(チェギョンside)
私に用意された最後の花道は驚きの連続だった
ずっと男役をしてきた私が、まさかドレス姿で引退セレモニーをするなんて・・・
さらには舞台の下まで彼が来てしまうなんて・・・
彼は私に真紅の薔薇の花束を手渡し、それから手を差し伸べた
そう・・・あの宮殿で開かれたパーティーの時と同じように・・・
ただあの時とは違ってここは公然の場であり、観客のすべてが私達二人を息をのんで見つめているのを感じた
差し伸べられた手を取るべきか否か迷うことはなかった
ここで躊躇したら今後の二人の関係にヒビが入る・・・それに彼に恥をかかせることになる
微笑んで私を見上げる彼に私も微笑みかけ、その手に応えた
彼は私を導くように舞台から降ろすと私をエスコートして通路を歩いていく
まるで公開挙式さながらの光景・・・そのうえ私の手を取った彼の素性は観客にもわかってしまったらしく
ざわめきというよりも所々で溜息が聞こえる
私は女優然とした態度で臆することなく彼の手に引かれていく
これで・・・マスコミ発表よりも先に観客にはばれちゃったわね・・・
あっ!!
私は非常に重大なことを思い出してしまった
今日は両親が最後の舞台を観に来ていたのだ
慌てて二人のために取った席に目を向けると、両親は口をあんぐりと開けたまま私たちを凝視していた
あぁぁ・・・お父さんお母さんごめんなさい。明日実家に戻って説明するわ
彼と共に会場を出ると、もちろん待ち構えていたマスコミ関係者に取り囲まれた
『殿下・・・シン・チェギョンさんとはお付き合いなさっているのですね?』
彼は何も答えずに微笑んで会釈を返した
『シン・チェギョンさん・・・今のお気持ちは?』
私ももちろん彼に倣って会釈をしその場を通り過ぎた
皇室の車に彼と共に乗りその車が動き出した時彼は言う
『チェギョン・・・食事でも一緒にしたいところだが、今日のところは人の目もある。
また日を改めて・・・ということにしてマンションに送っていこう。』
『ええ。それがいいと思うわ。』
『今日の事・・・咎めないのか?』
『咎めてほしいの?』
『いや、決して悪い事をしたとは思っていない。』
『私の引退を華々しく飾ってくれちゃって・・・くすくす。でも両親がすごく驚いていたわ。』
『なにっ?君のご両親があの場にいらしたのか?』
『ええ。最後の舞台だもの。』
『はぁっ・・・それは挨拶を急がないとな。』
『うん。明日家に帰って話をしてくるわ。それからにしてもらえる?』
『あぁ。そうしよう。』
そりゃあ一緒に食事できるのは嬉しいけど、舞台用メイクのまま食事に行くなんて無理だわ
マンションの部屋の前まで送られた時・・・私は自分が部屋の鍵さえ持っていないことに気が付き愕然とした
『あぁ・・・どうしよう。』
『どうかしたのか?』
『ガンヒョンはまだ劇場にいるだろうし、部屋に入れないの・・・』
『鍵は?』
『劇場に置いてきちゃったわ。』
『それは・・・参ったな。』
参ったのは私の方よ。その先彼の言った言葉にさらに困惑したわ
『じゃあ・・・東宮に行こう。』
『えっ?東宮?この衣装・・・この顔のまま?』
いくら娘役のメイクとはいえ、舞台用メイクは遠くからでも印象付けられるようデフォルメされているのだ
この顔のまま東宮殿など行った日には、彼に仕える人達にこの顔のイメージを定着させてしまいそうだ
『ここでガンヒョンさんを待っているよりいいだろう?』
その時彼の胸ポケットの中でスマホが鳴り出した
『ちょっと失礼。あ・・・ギョンだ。』
彼はすぐにその電話を取った
『ギョンか?あぁ。ずいぶん派手なことしてくれたって?くっ・・・自然の成り行きだ。
お前だってその立場になればわかる。あぁ?彼女の荷物をガンヒョンさんが今持ってきてくれる?
それは助かる。実は今、部屋の前で立ち尽くしているところだ。あぁわかった。待っている。』
電話を切った彼は、私に笑顔を向けた
『ギョンから電話で今ガンヒョンさんと一緒に、君の荷物を届けてくれるそうだ。
あと10分ほどで着くと言っていた。』
『よかった♪』
『よかった?東宮に行かなくて済んでよかったという意味か?』
『シン君、勘ぐらないで!このメイクに衣装のまま行ったら、私のイメージはこのまま定着してしまうのよ。』
『くっ・・・いいじゃないか。』
『よくないわよ。近くで見るとビックリでしょう?』
『いや。とても素敵だ・・・』
彼の声がずいぶん近くですると思った瞬間・・・彼の唇は私めがけて迫って来る
うわっ・・・ちょっと待って!!だからこの舞台用メイクのまま初キスなんてイヤよ!!
