翌週からチェギョンは、チャン・ギョンとイ・ガンヒョンの第一子出産祝いに着手し始めた
とはいっても義母ミンに≪週に一度部室で絵を描いて来る≫と約束した手前、なかなか作業は進まなかった
そうこうしているうちにミンは国内で唯一抽象画に重点を置いている絵画コンクールを探しチェギョンの名前で
エントリーを済ませてしまった
もう・・・後には引けないチェギョンなのだ
コンクールの締め切りは9月・・・ガンヒョンに赤ちゃんが生まれるのはその年の暮れと聞いているので
その頃にはコンクールはすべて終わっている
手元に絵も戻ってくる筈だ
徐々に焦りを募らせるチェギョン・・・自分の中にあるインスピレーションが、コンクールで上位入賞を
狙えそうにないことに気が付き一人ジレンマに陥っていた
その日も小さな家に戻ったチェギョンは、漠然と窓の外を眺め何かを悩んでいるようだった
『チェギョン?』
このところ二人でいる時も何か考え事をしているチェギョンに、シンは心配そうに声を掛けた
だがチェギョンの返答はない
『チェギョン?』
シンはチェギョンのすぐ背後に立ち、その腰に腕を回し抱き寄せると耳元で声を掛けた
『はっ!!オッパ・・・』
『最近どうしたんだ?何か悩み事でもありそうだが?』
『えっ?あっ・・・』
チェギョンは振り向いてシンの腰に手を回した
『ふぅ・・・ちょっと悩んじゃって・・・』
『どうしたんだ?一人で悩んでいないで言ってみなさい。』
チェギョンはシンの胸元から顔を上げて眉を八の字に歪めた
『ガンヒョン先生に贈る絵が・・・全然進まなくなっちゃって。』
『なぜだ?あれほど描く気に満ちていたのに・・・』
『自分の描きたいものと・・・賞を獲れる作品が違うような気がして、手が止まっちゃったんです。
そのうちには想像力さえ衰退しちゃって・・・』
シンはチェギョンが自分の描きたいものと、コンクールに期待しすぎている母ミンの間で板挟みになっていると
感じた
『チェギョン・・・何も悩むことはない。コンクールの事など考えなくていいんだ。』
『えっ?でもっ・・・』
『よく考えてごらん。コンクールで賞を獲ろうと考えて描いた絵を、ギョンやガンヒョンが喜ぶと思うか?』
『あ・・・はい。確かにそうです。』
『そんな邪な気持ちは捨てて、今ガンヒョンのお腹に宿っている命を精一杯祝福する絵を描けばいい。』
『いいのでしょうか。』
『あぁ。結果は後からついて来るものだ。そう考えれば自分の描きたいものに
自分の力を存分に発揮できるだろう?』
『はいっ!!』
『迷いは・・・消えたか?』
『はい。これで一生懸命作品に取り組めます。』
『よかった。』
シンはチェギョンの頭を自分の胸に押し当てきつく抱きしめた
チェギョンの才能を高く評価しているミンには悪いが、それよりも大事な事はチェギョンが毎日幸せであること・・・
シンはチェギョンが自分の作品を思い切り描けるよう背中を押した
賞獲りレースなどどうでもいい・・・大切なのは自分の妻が自分らしく生きる事・・・
そんなシンの想いを受け、チェギョンは締め切り前に絵を完成させ無事コンクールに出品することができた
ちょうどその頃・・・シンは大学新卒者採用の為、毎日時間を費やしていた
イ財閥のホールで行われた採用筆記試験で、応募者の半数にも満たなかった合格者を集め
後日役員面接を行っていた
コン・ジョンイは・・・実は筆記試験において不採用の烙印を押された学生だった
だが・・・シンの一存で面接まで残したのだ
その理由は・・・彼の本音を聞き出したかったから・・・
次々と面接の為、代わる代わる学生が部屋に入って来る
役員の中で一番役職が上のシンは、辛口の点数を学生たちにつけた
他の役員が採用と判断しても、それをシンは許さなかった
つまり・・・最終決定の権限はすべてシンに委ねられていたのだ
