体育館内の明かりが一斉に点いた時・・・既にギョン君の流していた効果音も消えていた
その代わり体育館内に起こるざわめきが私の耳に届いた
皆・・・見ていてくれた?聞いていてくれた?
ガヤガヤと騒ぎ出す生徒たち・・・ミン・ヒョリンは漸く自分の置かれた状況に気が付いたらしく、
私をきつい目で睨みつけた
『あなた!一体何なの?この茶番劇は・・・』
『茶番劇?とんでもない。私にとっては命懸けの勝負でしたが?』
『ふっ・・・何を言っているの。くだらない。今の話は全部嘘よ!』
『嘘?嘘で通るとお思いですか?』
『ええ。だって私があなたの命を狙ったとう証拠は何一つないじゃないの。証拠を出してみなさいよ。』
『ひとつだけ証拠ならあります。三年前のあの日、あなたが私に電話をかけ・・・通話した記録がね。』
『そんなの・・・間違い電話よ!話した内容が残っているとでもいうの?』
この女・・・この期に及んでなんてことを・・・
ここまで追いつめたんだ。後には引けない
どう出ようか・・・そう悩んでいた時、体育館の中に愛しいシン君の声が響いた
『ミン・ヒョリン・・・お前はチェ・チュナの姿を見るなり≪私を恨まないで≫といったな。
おかしいな・・・あの時チェ・チュナが事故に遭ったと知っているのは、その事故を企てた当人だ。
出なければ事故に遭ったなんてわからない筈だ。チュナの姿を見てお前は怯えた。
その上シン・チェギョンの話を持ち出されて殺害を企てたと認めた。
皆がここで聴いていたんだ。今更言い逃れはできない!』
『皇太子殿下・・・これはミン家を陥れようとする陰謀です。信じてはいけません。』
『誰を信じるかはこの俺が決める。お前は俺の許嫁に取り返しのつかないことをしでかした。
しかも二度もだ。』
『そんなのおかしいです。皇族である皇太子殿下が王族の娘よりも一般人を信じるなんて・・・』
『チェギョンはただの一般人ではない。幼い頃先帝が決められた特別な人間だ。チェギョンを侮るな!』
ミン・ヒョリンはどうやらそこにいる生徒たちの同情を買おうとしているみたい
『皆さん・・・私がそんなことをする人間だと思いますか?違うでしょう?』
その時・・・ホン・ジュソン君が声を上げた
『ミン・ヒョリン・・・お前はミン家に世話になっている俺達を使って、チェ・チュナを痛めつけるよう命じた。
そういう人だと知っている・・・』
『ホン・ジュソン!あなたは何を言うつもり?どれだけ私の家に世話になっているか忘れたの?』
『うん。確かにそうだ。そうやって言いなりになる人間をどれだけ作っているか・・・
でもお前のもう言いなりにはならない。チェ・チュナに教えられたから・・・
ミン・ヒョリンの為に犯罪に手を染めるなって・・・。いや・・・本当はシン・チェギョンか・・・』
やはりホン・ジュソン君は信用できる人間だった
私は血糊だらけの顔で微笑んで礼を言った
あまり様にはならない状態だけどね
『ジュソン君ありがとう。わかって貰えて嬉しいよ。』
またミン・ヒョリンは私を睨みつけた
別にもう睨みつけられても怖くない
シン君は皇室警察署員と民間の警察署員に向かって告げた
『ひとまず民間の警察署にこの娘を連れて行くのだ。
すぐに皇帝陛下から皇室警察署長の処分が下されるだろう。そうなった時に皇室警察に移送してくれ。』
『かしこまりました。』
普段は行動を共にすることなどない皇室警察官と民間の警察官
ふたつの警察官が暴れるミン・ヒョリンを連れて行こうとした時、年配の男性の大声が響いた
『皇太子殿下!これは一体どういうことなのでしょうか!』
体育館に大声が響く・・・見るとその声の主はミン家の当主だった
『私の娘を一体どこに連れて行くおつもりですか!』
怒りに顔を真っ赤に染めたミン家の当主は、ミン・ヒョリンの元に駆け寄った
だが皇室警察署員と民間の警察署員に阻まれた
『お父様・・・』
しおらしい顔を父親に向けたミン・ヒョリン・・・
俺はミン家の当主に堂々と答えた
『私の許嫁の殺害を企てた罪だ。そなたももちろん警察に行ってもらう。』
『皇太子殿下・・・一体何を仰っているのですか?私に何の罪が・・・』
『ヨン・サンギュンを使って公用車に細工をしたのはそなただろう?』
『まさか・・・』
『しかもヨン・サンギュンを海外に逃がしたな?』
ん?なぜだ・・・ミン家の当主は薄ら笑いを浮かべている
『逃がしたなんてとんでもない。』
『そなたが空港に見送りに行ったことはもう確認している。』
『それは・・・親戚ですから私が見送りに行ってもおかしくないでしょう。』
『しかも東宮のイギサを辞めた後、ずっとミン家の別荘に住み…仕事もせずに遊んでいたそうだな。』
『それはどういった事情か私にもわかりません。なにせ先程・・・フランスで事故死したと連絡が入り
胸を痛めているところでした・・・』
なんだと?フランスで事故死した?っつ・・・口を封じたという事か?