咄嗟に私は自分の唇と彼の唇の間に手を差し込んだ
つまり・・・キス拒否だ
だってあんまりじゃない?マンションの廊下で舞台用メイクをした初キスなんて・・・
女心をもっとわかってほしいわ!!
(シンside)
吸い寄せられるように彼女に迫った俺の唇は、彼女の手というシャッターに阻まれた
『チェギョン・・・』
拒否されたことを少し拗ねたような視線でチェギョンに訴えると、チェギョンは上目遣いで俺を諭した
『だってシン君・・・この格好にこの場所っていくらなんでもムードがなさすぎるっ!』
そうだ。そうだった・・・
彼女は幾多のいい男を演じてきたのだ
どんなシチュエーションでキスをするとか、俺なんかよりよほどいい男に詳しい
っつ・・・俺としたことが大失態だ
生まれ育ちがいくら高貴な身分だとしても、無菌室のような場所で生きてきたのだ
女の扱いには慣れていない
恐らく彼女の方がよほど・・・女の扱いに慣れている事だろう
『くっ・・・すまない。君があまり綺麗だったから・・・つい・・・』
笑ってごまかす作戦に出た俺だった
まぁ急ぐことはない。この先彼女は俺だけのものだ
『いや~~お待たせ~~♪』
冷やかすような視線でギョンとガンヒョンさんが現れた
ガンヒョンさんは鍵を開けるとギョンに声をかけた
『ギョン・・・食事の約束はまた今度にさせてね。アタシはチェギョンと一緒に引退の祝杯をあげるから。』
『えっ?そんなぁ・・・』
『次は必ず。ねっ・・・』
『わかったよガンヒョン。』
扉が閉まってしまう
俺はチェギョンに話しかけた
『また連絡する。』
『ええ。わかったわ。』
最後の舞台メイクをした笑顔の残像を残して扉は閉まった
ギョンと二人マンションのエントランスに向かいながら話をする
『いや~~シン。カッコよかった~♪俺もあれ・・・やりたい~~~っ❤』
『っつ・・・別に最初からそうするつもりだったのではない。つい・・・発作的にな・・・』
『冷静なシン君がチェギョンと出逢ってから発作的なことが多いよね~~♪』
『あぁ。盲目的に彼女しか見えないみたいだ。』
『一国の皇太子がそんなことでどうするよ。ちゃんと執務してよ。』
『失敬な。執務はちゃんとこなしている。彼女が入宮すれば、もっと身が入るだろうがな。』
『いや~~逆に身が入らないんじゃないの?お妃教育受けているチェギョンに
しょっちゅう逢いに行くんじゃね?』
そんな馬鹿な・・・と思ったが、ギョンの言っていることも少し頷ける部分があって俺は自分が怖かった
皇太子妃に夢中になりすぎる皇太子など・・・あまり格好の良いものでないからな
そして翌朝・・・コン内官が持ってきた新聞の一面トップは、すべて俺とチェギョンの写真で埋め尽くされていた
まぁ想定内の事なのだが・・・
【皇太子殿下、シン・チェギョン様の引退公演に!!】
【熱愛中の皇太子殿下とシン・チェギョン様!!】
【婚約間近!!】
写真もなかなかいいアングルで撮られていた
一社などは俺が彼女に手を差し伸べ、その手を取った時に見つめ合う二人の写真が載っていた
さすがプロだな。心得ている
他は皆、通路を二人で歩いていくところだ
三陛下の耳にもすでに昨日の事は届いているようで、朝の挨拶の時に≪早く婚約を発表しないと≫と
催促されてしまった
まずは・・・彼女の家に行かなければ・・・
コン内官が一人で挨拶に行く予定だったが、もうここまで騒ぎを大きくしてしまった以上俺本人が
出ていくしかないだろう
彼女は午前中から家に戻ると昨晩の電話で言っていたので、俺はコン内官と共に午後シン家に
向かうことにした
今更ながら≪皇室になど嫁にやらない≫などと言われたら・・・
そんな一抹の不安も過ったが、もうここまで世間が知ってしまった以上彼女のご両親も
拒むことはできないだろう
俺はただ彼女に対する想いを訴えればいいだけだ
シン家の門の前で公用車から降りると、一斉にマスコミ関係者が集まって来る
これは・・・俺が思っていた以上に大変な騒ぎになっている・・・
逸る気持ちで俺はシン家の敷地に入っていった
(画像は近所の薔薇屋敷の薔薇)
なんだかこのところ、朝晩すごく寒いんですぅ・・・
今朝なんか霜注意報発令よ!
6月だというのに変だね・・・
さて・・・明日は庭木の剪定頑張るぞっと❤
なんだかこのところ、朝晩すごく寒いんですぅ・・・
今朝なんか霜注意報発令よ!
6月だというのに変だね・・・
さて・・・明日は庭木の剪定頑張るぞっと❤