その日宮に戻った俺は、三陛下の元へ事件解決の報告に向かった
『ご報告が遅くなり申し訳ございません。』
『良いのだ太子。苦労かけたな。それで・・・ミン家の当主は捕らえられたのだな?』
『はい。陛下のおかげで皇室警察署長が、三年間隠していた証拠を出したそうです。』
『そうか。随分と大掛かりなことになったな。』
『ミン家の当主の告発で、事件に加担したと思われる王族も捕らえられたとのことです。』
『王族会は・・・ずいぶん閑散としたことだろう。だが太子よ、まだ気を抜いてはならぬ。
この宮殿内にもミン家の息がかかった職員がいるはずだ。その者達も罰しない事には安心できん。』
『宮殿内に仕える者に関しましては、チェ尚宮とコイギサが復職しましたら、調査を始めるとの事です。』
『そうか。職員に関しての処罰二人に任せよう。』
『はい。それがよいと思います。』
その時皇太后様が声を上げた
『おぉそうだ!シン夫妻も呼び戻さねばな。』
『はい。そうしていただけますか?』
『そうしよう。だが・・・シン家の警備は厳重にせねばならぬな。』
『その辺りもコイギサにお任せください。彼なら心配のない者を選んでくれるはずですから・・・』
『おぉそれがよいな。』
俺はチェギョンと約束したことを守るため陛下に申し出た
『陛下・・・学校内にミン家が援助していた生徒が五名おります。
そのうちの一人は今回の一件で、ミン・ヒョリンの悪事を証言してくれました。
ミン家が没落することによって、あと一年にも満たない高校生活を終わりにさせるのは非常に忍びないです。
どうか私の私的財産を皇室奨学金にあてることを許可してください。チェギョンにとっては恩人ですから・・・』
『ああそうだな。そうしてあげなさい。その件はすべて太子に一任しよう。』
『ありがとうございます。』
三陛下への報告が済んで自室に戻った俺・・・漸く長い一日が終わろうとしている
チェギョンはもう眠った頃だろうか・・・恐らく先帝の別荘に戻って、疲れ果てて眠ったに違いない
明日からチェギョンは自分の名前を取り戻せる
そう思うと嬉しさのせいか・・・なかなか寝付けなかった
大きな怪我はしていないだろうか・・・そんなことばかりが頭をかすめる
まぁその辺りは明日聞けばいい
これからは堂々とチェギョンに逢いにだって行けるのだから・・・
翌日、いつもより早く登校していった俺は、まず校長に逢いに行き昨日起こったことの顛末を説明した
校長は・・・どうやら皇太后様と連絡を取っていたようで、校長自らチェギョンに勉強を教えに行っていたのだと
その時初めて知った
『皇太子殿下・・・ようございましたね。』
『はい。それで校長先生、ご相談したことがあるのですが・・・
ミン家の援助を受けていた生徒たちに、引き続き私が援助したいのですが・・・。
皇室の特別奨学生としてこのまま通学できるようご配慮いただけますか?』
『ええ。もちろんです。その件でしたら昨晩、皇太后様からご連絡いただきました。』
『既にご存知でしたか。』
『ええ。前途ある五人の若者の為に素晴らしい提案だと思います。』
『同感していただけて感謝します。』
俺は校長室を出ると、その五人を皇太子ルームに呼び出した
恐らくミン家の当主の逮捕で、自分の今後を案じているだろうからな
まぁそれと同時に、チェギョンに二度と無礼な真似をしないよう約束させるためだ
やはりその生徒たちは不安で仕方がなかったのだろう
すぐに映像化にある皇太子ルームへとやってきた
<トントン>
『皇太子殿下・・・失礼いたします。』
扉を開け入ってきたのは、俺に勝るとも劣らない高身長の男達だった
更には横にも大きい・・・っつ負けるもんかと、わけのわからない敵対心が俺の心に沸き上がる
『よく来てくれた。そこに掛けてくれ・・・』
とは言ったものの皇太子ルームのソファーは三人掛けだ
俺を入れて六人・・・向かい合わせのソファーも入れてちょうど座れる数だ
『あぁ・・・こちらに二人掛けてくれ。』
『はい・・・失礼いたします。』
神妙な面持ちで腰掛けた五人の大男たち・・・俺は早速話を切り出した
『ミン家から援助を受けていたのは通学費用だけか?』
一人の男が答えた・・・この男は昨日、証言してくれたホン・ジュソンだな
『通学費用のほかに部活動にかかる費用を援助してもらっていました。』
『部活動?』
『はい。相撲部です。』
なにっ?なぜ芸術高校に相撲部なんてものがあるんだ!
少々驚いた俺だったがすぐに平常心を取り戻し、クールな笑みを浮かべた
『そうか。部活動費用も援助しよう。君たち五人は、卒業まで皇室の奨学生となる。』
『えっ?本当ですか?』
『あぁ。問題を起こさない限り援助することを約束する。五人の中で成績優秀と認められた生徒がいる場合は
申し出てくれたら進学の相談に応じる。
だが・・・一つ条件がある。』
『なんでしょうか。条件とは・・・』
向かいの真ん中に座った男が問い掛けた
『ミン・ヒョリンに脅されてシン・チェギョンに暴力をふるったのだどいつだ?』
向かいの一番端の席に座ったホン・ジュソンが申し訳なさそうに頭を下げた
『その時一緒にいたのは俺と・・・隣にいる二人です。でもミン・ヒョリンは殿下の隣にいる男二人にも
声を掛けました。
本来だったら五人がかりだったはずです。』
なんだと?か弱い・・・いやもうか弱いとは言えないが、チェギョン一人に対してこの屈強な男五人を
ミン・ヒョリンは差し向けよとしていたのか!
なんて卑劣な!
