韓国に戻ってからというもの、少しも家に居付こうとしないシンを見兼ねたヒョンは、ある朝咎めるように言った
『シン・・・もう大学への編入手続きは済んでいるのだぞ。一体毎日、大学へも行かず何をしている!』
シンはシンで、相変わらず電源が切られたままの携帯しか連絡の取り様の無いチェギョンを、
ただやみくもに探す毎日に、少々焦り疲れが出る頃だった
苛立ち紛れにまるで八つ当たりするよう、父ヒョンに答えた
『人を探しているのです。遊んでいるわけではありません。』
『人を・・・探している?そんなことは人を使って探せばいい。』
『それではダメなんです。自分の力で探し出さないと・・・ダメなんです!』
『ははは・・・まぁよい。とにかく今日は、お前に出掛けて貰っては困る。』
『なぜですか?今の私にこれ以上の重大事項はありません。出掛けますよ!!』
『もうすぐユルが迎えに来る!お前はユルと一緒に今日宮殿に行くのだ。』
『はぁ?宮殿?一体なぜですか?』
『この国の皇位継承者が、皇太子殿下から皇女様に交代することになったのだ。
今日はその皇女様の婿候補が東宮殿に招待を受けている。お前もそのうちの一人だ。』
『なんですって?皇女様の婿?っつ・・・私はそんな物に興味はありません。』
『もちろんお前が皇女様に気に入られては困る。お前はあくまでも当て馬だ。
だがイ財閥の繁栄のためには、ユルに皇女様との縁を結んで貰わねば困るのだ。』
『はぁっ・・・当て馬になるために、そんな集まりに出ろと仰るのですか?』
『そうだ。お前はユルのサポートをして、皇女様にユルが気に入られるよう力を尽くしてくれ。』
『そんな暇は私にはないんですユル一人に行かせたらいいでしょう?』
『そうはいかん!王族会からも通達が来ているのだ。お母様が新しいスーツを用意してくださっている。
すぐに着替えなさい。』
『はぁっ・・・』
一望でも早くチェギョンを探しに行くためには、この用事を素早く終わらせるしかない
シンは溜息交じりに母ミンの用意したブラックスーツを纏うと、一緒に用意されていたタイをベッドに放り投げ
自分のクローゼットの中からブルーのタイを締めた
そこにノックをして母ミンが姿を現した
『あら~~♪シン、とってもお似合いよ♪あらっ?あらあらあらあら?蝶ネクタイは・・・締めないの?』
『お母様。私は当て馬なんでしょう?そんなにきっちりめかしこんでどうするんです?』
『まぁそうね~~♪でもユルもめかしこんでくる筈よ。私・・・うちの息子が一番じゃないと嫌なのよね~~
お~~ほっほっほ♪』
『これで十分ですよ。お母様・・・』
『まぁね。あなたなら何着ていたって、誰にも負けないほどいい男よね♪お~~ほっほっほ♪』
父は婿になって貰っては困ると言い、そのくせ母はハイテンションである
朝からどっぷり疲れ果てるシン・・・そんなシンを迎えにユルがやってきたようだ
『シン~~準備できた?』
『あぁできたよ。』
『じゃあ行こうか?今日は僕のサポートよろしくね。』
『あぁ任せておけよ。俺は皇女なんかに興味はないから。』
イ家の駐車場で自分の車に乗り込み、シンが助手席に乗るのを待っていたユルは
自分の車に乗り込んだシンに呆気に取られ、窓を開けると叫んだ
『シン!一緒に乗って行かないの?』
『あぁ。俺は早めに退散するから、自分の車で行くよ。先に行ってくれ。』
『うん、わかった~♪』
ユルの車が出発し、シンは少し遅れて車のエンジンを掛けた。
気乗りしない行事に焦っていく必要もないと、スピードを緩めのんびりと宮殿に向かって行った
宮殿に車を乗り入れ指定された場所に車を停めたシン。。。ユルは既に東宮に向かったようだ
(ったく・・・なんで俺が当て馬なんだ?)
案内に従って東宮入口に到着した時、そこで頭を下げた女性イギサと目が合いシンは驚愕の表情を浮かべた
そしてそれはイギサも同様だったらしく、次々とそのイギサはシンが見覚えのある顔をその場に並べた
(この人達は・・・チェギョンのお姉さん達じゃ?)
