イ家の広いリビングに新設されたドリンクバーコーナー
その前でミンは、チェギョンにこれをどうしても見せたい誘惑に駆られていた
その時・・・外出から帰ってきたシンがミンに声を掛けた
『お母様ただいま戻りました。こっ・・・これ、一体どうなさったんですか?』
『えっ?ドリンクバーよ。知らないでしょう?』
したり顔で自慢するミンにシンは言い返した
『知っていますよ。』
『あらっ?そうなの?これ…とっても美味しいのよ。使い方を教えましょうか?』
『それも知っています。一杯飲んでも構いませんか?』
『ええどうぞ。』
シンはグラスを手に取りそれに氷を入れると、アイスコーヒーを注いだ
そしてソファーに腰掛けそれを口に運ぶ
『あぁっ?とても香りがよくて美味しいアイスコーヒーですね。』
『それは当然よ~♪インスタントなんかじゃないの。ちゃんと最高級の豆を焙煎しているんですから。
紅茶だって最高級茶葉を使用しているのよ。
はっ!』
ミンはシンの顔をまじまじと見つめ、あることが頭の中に閃いた
『そうだわシン・・・あなた来週お誕生日ね。』
『ええ。確かにそうです。』
『気の置けないお友達と、このリビングで誕生パーティーを開いたどうかしら?』
『そうですね。それはいい考えだと思います。』
(あっ・・・でもシンの誕生日当日は、チェギョンちゃんがアルバイトの日だわ。日をずらさないと・・・)
『あ・・・ですがその日私は少し用事が・・・木曜日ではどうでしょうか。』
『木曜日?いいんじゃないの~♪あっでもぉ・・・この間のパーティーみたいな
品性の乏しい女の子は呼ばないでいただけるかしら?お母様・・・体調を崩しそうだったわ。
そうね・・・あなたのしもべちゃんなんか・・・呼んだらどうかしら?あの子にお手伝いして貰ったらいいわ。』
『あぁ・・・それはいい考えです。彼女に聞いてみます。』
もちろん聞いてみると言いながら半強制的に参加させるのだろうが・・・
『あ~でもぉ・・・またしもべちゃんが、≪1時間もかけて自転車でやって来る≫のは気の毒だわ。
それに帰りだってあの≪魔のカーブ≫でまた道路から転落したら大変だし・・・』
『解りました。私が迎えに行くことにしましょう。あ・・・お母様、私は今夜、外で食事しますので
私の分は用意しないでください。』
『(最近外食が多いのね・・・)わかったわ。』
母と息子の思惑は同じなのだが、それも知らず互いに≪シメシメ≫と思っているミンとシンだった
その晩・・・シンとギョンは、二人がアルバイトをしているファミレスに向かった
生憎席に案内してくれたのは、チェギョンでもガンヒョンでもなかった
と・・・なると必然的に接客してくれるのは、案内してくれた店員となってしまう
(しまった。来週の事が話せない。)
ひとまずシンはギョンにパーティーの事を先に話そうと思う
『ギョン・・・来週の木曜日、俺の家で誕生パーティーをする。』
『えっ?シンの誕生日って水曜じゃなかった?』
『あ?あぁ…ちょっと水曜は都合がつかなくてな。木曜になったんだ。来て貰えるか?』
『もちろん行くよ~♪行くに決まってるぅ~~♪だけどきっとお前の取り巻きたちは、
おばさんに出入り禁止を喰らったんだろう?』
『あぁ。その通りだ。』
『え~~~っ・・・女の子が全くいないパーティーなんて華がない~~!』
『そう言うだろうと思った。だから・・・チェギョンを呼ぼうかと思っている。』
『えっ?チェギョンはお前んちに行っても大丈夫なのか?』
『あぁ。あの仕事ぶりだ。お母様も≪手伝って貰うといいわ≫と仰っていた。』
『シン~~物は相談だけど・・・もう一人お手伝いの女性はいかが~?』
『くくっ・・・イ・ガンヒョンか?』
『もちろん~~♪ガンヒョンはお前んちに行く理由がないから、≪アルバイトしてくれ≫ってことでさ~~♪』
『あぁいいだろう。』
『もちろんガンヒョンのバイト代は俺が持つ!!送迎も俺がする。
ってことは・・・俺達、酒は飲めないな~~あはは~~♪』
