その日学校から東宮に戻った俺は、本殿に呼び出された
本殿の陛下の部屋では三陛下が顔を揃え、俺に座るよう促した
『お呼びでしょうか陛下。』
『太子、戻るなり呼び出してすまないが、少しばかり説明してほしいことがあるのだが。』
俺は首を傾げながら問い掛けた
一体何を説明しろというのか・・・
『これの事だ。』
陛下は一面トップに俺の写真が載った新聞を俺に見せつけた
驚いたことにミン・ヒョリンが同じ書面に写っている
それは一緒に撮られた写真ではないが、背景が全く同じ・・・つまり学校の壁をバックに撮られている写真だった
二人でいるところを写したものじゃないのに、二枚の写真が同じ背景というだけでまるで即席の合成写真のように
傍からは見える事だろう
『ミン・ヒョリンですか・・・』
『一体どういうつもりで付き合っているのだ?』
『陛下…お言葉を返すようですが付き合ってなどおりません。私にはチェギョンという許嫁がいるのですよ。』
『だがミン家からは≪世間に噂が広まる前に婚約を・・・≫と催促が来ておる。
それに王族からも太子の婚姻を急ぐようにと再三言われておる。』
『陛下・・・一体誰がこんなデマをマスコミに流したのでしょう。大方ミン家の自作自演ではないのですか?』
『そうだとしてもだ!太子よ・・・そなたは普通の高校生とはわけが違う。
そんな気持ちもないのに、傍に王族の娘を置くなどあってはならないことだ。
少しは自分の行動を律しなさい。』
それに関しては俺も少々懲りている
もちろん陛下の言うことに従うさ・・・だが納得のいかないことが俺には多々ある
『解りました陛下。ミン・ヒョリンには今後そのような思い違いをさせない様気を付けます。
ところでシン・チェギョンの行方は・・・一体どうなっているのでしょうか。
皇室警察もとうの昔に捜査を打ち切りにしたと聞きます。なんだか腑に落ちないのですが・・・』
『ああ。それに関しては私も納得していない。だが残された事故車両にもおかしなところはない。
単なる事故として片付けられてしまったのだ。』
『それにしてもおかしいじゃないですか。チェギョンだけじゃなくチェ尚宮やイギサも一緒にいなくなったのですよ。
この件に関して皇室警察はおかしいと思わなかったのでしょうか?』
『三名の行方に関しては皇室警察ではなく、私が独自に調査をしている。
もう少しでなんらかの手掛かりが見つかるかもしれない。』
そういいながら陛下はチラと皇太后様に視線を向けた
皇太后様は≪我関せず≫とばかりに窓の外に目を向けた
『解りました。陛下が手掛かりを見つけてくれることを静かに待っています。
それから王族が私の婚姻時期に関して口を出すのは、あまり良い事とは思えません。
陛下から≪口出しは無用≫とお伝えください。』
『太子がそう考えておるのなら、はっきりとそう伝えておこう。しかし・・・』
陛下は今までに何度も言った言葉を飲み込んだ
≪チェギョンは一体どこにいるのだ・・・≫
溜息交じりに何度も聞かされたセリフ・・・その気持ちは俺の方が強い
にわかに俺の周りは騒がしくなってしまった
これは誰かの作為のせいなのか・・・いや、本来であれば婚姻を予定していた頃だ
隙だらけだった俺だからこそ周囲に付け入る隙を与えてしまったわけだ
自分を戒め冷静になろう・・・そうしたらきっとチェギョンは俺の元に戻って来るに違いない
そう信じたい
商店街で見てしまった新聞記事・・・頭に血が上って胸焼けしそうな気分で来た道を引き返す
でも途中で空腹を思い出して、私は持参してきたお菓子を食べながらミネラルウォーターを飲み干した
上り坂は結構きついなぁ・・・しかしあの女、なんだかとてもムカつく
そんなことを思うと胸の辺りがもやもやして、私は何度も胸元を拳で叩いた
ふぅ・・・やっと到着したよ
そう思ったのも束の間・・・庭先にコお兄さんの車が停まっていることに気が付いた
ヤバい!お姉ちゃんもう帰って来てるじゃん~~~!!
