(チェギョンside)
宮殿のパーティーから一週間程経った時、彼は皇太后様と皇后様とご一緒に私の芝居を観にやってきた
折角国母お二人が足を運んでくださったというのに、≪お忍び観劇≫だった為私はご挨拶もできなかった
彼が私のお芝居を見に来る時は必ず連絡が入る
その後しばらく彼から連絡が入ることはなかった
彼から連絡がないのだから、観客席を探しても彼の姿がある筈はないのに・・・不思議なことに私は
公演の度・・・彼の姿を探している自分に気が付いた
愚かにもパーティーの時に知ってしまった自分の鼓動の速さを、公演の度会場に視線を漂わせた時
彼を探し同じ鼓動の速さを感じるようになってしまったのだ
麻疹のような彼の一時の熱は・・・すぐに冷めると知りながら、逆にその麻疹にまさか自分が冒されようとは
・・・全く滑稽だわ
久しぶりに彼から連絡が入り、翌日の舞台に来ることを告げた
なんだろう・・・嬉しいような切ないような複雑な気持ち
電話で話をしていても、以前とは違う自分の感情を持て余していた
こんな気持ちでは彼に悟られてしまう
私はいつも以上に気合を入れて、その日の公演に臨んだ
私の役どころの一番の見せ場・・・長セリフを観客席の一番奥に視線を漂わせ言い終えた時だった
急に観客席がざわめいた
このシーンで観客席がざわめくなんて・・・ありえない
いつもうっとりと・・・そして切なげな視線が私に注がれているシーンだ
不思議に思いその騒ぎの起こっている舞台すぐ下に目を向けると、警備員と客が揉み合っている
えっ?刺された・・・
その男は迷うことなく舞台に上がり私に憎しみの目を向けた
誰っ?初めて見る顔だけど、その表情は明らかに私に憎悪を抱いている
そして突進するように私に刃物を向けてくるその男・・・咄嗟に交わしたけれど腕に鈍い痛みが走った
っつ・・・厚手に衣装が幸いして深手を負っていないとは思うけど、やはりジンジンとその部分が痛む
観客席では客たちがその様子を見て騒然としている
ここは男役らしく毅然とした態度で、その男の説得に・・・そう思った矢先、彼が目の前に立ちはだかり
私を庇ったのだ
あまりのことに私は頭の中が真っ白になってしまった
彼は皇太子殿下だ・・・このような場所出でてきてしまっていい筈がない
私の必死の説得も聞かず、彼の護衛は暴漢を取り押さえ彼は私を支えると舞台から降りた
いったいどうしようっていうの?この状況をどう収めるつもり?
彼が出て来なければ一女優が暴漢に襲われた・・・それだけで済んだ筈なのに、
却って事が大きくなってしまった
病院に向かう車の中・・・彼は私の衣装の上着に手をかけた
『なっ・・・何をなさるんです?』
『止血したほうがいい。』
戸惑いもなくボタンを外す彼・・・男物の洋服は外しにくいに違いない
私はまだ動揺が収まらず、彼のするがままおとなしくしていた
上着が取り払われた時、自分の右腕が思った以上に出血している事に気が付いた
彼は私のワイシャツの袖口のボタンを外し、ワイシャツをたくし上げた
『皇太子殿下・・・汚れますから・・・』
私から流れる血液で彼の洋服を汚すことはできないと、一瞬身を捩ったが彼に阻止された
『そんなことは気にしなくていい。じっとしていろ。』
彼は私の右腕に自分のポケットチーフを巻くと少しきつめに縛り上げた
『すぐに病院に到着する。我慢しろ・・・』
『大した傷ではありません。それより・・・どうなさるおつもりですか?』
『どうなさるおつもりとは?』
『マスコミが嗅ぎ付けるかもしれません。』
『心配するな。マスコミには箝口令を敷いた。』
でも・・・観客の口に戸は立てられない
特別に知り得た秘密は公表したくなるのが民衆心理だ
『観客が・・・見ていました。観客があの時撮った写真などをネットにアップしたらどうするのです?』
『っつ・・・』
そこまでは考えが及ばなかったのか、彼は表情を曇らせた
(シンside)
王立病院で手当てを済ませたチェギョンを自宅マンションまで送る間、彼女は心配そうに俺に言う
『すぐに会見を開いてください。友人の一人だと・・・そうすれば殿下の体面も保てますし
私の女優生命も維持できます。』
『俺の体面まで気にするとは・・・殊勝な意見だな。
本当は俺とスキャンダルになることを恐れているのか?』
『もちろんです。皇太子殿下と女優などカップルになりえません!少しは現実的に物事を見てください。』
俺はいつも現実的に物事を見ているつもりだ
つれない女だな・・・
『わかった。君を送り届けたら会見を開こう。』
まだ付き合うと返事も貰えていない上に、俺に友人だと宣言しろだと?それは出来かねる
あのパーティー以来少しはシン・チェギョンの心境に変化が生じたように見えたのは、俺の気の迷いか?
部屋まで送るといった俺を拒絶し、チェギョンはイギサに送られマンションの中に入っていく
その後ろ姿を見送りながら、俺はどんな手段を使ってでも彼女の男になると決めた
東宮に戻っていくとやはりネットで騒ぎが起こっているらしく、その事態を収める必要が俺にはあった
俺はまずその暴漢の犯行理由について調べた
何のことはない・・・男の嫉妬
妻がシン・チェギョンの熱烈なファンであることから、嫉妬に狂った夫が舞台の上の彼女に対し暴挙に及んだと
いうことだった
幸い切り付けられた警備員も軽傷と分かり。シン・チェギョンも傷口を縫合するほどのケガではなかった
だが・・・俺は許さない
俺の女になる彼女を傷つけた男だ。情状酌量の余地はない
箝口令を敷いたマスコミ関係者を呼び集め、俺は深夜の会見を開くこととなった
深夜だというのによく集まってくるものだ
記者会見は質疑応答形式ではなく、俺の一方的な会見で終わらせる
【深夜だというのにお集まりいただき申し訳なく思います。
本日起こったソウル歌劇団女優シン・チェギョン襲撃事件について、すでにネットなどで
皆さんの耳に情報は入っていると思いますが、犯人は妻が熱烈なシン・チェギョンのファンだという理由だけで
真剣に演技に取り組んでいる役者たちの舞台を台無しにし、警備員とシン・チェギョンに怪我を負わせました。
幸い二人とも軽傷で済みましたが、私が出て行ったばかりに事を大きくしてしまいすまなく思っています。
ですが・・・好きな女性が襲われているのを黙って見ていられる男がいるでしょうか?
彼女は将来的に皇太子妃にと私が見込んだ女性です。
まだ返事はいただいていませんが、私はそのつもりで彼女に逢いに行っています。
ですので軽傷で済んだからと言って、私が犯人を許すことはありません。
私が彼女から快い返事を貰えるよう、国民の皆さんもどうか後押ししていただきたいと願っています。
今回騒ぎになってしまいましたが、どうかしばらくは静かに見守ってください。お願いいたします。以上です。】
俺の記者会見は深夜特番でテレビに流れたらしい
その会見が終わり執務室に戻った時、珍しくシン・チェギョンからの電話が入った
さて・・・シン・チェギョンから飛び出す言葉はクレームか?それとも・・・俺を受け入れる返事か?
俺は一度深呼吸をしてからその電話を取った
(画像は近所の薔薇屋敷の薔薇)
肉離れって・・・安静にしていても
簡単には治らんのですね・・・
くぅ・・・
肉離れって・・・安静にしていても
簡単には治らんのですね・・・
くぅ・・・