(チェギョンside)
彼のプロポーズを受けてから劇団を退団するまでの一カ月間、私は彼に逢わないと決めた
なぜなら私は男役トップスターだ
誰よりも舞台の上では男らしくいなければならない
だけど・・・彼に逢ってしまえば私は女になってしまう。それを恐れたのだ
女優として男役として最後の舞台を踏むまでは、彼に逢うことを禁じストイックに役に没頭することを選んだ
でも・・・逢うことはなくても、その分頻繁に彼から電話は入った
そして電話で話す度に私達は距離を縮めていった
『今日、妃宮の部屋の内装工事が始まったんだ。』
『えっ?もう?』
『君が退団したらすぐにでも入宮できるようにな・・・』
『まさかいきなり結婚?』
『くっ・・・まさか。まずは婚約発表をしそのあと入宮だ。ちゃんと手順は踏まえないとな。』
『えっ?結婚前に入宮?』
『あぁ。訓育があるからすぐにでも入宮だ。あとは良い日取りを選んで婚姻するだけだ。
あぁそうだ。君の家に内官が挨拶に伺いたいと言っているが構わないか?』
えっ?そっそれは困るわ。だってまだ何も言っていないもの・・・
あの暴漢事件の時だって≪ただファンなだけ≫とお茶を濁していたのよ
まだ・・・困るわ。
『あのっ・・・言い難いんだけどまだ両親に話していないの。』
『なにっ?・・・まだ話していないと?』
『ええ。あの襲撃事件の時だって腰を抜かさんばかりの驚きようだったのよ。お話を受けたなんて聞いたら
卒倒しちゃうかも・・・』
『そうか。ではそれも退団後だな。』
『ええ。きちんと私から話をするから、それまで待っていて。』
『あぁ。わかった。』
せっかちな彼は着々と準備を進めているようだ
私はまだ最後の大仕事が残っているから、彼との結婚はそれからだ
そしてとうとう・・・今回の公演の千秋楽の日がやってきた
『チェギョン・・・ギョンがねVIP席を取ってくれたのよ。最後の舞台・・・しっかり見ているわよ。』
『うん。ありがとうガンヒョン。』
ガンヒョンに送り出され、私は劇場に向かった
いつも通り役者仲間と顔を合わせると、皆一様に寂しそうな顔をしてくれていた
『チェギョン・・・本当に今日が最後?』
『うん。』
『チェギョン先輩~寂しすぎますぅ・・・』
『くすくす・・・後のことは頼んだわよ。』
なんとなくしんみりした雰囲気になってしまった時、劇団の代表が楽屋に顔を出した
『チェギョン・・・今日が最後ね。』
『はい。今まで大変お世話になりました。』
『有終の美を飾って頂戴ね。』
『もちろんです代表。』
メイクを済ませ衣装に着替えると、舞台の中央で緞帳が上がるのを待った
静かに緞帳が上がり、私の最後の舞台が始まる
一語一句・・・このセリフを言うのも最後なのだと思うと、胸が詰まる思いだった
だけど最後まで自分らしく・・・ファンが期待しているシン・チェギョンらしく舞台を務めあげた
大きな歓声と共に幕が下りた時・・・安堵と感極まった思いは私の頬に涙となって零れ落ちた
まだこの世界にいられたのではないか・・・そういう感傷的な思いではなく、やはり一抹の寂しさと不安が
私を包み込んでいくのを知った
カーテンコールが上がる前・・・いきなり舞台に代表が駆け付け、私に着替えるよう命じた
真紅のドレス・・・だ・・・
この劇団で役者をしてきた中で娘役を演じたことなど一度もない私・・・
『チェギョン・・・あなたに引退の花道を用意したわ。』
『えっ?』
有無を言わさずスタッフに着替えさせられた私・・・メイクも女性用に施され髪も貴婦人さながらに
結い上げられた
こんな演出は・・・聞いていない
でもきっと代表と役者仲間が作ってくれた最後の花道だ
喜んでそれに従おう
だけど・・・いきなり渡された譜面が以前演じた舞台の、娘役の歌だったのには呆気にとられたけど・・・
まぁ曲は頭に入っているから、何とかなるかな・・・
カーテンコール
最後の緞帳が上がった
(シンside)
チェギョンの最後の舞台に俺は私服ではなくスーツ姿で向かった
一応変装用の黒縁眼鏡をかけてはいたが、今日で彼女は引退するのだ
もう・・・いいだろう?それが正直な気持ちだった
ギョンが取ったVIP席と隣り合わせの席に座り、彼女の最後の舞台を観劇していた
ギョンは舞台を見ながら必死にガンヒョンさんに話しかけている
ガンヒョンさんはそんなギョンが鬱陶しそうだ