『でも・・・実際暴力をふるったのは俺一人です。こいつらは何もしていません。』
相撲部在籍の大きな手で張り手を喰らわせたというのか?
なんて恐ろしいことを・・・下手をしたら死んでいたんじゃないのか?
まぁだが、それがきっかけで記憶が戻ったんだ・・・我慢だ我慢しよう!
仕方がないここでビビらせておくか
お前たちが誰にそんなことをしでかしたのかを・・・
『シン・チェギョンにはもう二度と手を出さないでくれ。』
『もちろんです。俺はものすごく反省したんです。チェギョンにあんなひどいことをしてしまって・・・
自分から謝りに行ったくらいですから。』
『そうだな。それも聞いている。だが念の為言っておく。
近い将来、俺はチェギョンと婚約する。』
『えっ?それは・・・一体・・・』
『チェギョンは元々俺の許嫁だ。それを邪魔だと感じたミン・ヒョリンと父親の起こした事故で
チェギョンは三年もの間記憶を失っていたんだ。』
ホン・ジュソンばかりでなく他の四人も、音がしそうほど顔から血の気が引いていく
『だからいいな。シン・チェギョンには絶対に手を出さないでくれ。
君達を援助してほしいと俺に頼んだのも・・・彼女なんだ。』
『もちろんです!もう二度とあのようなことは・・・』
『絶対に近づきません!』
『そうだな。そして必要な時にはチェギョンの味方になってほしい。』
『もちろんです。』
恐縮し頭を下げる四人に対し、実際チェギョンと親密な話をしたホン・ジュソンだけは違っていた
『皇太子殿下・・・つまりチェギョンは皇太子妃に何れなるということですか?』
『そうだ。』
『俺が・・・チェギョンの友達になるのは・・・許されないことでしょうか?
チェギョンには借りがあります。その借りを返さなくてはなりません。
いい友達に・・・なります。いけませんか?』
っつ・・・近づくなといっただろう?だがな・・・チェギョンは俺にぞっこんだし、そんな心配はいらないか
本当は嫌だが・・・許してやるか
『あぁ。君はチェギョンといろんな話をしたんだろう?今回の事も協力してくれたと聞いている。
わかった。友達として・・・許そう。』
俺はなんて寛大な男なんだ
まぁチェギョンがこの男に心変わりするなんて考えられないしな
仕方がないな・・・この先美術科でチェギョンを守ってもらう役目をこいつに依頼するか
渋々・・・そんな感じだがホン・ジュソンがチェギョンの友達になることを認めた俺
この相撲部の大男に負けないように、俺も身体を鍛えないとな
家に戻った時・・・私はまず血糊だらけの身体を清めるためにシャワーを浴びた
その間にお姉ちゃんは食事の支度をしてくれていた
『チェギョン様・・・食事にいたしましょう。』
『うん♪お腹ペコペコ~♪』
お姉ちゃんとコお兄さんと三人で囲む食卓
『美味しい~♪』
『それは良かったです。』
この生活ももうすぐ終わるんだね
『チェギョン様・・・恐らくこの週末にはご両親が戻ってらっしゃいます。』
『ホント?』
『はい。そうしたらご自宅に戻れますよ。』
『うん。でもお姉ちゃん・・・私、少し寂しいな。』
私のそんなセリフに、お姉ちゃんとコお兄さんは可笑しそうに笑った
『ふふふ・・・チェギョン様、婚姻なさったらいつでも逢えますから。』
『そうですよ。ご自宅に戻られても、恐らく週に一度は私が送迎いたします。』
『えっ?コお兄さんの送迎って?』
『事件が解決したら婚約発表でしょう。何があるかわかりませんから、送迎はさせていただきます。』
『そうなんですか?』
そっか・・・以前のようにもう自由はないんだ
友達と自転車で遊びに行ったりする大切な時期を、私は記憶を失くしてここで訓育を受けたんだった
まぁ~婚姻しちゃえばシン君とずっと一緒にいられるし~どんなにくっついても怒られないも~~ん♪
いいことばかりを考えよう
両親が戻ってきても、きっとそんなに長い期間一緒に暮らせないだろう
だって・・・私の婚姻準備は万端だから
なんだかいろんなことを考えて妙に寂しくなっちゃう私だった
翌日から私の名札はシン・チェギョンになった
中学からの同級生は違和感なくそれを受け入れた
そして当然のことながらユル君も、改めて挨拶にやってきた
『チェギョン~チェギョンだったんだね?』
『うん。ごめんね・・・あの時はまだ記憶が戻ってなくて・・・』
『いいや。あんなことが起こっていたなんて知らなかったから、ヒョリンと引き合わせちゃって。』
『違うよ~ユル君のせいじゃないから。』
ユル君はその後小声で私に問い掛けた
『シンと婚約するの?』
『うん。近いうちにね・・・』
『そっか~昔のように一緒に遊べると思っていたけど、そうじゃないんだね。』
そりゃそうだよユル君
おままごとや追いかけっこをして遊んだ幼い頃とは違う
ユル君がイギリスに渡っていた長い間に、私の旦那様はシン君だと確信していたもの
『うん。もう18歳だしね。将来のこと考えないとね。』
『健闘を祈るよ。王族がたくさん逮捕されてなんだか騒がしいけど、僕はいつでもチェギョンの味方だからね。』
『うん~♪』
ユル君が幼い頃と変わらずフレンドリーな人で良かった
そうして昼休み・・・私は堂々とガンヒョンと共に皇太子ルームに向かった
もちろん昨日の慰労会を兼ねた、豪勢な宮廷弁当が私達を待っている筈だよ~♪
その上愛しののシン君もね❤
明日は別荘なんですよぉ・・・
2つの科を掛け持ちで・・・
どうしてもナーバス入っちゃうんですわ・・・