(チェギョンside)
出産予定日まであと一週間に迫った日・・・私は急激なお腹の痛みに襲われ王立病院を訪れた
いや・・・正確に言うと昨晩からなんとなく痛かったのだが、シン君が公務で地方に行っているため
我慢してしまったのだ
やはり何もかもが初めての事なので心細かったというのもある
チェ尚宮さんに付き添われ王立病院で診察を受けた時には、すでにお産が始まっていて
私はそのまま入院することになった
公務からシン君が戻るのは今夜遅くだろう
赤ちゃんの出産に立ち会いたいと言っていた彼だったけど、どうやら叶いそうにない
押し寄せてくる痛みの中、私は必死に皇太子妃である自分を演じようとしていた
形振り構わない状態に陥るのは許せなかった
だけど・・・徐々に痛みの間隔が短くなるにつれ、そんなことを言っている場合ではなくなってしまった
素・・・まさに素の私のまま、出産という大仕事に立ち向かっていた
時にチェ尚宮さんの手を必死に握り締め、時に呻き声をあげた
今は元女優でも皇太子妃でもない
命の誕生に立ち向かう一人の女だ
時折気が遠くなるほどの疲労感・・・そんな私の手を握りチェ尚宮さんは必死に励ましてくれた・・・ように思う
何しろ記憶が曖昧なのだ
『妃宮様、殿下が公務を切り上げこちらに向かっているそうです。』
『えっ?私は大丈夫ですから、しっかり公務を終えてからお帰りになるようとお伝えください。』
痛みが遠のいている間、私は必死にそう答えたけど・・・きっともう後の祭りね
シン君は王立病院に向かって急いでいる頃だわ
そのあとはもう痛みの間隔はなくなり、私は会話をすることもままならなくなった
チェ尚宮さんの励ましに、呻き声で答えるだけだった
いきみと逃すを繰り返す私の耳に、元気のよい赤ん坊の声が聞こえた
『ふぎゃーーーっ!!』
おぉ・・・いい声ね。声量もあるし良く通る声だわ。
第一声を聞いてすぐに思ったのがこんな感想だったのだけど、私は一体何を考えているのかしら・・・
『妃殿下・・・お生まれになりました。親王様のご誕生です。』
赤ちゃんを取り上げてくれた医師がそう教えてくれた
親王様・・・ってことは、最初から男?あぁぁダメだわ。私の男装の麗人育成妄想は、かなり進行していたみたい
私は首を上げて医師の方に視線を向けた。そこには今自分が産み落とした赤ちゃんが産声を上げている
あ・・・シン君にそっくり。
面立ちがよく似ている・・・そう感じた時、さらに医師は教えてくれた
『標準より大きな赤ちゃんでした。よく頑張りましたね。』
大きいってことは重いということ?そう思ったけれどそうではないみたい
身長が高いのだ
シン君そっくりな赤ちゃんを産むことができて、私はどこか安堵の気持ちを胸に抱いた
シン君はきっと喜ぶに違いない
(シンside)
公務先でチェギョンにラブコールしたときには何も言っていなかったのに、翌日俺はいきなりチェ尚宮から
チェギョンが入院したとの報告を受けた
このまま出産になるそうだ
俺は公務を放り出してでもすぐにチェギョンの元に戻りたいと思う気持ちを必死に抑え、必要最低限の公務だけは
済ませてソウルに戻っていく
こんなに急に出産になるものだろうか?
コン内官に車の中で問いかけてみたが、コン内官に答えられる質問ではなかった
俺の推測ではきっと昨晩にはその兆候があったのではないかと思う
俺が公務を怠らない様、チェギョンは配慮したのか?余計なことを・・・
おかげで第一子の出産に立ち会うことができなくなってしまったじゃないか
少し憤る気持ちで到着した王立病院
しかしその憤った気持ちは、つい先ほど生まれたばかりだという赤ん坊を見たらどこかに飛んでしまった
まだこの世に誕生してさほど時間も経っていないはずなのに、なんと麗しい顔つきなのだろうか
『殿下・・・お抱きになられますか?』
『いや・・・公務先でスーツが汚れているかもし8れない。見ているだけにしておこう。』
この神々しいほどの眩しさはチェギョンを初めて見た時の感動に似ている
この子はチェギョン似なのだろう
そう思いチェギョンに労いの言葉を掛けようと特別室に入って行くと、いきなりチェギョンに俺の思いと
逆のことを言われてしまった
『チェギョン・・・よく頑張ったな。辛くなかったか?』
てっきりベッドで臥せっていると思ったチェギョンは、ベッドに腰かけて満面の笑みを浮かべていた
『シン君!!お帰りなさい~♪赤ちゃん見てくれた?シン君そっくりでしょう?』
あぁっ?俺はチェギョンにそっくりだと思うが・・・
ここは一応母親の面子を立ててやろう
『あぁ。そうだな。もうマスコミにも発表された。国民も喜んでいる事だろう。』
『そうなのよ。見て!!窓の外に国民が集まってきているの。』
もう夕暮れの時間だというのに、病院の周囲には祝いの言葉を書いた旗を持った国民たちが手を振っている
『お手柄だったな。』
俺はチェギョンの頭にそっと手を置き、髪を撫でながら隣に腰かけた
『うん。チェ尚宮さんがいてくれたから安心できた。』
『そうか。チェ尚宮もお手柄だったな。』
チェギョンの顔には出産の疲れも見えず、不思議なくらい輝いていた
『さて~このお腹何とかしないとね♪』
あぁ?もう仮面舞踏会のことを考えているのか?
さすがだな。俺が思っていた以上に逞しい女だ
その日は興奮冷めやらないチェギョンと、病室で祝い膳を食べた俺だ
恐らく産婦人科の祝い膳を食べた男など、この俺一人だろうな。くくっ・・・
親王の誕生に国民は喜びを隠せないようで、宮には祝いの品がたくさん届けられた
もちろんそれらは入念にチェックされ、それをクリアした物は東宮に運び込まれた
大切な皇孫であり皇位継承者だ
念には念を入れたチェックのあとで、国民からのありがたい贈り物は使わせてもらうことにした
三陛下も手放しで喜び、宮殿内はチェギョンと親王が帰って来るその日を指折り数えて待っていた
出産から一週間・・・何のトラブルもなく順調に回復しているチェギョンと、元気に成長する親王は
晴れて宮殿の門をくぐった
(画像は薔薇の奥様ことkakoさんからお借りしております。お持ち帰りはご遠慮ください。)
ちっ・・・
続いておったか・・・・
ちっ・・・
続いておったか・・・・