凛々しい男装の麗人は、美しく気高い演技で観客を魅了していた
もちろん一番魅了されているのはこの俺だ
この舞台が終わったら、彼女は男装を解き俺の妃になる
胸が高鳴らないわけがない
だがその反面・・・こんなに輝いている彼女を宮に閉じ込めるのは、非常に残酷な仕打ちなのかもしれないと思う
それでも俺の愛を成就するにはこの方法しかなかった
少しのすまなさを胸に抱きながらも、最後の男装姿をしっかり目に焼き付け彼女の舞台は幕を下ろした
俺はコン内官に楽屋に花束を届けるよう申し付け、一階に降りて行った
すると・・・一人のイギサが慌てて俺を呼び止めたのだ
『殿下・・・どうやらカーテンコールでシン・チェギョン様からのご挨拶があるようです。』
なにっ?それは見逃せない
もうVIP席に戻っている時間はない
俺は一階の一番後ろ場所で護衛されながら、コン内官と共にその様子を見守った
緞帳が上がると劇団員は一斉に前に並んでいる・・・その中にチェギョンの姿はない
不思議に思いじっと目を凝らすと、レッドカーペットを敷いた階段の上に美しい女性が一人立っていた
あれは・・・シン・チェギョンじゃないか!
なんて美しいのだろう
宮殿のパーティーの時より数倍・・・いや数百倍は美しい
彼女は階段を一歩一歩下りながら、いつもの声とは違う甘い声で歌い始めた
なんだ・・・女性の歌も歌えるんじゃないか
聴き慣れたチェギョンの声とは違う・・・だが今日のドレスにピッタリな愛の歌
それはまるで俺一人に向かって歌いかけられているような錯覚に陥り、俺の心臓は今にも
弾けそうな気分になった
彼女がゆっくり階段を下りながら、その愛の歌を歌い終えた時・・・彼女は劇団員の中心に立った
マイクの前に立った彼女は、満面の笑みを浮かべ語り始めた
『ソウル音楽学校からこの劇団に入りずいぶん長い時間が流れました。
男役としてこの劇団でトップを演じてこられたのも、ファンの皆様・・・そしてこの劇団で共に過ごした役者仲間の
支えがあってのことと感謝しております。
とても幸せな毎日でした。ありがとうございました。
今日で私はこの劇団を去りますが、またいつか違ったステージで皆様にお目にかかれる日を
楽しみにしております。長きに渡り応援していただき誠にありがとうございました。』
観客席に向かって深々と頭を下げるチェギョン・・・顔を上げた時、彼女の頬は涙で濡れていた
違ったステージとは皇太子妃の事なのだろう・・・胸が熱くなった
通路にたくさんのファンが押し寄せ、彼女に花束を渡す
その一人一人と握手を交わし、彼女は微笑みかけた
持ちきれないほどの花束は後輩に託され、それでも彼女は次の花束に囲まれていた
どうにも・・・我慢ができない
タイミングを逃し楽屋に行きそびれたコン内官が抱いた花束を奪い取り、俺は通路中央を歩いていく
もちろん俺の周りにはイギサが護衛についた
俺がステージ下に辿り着く頃には、ファンの花束もひと段落しているようだった
チェギョンの横で花束を託された後輩が、どうやら俺の姿に気が付いたようだ
チェギョンが持っている花束を他の後輩が全部受け取った
素晴らしい気の回し方だ
俺はステージ下で彼女に向かって花束を掲げた
彼女はそこに俺がいることに相当驚いた顔をしたが、すぐにいつものような笑顔を俺に向けてくれた
やっぱり我慢できない
俺は彼女に手を差し出した
彼女は差し出された俺の手を躊躇うことなく取ると、舞台から会場に降りた
やってしまった。婚約発表よりも前に実に派手な演出をしてしまったな
彼女は俺の手を取って舞台から降りたのだから・・・彼女の退団の理由は言わずとも知れたことだ
明日の新聞は恐らく・・・劇場を張り込んでいたマスコミの手によって華々しい記事になることだろう
彼女の手を取り通路を歩いて行きながら、俺の頭の中には明日の新聞記事の見出しが飛び交っていた
(画像は近所の薔薇屋敷の薔薇)
今週は次男君のテスト期間で
更新に大変てこずりました。
ね~友●さんも・・・こんなことしてくれたら
よかったよね~♪
引退公演で(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!
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