その日夕食の後片付けをしながら、チェギョンはミンに問い掛けた
『お義母様~創立記念パーティーってどんなことをするのですか?』
『そうね~~お父さんやシンが訓示を述べたり会社の足跡を話したり、社員の発表があったり・・・
あ~そうだわ。女子社員でプロ並みのピアノの腕を持つ人がいるの。その人の演奏があったり・・・
まぁお祭り騒ぎね。おほほほほ~~♪』
『やはり正装で行くのですか?』
『もちろん~社員だって正装よ。チェギョンちゃんは特にシンのお嫁さんとして大々的に紹介されるから
おめかししなくっちゃね♪あ~そうだわ!私と連名でお花を贈っておくわね。』
『あ・・・はい。よろしくお願いします。あの~私・・・ピアノは弾けないし何も出し物がないんですが・・・』
『あら~チェギョンちゃんはただそこに座っていれば、十分見栄えのする花なのよ。
何も心配しなくていいのよ~♪おほほほ・・・』
『そうだ!!!お義母様、私お祝いに絵を描こうかと思うんですが・・・。でも会社の玄関口に
ゴッホの絵が飾ってありましたよね?素人の描いた絵なんて貰っていただけないでしょうか。』
『まぁ~~♪何を言っているの?お父さんもシンもチェギョンちゃんが描いた絵だもの喜ぶに違いないわ。』
『じゃ・・・じゃあ私・・・描いてみようかな♪』
『そうなさいチェギョンちゃん。まだ創立記念パーティーにはひと月半あるわ・・・存分に納得のいくものを
描いたらいいわ~♪』
『お義母様・・・明日から創立記念パーティーまで、講義が終わったらサークルで絵を描いていてもいいですか?
お夕飯の支度・・・あまり・・・できないかも・・・』
『おほほ~いいのよチェギョンちゃん。楽しんでいらっしゃい。』
『ありがとうございます。お片付けはすべて私がしますので・・・ごめんなさい。』
『出来上がりを楽しみにしているわ♪』
ただ素晴らしい画材が揃っていることに魅力を感じ入部した美術サークル
そんなチェギョンに大きな目標ができた
チェギョンは今まで描いたことのない大判の油絵に挑戦する意欲に燃えた
(よ~~し、私を子ども扱いしたお姉様方・・・見てなさいよぉ~~!!)
現にチェギョンは幼い頃から、ありとあらゆる絵画展で何度も受賞をしていた
画壇でも注目されている女流アマチュア画家なのだが・・・
手掛ける絵が抽象画な為・・・見る人が見ないと全く分からないという代物だった
なので両親もチェギョンに絵の才能があるなんて全く信じていなかったのだ・・・
見る人が見ないと全く分からない・・・相当な眼力を有する者でなければ理解できないチェギョンの絵だった
その夜・・・チェギョンはシンと就寝前のコーヒータイムを楽しむ
もちろんもう寝室は一緒なのだから、そのあとも自室に帰ることはない
シンはチェギョンに甘くクリーミーなココアを自ら作ってやり、キッチンには甘い香りとコーヒーのかぐわしい香りが
ブレンドされてなんとも不思議な感覚だった
チェギョンはシンに作って貰ったココアを美味しそうに飲みながらシンに視線を向けた
するとシンもチェギョンに微笑みかけコーヒーカップを口に運び、何かを思い出したように
それを再びテーブルに戻した
『そうだチェギョン・・・今日ギョンから電話が来たんだ。』
『えっ?チャン・ギョンさんから?』
『あぁ。新婚旅行の土産を持って今週末に遊びに来るそうだ。』
『わっ♪ガンヒョン先生も・・・もちろんご一緒ですよね~~?』
『あぁ当然だ。くくっ・・・』
シンとチェギョンが挙式してからもう一カ月が経つ
チェギョンは久しぶりにガンヒョンと逢えることが嬉しくて胸が弾んだ
『あ…そうだオッパ、私・・・明日からサークルで絵を描いてきます。なので帰宅が夕食時になってしまうかも・・・』
『なにっ?一体どうして・・・』
『創立記念パーティーの時、お義父様に絵を贈りたいんです。
ほら・・・私って他に取り得がないから・・・』
『お前の絵?』
『はい。オッパはあまり興味を持たないような絵ですが・・・』
そういわれてみれば高校の美術部の顧問をしていた時、チェギョンの絵を見て首を傾げたことを
シンは思い出した
(確かタイトルを見て、やっとなんとなく理解した・・・って感じだった。)
そして社内には世界中の有名な絵画が数点・・・飾られていることを思い出したシン
(これは・・・チェギョンが恥をかくことになるんじゃないか?)
