高校に通うようになってから気づいた事がある
それは校内に見覚えのある先生が何人もいらっしゃる事だ
見覚えがあると言っても失くした記憶の彼方にいる人ではなく、つい最近までお世話になっていた先生方だ
つまり・・・私に個人的に勉強を教えに来てくださった先生が、この学校内にいる・・・教鞭をとっていらっしゃる・・・
ということになる
皆その先生方は、私の顔を見ると親し気な表情を一瞬浮かべそのあとで必ず言う
『編入生のチェ・チュナさんですね?わからないところがあったら、何でも質問しなさい。
もちろん困ったことがあった時もですよ。お姉様からも重々お願いされていますから・・・』
そうか!この先生方は私の事を知っていて、私に協力してくださる方なのね
お姉ちゃん・・・抜かりない
その日・・・帰りの車の中で、私はコお兄さんに今日あった出来事を話した
『お兄さん、お兄さんに教えていただいた護身術・・・早速役に立ちました♪』
『えっ?チュナさん・・・危険な目に遭われたのですか?』
『あ・・・いや、危険というほどではないですぅ。ミン・ヒョリンという生徒に絡まれて
ぶたれそうになったのをかわしただけですぅ。』
『ぶたれそうになったとは、一体なぜ?』
『私の事を偵察にやってきたんですよぉ。なんだか虫が好かなくて、つい挑発しちゃったみたいな・・・』
『チュナさん・・・それはいけません。ミン・ヒョリン様は王族の中でも力を持つミン家の御息女。
それに・・・噂によるとあの方は皇太子殿下に相当執着なさっているとか・・・』
『だから虫が好かないんですっ!』
『お気持ちはわかりますが、今は目立った行動は慎んでいただかないと・・・』
『ふぁ~い。』
非常に不本意だったけど、私はお兄さんの言うことに従おうと思った
だって・・・ああいうタイプの女を怒らせると後が怖そうだもの
上品そうな顔をしながら、腹の中では何を考えているかわからないもんね
『そういえば・・・皇太子殿下の乗られた車・・・本日は追いかけてきませんね。』
『どうやら私はチェギョンではないと納得したみたいですぅ・・・』
『そう・・・なのですか?』
うん。そんなに簡単に納得されちゃうなんて、私も拍子抜け・・・
寂しさが胸の中に何度も過った
もしかしてシン・チェギョンは皇太子にとって、もう過去の人なのかもしれない・・・
それから数日・・・私はコお兄さんとお姉ちゃんに言われた通り、借りてきた猫のようにおとなしく
学校生活を送った
目立たなければ悪い事は起こらない・・・そう思っていた
でもさ・・・何かアクションを起こさないと、このまま何も変わらないず記憶も戻らないまま
時が流れていくんじゃない?
そんなの嫌だ!
徐々に借りてきた猫生活に鬱憤が溜まり始めた時だった
いつも通りコお兄さんからのお迎えの電話が鳴り、私はいそいそと玄関口に出ていこうとした
今まさに玄関から出ようとしていた時、声を掛けられたんだ
『チェ・チュナ・・・ちょっと待ちなさい。』
誰?私に命令口調で話し掛けるのは、どんな先生?そう思って振り向いたら・・・あの女狐が~~ミン・ヒョリンが
図体の大きな生徒を背後に従えて立っていたんだ
しかも何人も・・・
おいおい・・・このか弱い私に一体何をするつもり?
『なんでしょう?』
私は呼び止められたことに全く身に覚えがないと言った風に答えた
身に覚え?大ありだけど・・・あはははは~♪
玄関を出ればすぐコお兄さんの運転する車が待っている
その安心感からか、私は笑顔さえ浮かべた
でも・・・やはり敵は相当お怒りみたいよぉ~~!目が吊り上がっちゃってる
なんて根に持つ女なんだろう
しかも背後に並んでる男達!あんた達情けなくないの?こんな女の言いなりになって・・・信じられない!
そんな悪態を散々心の中で呟き終わった時、漸くあの女は呼び止めた理由を口にした
『先日は随分と私に恥をかかせてくれたじゃないの?』
『えっ?失礼があったことはお詫びしたじゃないですか?』
『あんなの詫びのうちに入らないわ。私の気が済まないもの・・・』
ひえ~~あんたの気分を晴らそうとそのデカい男たちを連れてきたわけ?
さすがの私もヤバいかも・・・これは逃げるが勝ち~そう思って走り出そうとした時には、すでに男の一人に
腕を掴まれていた
ちょ・・・ちょっと待て!多勢に無勢はないんじゃない?こんなの卑怯よ!!
あわわわわ・・・必死に逃げようとするも、すでに私の両腕は二人の男に捕らえられ足が床に付かない状態で
連れて行かれる
一体どこに連れて行く気よ!
コお兄さ~~ん!大声で呼ぼうとしたその時、口にガムテープ貼るなんて~~~!!
私のこの可愛い唇がかぶれたら、あんた一生恨むからね~~!
ポケットに入ったスマホにも手は届かない・・・どうしよう
連れて行かれた先は体育館裏・・・漸く地に足はついたけど、ガムテープを剥がそうとした時一人の男が
攻撃をしかけてきた
もちろんそんなの簡単にかわした
でも・・・その男に気を取られている間に、他の男の手が私の頬に飛んだ
思わず私は跳ね飛ばされ体育館の壁に頭を打ち付けた
イタっ・・・
目の前が…真っ暗になった・・・
チェ・チュナが編入してきた日・・・俺は彼女の乗った車をイギサに追わせた
だが・・・皇太后様と話をしチェ・チュナがチェギョンであると確信した俺は、その後チェギョンの乗った車を
追いかけることはしなかった
だが・・・それでもせめて、チェギョンが元気に帰っていく姿だけは確認しないと気が収まらなくなった
その日・・・いつもならとうにチェギョンは車に乗り込み車は発進する筈なのに、なかなか車は動かない
そのうちにはチェギョンを迎えに来た運転手が、スマホを手に持ちながら車から降りてくる始末
一体何があったんだ
チェギョンは何をしているんだ?