恐る恐る扉を開けようとした時、お姉ちゃんとコお兄さんは血相を変えて外に飛び出してきて・・・私の姿を見つめ
大きな声を上げた
お姉ちゃんの大きな声なんて久し振りに聞いた気がする
『チュナ!一体どこに行っていたの。外に出ちゃあいけないと言ったはずでしょう?』
『あ・・・うん。ちょっと気晴らしにお散歩に行っただけ・・・とにかくお腹が空いた。家に入ろうよ。』
『ふぅ!』
すごい溜息・・・お姉ちゃん相当怒ってるよ
お姉ちゃんがぶつぶつ小言を言うのを聞き流しながら、私は先ほど見た新聞記事が忘れられず
ひょっとして・・・もしかして・・・まさか!の可能性に賭けて、お姉ちゃんにそのことを質問してみる
『あ~わかったよお姉ちゃん。もう勝手にお出掛けしませんってば。』
『お姉ちゃんじゃなくてお姉さんでしょう?』
あ~もう口煩いお姉ちゃんだ
『はいはい。お姉さん♪ところでさ~お姉さん・・・私ってひょっとして、皇太子殿下と顔見知りなのかな?』
『えっ?』
食事の支度をしていたお姉ちゃんばかりかコお兄さんまで私を凝視した
そして二人共私に向かって駆け寄った
『何か・・・思い出されたのですか?』
お姉ちゃん・・・口調が変だよ。それになんて真剣な表情・・・
『あ・・・さっき書店でたまたま新聞記事を目にして、そこに載っていた皇太子殿下の顔を見て懐かしく感じて・・・』
『他には何か・・・感じたことはありませんでしたか?』
お姉ちゃんなぜ私に敬語なの?
そんな疑問も口に出せず私はお姉ちゃんの剣幕に圧倒されて、その時感じたままの気持ちを口にした
『えっと・・・笑わない?皇太子殿下と一緒に写っていた女の子を見て≪私の男になにするのよ!≫って
大それたことを口にしそうになったんだけど・・・』
『あぁっ・・・・』
なんなの?お姉ちゃん・・・今にも泣き出しそうな顔してる
コお兄さんも同じような表情をしている
『お姉ちゃん・・・私の質問に・・・答えてくれないの?』
二人の表情から皇太子殿下と無関係ではないと悟った私は、さらに追い詰めてみた
そうしたら・・・とんでもない返事が返された
『あなた様は・・・皇太子殿下の許嫁であられます。』
あ・・・あなた様?あなた様っていうのはどなた様?
『お姉ちゃん・・・あなた様って・・・誰の事?』
『シン・チェギョン様にございます。』
『シン・チェギョン?』
シン・チェギョン・・・シン・チェギョン?あれ?なんか聞き覚えがあるような気がする
すごくしっくりくるその名前・・・えぇっ?じゃあ私は・・・チェ・チュナじゃないの?
『お姉ちゃん・・・私はチェ・チュナじゃない・・・の?』
『そうです。あなた様は皇太子殿下の許嫁のシン・チェギョン様でいらっしゃいます。』
『じゃあ・・・チェ・チュナは?』
『私の妹の名前でございます。幼い頃に・・・亡くなった・・・』
ということは私はお姉ちゃんの本当の妹じゃないの?頭の中が混乱する
それに・・・皇太子を≪私の男≫と言い切ったのは・・・本能の叫びなの?