そんな風に思い、シンはチェギョンのパーティーの時の様子に思いを馳せ不安に駆られた
『だが・・・あまり遅くなるのはダメだ。それと父さんに贈る前に一度俺に・・・』
『ダメです!オッパにだって見せません~~!!』
『なぜだ?見せてくれてもいいだろう?』
『オッパにはきっと・・・理解ができないからですぅ・・・』
チェギョンが一体どんな絵を描くのか・・・危惧していても仕方がない
今はやりたいようにやらせてやろうと思うシンだった
翌日からチェギョンは講義が終わると美術サークルに入り浸った
もちろんサークル内には遊び感覚で入部した者の方が多く、鬼気迫る勢いで絵を描いているチェギョンは
周囲からは浮いた存在になっていった
あまりに絵を描くことに没頭するあまり、ユルに心配される始末だった
『チェギョン・・・シンに連絡はした?』
『えっ?・・・』
部室内に掛けられている時計を見つめ、驚愕の表情を浮かべるチェギョン
『わぁ~こんな時間ですぅ。』
『ダメだろう?叔母さんだって心配する。そろそろ帰りなさい。』
『はっ・・・はいぃ~♪すみませんイ・ユル助教授~~!!』
慌てて画材を片付け部室から出て行ったチェギョン
ユルはシンが心配しているのではないかと、チェギョンの描き始めたばかりの絵を見つめながら電話を掛けた
『シン?僕だけど・・・もう家?』
『いや・・・今会社を出るところだ。』
『そう。チェギョンも今帰ったよ。』
『なに?チェギョンはこんな時間までサークルにいたのか?』
『うん。あの子って集中すると周りが見えなくなるみたいだね。一人で没頭して描いていて
今僕が声を掛けてようやく時間に気が付いたって感じだよ。』
『そうか。そんなに集中していたのか。なんでも・・・創立記念パーティーの時、父さんに贈りたいらしい。』
『そうだったんだ~~♪通りで鬼気迫る創作意欲だと思った。
ところでシン・・・お前、気が付いてた?』
『何がだ?』
『チェギョンの絵の才能だよ。』
『才能・・・ありそうか?』
『うん。僕は長く海外で絵の勉強もしてきたけど、なかなかいない逸材だと思うよ。』
『俺にはさっぱり・・・わからなかったが・・・』
『シンは絵の勉強していないからね~~♪これ・・・すごい作品になりそうだよ。』
『そっ・・・そうなのか?』
『うん。叔父さんや叔母さんは結構目利きだから、きっと驚くと思う。』
『チェギョンに・・・そんな才能が?』
『知らずに結婚したなんて・・・シンらしいな。ははは・・・』
ユルから聞かされた衝撃的な事実
だがシンにはまだ半信半疑にしか思えなかった
ユルの審美眼を疑うわけではないが、シンはまだチェギョンの底力を見ていない
何れそれを知ることになるだろう
『お義母様~遅くなっちゃってごめんなさい~~!!』
『まぁ~チェギョンちゃん、顔に絵の具つけて。子供みたいよ~おほほほほ・・・
どう?進んでいるかしら?』
『はい。なんとなくイメージが固まりました~♪』
『そう♪じゃあ手と顔を洗って、一緒にお皿を並べて頂戴ね。』
『はい~~♪』
大学生になった嫁を、こんなにも大事に扱う義母ミン
チェギョンは自分が、誰よりも恵まれた環境でこの上なく幸せであることを噛みしめた
お隣がね・・・リフォームしていて・・・今家の南側の窓
開けられないんですぅ~~!!
ず~~っとドリルの音とか電ノコの音とか
塀の向こうに人が何人もいるんですぅ~~!!
ストレス・・・溜まりますぅ・・・
開けられないんですぅ~~!!
ず~~っとドリルの音とか電ノコの音とか
塀の向こうに人が何人もいるんですぅ~~!!
ストレス・・・溜まりますぅ・・・