面接を受ける一番最後の学生が一人廊下に残された時、シンは他の役員たちに退出を命じた
つまり・・・シンとワンツーマンの面接だ
『コン・ジョンイさんお入りください。』
秘書に声を掛けられ、コンジョンイはその部屋の扉を開け会釈をすると室内に入って来る
そして・・・面接官がイ・シンただ一人だけなのに非常に驚いたようだ
『韓国芸術大学四年コン・ジョンイと申します。』
『そこに掛けなさい。君の履歴書に書かれている世間一般でありがちな志望動機だが・・・
こんなありきたりな言葉が聞きたいんじゃない。君の本当の志望動機を聞かせて貰えるかな?』
コン・ジョンイはシンをしっかり見つめ、それから意を決したように口を開く
『はい。本心を言ってよろしいのであれば言わせていただきます。
シン・チェギョンさんのご主人であられるイ・シンさんの元で働き、イ・シンさんがチェギョンさんにとって
本当にふさわしい方であるかを確かめたいのです。』
『ほぉ・・・すでに愛し合って夫婦になっている私たちに、なんとも傲慢な物言いだな。』
『傲慢かもしれません。ですがチェギョンさんはひょっとしたら、私と一緒になった方が
将来大きく羽ばたけるのではないかと思うのです。』
『くっ・・・なにをもってそんな言葉が出るんだ?』
『私の家は代々国内でも名の知れた画家です。彼女の才能が惜しいと思いませんか?』
『はぁ・・・はっきり言っておくが、チェギョンはコン画伯に弟子入りを望んでいない。』
『それはきっと本心じゃありません!イ・シンさんに反対されたからではないですか?』
『いいや。私は反対していない。彼女は自らコン画伯に弟子入りしたくないと言ったのだ。これは彼女の本心だ。
夫婦である以上隠し事はないからな。』
自信に満ちたシンの眼差しに怯みそうになったコン・ジョンイ
だが…負けてはいけないと食い下がる
『あなたより・・・私の方が彼女にふさわしい人間です。』
『君は何か勘違いをしていないか?君が実力で役員面接まで残ったと思っているのか?』
『違うんですか?』
『違う。筆記試験で不採用となった君を面接まで残したのはこの私だ。
君の本心を聞き出そうと思ったからだ。だが・・・ふさわしいとかふさわしくないとか・・・
チェギョンの気持ちも聞かず君は自分の感情を押し付けてばかりだ。
あの海で逢った時から全く成長していないな。そんな強引な理屈で人の心を動かせるとでも思うのか?
はっきり言おう。君のような人材は我が社に必要ではない。
我が社の新入社員は専務の仕事ぶりを監視していられる程、暇じゃないんでね。
もう少し見込みがあるかと思ったが残念だ。
君は御父上の元で画家になるがいい。チェギョンの事は干渉しないで貰いたい。
彼女はコン画伯の後押しなどなくても、自らの力で自分の存在を世に知らしめることだろう。
さぁ・・・帰りなさい。この場で申し渡そう。君は不採用だ。』
海で初めてチェギョンに出逢った日・・・強引にチェギョンを車に乗せようとしたコン・ジョンイ
その頃から成長していないと言われたコン・ジョンイは苦虫を噛み潰したような顔で席から立ち上がり
シンに頭を下げた
ことごとくプライドを傷つけられたコン・ジョンイではあったが、そんなシンに対して恨みを持つこともなく
重い足を引きずり家に戻っていった
敗北感は胸の中を支配していたが、だからといってそれを逆恨みするようなこともなく、
コン・ジョンイは元々引かれていたレールに乗り、父の元で画家を目指すことに決めた
そして秋も深まってきた頃・・・イ家にチェギョン宛ての郵便物が届いた
差出人はチェギョンが出品した絵画コンクールの主催者からだった
寒くなってきて・・・ふぅちゃんがお布団に侵入する季節となりました。
でもね~~腕が痺れて、腕枕を外そうとすると
二の腕に爪を立てるんです。
アタシの~~二の腕~~傷だらけ(泣)