確かに彼女はお願い事の上手な人種だ。上目遣いで彼女にお願いされたら、俺は絶対にそれを拒めない
だが・・・今メールで送られてきた文面はお願い事ではない。助けを・・・求めている?
彼女から≪助けて≫などと言われた事は、今まで一度たりとも無かった
掌に納まっているスマホに表示された、たった一行のその短い文面を見つめ俺は席から立ち上がると
控室に向かって急いだ
控室にはデザイン部の面々と彼女の御両親がショーの成功を祝っていた
だが・・・主役の彼女の姿はどこにもない
『シン君・・・チェギョンを褒めに来てくれたのかい?』
シン社長・・・いや義父が俺の姿に気が付き問いかけた。俺は逆に彼女の居所を問いかけてみる
『お義父さん・・・チェギョンはどこに行ったのですか?』
『洗面所に行くと言っていたよ、化粧でも治しているんだろう。』
『そうですか。ありがとうございます。』
『あ・・・シン君・・・』
控室ではスタッフ一同が乾杯をしていた。義父は恐らくその輪の中に俺も入れたかったのだろう
だが俺はその場の主役が居ない事が気になって仕方が無い
女性用化粧室の前に立ち、俺は戸惑うことなくその扉を開けた。彼女は恐らく今・・・とんでもない苦境に
立たされているに違いないと思ったのだ
『キャーーーッ!!』
中の洗面台で化粧を直している数名の女性に悲鳴を上げられたが、俺はそちらに視線を向けるでもなく
軽く会釈だけし一言だけわびの言葉を言う
『申し訳ない。緊急なので・・・』
そしてそのどこかにいるであろうチェギョンに声を掛けると、一番奥の個室から彼女の声が聞こえた
俺はその扉の前に立ち彼女にそのドアを開けるよう促した
ドアが開くと顔面蒼白の彼女が、涙で頬を濡らしながら何が起こったのかを打ち明けた
俺は彼女を抱き上げ・・・病院に急ぐ。俺達の子供に何か良くない事が起こったら、彼女は自分を責めるだろう
そうさせないためにも、一秒でも早く診察を受けさせる必要があった
彼女は切迫流産と診断され、しばらくの安静入院を余儀なくされたが最悪の事態は免れた
病院で用意されたパジャマに着替えた彼女は、手当も受けかなり顔色も回復している
『いいか?チェギョン・・・先生も言っていたが今が一番大事な時期だ。
とにかく安静にしているんだ。解ったな?』
『うん。解った。でも・・・ショーの後片付け・・・』
『そんな事はデザイン部の人間がすればいい事だ。ご両親もとにかく安静にしてくれるよう言っていた。』
『大丈夫かなぁ・・・』
病院のベッドに身を横たえながらそんな心配をする彼女。すべては配慮の足りない俺の責任だ
俺は彼女の髪を撫でながら優しく諭した
『今・・・君は何を一番優先させたらいいのかを考えろ。
仕事の事も俺の事も心配しなくていい。とにかくお腹の中の赤ん坊を一生懸命育ててくれ。いいな・・・』
『うん。』
医師から安静にしていれば大丈夫と言われたことで安堵したのか、彼女は漸く穏やかな顔で俺に微笑んだ
もちろん彼女の居ない部屋に早く帰ってもつまらない。俺は面会時間終了ギリギリまで毎日チェギョンの部屋に
入り浸った
俺が来る前には母が毎日やってきていると言う。そして毎日美味しいと言われる手土産を持参し
彼女を確実に肥えさせている
おかげで彼女は退屈しない入院生活を送っているようだ。部屋から出ることを禁じられた彼女だから
俺や母が現れるのだけがきっと楽しみなのに違いない
チェギョンが入院して数日経ったある日・・・彼女の元に向かおうとする俺は、
地下駐車場で意外な人物に出くわした
『シン!!奥さん・・・デザイナーデビューおめでとう。』
それは従兄弟のユルだった。そう・・・俺の嫉妬心を無駄に煽ってくれたあの男だ。
頼むから今日は余計な言葉を言わないでくれ・・・俺は心からそう願った
『あぁ。おかげさまで・・・どうもありがとう。』
『チェギョンは元気にしてる?』
チェギョンなんて親しげに呼ぶな。お前はただの大学の同期と言うだけの関係だろう?
