様に堪えている感じだ
俺は汗に濡れた彼女の前髪を指先で払いながら彼女に向かって何度も名前を呼び掛けた
『・・・ふ・・・ぎゃ~~~!!』
控えめな泣き声が分娩室内に響いた。俺は恐る恐るその方向に目を向ける
たった今彼女のお腹の中から生まれたばかりの血だらけの赤ん坊が、医師の腕に抱かれていた
『おめでとうございますシン・チェギョンさん。女の子ですよ。』
女の子・・・女の子が生まれた・・・・?
俺は深く呼吸をしているチェギョンに声を掛けた
『チェギョン・・・女の子だ!女の子が生まれたっ!!』
『お・・・んなのこ・・・』
朦朧とした表情で彼女はうっすら目を開け赤ん坊の姿を確認し、安堵したように溜息をつくと再び目を閉じた
目尻からつぅーっと一筋涙が零れ落ちる
『良く頑張ったな。お疲れ様・・・』
『う・・・ん。』
彼女は目を閉じたまま満足そうに頷いた
彼女が後処理をしている間、俺は生まれたばかりの赤ん坊と対面した
初めての入浴を経験した赤ん坊は、気分が良さそうにしている
看護師が俺にその赤ん坊を託した。何度もその光景を想像していたが、初めて抱く赤ん坊は少し緊張する
怖々と腕の中に抱くと、小さくて軽い赤ん坊は俺の腕の中で小さく蠢いた
折れそうなほど細い指の一本一本も桜色の頬も・・・そして何よりあのセクシーな唇までもが彼女にそっくりだ
困ったな・・・今から心配だ
彼女に瓜二つの俺達の第一子。俺は赤ん坊を抱いて顔が綻んでいくのを止められなかった
本日の花≪雨上がりの白鳥草≫
はぁ~ちょっとばたついて更新遅くなりました。
九州地方の皆様・・・記録的な豪雨の被害はありませんか?
どうぞお怪我などされませんように・・・
冗談かと思った・・・だが彼女のその瞳はとても真剣だった
万が一の話など聞きたくない。俺の頭の中にはもう俺と君と生まれて来る子供の未来が思い描かれているんだ
俺は初めて・・・彼女からのお願いに応じる事を拒んだ
そんな不吉な事は絶対にない・・・そう思いたかった
彼女の縁起でもない話に不機嫌になってしまう辺り、俺もやはり不安だったのだろう・・・
シン・アパレルファッション春夏物発表会の日・・・俺は何気なく彼女の出産準備用入院バッグを、
出社する時に持って出掛けた
それを見ていた彼女は『用意周到なのね♪』と笑っていたが、俺の予感は見事的中した
秋冬物の発表会の時、出血が起こり急遽入院する事となった彼女だ。今日だって大勢の人前に姿を現し
緊張も疲れもいつもの日常とは比ではないだろう
案の定・・・俺の予感は当たってしまった。
発表会用の衣装がすべて出揃い、大きな拍手とフラッシュを浴びながらステージ中央に歩く彼女は
一歩歩くごとに顔を歪めていた
必死に取り繕う笑顔は普段見慣れているものとは全く別物で、前列の方に席を用意された俺には
額に浮かんだ汗さえも見えるようだった
彼女が一語一語を絞り出す様に発するのをただ見守るのは辛かったが、その挨拶が終わるまでは席を立たず
拳を握り締め彼女を見守った
漸く彼女の挨拶が終わった。その場に招待を受けたマスコミ関係者や業界関係者も
彼女の異変に気がついたようでざわめき始めた
よくやったチェギョン・・・
俺は悠然と席から立ち上がると彼女の立つ舞台中央の下で彼女に声を掛けた
『チェギョン・・・病院だな。』
『ん・・・』
俺は舞台に上がると蹲りそうな彼女の身体を抱き上げ、観客に向かって一礼すると舞台から降りた
恐らくその場にいた両家の両親は事の次第を察してくれているだろう
そんな事よりも今は彼女の状況の方が心配だ
