イ・グループ本社ビルの地下駐車場・・・そこにはシンの車の他数台の車が置いてあった
シンとチェギョンは車から降り、運転手に礼を言った
『キムさんありがとう。』
『どうもありがとうございました♪』
キム運転手は会釈をすると走り去っていった
今日はいつものようなスーツ姿ではなくラフな格好のシンは、自分の車を開けチェギョンに言う
『チェギョン・・・送っていくよ。』
『あ・・・シン君、私…行かなきゃならないところがあるんだ。』
『えっ?それならそこまで送るよ。』
『あ~大丈夫。このすぐ近くだから。』
『だが・・・スッピンだろ?』
『やだなぁ~私はおば様に≪スッポンでも綺麗≫と言われた女だよ~♪』
『くっ・・・』
『それに・・・こうすれば大丈夫。』
チェギョンは自分のカバンの中からルージュを取り出すと唇に引いた
『ねっ?』
『あぁ。口紅ひとつで随分違うな。』
『でしょ?じゃあシン君・・・また月曜日に。』
『あぁ。気を付けて行けよ。世話になったな。』
『気にしないで~♪』
手を振ってチェギョンが去っていくのを見送ったシンは、チェギョンを気に掛けながら小さく呟いた
『そう言えば・・・別れた彼女のスッピンなど見たこともなかったな。
今思えばそれだけ気を許していなかったという事か。くくっ・・・』
帰国してきたばかりの頃・・・捨てきれぬ別れた女性への想いを抱えていたシンだったが、いつも近くにいて
底抜けに明るく自分を労わってくれたチェギョンのおかげで、シンの脳裏から別れた女性への未練は
徐々に五薄らいでいった
『本当にいい奴だな。シン・チェギョン・・・』
いい奴と呟きながら、チェギョンの事を考えるとつい笑みが零れてしまう
『父さんも母さんも・・・あんなに楽しそうにしているのは見たことがない。』
そしてそれは自分も両親と同じ気持ちだとシンは気づいた
一方チェギョンは、ちょうど来たバスに乗り込み自宅に戻っていった
(全く・・・会社の駐車場で普段着のシン君とスッピンの私が、もし誰かに見られたらどうすんの!
シン君は危機管理がなってな~~い!しかし・・・なんとも眼福な夜だったな。へへへ・・・)
肩にかかるシンの頭の重みや、しどけない寝姿を思い出しつい顔が綻ぶのをチェギョンは両手で頬を叩き戒めた
(ったく・・・何を腑抜けているの。もぉ~しっかりしなさい!!)
家に着いたチェギョンは、昨晩の事情を話し母スンレから相当叱られたようだ
だがその一方で父のナムギルは≪玉の輿が近くなった≫と密かに口角を上げて笑うのだった
チェギョンと別れて帰宅したシンは、二日酔いも手伝って家でのんびりしていた
随分早く帰宅したシンにミンは問い掛けた
『シン・・・あなた、チェギョンちゃんをどう思っているの?』
『あぁ?とてもいい奴だと思っています。』
『それだけ?』
『母さん…どういう意味ですか?』
『あなたが帰って来るまでチェギョンちゃんがどんなに待っていたか・・・あなたは知らないでしょう?』
『えっ?・・・はい。』
『女ってのはね、好きでもない男を介抱なんかしないのよ。あなたにはそれが分かってる?』
『あ・・・いえ・・・』
『チェギョンちゃんをちゃんと家まで送り届けたんでしょうね?』
『あ・・・それが、チェギョンは用事があるといって会社で別れました。』
『ほらね。チェギョンちゃんはそんな子なのよ。』
『そんな子とは?』
『考えても見て。今日のチェギョンちゃんはスッポン・・・違ったわスッピンだったのよ。
そんな状態で昨日と同じ格好で、もし社員の誰かにあなたといるところを見られたらどうなると思う?』
『あ・・・確かに・・・』
『あなたの経歴に傷がつかないように配慮したのよ。その気持ちがわからない?