『身内であっても・・・口封じの為なら命さえ奪うという事か。
恐ろしい人間が王族にいたものだな。』
俺は背筋が寒くなる思いだった
その時・・・皇室警察署員が何やら連絡を受けたらしい
暫く電話で話をしその電話を切った後、俺に向かって微笑んだ
『皇太子殿下・・・ミン・ヒョリンとその父親は皇室警察に連行いたします。
皇帝陛下の命で署長が尋問を受け、ミン家との癒着を認めたとの事です。
同時に三年前の事故車両も・・・廃車したと言っていましたが実は保管してあったとの事です。』
『なにっ?つまり証拠品が出てきたという事か?』
『はい。その通りです。』
先程まで真っ赤だったミン家の当主の顔色はみるみる青ざめていく
『口を封じたとしても・・・その後ヨン・サンギュンを世話していたのはそなたなのだ。
証拠の事故車両を皇室警察署長が保管していたのも、こういう日が来るのを恐れての事じゃないのか?』
皇室警察署長もなにがしかの理由でミン家の当主の言いなりになっていたという事か?
そうなってもまだしらを切ろうとするミン家の当主
『皇太子殿下・・・私は潔白です。皇室警察署長はきっと私を陥れようと・・・』
もうこれ以上こんな話を聞く気はなかった
『連れていけ。』
ミン・ヒョリンとミン家の当主は皇室警察の車両に乗せられ連行されていった
皇室警察のテリトリーになど滅多に入り込めない民間の警察署員は、折角訪れた活躍の場を失くしてしまい
少しがっかりしたよう顔をしたが、それでも陰謀の渦巻く事件を垣間見ることができたのを誇らしく思ったのか
俺に微笑んでみせた
『あ・・・私の出番はなかったようですね。でも・・・こんな形でも事件に携わることができて光栄でした。』
『すまなかった。ご足労いただいたのに・・・』
『いいえ。早くこの事件が解決することをお祈りしております。また私たちの力が必要な時は
どうぞお声を掛けてください。』
警察官は一枚自分の名刺を俺に手渡した
『どうもありがとう。協力に感謝する。』
一晩にも思える長い時間だったが、終わってみればほんの一時間ほどしか経っていなかった
『はぁ~~!』
警察関係者がいなくなった時、脱力してステージ上で座り込んだチェギョンに俺は駆け寄った
だが俺より一歩早くチェ尚宮がチェギョンにバスタオルを渡していた
『お姉ちゃん・・・』
『チェギョン様、よかったですね。これからは事件もきっと解決し堂々とシン・チェギョンを名乗れますね。』
『うん~~♪』
三年間姉妹として生きてきた二人の絆は、とても強いものだと俺は感じた
チェ尚宮とコイギサには感謝してもしきれない
体育館内ですべてを見ていた生徒たちは、チェギョンの元に続々と集まった
『大変だったね・・・』
『やっぱりチェギョンだったんだ。』
そういって親し気に話しかけたのは従兄弟のユル
舞台のそでで一生懸命ドライアイスからスモークを発生させていたガンヒョンは、腕を擦りながら
チェギョンの元に駆け寄った
『チェギョン…とにかくチェ尚宮さんと帰りなよ。』
『ダメだよガンヒョン。床…血糊だらけだし、お掃除して帰らないとね~♪』
『もぉ・・・アンタはやっぱり変わってないわ。』
そこにいた全員が本日のチェギョンを労ってステージの後片付けをする
俺は・・・チェギョンの横に行ってそっと話しかけた
俺がモップを持つなんて・・・やはり様にならないからな
『チェギョン…お疲れ様。怪我はないか?』
『うん。コお兄さんが庇ってくれたし、受け身も上手になったしね~♪』
『もう二度とこんなことは起こらない。起こさせない。』
『早く事件の全貌が明らかになって、判決が下るといいな。』
『そうだな。』
次の瞬間・・・チェギョンは体育館内を見渡し、一人の生徒に視線を向けた
『シン君・・・ホン・ジュソン君は私の恩人なんだ。
ミン家が崩壊することによって、学校に通えなくなる生徒たちがいると思うの。
卒業まで力を貸して貰えない?今の私じゃ・・・何の力もないから。』
『あぁ。先ほど証言もしてくれたしな。特別に皇室の奨学生として援助するよう取り計ろう。』
『ありがとう。』
『いいや。大したことじゃない。』
何よりも俺の事を思い出してくれてありがとう・・・そしてとんでもなく強い女になって戻ってくれてありがとう
そんな感謝の思いで俺の胸はいっぱいだった
それから・・・皇室警察署にはミン親子ばかりでなく、ミン・ヒョリンの母や三年前の事件に関与した王族が
続々と拘束されていった
世も末だな・・・
事件解決にはあと少しってところです。
でも次回からチェギョンはシン・チェギョンに戻りますよ~❤
東宮にも出入りできるようになりそう・・・
でも次回からチェギョンはシン・チェギョンに戻りますよ~❤
東宮にも出入りできるようになりそう・・・