(チェギョンside)
皇太子殿下との電話を切った後、私はガンヒョンがいるリビングに戻っていった
『どうだった?チェギョン・・・』
『うん。やっぱり真剣だった。そこまで真剣だとは思ってもみなかった。』
『それはアンタが鈍すぎるのよ。あの時だってそうだったじゃない?』
『あの時?』
『ほら・・・ギョンと食事した時に、いきなり皇太子殿下が現れたでしょう?
あの時・・・殿下はアンタに話しかけようと必死だった。なのにアンタは話かけるなオーラを放っていたわ。』
『あ・・・そんなつもりはなかったんだけど・・・』
正直言ってガンヒョンの言葉は正しかった
あの時は近づいてきて欲しくなかったのだ
『プロポーズされたの?』
『うん。実はちょっと前にそんなこと言われていたんだけど・・・冗談だと思うようにしてた。
だって・・・いくらなんでも相手は皇太子殿下だよ。簡単に信じられる?
それにまだこの先の・・・ビジョンも・・・』
先程彼に言われた言葉が頭を過った
自分の存在が後輩の成長を潰しているかもしれないこと・・・
もちろん実力主義の世界なのだから、そんな甘い感傷にほだされたら負けなのだけど・・・
先の言葉を失い口ごもる私に、ガンヒョンは私が思っていることと同じ言葉を言ってくれた
『確かに・・・アタシ達もいつまでトップに居座れるかわかんないわよね?』
『ガンヒョンもそう思う?』
『ええ。常々感じているわ。かといって降板を言い渡されるなんて真っ平でしょう?』
『うん。私もそれは我慢できない。降りるなら自分の脚で降りていきたい。』
『そうよね・・・』
同時期に男役トップスターの座についてから二年・・・劇団の歴史の中では長い方なんじゃないかな
私とガンヒョンはしんみりと自分の置かれている状況を思い、知らず知らずのうちに溜息を吐いた
『ところで・・・アンタの気持ちはどうなの?』
『初対面の時・・・素敵な人だなって思った。あの優雅な仕草を何とかして盗みたいと思った。』
『つまり・・・役者的探究心ね。』
『うん。最初はね・・・』
『それが変化したのはいつ?』
『実は・・・ガンヒョンに黙っていたんだけど半月ほど前、宮殿のたパ^ティーに招かれたの。』
『えっ?・・・あ~~衣装部から衣装を借りたのって、そういう理由・・・』
『くすっ・・・さすがガンヒョン、情報が早いね。』
『そりゃあね。』
『そのパーティーで彼とダンスを踊ったの。ほら・・・私達っていつもリードする側じゃない?
強引にリードされて・・・』
『それでときめいちゃったってわけ?』
『うん。それから・・・会場に彼がいないか目が探すようになった。』
『完全に皇太子堕ちしてるじゃないの!』
『そうなのかも・・・でも彼の本心がいまひとつわからなくって・・・』
『わからない振りしていただけじゃないの?』
『あ・・・そうなのかも・・・』
『チェギョン・・・こんな事態になった以上、本音いって劇団はアンタを使いたがらなくなると思う。』
『だよね・・・。何かと面倒だもんね・・・』
『そういうことを言っているんじゃないのよ。アンタがもし皇太子との話を受けたら、アンタは最大限に
劇団側にとって気を遣う役者になるわけよ。アンタがたとえどんだけあの劇団に尽くしても・・・今後は・・・』
『恐らくそうだろうと思う。』
『どうする?降板を言い渡される前に自分の脚で降りる?』
『もう少し・・・考えてみる。』
『そうね。それがいいわ。アタシも考えなくっちゃな~~!!』
『なにを?』
『アンタが下りた後の自分の身の振り方よ。』
『ごめんねガンヒョンまで巻き込んじゃって・・・』
『違うわよ。アタシ達はそういう悩み多きお年頃っていうだけの話よ。』
ガンヒョンの言った通り、次の公演の時劇場に行くと代表から呼び出され≪傷が治るまで静養したら・・・≫と
言われてしまった
私は断固としてその申し出を跳ね除け舞台に立った
別に私は何も悪い事はしていない
だから恥じることも委縮することもない
いつも以上に全身全霊の演技ができたと思う
それは会場にいるファンにも伝わったようで、会場からはいいつも以上の歓声と拍手が贈られた
どうしよう・・・どうしよう・・・
彼の気持ちを受け入れるかそれとも否か・・・
東宮殿で皇太子妃を演じるかそれとも舞台を降りて普通の女優になるか・・・
普通の女優・・・長年男役を演じてきた私にはなかなかハードルが高い
悩んだとしても結論は決まっているというのに、それからしばらくの間私は寝ても覚めても葛藤の中にいた
(シンside)
あれから・・・彼女からの連絡が入ることはなく、休むことなく舞台に立っている彼女を見たさに俺は何度も
劇場のVIPルームを押さえようとし・・・その手を止めた
逢いたいのだ。どうしようもなく彼女に逢いたいのに、やせ我慢をしている自分がなんとも哀れだ
それでもとうとう痺れを切らして劇場を予約し、彼女に電話を掛けようとスマホを手にした時
思いがけず彼女からの電話が鳴り響いた
心臓に悪い・・・
『もしもし?』
『俺だ。』
『あ・・・あの皇太子殿下、先日のお返事なんですけど・・・』
キターーー!!来てしまったか・・・
だがこの期に及んで俺は足掻いてみることにする
『あぁ・・・ちょうどよかった。明日芝居を観に行く予定でいたんだ。返事はその時に聞かせてもらう。
いつもの場所で公演が終わった後待っている。』
『わかりました。あのっ・・・お忍びでお願いできますか?』
あぁ・・・あんな記者会見までした俺にお忍びで来いというなんて、返事は・・・まさかNOなのか?