普通だったらイ・グループの後継者と噂になるなんてこれ幸いと思うでしょう?
あの子は違うのよ。そんな損得勘定のできない子なのよ。
チェギョンちゃんはね・・・あなたが帰国するのをずっと待っていたの。
あなたの写真を見ながら四年間もね!』
『気づきませんでした。』
『少しは反省したほうがいいわ。あんないい子を放っておいたら、
どこかのトンビにさらわれちゃうんですからね!』
『はい。』
チェギョンが自分を想っている・・・よく考えてみれば頷けることばかりだった
(俺は・・・君の優しさに甘えすぎていたのかもしれないな。)
別れた女の事を告白し、いつもチェギョンの機転に救われていたシン
(そうだな。やり直すには…きっと君の存在が必要だ。)
シンは自分の頭の中に残る別れた彼女の残像を消して、そこにチェギョンの姿をインプットするのだった
月曜日・・・チェギョンは晴れやかな気持ちでデザイン部の部屋に入っていった
『おはようございま~~す♪』
するとその中の一人・・・飲み会の年、シンに送ってくれと言った先輩社員に腕を引っ張られた
『チェギョンさん・・・ちょっと来て。』
『えっ?はい。』
先輩社員に引っ張られ給湯室に連れていかれたチェギョンは、そこでとんでもないことを言われた
『チェギョンさん・・・あなた一体どういうつもり?』
『えっ?何のことでしょう?』
『飲み会の後…代表をどこに連れいったの?』
『えっ?・・・・』
まさか二人でタクシーに乗るところを見られていたとは・・・チェギョンは顔色を失い真っ青になった
『あ・・・あのっそれは・・・』
『新入社員のあなたが代表をお持ち帰りしたの?したたかね~~!』
『あ・・・違うんです。それは・・・』
『あんなに若くて素敵な代表に、もう手を付けたなんて・・・あなたってすごいやり手なのね。』
そのうちにはその騒ぎを聞きつけた社員たちが集まりだし、慌てて代表のところにその旨を報告に言った
デザイン部部長から話を聞いたシンが、その場に姿を現した
『一体何の騒ぎですか?』
シンが来たことに動揺しながらも。女性社員は振られた腹いせのように大勢の社員の前でそのことを暴露した
『シン・チェギョンさんが、飲み会の後代表をどこに連れて行ったのか話を聞いていたんです。』
『そうか?だったら私に聞けばいいでしょう?家に帰りましたよ。』
『は?家に・・・ですか?
『その通りです。シン・チェギョンさんは私とは幼馴染でね、泥酔した私を放っておけず
家まで送ってくれたんです。
嘘だと疑うなら…ほら・・・会長もいらしたみたいです。会長に聞いてみたらいかがですか?
会長・・・先週の金曜日、シン・チェギョンさんは私を家まで送り届けてくれましたよね?』
『そうだが。それが何か問題なのかな?』
正確には送ってそのままイ家に宿泊したのだが・・・そこまで言う必要はない
会長のその言葉を聞き、今度は女性社員が青ざめた
『そ・・・そうでしたか。失礼いたしました。』
『さぁみんな・・・仕事に戻ってください。』
シンからの解散命令で社員たちは其々の部署に戻っていった
後に残ったシンとヒョン…そしてチェギョンは、事が収束して安堵の溜息を吐いた
『はぁ・・・会長にまでお出ましいただいてすみませんでした。』
『何を言う。チェギョンちゃんの一大事じゃないか。』
『すまなかったチェギョン・・・俺のせいで・・・』
『いいえ~ではお仕事に戻ります!』
たった今騒ぎを起こした女性社員のいる部屋に戻るのは肩身が狭いだろうに、
チェギョンは何事もなかったかのように平然とデザイン部の部屋に入っていった
ちょっと皆様二…お詫びしなきゃならないことがあるんですぅ。
後で記事をアップしますね。