チェギョンから飛び出した鋭い質問・・・それに何と答えるべきかシンはしばらく悩んでいた
そして悩んだ挙句口を開く・・・
『そうだな。社会勉強といったところだ・・・』
『社会勉強?』
『あぁそうだ。ファミレスには色んな年代や階級の異なる人間が来る。俺とギョンはこの国経済界の
何れトップに立つ人間だ。色んな人種を見て回るのも勉強だ。』
『へ~~っ・・・』
この長ったらしく少しカチンとくる物言いに、チェギョンはしもべであることも忘れ毒づいた
『だったらさ・・・いっそのことアルバイトすればいいのに・・・』
『なにっ?俺達がファミレスでバイトだと?』
『うん。今夏休み中のホールスタッフの人手が足りなくて、募集しているんだよ。
人間観察したいなら、いっそのことバイトして直に人と接してみたらどうかな?
その方がきっと勉強になると思うよ。』
『そんな…俺達がバイトだなど・・・』
その時ひょいとギョンが二人の会話に入って来る
『そうなの?チェギョン・・・』
『うん~♪あ・・・でもぉお坊ちゃまには無理かもな~~♪』
『そっ…そんなことないさ。俺達にできないことなどないよ~♪』
『そうかな~~♪』
そこにガンヒョンもチェギョンを援護するようにやってくる
『無理でしょう。お坊ちゃまに接客業だなんて・・・絶対に無理。』
女性二人からの≪お坊ちゃまは何もできない≫と言わんばかりの口調に、プライドを傷つけられたのか
シンは思わず口を開いた
『ギョン・・・明日面接に行くか。』
『おぉ~いいね、そうしよう~♪』
『ま・・・マジで?』
『アンタ達本気なの?』
『あぁ本気だ。そうだな。チェギョンの言うことも尤もだ。面と向かって人間観察したらいい。』
本音を言うと観察したいのはある一定の女性だけなのに、なんだか話がややこしくなってしまったが
一旦出た言葉は後は引けないシン
(なんてことだ。なぜ俺達が人に頭を下げなければならない?)と心の中で毒づきながらも
嬉しそうにテンション上げまくりのギョンを横目で眺めていた
気が付くと出ていた料理全てを堪能しドリンクバーも一通り網羅した頃、パーティーはお開きとなった
漸く出番が来たとばかりに皿をキッチンに運んでいくチェギョンとガンヒョン
ところがキッチンの中には大勢のメイドが待機しており、チェギョンとガンヒョンの出る幕はない
そんな時・・・ユルがチェギョンに声を掛けた
『チェギョン・・・帰るついでだし送って行こうか?』
『えっ?いいの?』
だがそれを阻ぎするようにシンは二人の間に立ちはだかった
『チェギョンはまだしもべの仕事が残ってる。だからユルは気にせず帰ってくれ。』
『そうなの?わかった。じゃあチェギョン・・・まだ大学でね。』
『うん。ユル君気を付けて帰ってね♪』
招待客たちが帰った後、シンとギョンは自分の車にチェギョンとガンヒョンを誘った
それぞれの車に乗り込み、同じ方向に二台の車が走り出す
ギョンの車の中ではなんだか釈然としないガンヒョンが首を傾げていた
『どうしたのガンヒョン・・・』
『いや別に・・・』
『あっそうだ!バイト代・・・シンから預かってきたんだよ。これ・・・』
ギョンはガンヒョンがバイト代が支払われなかったことを、不満に思っていると勘違いしたのだ
『えっ?』
膝の上に置かれた封筒・・・ガンヒョンは一応中を確かめてみる
するとそこには常識では考えられないほどの報酬が入っていた
呆れたガンヒョンはそれをギョンに突き返した
『あのさ・・・アタシ、報酬をもらう事なんか何もしていないんだけど?