いやだが・・・面と向かってなら、きっと彼女を説得できる。俺ならできる筈だ
そう思い俺は答えた
『あぁ。もちろんお忍びで行くよ。』
『申し訳ありません。お願いします。』
『あぁ。じゃあまた明日、あの場所で・・・』
『はい。あの場所で・・・』
もしも万が一・・・彼女の返事がNOだった場合、明日が彼女に逢える最後の日となるだろう
そうしなければいけない・・・俺は自分にきつく言い聞かせた
翌日、執務を早めに切り上げ劇場に向かった
今日はスーツ姿ではなくジーンズというラフなスタイルだ
お忍びもこのくらいやれば見抜かれまい
イギサ達にも私服で警護することを命じ、俺は意気揚々と会場入りするとVIPルームに向かった
さすがだな。あの記者会見以来会場を張っていたと見える
だがそんなマスコミ関係者も欺く、俺の変装は大したものだと自画自賛する
あの事件以来・・・久し振りに足を運んだ劇場。俺は少し緊張しながら一階を覗き客の入りを確認する
事件の前と全く変わっていない・・・いや、むしろ増えたくらいだ
まぁ同時に警備員の数もずいぶん増えたがな・・・
緞帳が上がり彼女の舞台が始まった
あぁ・・・やはり、彼女を東宮に住まわせたい。ずっとそばに置きたい
もしかしたらの不安に怯え、俺は瞬きをするのも惜しむほど彼女に魅了された
この胸の高鳴りを鎮めなければならない事態になった暁には、
病気のひとつやふたつ罹ってしまうかもしれないな
大盛況のうちに舞台は幕を下ろし、俺は混雑を避けるためカーテンコールの前に席を立つと、向かいのホテルの
喫茶室に向かった
そして緊張した面持ちでブルマンを二杯飲み干した時だった
<トントン>
『失礼します。』
彼女だ・・・あぁ?低い声?
部屋に入ってきた彼女は男装の麗人に扮していた
チェギョン・・・いくらなんでもそれはないだろう?
『なぜ男の形で来たんだ?』
『あ・・・あのっ、マスコミが私を追っているんです。だからこの方が安全です。』
『そうだったのか。すまない・・・。だが声は普通通りに話してもらえないか?』
『はい。あのっ・・・』
『あぁ・・・ちょっと待ってくれ・・・心の準備をする。』
俺はテーブルの上にあったグラスの水も飲み干した
もう腹の中がタポタポいいそうだ
ひとつ深呼吸をし、彼女に笑みを向けた。皇太子の精一杯のプライドだ
『どうぞ。』
『ひとつお尋ねしたいんですが・・・』
『なんだ?』
『勤務先は東宮殿・役名は皇太子妃と仰いましたが・・・イ・シンさんの妻は演じなくてよいのですか?』
『それはいい。』
『えっ?』
『妻として・・・演技などして欲しくない。心から妻でいて欲しい。』
彼女は・・・なんと答えてくれるだろうか
(画像は近所の薔薇屋敷の薔薇)
今日は別荘だったんです。
あとで予約投稿でこっしょり・・・
記事をあげておきますね~❤
今日は別荘だったんです。
あとで予約投稿でこっしょり・・・
記事をあげておきますね~❤