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晩夏の熱風 50 (最終話)

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その日・・・小さな家に戻るなり、シンはソファーにぐったりとした表情で深々と身体を沈めた

『ふぅ・・・』
『どうしたんですか?オッパ・・・』

チェギョンはすぐさまシンの隣に腰を下ろし、心配そうにシンの顔を覗き込んだ

『どうしたんですかじゃ・・・ない・・・』
『えっ?私・・・何か悪いことでもしましたか?』
『なぜ妊娠したことを黙っていたんだ?』
『だから~それは先程話したじゃないですかぁ。一位を獲れなかった時の保険に取っておいたんです。
私だってどれだけ話したかったか・・・口がムズムズしました。くすくす・・・』
『一位を獲っても海外学は辞退することも、なぜ教えてくれなかったんだ?』
『えぇっ?そんなの言わなくてもわかってくれていると思いました。
私がオッパと離れて生きていけると思いますか?』
『ぐっ・・・』

何も言い返すことなどできないシン・・・チェギョンの言っていることは的を得ている

『オッパ・・・赤ちゃんができたの・・・嬉しくないんですか?』
『いや、そうではない。ただコントロールはちゃんとしていたつもりだった・・・』
『お医者様に私もそう言ったんです。でも・・・完全ではないと言われました。
お医者様・・・私を未婚と勘違いして≪どうなさいますか?≫なんて聞くんですぅ・・・
どうするもなにも生むに決まってるじゃないですかね~♪』
『当然だ。俺ももちろん嬉しいさ。ただ心づもりができていなかっただけだ。
あ・・・そうだ!明日から自転車通学はダメだ。』
『えっ?じゃあバスで通えと?』
『いや・・・行きは俺が送ろう。帰りは母に頼むから心配するな。』
『え~~っ?大丈夫ですよぉ・・・』
『大丈夫じゃない。俺が心配で仕事にならないから、従ってくれ。』
『はぁ~い。』

シンは片方の手でチェギョンの手を握り、もう片方の手でその肩を引き寄せた

結婚から七年目の非常に嬉しいニュースだった





それからのチェギョンは、早々に卒業制作を描き上げた

そして翌年・・・画壇デビューを飾った

抽象画家シン・チェギョンの誕生である

コンクールでフランプリを獲った後母屋への引っ越しをした二人・・・今まで住んできた小さな家は

改築されチェギョンのアトリエになった

本日はイ家で≪抽象画家シン・チェギョンのデビューを祝う会≫が催されている

安定期に入ったチェギョンは、少しふっくらとしたお腹でメイドと共に料理を運ぼうとしていた

『あ~~チェギョンちゃん、妊婦さんが働いているとメイドさんたちがやりにくいわ。
ほら・・・実家のお父様やお母様もいらしてるんだから、お相手していて頂戴。』
『あ・・・はいぃ~お義母様。』

チェギョンは義母ミンの言いつけに従い、両親の座っているソファーに向かった

『お父さんお母さん、来てくれてありがとう♪』
『そりゃあ大事な娘のお祝いだもの来るに決まってる。しかしまさかチェギョンが、画家になるとは
夢にも思わなかったよ。』
『お父さんは昔から、≪わけのわからない絵≫・・・って散々笑ったもんね~~!』
『チェギョン・・・少しお腹が膨らんできたんじゃないの?順調?シン君は優しくしてくれている?』
『うん。お母さん心配ないよ。オッパはすごく優しいの~❤あっ・・・お客さんがみえたみたい。
お父さんお母さんまた後でね。』
『はいはい。』

チェギョンはシンと共に、玄関まで客を出迎えに行った

『イン!!来てくれたのか。』
『そりゃあもちろん。これ・・・お祝いに・・・』

チェギョンは大きな花束を手渡され満面の笑みを浮かべた

『ありがとうございます。カン・インさん・・・奥様♪さぁどうぞおあがりください。』

カン・インはシンとチェギョンが結婚した一年後に挙式した

まだ子供はいないが、幸せそうな二人である

<ピンポーン♪>

『あっ!ハン先生~~それに奥様も~~♪』
『チェギョン・・・おめでとう。』『チェギョンさんおめでとう。すごいわね。』
『ありがとうございます。』
『シン・・・チェギョンのお腹の子も順調そうだな。』
『はい。おかげさまで・・・』
『なんだか娘を盗られた気分だよ。ははは・・・』
『ハン先輩・奥さん・・・さぁどうぞおあがりください。』