『あぁ。元気だが・・・ただいま入院中だ。』
『元気だけど入院中って?』
驚いた顔のユルに俺はしたり顔で言ってやった
『折角子供を授かったのに、少し無理をしてしまったらしい。』
ユルは信じられないと言う顔で俺に聞き返した
『チェギョンが・・・妊娠?』
『あぁ。結婚しているんだから、妊娠してもおかしくはないだろう?』
恐らくその時の俺の顔は優越感に満ち溢れていた事だろう
不意にユルは視線を落とし呟くようにその言葉を口にした
『好きだったんだ・・・』
『あぁ?』
『チェギョンを本気で好きだったんだ。だけど彼女は・・僕に告白する隙も与えなかった。』
まぁ無理もないな。出逢った頃の彼女を考えると、ユルが付け入る隙がなかったと言うのも理解できる
『そうか。だがもう・・・彼女は俺の妻だ。今お前が彼女をどう思っていようが、その気持ちは二度と口にするな。
彼女を混乱させるような行動は俺が許さない。いいなユル!!』
語気を荒げる俺・・・だがユルの口調は穏やかだった
『いいなシンは・・・お前が羨ましいよ。僕が大学時代にずっと恋してた彼女を、容易く手に入れたんだから。
チェギョンを大事にしてやってくれ。子供が生まれたら・・・お祝いくらいはさせてくれよ。』
『・・・あぁ・・・』
渋々だったが俺はユルの言葉に頷き、ユルと別れ今日も彼女の元へと向かう
もちろん嫉妬心から彼女に怖い思いをさせた事のある俺は、ユルと逢った事を彼女には話さなかった
そんなに長い入院生活ではなかったが、彼女の寝顔を見守れない日々はやはり辛かった
やがて退院許可が下り、俺は彼女を迎えに行った
新ブランド発表の日、衣装と一緒に身につけていたハイヒールは、シューズボックスの奥深くしまい込んだ
彼女もデザイナーとしての立場があったから言わずにいたが、これからは彼女の体調管理も俺の仕事だ
細かい事まで彼女には心配りをしなければならない
しかし・・・短い入院生活の間に彼女がふっくらした印象なのは、俺の気のせいか?と思ったが
どうやら彼女は≪食べ悪阻≫という状態に入っているらしく・・・お腹が空くと気持ちが悪くなるらしい
ひたすら何かを口に運ぼうとする彼女に・・・低カロリーで添加物の入っていないおやつを与えるのも
大切な俺の仕事だ
『シン君・・・お腹空いちゃったんだけど・・・』
ほら、また彼女が何か食べようとしている。春夏物のショーの時にまたステージに立つんだ
あまり太らせてはいけない・・・もちろんお腹の中の子供の為にもな・・・
『あ・・・そうだ~トッポギ作って食べようっと~♪』
『チェギョン・・・君が作ると辛く作り過ぎる。俺が・・・作ろう。』
気が付けば俺は、すっかり料理上手な夫の烙印を押されているようだ
まぁ・・・それも幸せだから良しとしよう。
だが・・・今メールで送られてきた文面はお願い事ではない。助けを・・・求めている?
彼女から≪助けて≫などと言われた事は、今まで一度たりとも無かった
掌に納まっているスマホに表示された、たった一行のその短い文面を見つめ俺は席から立ち上がると
控室に向かって急いだ
控室にはデザイン部の面々と彼女の御両親がショーの成功を祝っていた
だが・・・主役の彼女の姿はどこにもない
『シン君・・・チェギョンを褒めに来てくれたのかい?』
シン社長・・・いや義父が俺の姿に気が付き問いかけた。俺は逆に彼女の居所を問いかけてみる
『お義父さん・・・チェギョンはどこに行ったのですか?』
『洗面所に行くと言っていたよ、化粧でも治しているんだろう。』
『そうですか。ありがとうございます。』
『あ・・・シン君・・・』
控室ではスタッフ一同が乾杯をしていた。義父は恐らくその輪の中に俺も入れたかったのだろう
だが俺はその場の主役が居ない事が気になって仕方が無い
女性用化粧室の前に立ち、俺は戸惑うことなくその扉を開けた。彼女は恐らく今・・・とんでもない苦境に
立たされているに違いないと思ったのだ
『キャーーーッ!!』
中の洗面台で化粧を直している数名の女性に悲鳴を上げられたが、俺はそちらに視線を向けるでもなく
軽く会釈だけし一言だけわびの言葉を言う
『申し訳ない。緊急なので・・・』
そしてそのどこかにいるであろうチェギョンに声を掛けると、一番奥の個室から彼女の声が聞こえた
俺はその扉の前に立ち彼女にそのドアを開けるよう促した
ドアが開くと顔面蒼白の彼女が、涙で頬を濡らしながら何が起こったのかを打ち明けた
俺は彼女を抱き上げ・・・病院に急ぐ。俺達の子供に何か良くない事が起こったら、彼女は自分を責めるだろう
そうさせないためにも、一秒でも早く診察を受けさせる必要があった
彼女は切迫流産と診断され、しばらくの安静入院を余儀なくされたが最悪の事態は免れた
病院で用意されたパジャマに着替えた彼女は、手当も受けかなり顔色も回復している
『いいか?チェギョン・・・先生も言っていたが今が一番大事な時期だ。
とにかく安静にしているんだ。解ったな?』