逆に豪華な料理をお腹いっぱい食べた支払いをしなきゃならない程だわ。
こんなもの・・・貰えるはずないでしょ?』
『えっ・・・でも・・・』
『これ本当にイ・シンから預かったの?本当は違うんじゃないの?』
『えっ?』
『だってどう考えたっておかしいわよ。あれだけメイドさんがいる家で皿洗いさえさせて貰えなかったのよ。
本当は・・・これ、アンタが準備したんじゃないの?』
『あ・・・』
ギョンはガンヒョンの鋭さにそれ以上何も言えなくなってしまった
『やっぱりね。最初からなんか変だなと思っていたのよ。』
『ごめん・・・』
『とにかくこれは受け取れないわ。あんなにご馳走になっちゃったのに・・・ハンカチ一枚じゃあ
申し訳ない気分だわ。』
『あ~いいんだって!』
『それはイ・シンの口から聞くわ。とにかくこれは引っ込めて頂戴。』
『じゃあ・・・このお金で今度食事でも・・・』
『それはアンタの出方次第ね。さて~~アンタたちがファミレスの面接に受かるのかしら?』
『受かるさ。俺達を甘く見ない方がいいよ。』
『それはどうかしら~はははは~♪』
ギョンの魂胆は鋭いガンヒョンに見破られ、その上ギョンはファミレスでの面接に受からなければ
ガンヒョンから相手にもしてもらえないことを知り、更に闘志を燃やすのだった
一方・・・シンの車の中では・・・
『あ~しまった。ばあやさんにご挨拶してくるの忘れちゃった~~!』
『ばあやね・・・言っておくよ。』
『ところで・・・なんだか今日はすごくご馳走になっちゃって、あんなプレゼントで悪かったなぁ~って少し罪悪感
感じているんだよね。』
『もっと手伝うことがあったはずなのに、メイドたちの働きが良すぎたせいだ。気にするな。』
『あ・・・そうだ。ユル君にまだしもべの仕事が残ってるって言ってなかった?』
『あ・・・買ってきてほしい物があるんだ。面接に行くのに必要な物・・・』
『あ!履歴書だね?本当にバイトの面接受けるの?』
『あぁ。社会勉強になるんだろう?人間観察もできるんだろう?』
『うん。できるよ。』
『まぁ俺もギョンも多忙だから、週に三日くらいになるだろうが・・・』
『それはさ~面接に受かってから言って。あはは~~♪』
『心配ない。こう見えても外面はいいんだ。受かるさ。』
『今度のバイト代が入ったら、もうちょっとましな物プレゼントするよ。ポケットチーフだけじゃあ申し訳ないよ。』
『そうか?だったら・・・この夏のバイト代が入ったら、なにか買って貰おうかな。』
『高いものはダメだからね~~!』
『あぁその時には、俺のバイト代で食事に行こう。』
『えっ?それって本末転倒じゃ?』
『別にいいだろう。くくっ・・・』
『あっ・・・ひとつ忠告しておくけど、面接は普段着で来た方がいいよ。いつも着ているようなスーツじゃあ
受かるものも受からないかも。』
『あぁ。肝に銘じておく・・・』
もうすっかり同じファミレスでバイトをする気になっているギョンとシン
さてそう上手く事が運ぶのだろうか・・・
『じゃあまたな。』
『うん、ファミレスで逢おうね~~♪』
しもべ指令という名目の履歴書を買いに行く役目を果たしたチェギョンは、車から降りながら
冷やかし半分のセリフを口にした
その後シンは自宅に戻り、ミンの元へ向かった
』お母様・・・以前も聞きましたが、私にばあやなどいましたか?』
『えっ?なぜ?』
『チェギョンが≪ばあやさんに挨拶するの忘れた~!≫と悔やんでいたものですから。』
『まぁ~そうなの?きっと一番年配のハンさんの事じゃないかしら?伝えておくわね~♪』
満面の笑みでそう答えた母の顔を見て、シンはひょっとして…と勘繰った
(お母様・・・ひょっとして、チェギョンに自分はイ家のばあやだと名乗ったのでは?)
そう考えると辻褄が合うのだ
あの自転車転落騒ぎの時・・・チェギョンを家まで送り届けたのは、他の誰でもない母ミンだったのだから・・・
さて・・・シン君とギョン君は
ファミレスのアルバイトができるのか。
またミン様はこの先どう動くのか
楽しみにしていてくださいね。