そう思った俺は公用車を運転するイギサに声を掛けた
『すまないが少し待っていてもらえるか?急用を思い出した。』
『かしこまりました殿下。』
公用車を降りその場から少し離れたところで、俺はガンヒョンに電話をかけてみる
『ガンヒョンか?』
『ええ。なあに?』
『あいつは帰ったか?』
『ええ。判で押したようにいつも通りの時間に教室を出たわ。』
『あぁ?おかしいな。迎えの車はとうに着いているのに、あいつが出てこないんだ。』
『それはおかしいわね。ちょっと私も探してみるわ。』
『あぁ頼む。』
そのあと俺はチェギョンを迎えに来た車の運転手に声を掛けた
『チェ・チュナが来ないのか?』
運転手は俺に話しかけられたことで非常に動揺しているようだった
『あ・・・はい。そうです。殿下…』
俺が皇太子だというのはこの国の国民なら誰でも知っていることだ
だが・・・妙に目を逸らすその男の顔に、俺は見覚えがあった
そうだ!この男は確か・・・三年前まで東宮のイギサをしていた
だが・・・追及はするまい。今は見逃がしてやる
それよりチェギョンがこの場所に現れないことの方が問題だ
そんな時パタパタと足音を立ててガンヒョンが玄関口から血相を変えて飛び出してきた
『皇太子・・・どこにもいないわ。ここに来る間、チェ・チュナの姿はなかったわ。』
『それはおかしいな。君!一緒についてきてくれ。』
『はっ!』
まさにイギサそのものの返事を俺にし、スリッパに履き替えると運転手は校舎の中に入ってきた
ガンヒョンも俺と一緒に辺りを見渡しながらチェギョンを探した
『チュナ!どこなの~?』
こういう場合チェギョンと呼んでしまいがちだが、人の目がある学校内だ
俺もガンヒョンも抜かりはない
探しながら俺はギョンに応援を頼んだ
スマホを取り出しギョンを呼びだしたのだ
『ギョンか?俺だ。』
『シン~まだ学校にいたの?』
『あぁ。チェ・チュナが教室を出たはずなのにどこにもいないんだ。一緒に探してくれ。』
『オッケー。映像科の方から見てみるよ。』
あちこちくまなく探してみる
だが・・・チェギョンの姿はどこにもない
『チュナさん…』
運転手の男は何度もスマホを鳴らしながら顔色を失っている
『チュナ~~!!』
ガンヒョンが大きな声を上げ、あちこちの教室の扉を開ける
だが・・・どこにも姿はない
その時・・・俺のスマホが鳴り響いた
ギョンからの着信だ
俺は慌ててその電話を取った
『シン!大変だ。チェ・チュナが・・・体育館脇で口に粘着テープを貼られて倒れてる。』
『なにっ?体育館のどちら側だ?』
『北側だよ。すぐに来てくれ。』
『あぁ。すぐに行く!』
俺は運転手の男に状況を説明した
『どうやらチュナは連れ去られたらしい。居場所が判明したのでついてきてくれ。』
『はっ!』
一体誰に・・・なぜ?そんな思いでギョンの知らせてくれた体育館北側に急いだ
するとチェギョンが横たわっていた
ギョンにしてみれば抱き起すこともできず、困ってただ見守っているだけだった
『シン!』
『ギョン・・・ちぇ・・・チュナは・・・』
『ただ気を失っているだけだと思うが、顔に殴られた跡がある。あと頭にたんこぶも・・・』
『なにっ?』
自分の頭に血が上っていくのを感じた
俺はチェギョンを抱き起し、ぶたれていない方の頬を軽くたたいた
『チュナ・・・起きろ!起きろよ!!一体誰がこんなことを・・・』
『俺が駆け付けた時慌てて逃げていったから、顔は見えなかったが・・・
図体のデカい奴らだった。シン程も背丈のある男達って言ったら、この学校では限られている。』
俺はチェギョンの口元に貼られた粘着テープをそっと剥がした
可哀想に・・・こんなことをした奴らを俺は絶対に許さない!
『殿下・・・それを私にいただけますか?』
『あぁ?ああ・・・』
俺は剥がした粘着テープを運転手に渡した
運転手はポケットから出したビニール袋の中にそれをしまうと、俺の手からチェギョンを奪った
『チュナさんを病院に連れて参ります。殿下…そしてお友達の皆さん、本当にありがとうございました。
皆さんに見つけていただかなかったら・・・』
運転手の男の口調に、チェギョンは間違いなく今まで大切にされてきたことを感じた
『では申し訳ありません。私はこれで失礼いたします。』
チェギョンを横抱きにして去っていくその運転手・・・恐らく元東宮のイギサを、俺は苦々しい思いで見送った
今は耐えよう・・・チェギョンはチェ・チュナと名乗っているのだから・・・
俺の許嫁のチェギョンに戻るまでは辛抱しよう
チェギョンは無事だっただろうか・・・
東宮に戻ってからも、気を失いぐったりしたチェギョンの顔ばかりが目に浮かぶ
食事を摂る気にもなれず、ほとんど手を付けないまま自室に戻った時・・・俺のスマホが鳴り響いた
にゃんと~ヒョリンはやらかしてくれちゃいました。
さて~~チェギョンは一体どうなったのか・・・
次回お楽しみに❤
さて~~チェギョンは一体どうなったのか・・・
次回お楽しみに❤