『最後に確認のために聞いておきたいのだが、チェギョンさん・・・君は、その政治家のお父さんに対し
親子としての愛情を持っているかね?』
どうしてそんな事を聞くのだろうと、俺は不思議そうに父を見つめた
チェギョンは一瞬息をのみ、言葉に詰まったようだった・・・だがしっかり父を見つめると戸惑いも無く答えた
『正直な気持ちを申し上げてもいいでしょうか?』
『ああもちろんだ。正直な気持ちが聞きたい。』
『父と言う人に対して・・・私はお父さんと面と向かって呼んだことはありません。
親子らしい会話をしたこともありません。私にとって父とは・・・他人よりも遠い人です。』
なんて哀しい言葉なんだろう。チェギョンからそんな言葉が飛び出すとは思っていなかった俺は、
信じられない思いでチェギョンに視線を向けた
そう言い切ってしまったチェギョンは、どこか哀しそうだった
そんな他人よりも遠い存在のいいなりになって嫁に行くなんて、どうしても納得がいかない
だがその理由は、帰りの車の中でチェギョンから聞かされることとなった
両親に挨拶をし、車に乗り込み自宅敷地内を出た時、チェギョンはぽつりと呟くように言う
『シン君・・・冷たい女だって思うでしょ?父親に肉親としての愛情を持っていないなんて・・・』
『いいや、別にそんなことはないが・・・』
『私が引き取られた時・・・あの家の夫人はものすごく取り乱していたの。
まさか・・・子供が生まれているなんて思いもしなかったんでしょう。
母を追い出して一切の援助が出来ない様にしたら、母はきっと私を葬ると思ったのね。
母がどうして好きでも無い人の子供を産んだのかは私も知らない。
でも母は・・・私に対して全力で愛情を注いでくれたの。
不憫だと思ったのかもしれない。
シン家は・・・私が引き取られてから滅茶苦茶になった。
夫人は意地悪する人じゃなかったけど、私を見るといつも苦しそうだった。
多分母だけじゃなかったと思うの。父の女癖の悪さには・・・相当泣かされたんじゃないかな。
だから・・・父の交換条件をのんだのも、いわゆる夫人に対する謝罪の気持ちなの。
生きていてごめんなさい。そんな気持ち・・・』
俺は言葉を失った・・・チェギョンは母親を亡くしてから一人暮らしを始めるまで、どんな気持ちで
生きてきたのだろう
大学生活の四年間を、人生一番幸せな時間にしようと思ったに違いない
『でも・・・どうしてご両親に私の事なんか話したの?ご両親・・・きっと困ってらっしゃるよ。』
『俺はまだ無力だから、一番信頼できる人達に相談してみただけだ。怒っているか?』
『ううん、怒ってなんかいないよ。そんな風に相談できる両親が揃っているなんて羨ましい。
でも予想以上にすごい家の息子さんで・・・私ちょっと、どん引きしたかな。
くすくす・・・』
チェギョンの乾いた笑い声が哀しそうに響いた
泣かせたくないって誓った俺だ。惨めな思いもさせたくない
ひとまず父からの連絡を待つことにした
数日後・・・父から連絡があり、俺は大学の講義をサボって実家に出向いた
するとそこにはイ財閥の顧問弁護士をしているコンさんまでもが、父に逢いに来ていた
『父さん・・・』
『いいから一緒について来なさい。』
何も知らされないまま父の運転手が運転する車の後部座席に乗せられ、俺はどこかに連れて行かれる様だ
父は助手席に座るコン弁護士と何やら打ち合わせに余念がない
『コン弁護士、頼んでおいた件は調べてくれたかね?』
『はい会長。調べて参りました。チェギョンさんは・・・養女という形でシン家の籍に入っておりました。』
『養女だと?』
『はい。世間体を考えたのか・・・若しくは夫人に対する義理を立てたのではないでしょうか。』
『そうか。益々好都合だ。』
何が好都合なんだ・・・父は一体何をしようとしているのか・・・大体この車はどこに向かっているのか
俺は不安を募らせながら、何を聞くこともできずただ黙って父とコン弁護士の会話に耳を傾けた
『会長・・・到着いたしました。』
運転手のその声に目を向けると、うちと同等と思われる程の大きな屋敷の敷地内に入って行く
(チェギョンの父親の家か・・・)
俺がそう思ったのと同時に父は俺に話しかけた
『ここが・・・政治家のシン・ナムギル氏の邸宅だ。昨日私がアポイントを取っておいた。
シン・・・お前は必要な事だけを言えばいい。後は私に任せておきなさい。
決して悪い様にはしないから。』
『解りました。父さん・・・』
屋敷の中に入って行った俺達は、大きなリビングに通された
豪華なソファーに父・俺・コン弁護士の順に掛け、出てくるであろうシン・ナムギル氏を待っていた
するとリビングの扉が開き、豪快な声が響いてくる
『いやいやお待たせして申し訳ありません、イ会長。』
『本日は突然のアポイントにも拘らず、お逢いできて光栄です。シン。ナムギル議員。』
父が名刺を差し出すと、チェギョンの父も同様に名刺を差し出し・・・二人は古くからの旧友の様に
握手を交わした
全員がソファーに腰掛けた時、一人の女性がお茶を出しに現れた
俺と同年代だろうか・・・一瞬目が合ったら頬を赤く染め、逃げるように立ち去って行った
メイドではなさそうだ。チェギョンの姉妹か?そんな事を思っていた時、父は早速用件を切り出した
『早速ですが・・・本日お邪魔したのは、実はこの隣に座っている私の息子が、
お宅様のお嬢さんとお付き合いをしておりまして、聞けば・・・大学卒業したら結婚が決まっているとかで
息子に泣きつかれましてね。ははは・・・』
『娘とは・・・どの娘の事です?』
『チェギョンさんですよ。』
『チェギョン?・・・いやぁ・・・うちには娘が三人おりますもので、あ!!先程お茶を出した娘・・・