ハン夫妻が訪れた後・・・すぐにインターホンが押された

<ピンポーン>
『あ!!ユル助教授~♪』
『よく来てくれたな。』
『そりゃあ来るさ。可愛い教え子のデビューだもの。ねっ?シン・・・僕の言った通りになったでしょう?』
『あぁ。ユルを見習って、俺も絵の勉強をしているよ。もちろん見るだけだがな。』
『一家に画家は一人でいいでしょう。ふふふ・・・』
『さぁ・・・父さんと母さんも待ってる。顔を見せてやってくれ。』
『うん。』



次々と駆け付ける客・・・既にイ家の相当広いフロアー満員になりそうだ

最後にチャン・ギョンとイ・ガンヒョン夫妻が、子供たちの手を引いて現れた

<ピンポーン♪>

『あ!!ギョンさんとガンヒョン先生~♪わぁ・・・ギョンス君にミランちゃんも一緒ね。』
『チェギョンおめでとう~♪』
『アンタ…とうとうやったわね。』
『はいぃ~ありがとうございます♪』

三歳になったギョンスはチェギョンのお腹に手を伸ばした

『ね~たん、あかちゃんいるの?』
『うんそうよ。ギョンス君・・・もう少ししたら赤ちゃんが生まれるから遊んでくれる?』
『いいよ~♪』

ホールに案内しながらガンヒョンはチェギョンに話しかけた

『あ・・・そうそう。この間ミン・ヒョリンから葉書が来たわ。アンタ・・・覚えてる?』
『覚えていますよ。ミン・ヒョリン先生でしょう?』
『あの子・・・同僚の教師と結婚したそうよ。赤ちゃんの写真入りの葉書だったわ。』
『赤ちゃん産まれたんですね~♪』
『うん。あの子もようやく幸せになったみたい。』
『よかったです。盛りブ・・・幸せそうで・・・』
『アンタは?・・・もちろん幸せでしょう?』
『もちろんです。これ以上ない程・・・幸せです。』
『アンタが自分の力で掴み取った幸せだものね。』
『はい。私が掴み取った幸せです♪』

やがてホールではデビュー作となる≪晩夏の熱風≫が公開された

『なんだか・・・優しい気持ちになるわね。以前のアンタの絵と違って、ただ突っ走るだけじゃない
そんな気持ちの変化を感じるわ。とても素敵な絵よ。』
『ありがとうございます。』

イ家の庭を駆け抜けていく熱風は、これから親になることを経験し更に優しい風となっていくだろう

『あっ・・・動いた!!』
『なにっ?』

咄嗟にチェギョンのお腹に手を当てるシン

もちろんそんなにタイミングよく、胎児が動く筈も無い

『チェギョン・・・お腹が空いて腹の虫が鳴っただけじゃないのか?』
『違いますっ!本当に動いたんです♪』

自慢げに微笑むチェギョンを、いつも見守ってくれていた人たちは嬉しそうに見つめた

高校一年生で結婚することを選んだチェギョン

シンの深い愛情に支えられ、今お腹の中の命が日々成長している

たとえ母になったとしても熱風娘はそのバイタリティー溢れる行動力で、シンを翻弄するのだろう

心から愛した人の翻弄なら・・・それも悪くないとシンは思った


皆それぞれの道を選び、目標に向かって突き進んでいく

ゴールがどこかなんてわからない方がいい

果てのない幸せへの道標は・・・すぐ隣にいるあなた




晩夏の熱風 完



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晩夏の熱風にお付き合いいただきありがとうございました❤
教師と生徒というタブーに挑戦してみましたが
まぁ・・・結婚は許嫁という鉄板があったので
容易かったかな♪

ひとまず年内は・・・書きかけの≪いにしえ≫と
クリスマスのお話に集中させていただきます。
最後までお読みくださり
誠にありがとうございました~❤
感謝申し上げます。

~星の欠片~ 管理人 ★emi★




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