イギサの一人が慌てて東宮奥から一人の女性をエントランスに連れ出してくる
それはチェ尚宮であった
『あ・・・あなた様は・・・』
『私はイ・シンと申します。本日・・・こちらにお招きにあずかり・・・』
混乱するシンの頭の中・・・チェ尚宮は信じられないと言う面持ちで瞳を輝かせ、そして唇を震わせた
『まさか・・・東宮に参られる御身分の方とは存知あげず、大変失礼をいたしました。
私は皇女様付きの尚宮でチェと申します。
皇女様・・・いえチェギョン様が、帰国なさってから食事も喉を通らず、寂しそうなお顔をしていらっしゃいます。
どうか・・・御話し相手になって差し上げて下さい。』
『チェギョンは・・・皇女・・・だったのですか?』
『さようでございます。さぁ中へお入りください。』
まるで雲の上を歩いている様な気分で、シンは一歩一歩エントランスを進んで行く
そして東宮内のちょっとしたホールに足を踏み入れた途端、招待客とチェギョンの声が聞こえた
『皇女様・・・アメリカにご留学中に気に入られたお食事はありましたか?』
『ええ。ありました。ハンバーガーがとっても気に入りました。生涯決して忘れられない思い出です。』
たくさんの男の間から、椅子に座ったチェギョンの姿が見えた
薄いピンクのドレスを纏い、どこか遠い所に視線を漂わせていた
シンは堪らずチェギョンに歩み寄ろうと足を踏み出した
その時ユルに呼び止められた
『なんだよ~シン。皇女様になんか興味ないって言ってたくせに。あまりに綺麗で一目惚れしたか?
やめてくれよ!今日お前は僕のサポートに・・・・』
ユルの声などもう聞こえない
『見つけたんだ。』
『はぁ?何を?』
『探していた女。』
シンはユルを振り切ってチェギョンに向かって歩き始めた
・・・銀の糸に囚われた憐れな蝶は・・・俺じゃなく君だったんだな・・・
そして皇女の周りに群がる婿候補の上から頭を覗かせ、チェギョンに向かって話しかけた
『皇女様・・・アメリカ留学時代のお話を、少しお聞かせいただけませんか?
出来ましたらバルコニーで内緒のお話がしたいんですが?』
心ここにあらずのチェギョンは、うつろだった目を見開きその声の主を探そうと視線をあちこち泳がせた
そして・・・シンと視線がぶつかった
『あっ・・・』
思わず椅子から立ち上がったチェギョンは、驚きのあまり手に持っていたシャンパングラスを落した
そしてシンから目が離せずにただ立ち尽くす
『あぁ・・・ドレスが汚れてしまったではないですか。』
シンは婿候補を押しのけチェギョンの元に駆け寄り、ポケットチーフでドレスを拭った
『少し…お話できますか?』
『はい・・・』
シンに手を取られバルコニーに出て行った二人・・・その場に集まった政界財界の子息たちは
呆気に取られた表情で二人の後ろ姿を見送った
『まさか・・・こんなところで逢うなんてな。』
『ごめんなさい。何も言えなくて・・・』
『君が帰国したと知って俺もすぐに韓国に戻った。どれだけ探したことか。』
『探して・・・くれてたの?』
『あぁ。でも見つかるわけないな。宮殿にいたんじゃ。あれは・・・留学先での遊びだったのか?』
『違うっ!遊びなんかじゃないよ。でも・・・』
『そうだよな。バージンの皇女様に遊ばれて捨てられたなんて、俺だって思いたくない。』
『あの時は何も言えなくって。でも好きだって気持ちだけは伝えたくて・・・』
『一緒に行くか?63ビルも遊園地も。』
『・・・うん!!いいのかな・・・本当にいいの?』
『あぁ。俺達引き返せないところまで来てるだろう?責任取らなきゃな。くくっ・・・』
優しく微笑んだシンの胸元にチェギョンは顔を埋め抱き締めた
シンもチェギョンをきつく抱き締めた
バルコニーに続くガラス張りの扉の向こうでは、皇帝陛下と皇后陛下・・・また皇女の婿候補たちが
狐につままれたような顔で見守っていた
銀の糸に囚われたのはシンなのか・・・それともチェギョンなのか
もうそんなことはどちらでもいい
今はもう・・・その儚く切れそうな銀の糸を、運命の糸で結び直した二人なのだ
63ビルに行こう・・・遊園地も行こうな・・・
自由も恋も全く知らなかった皇女チェギョンが出逢ったイ・シンは、チェギョンに新しい世界と幸福な未来を
約束してくれる
それは権力や財力の為ではなく、純粋に惹かれあう想いが導いた銀の糸なのだ
チェギョンの笑顔が・・・再び花開く
シンの果てしない優しさの下で・・・
御礼★銀の糸 完
80000コメント御礼★銀の糸 いかがだったでしょうか
リクエストくださった鍵コメ様
ご満足いただけましたでしょうか?
逆の立場にあっても苦境を乗り越え
二人には幸せになって欲しいものです❤
楽しんでいただけたら幸いです。
銀の糸・・・短編でしたがお付き合いいただき
本当にありがとうございました★
~星の欠片~ 管理人★ emi ★
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銀の糸・・・短編でしたがお付き合いいただき
本当にありがとうございました★
~星の欠片~ 管理人★ emi ★