『別にいいさ。昼間から酒が飲みたいわけじゃない。じゃあ・・・チェギョンにメールしておく。』
店内で話しかけられないシンは、すぐさまチェギョンにメールを送った
≪しもべ・・・バイトが終わったら駐車場で待っている。しもべ稼業の相談だ。
イ・ガンヒョンも連れてきてくれ。≫
程なくしてチェギョンからの返信が送られてくる
≪わかった。≫
その日シンとギョンはわざわざチェギョンやガンヒョンを呼び出すこともせず、大人しく食事をし
それから二人の仕事ぶりを目を細めて観察していた
『なあシン・・・ここでバイトしたらガンヒョンに近づけるかな?』
『ギョン・・・俺達が人に頭を下げられると思うか?』
『あ~それは無理かもな。』
『無理だろう?だからこうやって客になって通ってるんじゃないか。』
『はぁ~そうだよな~。』
近づきたいのに一般の学生のように安易に近づけない
御曹司のちっぽけなプライドに苛まされるシンとギョンだった
チェギョンとガンヒョンが仕事を上がる時間・・・シンとギョンは一旦乗り込んだ車から降り、
車の横で二人を待っていた
それから5分ほど経った頃・・・チェギョンとガンヒョンは姿を現した
『イ・シン君・・・また来たんだ~♪』
『あぁ。結構気に入ってな。』
本当は何が気に入って通うのか一目瞭然だが、シンはチェギョンに不敵な笑みを向けた
『それで・・・しもべのお仕事とは?』
『来週の木曜日、うちでパーティーがある。手伝いに来い。バイトは休みだよな?』
『あ・・・うん。わかったよ。で・・・ガンヒョンも呼んだ理由は?』
シンはガンヒョンに視線を向けた
『イ・ガンヒョンもその日チェギョンと一緒に、バイトして貰えないかなと思って・・・』
『えっ?アタシも?』
『あぁ・・・頼めるか?』
『まぁ・・・財閥の家なんて滅多に見られないし、興味本位で行っちゃおうかしら。』
『じゃあ決まりだ。チェギョン・・・お前は木曜日の午前9時半にこの間送った場所に迎えに行く。』
『えっ?今回送迎付き?』
『あぁ。しもべにしては高待遇だろう?』
『それは助かるかも。あの坂がなかなかの難所でね~~!』
『くっ・・・じゃあその時間にな。あ・・・イ・ガンヒョンはギョンが迎えに行く。』
『えっ?アタシはこの男が迎えに来るの?』
『そうだよ俺が迎えに行く。相手に不足がある?』
『不足って言うか・・・。』
『とにかく待ち合わせ場所とか時間の打ち合わせをしたいから、ここに連絡して。』
ギョンは自分の名刺をガンヒョンに手渡した
『解ったわ。ところでイ・シン・・・その日の格好はジーンズでいいの?』
『あ・・・すまないがジーンズはちょっと・・・』
『何のパーティーなのよ。』
『俺の誕生日だ。』
チェギョンは驚いて聞き返した
『来週の木曜日がお誕生日なの?』
『いや…誕生日は前日だ。』
『なのに当日じゃなくて木曜日にパーティーを?』
『あぁ。少し都合が悪くてな。』
『ふ~~ん。じゃあスカートで行った方がいいんだね?』
『あぁ。今回はガーデンパーティーじゃなくて室内だからな。』
『おぉ~~財閥のお宅訪問だね~♪楽しみだねガンヒョン・・・』
『ええ。楽しみね。どんなにすごい家なのかしら・・・』
『すごいなんてもんじゃないよ。門からお屋敷までが遠いのなんのって・・・』
『今回は迎えに行くんだから文句言うな。それに・・・自転車でやってきて、転んで怪我などされては困る。』
『あ~確かにね。』
『じゃあガンヒョン…連絡待ってるよ~♪』
『わかったわ。』
『早めに電話して。』
『わかったってば・・・』
こうしてチェギョンとガンヒョンは、送迎付きでパーティーのお手伝いをすることとなった
だが・・・ドリンクバーが設置されたイ家で・・・また今回は料理なども前以てテーブルに並んでいるのだ
手伝うことなど正直全くないのである
つまり・・・手伝いやアルバイトという名目で、二人はシンの誕生パーティーに招待されたのだった
ん~~おかしいな。
今日はずっと雨の予報だったのに・・・
お日様さえ出ていたよ。
台風は・・・今どこにいらっしゃるのだろうか・・・