『お姉ちゃん・・・とにかく何もかも話して。』
お姉ちゃんはもう私がお姉ちゃんと呼びかけても叱りはしなかった
『真実をお話しする時が来たようです。心して聞いてください。
三年前・・・チェギョン様は宮殿で訓育を受けておいででした。
その日の帰宅時・・・ここにいるコさんの運転する車でご自宅にお送りする途中
事故に遭ったのです。すぐに救急車を呼ぼうとしましたが、不審な車が追いかけてきた為
私達はもう一台護衛についていたイギサの車に乗り込み、あるお方の指示で素性を隠したまま
入院をいたしました。
後で調べたところ事故の原因は、ここにいるコさんの運転ミスによって起こった事故だと発表されたそうですが
実はそうではありません。何者かがチェギョン様をお送りする車のブレーキに細工をしたのです。
入院中にチェギョン様の記憶が失われていることを知り、私たち二人はあるお方の命を受け
今までチェギョン様を匿って参りました。』
『そんな・・・ことがあったなんて・・・。それでお姉ちゃん、そのあるお方とは・・・誰?』
『それはまだ申し上げられませんが・・・本日そのお方と逢って参りました。
チェギョン様を皇太子殿下と同じ高校に通わせるようにとの命を受けました。
ですがまだ記憶も戻っていない上、チェギョン様の命を狙った者の正体も掴めておりません。
チェギョン様・・・チェ・チュナという名前で韓国芸術高校に編入いたしましょう。
知っている人間がいる環境の方が、記憶も取り戻しやすいかと思います。
チェギョン様の事は必ずお守りいたします。』
韓国・・・芸術高校?なんだか聞き覚えがあるような気がする
学校に通えるのは嬉しいけど、私には少々不安に思う事があった
『でもお姉ちゃん・・・私、学力的についていけるのかな?』
『それはご心配に及びません。今まで毎日訪れた先生方が、同等の学力をつけてくださっていますから・・・』
『だったら・・・行ってみようかな。』
記憶を取り戻す為なら・・・何だってできるはず
『あ・・・そうだお姉ちゃん!私の両親って・・・本当に亡くなっているの?』
『いいえ。申し訳ございません。偽りを申しておりました。チェギョン様のご両親は
やはり身の危険が及ばないようにと済州島の皇室リゾートで暮らしております。お写真をご覧ください。』
お姉ちゃんは携帯電話を持ってきて電源を入れると、私に画像を見せた
『こちらがチェギョン様のご両親です。』
優しそうな笑顔の二人が、今にも話し出しそうな表情で私を見つめた
漠然となんだけど・・・お父さんとお母さんだと直感し胸が熱くなった
思い出すまでは・・・逢えないけどね・・・
『この携帯電話はチェギョン様の物でございます。この電話は学校には持参せずに、チェギョン様の交友関係を
把握するのにお使いください。』
『お姉ちゃんわかったよ。ところで・・・お姉ちゃんは・・・やっぱり宮殿の人なの?』
『さようでございます。私は東宮殿に仕える尚宮をしております。』
尚宮さんってことは偉い人なのね
今までいろんなことに口喧しかった理由がようやく理解できる気がした
じゃあさ・・・大人になってこんなの役に立つの~?って思った勉強の数々は、
ひょっとして宮殿で受けていたという教育だったの?
まだまだ…聞きたいことが色々ある私に、お姉ちゃんは真新しい制服と教科書・・・その他諸々の
韓国芸術高校潜入グッズを見せてくれた
早速明日から・・・登校なんだって♪
あの皇太子殿下もいるし・・・噂になった女もいるらしい
皇太子殿下は・・・私を覚えているのかな?でも・・・三年も経っているからわからないかな
あ・・・ダメだ。私はチェ・チュナなんだ
三年前の事故の真相を探り記憶を取り戻す為に、私はいよいよ韓国芸術高校に
明日から乗り込むぞぉ~~!
あはは~なんともポジティブなチェギョンです❤
さて~記憶喪失でありながら
潜入捜査の矢面に立つチェギョンですが・・・
一体どんなことになるのやら~♪
いやさぁ・・・お天気が良すぎて
書いている途中で庭に出ると
気が付けば多肉で遊んでいたり
草取ってたり・・・
集中できない私ですみません(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!