あの娘はチェギョンと同じ年です。イ財閥とのご縁談なら是非・・・先程のミナをお勧めしたいものですな。
なんと言いましても・・・チェギョンはこの家の子ではありませんし。』
俺はチェギョンの父親のその言葉に憤りが隠せない。。。
俺はチェギョンと付き合っているんだ
余計なことは言わないつもりだったが、つい口を出してしまった
『私はチェギョンさんとお付き合いをしているんです。他の方に興味はありません。』
『ほぉ・・そうですか。それは残念ですな。ミナはとてもいい娘ですし・・・財閥に嫁がせても
決して恥ずかしくないと思ったものですから。
チェギョンから事情は聞いておりませんか?チェギョンは・・・』
『聞いております。』
『でしたらなぜです?悪いことは言いません。先程のミナになさった方がいいでしょう。
イ財閥と繋がりが持てるとなれば、私にとっても損な話じゃない。ミナもどうやら息子さんが気に入ったようです。
その方がお互いの為でしょう?』
頭の中が沸騰する・・・俺は怒りに任せてチェギョンの父親を怒鳴りつけてやろうかと、ソファーから腰を浮かせた
だが・・・さすが父親だ。そんな俺の気持ちはお見通しとばかりに、後ろ手でジャケットを引っ張り俺を制した
父も相当腹を立てているようだが、その温和な顔に苦笑と思える笑いを浮かべチェギョンの父に言い放った
『政治家と一財閥の癒着など望んでいないんです。』
『癒着・・・それはまた酷い言い方ですな。』
『私は政治家との関わりを持ちたい人間ではありませんですから。ははは・・・』
『でしたらなぜ、ここに来たんです?』
『息子の為ですよ。大事な一人息子が、初めて私に頭を下げてきたものですから。』
『イ会長・・・お分かりですか?正妻の産んだ娘じゃないにしろ、チェギョンは私の血を引いています。
私との繋がりを持たないのは無理でしょう?どうぞお引き取りください!!』
『血を分けた娘を・・・正式に戸籍に入れたわけでもなく、養女としての扱いとはどういうことですか?
娘を利用してまでも自分の人脈を拡げたいですか?それでもあなたは父親と言えますか?』
『私の家庭の事です。放っておいてください!!』
『いいえそうはいきません。あなたが養女としてチェギョンさんを引き取ったのは、
政治家としてスキャンダルを恐れたためですよね?
そんな親子関係がありますか?娘を食い物にしようなんて・・・』
『あなたは・・・一体何が仰りたいんですか?私に何をさせたいんです?』
『チェギョンさんとの養子縁組を解消していただきたい。』
『なんですって・・・・』
『あなたの口ぶりでは・・・チェギョンさんに対し娘としての愛情など、一切持っていらっしゃらない様だ。
うちの息子との未来を夢見たくても、あなたの娘でいる限りチェギョンさんは幸せになれないんです。』
『私に愛情があろうが無かろうが、戸籍の事まであなたに言われる筋合いはありません。
お断りします。』
『そうですか。政治家にとってスキャンダルは命取りになりますよせんか?
あなたに快諾していただけない場合・・・私もマスコミにチェギョンさんの存在をリークする準備が
出来ていますが。』
『なんですって?イ財閥会長ともあろう人が・・・脅しですか。』
『ええ。そうなったら・・・あなたの政治生命にも関わってくるんじゃないですかな?』
『っつ・・・』
悔しそうな顔をし父を睨みつけるチェギョンの父。父はさらに畳みかけた
『うちの顧問弁護士が書類を一式用意しております。
さぁ・・・ご確認の上署名捺印お願いします。あなたにとって大切なのは・・・政治的パイプラインの
養女を失うことより・・・世間的なあなたのイメージでしょう?』
コン弁護士はアタッシュケースの中から、持参した書類一式をシン・ナムギル議員の前に置いた
三人の視線に負けたのか、それともチェギョンがスキャンダルになる事を恐れたのか・・・渋々チェギョンの父は
養子縁組解消の書類にサインをし捺印した
コン弁護士がその書類を確認し、父に目配せすると父は漸く安堵したように席を立った
父に合わせて俺とコン弁護士も立ちあがった
『それではシン・ナムギル議員、大変お邪魔いたしました。
チェギョンさんの物で残っている荷物があれば、お持ちいたしますが・・・』
『そんなものはないっ!!』
『そうですか。それでは私達は失礼いたします。あ・・・チェギョンさんの事に関しましてはご心配なく。
私が後見人となってチェギョンさんを見守って行きますので。それでは失礼いたします。』
もっと何か言ってやりたかった・・・父親らしい愛情を向けてくれなかったこの人に、
文句の一つも言ってやりたかった
だが父の顔に免じてその気持ちを堪えた
しかし・・・財閥のトップたるもの、温厚そうな顔だけじゃない事を俺は知った
父を怒らせたら恐ろしい・・・安堵の気持ちと同時に、頼りになる父に逆らうことはできないと感じた俺だった
なんにしても・・・チェギョンはこれで大学卒業後の未来を夢見ることが出来る
彼女の未来に俺が居られる可能性もできた
その半面・・・チェギョンを戸籍上一人にしてしまったことは申し訳なく思うが・・・
そんな寂しさもすぐに癒されるだろう
俺にはそんな予感がした
いやいや~~極悪ナムギルパパは初めてかも・・・
難しかったわ(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
あ・・・ここの御礼も10話までには完結です❤
難しかったわ(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
あ・・・ここの御礼も10話までには完結です❤