助手席で荒い呼吸を繰り返し呻く彼女を気にしながら、俺はかかりつけの産婦人科に向かって急いだ
『イ・シンさん、出産に立ち会われますか?』
分娩室に入って行く彼女を不安げに見ていた俺に、看護師は救いの手を差し伸べてくれた
『はい。立ち会えますか?』
『ええ。でしたらこれに着替えてください。』
手術着の様なものを渡された俺は、それを持って彼女の入院する病室に入って行った
上着を脱ぎネクタイを緩めワイシャツのボタンをひとつ外し、その上に手術着の様なものを羽織った
分娩室の前に戻っていくと看護師は俺を部屋の中に促がしてくれた
『ん~~~ん・・・ひぃっ・・・・・はっ・・・はぁっ・・・』
チェギョンの横たわる分娩台横に用意された椅子に腰掛け、俺は彼女に声を掛けた
『チェギョン・・・頑張れ!!』
こんな時、掛ける言葉が本当に見つからない。彼女は俺の声にきつく閉じた瞼を開き俺の顔を確認すると
どこか安堵の表情を浮かべ俺に右手を伸ばした
『シン・・・く・・・ん・・・』
『ここにいる。だから頑張れ!!』
『うん・・・』
目に涙を溜めて息も絶え絶えの俺の妻・・・俺はその手をしっかり両手で握り締めた
どれだけ長い時間耐えたら・・・赤ん坊に逢えるのだろう
こんなに苦しんでいると言うのに、俺には成す術が無い
そのうち彼女は痛みのピークに達したようで、絞り出すような言葉にならない声を上げていた
握り締めている手は、華奢な彼女のどこにこんな力があるのだろうと思うほど強い力で俺の手に縋る
彼女の名を呼び彼女の額に流れる汗を拭い・・・ただ手を握り締めているだけ
こんな時・・・男の俺は本当に無力だと知った
その痛みや苦しみさえもただ見ている事しかできず、共有してあげることすら出来ないのだ
彼女の様子が急に変った・・・浅い呼吸を繰り返し力まない様に堪えている感じだ
俺は汗に濡れた彼女の前髪を指先で払いながら彼女に向かって何度も名前を呼び掛けた
『・・・ふ・・・ぎゃ~~~!!』
控えめな泣き声が分娩室内に響いた。俺は恐る恐るその方向に目を向ける
たった今彼女のお腹の中から生まれたばかりの血だらけの赤ん坊が、医師の腕に抱かれていた
『おめでとうございますシン・チェギョンさん。女の子ですよ。』
女の子・・・女の子が生まれた・・・・?
俺は深く呼吸をしているチェギョンに声を掛けた
『チェギョン・・・女の子だ!女の子が生まれたっ!!』
『お・・・んなのこ・・・』
朦朧とした表情で彼女はうっすら目を開け赤ん坊の姿を確認し、安堵したように溜息をつくと再び目を閉じた
目尻からつぅーっと一筋涙が零れ落ちる
『良く頑張ったな。お疲れ様・・・』
『う・・・ん。』
彼女は目を閉じたまま満足そうに頷いた
彼女が後処理をしている間、俺は生まれたばかりの赤ん坊と対面した
初めての入浴を経験した赤ん坊は、気分が良さそうにしている
看護師が俺にその赤ん坊を託した。何度もその光景を想像していたが、初めて抱く赤ん坊は少し緊張する
怖々と腕の中に抱くと、小さくて軽い赤ん坊は俺の腕の中で小さく蠢いた
折れそうなほど細い指の一本一本も桜色の頬も・・・そして何よりあのセクシーな唇までもが彼女にそっくりだ
困ったな・・・今から心配だ
彼女に瓜二つの俺達の第一子。俺は赤ん坊を抱いて顔が綻んでいくのを止められなかった
本日の花≪雨上がりの白鳥草≫
はぁ~ちょっとばたついて更新遅くなりました。
九州地方の皆様・・・記録的な豪雨の被害はありませんか?
どうぞお怪我などされませんように・・・