『うん。解った。でも・・・ショーの後片付け・・・』
『そんな事はデザイン部の人間がすればいい事だ。ご両親もとにかく安静にしてくれるよう言っていた。』
『大丈夫かなぁ・・・』
病院のベッドに身を横たえながらそんな心配をする彼女。すべては配慮の足りない俺の責任だ
俺は彼女の髪を撫でながら優しく諭した
『今・・・君は何を一番優先させたらいいのかを考えろ。
仕事の事も俺の事も心配しなくていい。とにかくお腹の中の赤ん坊を一生懸命育ててくれ。いいな・・・』
『うん。』
医師から安静にしていれば大丈夫と言われたことで安堵したのか、彼女は漸く穏やかな顔で俺に微笑んだ
もちろん彼女の居ない部屋に早く帰ってもつまらない。俺は面会時間終了ギリギリまで毎日チェギョンの部屋に
入り浸った
俺が来る前には母が毎日やってきていると言う。そして毎日美味しいと言われる手土産を持参し
彼女を確実に肥えさせている
おかげで彼女は退屈しない入院生活を送っているようだ。部屋から出ることを禁じられた彼女だから
俺や母が現れるのだけがきっと楽しみなのに違いない
チェギョンが入院して数日経ったある日・・・彼女の元に向かおうとする俺は、
地下駐車場で意外な人物に出くわした
『シン!!奥さん・・・デザイナーデビューおめでとう。』
それは従兄弟のユルだった。そう・・・俺の嫉妬心を無駄に煽ってくれたあの男だ。
頼むから今日は余計な言葉を言わないでくれ・・・俺は心からそう願った
『あぁ。おかげさまで・・・どうもありがとう。』
『チェギョンは元気にしてる?』
チェギョンなんて親しげに呼ぶな。お前はただの大学の同期と言うだけの関係だろう?
『あぁ。元気だが・・・ただいま入院中だ。』
『元気だけど入院中って?』
驚いた顔のユルに俺はしたり顔で言ってやった
『折角子供を授かったのに、少し無理をしてしまったらしい。』
ユルは信じられないと言う顔で俺に聞き返した
『チェギョンが・・・妊娠?』
『あぁ。結婚しているんだから、妊娠してもおかしくはないだろう?』
恐らくその時の俺の顔は優越感に満ち溢れていた事だろう
不意にユルは視線を落とし呟くようにその言葉を口にした
『好きだったんだ・・・』
『あぁ?』
『チェギョンを本気で好きだったんだ。だけど彼女は・・僕に告白する隙も与えなかった。』
まぁ無理もないな。出逢った頃の彼女を考えると、ユルが付け入る隙がなかったと言うのも理解できる
『そうか。だがもう・・・彼女は俺の妻だ。今お前が彼女をどう思っていようが、その気持ちは二度と口にするな。
彼女を混乱させるような行動は俺が許さない。いいなユル!!』
語気を荒げる俺・・・だがユルの口調は穏やかだった
『いいなシンは・・・お前が羨ましいよ。僕が大学時代にずっと恋してた彼女を、容易く手に入れたんだから。
チェギョンを大事にしてやってくれ。子供が生まれたら・・・お祝いくらいはさせてくれよ。』
『・・・あぁ・・・』
渋々だったが俺はユルの言葉に頷き、ユルと別れ今日も彼女の元へと向かう
もちろん嫉妬心から彼女に怖い思いをさせた事のある俺は、ユルと逢った事を彼女には話さなかった
そんなに長い入院生活ではなかったが、彼女の寝顔を見守れない日々はやはり辛かった
やがて退院許可が下り、俺は彼女を迎えに行った
新ブランド発表の日、衣装と一緒に身につけていたハイヒールは、シューズボックスの奥深くしまい込んだ
彼女もデザイナーとしての立場があったから言わずにいたが、これからは彼女の体調管理も俺の仕事だ
細かい事まで彼女には心配りをしなければならない
しかし・・・短い入院生活の間に彼女がふっくらした印象なのは、俺の気のせいか?と思ったが
どうやら彼女は≪食べ悪阻≫という状態に入っているらしく・・・お腹が空くと気持ちが悪くなるらしい
ひたすら何かを口に運ぼうとする彼女に・・・低カロリーで添加物の入っていないおやつを与えるのも
大切な俺の仕事だ
『シン君・・・お腹空いちゃったんだけど・・・』
ほら、また彼女が何か食べようとしている。春夏物のショーの時にまたステージに立つんだ
あまり太らせてはいけない・・・もちろんお腹の中の子供の為にもな・・・
『あ・・・そうだ~トッポギ作って食べようっと~♪』
『チェギョン・・・君が作ると辛く作り過ぎる。俺が・・・作ろう。』
気が付けば俺は、すっかり料理上手な夫の烙印を押されているようだ
まぁ・・・それも幸せだから良しとしよう。
本日の花≪松葉牡丹≫
マジカルキューティーとそっくりね~(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
しかしすごい雨でした。
雨があがったら・・・寒いよ・・・
マジカルキューティーとそっくりね~(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
しかしすごい雨でした。
雨があがったら・・・寒いよ・・・