司会進行役が次々と受賞者を発表する
(あと・・・二位と一位だ。はっ!まさか・・・入賞していないなんて事が・・・あったらどうしよう・・・)
このコンクールに出品するようになって四年目・・・
ずっと入賞常連者だったことで自己過信しすぎていたのではないかと、チェギョンは今更ながらに気が重くなる
(はっ・・・二位はあの人なんだ。もう一位だけだ。どうしよう・・・もし一位が獲れなかったらどうしよう・・・)
隣りに座るシンは妻がもし一位になってしまったらどうしようと、胃の痛くなる思いだった
そんなシンの気持ちも知らず司会進行役は一位の名前を発表した
【今年度のグランプリを発表いたします。シン・チェギョンさん!!
受賞作品は≪晩夏の熱風≫です。シン・チェギョンさん、どうぞステージまでお越しください。】
大きな歓声に後押しされチェギョンはその場に立ち上がった
義父ヒョンや義母ミンも割れんばかりの拍手を贈りながら、チェギョンに声を掛けた
『チェギョンちゃんやったな。』
『さすがチェギョンちゃん♪もぉ~どうしましょう~♪』
シンだけは複雑な表情を隠し必死に笑顔を取り繕った
『チェギョンおめでとう。行っておいで。』
『はいっ!!!』
颯爽とステージに向かっていくチェギョン
そんなチェギョンの後姿を少し憎らしくシンは思った
【シン・チェギョンさん、とうとうやりましたね。グランプリおめでとうございます。】
『どうもありがとうございます。』
客席に向かって深々と頭を下げたチェギョン
【いよいよプロの仲間入りですね。】
『はい。私を見守っていてくださった皆様すべてにお礼を申し上げます。』
やはりここは自分の出番とばかりに抽象画の大家・・・ソン画伯がステージ上に現れた
『シン・チェギョンさん・・・大変成長しましたね。この絵は・・・あなたの気持ちなのでしょうか?』
『はい。ソン画伯・・・仰る通りです。』
白い布を外された絵は、チェギョンがイ家に来てから初めて描いた絵と同じタイトルだ
なのに・・・背景や風の色までなんだかほっとさせる印象を受ける絵だった
(俺に対する・・・今の気持ちなのか?チェギョンはまさか、
この絵を置き土産にして俺から旅立つつもりなのか?)
シンの胸の中にやりきれない寂しさが募る
今思えば万が一にも一位を獲った際、副賞の留学については一切話し合わなかった二人だった
シンにしてみればその話はタブーだったのだ
改めて現在のチェギョンの気持ちだという受賞作品にシンは目を向けた
恐らく自宅の庭だろう
紅葉の始まった木々に囲まれたアスファルトの私道をオレンジやピンクの風が吹き抜けていくさまに思えた
(やはり・・・お前は俺から去るつもりなのか?)
ステージ上ではソン画伯とチェギョンの話が続いていた
『ずいぶん温かい絵を描かれましたね。見る人をほっとさせる癒しの絵だと私は感じます。
あなたの想いは随分熟成されたように思えます。』
『その通りです。ソン画伯♪そこまで理解していただけてとても嬉しいです。』
『いよいよ・・・留学を終えたら画壇デビューとなるわけですが、共に成長してまいりましょう。』
ソン画伯から留学の話を切り出され、チェギョンは顔色を変えた
『あの・・・大変恐縮ですが、留学は辞退させていただきます。』
チェギョンのその発言に、会場中がどよめいた
が・・・そのうち一人、シンだけは胸を撫で下ろしていた
『えっ?なぜです?こんな機会は二度とありませんよ。あなたにとってチャンスだと思いますが・・・』
『はい。確かにそうは思いますが、私はこの国で(オッパと共に)生きていきたいのです。
海外で勉強してくることだけが自分の為になるとは思えません。
それに・・・成し遂げたいことが私にはあります。もしかして・・・留学を辞退したら
画壇デビューはできないのでしょうか?』
ソン画伯はこんな珍しいグランプリ受賞者は初めてだと、含み笑いをしながら答えた
『いいえ。留学はあくまでも副賞です。あなたが望まないのであれば辞退して構いません。』
『では遠慮なく辞退させていただきます!』
いつもと違う光景ではあったが、客席はそんな授賞式を温かい目で見守った
チェギョンはグランプリ獲得の賞状と盾を手にし、ステージから降りて行った
閉会後の話し合いで、今回の受賞作≪晩夏の熱風≫は年内いっぱいこの建物一階の展示室に展示され
年が明けたらこの絵で画壇デビューを約束された
『さぁ~今日はとっておきの・・・一番いいお店に行かなくちゃね。抽象画家シン・チェギョンのデビューが
決まったんですもの~♪』
例年よりもテンションMAXのミンの指示で、最高級と言われるレストランに向かった四人
イ家の人間が訪れたということで、すぐに四人はVIPルームに案内された
料理を頼みまくるミンに圧倒されながらも、チェギョンは嬉しそうに微笑んでいる
シンもずっと胸にしまっていた≪留学≫への不安がなくなり、満面の笑みでシャンパングラスに
シャンパンを注いだ
『じゃあ・・・まずは乾杯しましょう~♪』
『あ・・・お義母様、ちょっと待ってください。その前にお話ししたいことが・・・』
『わかったわ。なんでも話して頂戴。でも・・・本当は留学したい・・・なんてことは言わないでね。』
『くすくす・・・それはあり得ません。あの・・・ご報告させていただきます。
実は私・・・赤ちゃんができたんです。』
『『『えぇ~~~~っ!!』』』
誰よりも驚いたのはシンだった
『う・・・嘘だろう?』
『嘘じゃありません!ちゃんと病院に行って確認してきました~♪今・・・三カ月に入ったところです。』
『なんだって?だが・・・そんな筈は・・・』
嬉しさと驚きとで非常に複雑な表情をしたシンに、ミンはしたり顔で告げた
『うんまぁ~♪よかったわ~❤シン・・・そんな筈はないと思っても、できる時にはできるものなのよ。
あなた~孫ですって♪どうしましょう~♪』
『ああ・・・なんだか今日は嬉しいことがたくさんで、何と言ったらいいのか・・・』
『もぉ~あなた。素直におめでとうでいいのよ。』
『チェギョンちゃんおめでとう。』
『チェギョンちゃん・・・嬉しいわ。ありがとう。』
シンだけはまだ半信半疑のようだ
『だが・・・チェギョン、お前はそんなこと一言も・・・』
『いやぁ~オッパ・・・もしも・・・一位になれなかった時は、このニュースで盛り上がれるかなと思って
内緒にしていたんです。でもまだ・・・わかってから一週間程しか経ってないんですよ~♪』
『だから留学を辞退したのか?』
『いいえ。元々一位を獲ったら辞退するつもりでした。だって・・・オッパの傍が、私は一番寛げるんです。』
臆面もなく両親の前でのろけるチェギョンに、ミンは顔をくしゃくしゃにして笑った
『じゃあ今日はおめでたいこと続きだから、たくさん乾杯しなくっちゃ。あ・・・チェギョンちゃんはオレンジジュースで
いいかしら?』
『はい~♪オレンジジュースで乾杯します。』
『『『『乾杯~~♪』』』』
VIPルームからはその後何度もシャンパングラスの鳴る音が響いた
どうやらチェギョンは、大きなお腹で卒業式を迎えることになりそうだ
と・・・いうわけで次回50話で
完結させていただきます。
ちなみに・・・出産までは行きつけません。
ごめんね~♪
完結させていただきます。
ちなみに・・・出産までは行きつけません。
ごめんね~♪