(チェギョンside)
皇太子殿下から手を引かれホール中央に連れ出された私
皇太子殿下の合図と共に音楽が流れ始めた
彼は戸惑っている私の身体を引き寄せるとリードし始めた
あ・・・だからリードされるのは慣れていないんだって!!
どことなくぎこちない私の動き・・・表情にもその戸惑いは表れてしまうのだろうか
彼は私の耳元でそっと囁いた
『シン・チェギョン・・・君は女優だろう?今は男役じゃない。女に徹しろ!』
『は・・・はいっ・・・』
そう答えて必死に体勢を立て直そうとすると、どうしても身体は男役の動きになる
すると彼は私の腰をぐいっと引き寄せ、さらに言うのだ
『今は女だ。男じゃない。素直に身を任せればいい・・・』
『りょ・・・了解。』
抗えないほど強く引き寄せられ密着する身体・・・そういう演技をすることには慣れていても、
されるのは慣れていない
私の心臓には身体中の血液が集まってしまったかのように、異様な速さで音を奏でた
男役は確かに体力勝負だ。ダンスのシーンなどでは娘役を支える力強さが求められる
でも今は…女性だ
そっと身体の力を抜き、私は彼に身を任せてみる
するとなんということだろう
今までぎくしゃくしていたステップが上手に踏めるようになったのだ
はぁ・・・女優として何とか体面は保てたと私は心底安堵する
『上手だ。シン・チェギョン…その調子だ。』
『はい。』
身体の余分な力が抜けた私は、彼のリードに合わせてきっと傍目には優雅に踊っているように見えるだろう
だけど実際・・・心臓の速さは増すばかりだった
音楽が終わる寸前・・・彼はもう一度私の耳元に囁いた
『くっ・・・さすが女優だな。女に徹したな。だが・・・そんな顔は他の男に見せるな。俺の前だけ女になれ。』
『・・・・・・・・』
何も答えられなかった
彼の言葉に膝の力が抜けてしまったようになり、私は彼にしがみついた
まずい・・・清廉潔白男役一筋で生きてきた女優の私が、よりによって皇太子に堕ちるなんて・・・
ダメよダメ!!ここは女優の顔を取り繕わなければ・・・
彼に気づかれないよう一つ深呼吸をして、私は自分の心臓の鼓動を必死に鎮めた
音楽が終わり彼と共に皆さんの元へ戻っていくと、お嬢様方から連絡を受けたのだろう
見慣れた王族のご婦人が増えていることに気が付いた
『まぁ~シン・チェギョン様、そのようなお姿も素敵でいらっしゃいますわ。』
私は顔に男役の表情を覗かせて答える
『あ・・・ユン様じゃないですか。お目にかかれて光栄です。』
『チェギョン様・・・折角、このような場所でお逢いできたのですから、舞台で披露なさっているあの歌を
一曲お聴かせ願えませんでしょうか?』
ユン様はあの歌がお好きだから・・・でもこの格好で?
そう思い彼にチラと視線を向けると、彼は笑みを浮かべて頷いてみせた
まぁ・・・このような場所で歌える機会はもうないだろうし、歌ってしまうか~♪
『では失礼して一曲だけ・・・』
私はドレスの中の脚を大きく開き歌う体制に入ると、深呼吸をしアカペラでその歌を歌う
男の切ない恋心を歌ったその歌を、情感豊かに歌い上げた
この時ばかりは姿は女性でも男役になってしまう
最後のロングトーンが静かに消えた後、静まり返ったホール中から拍手が起こった
あ・・・皇太后様や皇后様も私に拍手を贈ってくださっている
えっ?王族の方々や皇帝陛下まで?くすくす・・・少し驚いたわ
男役の一面も覗かせてしまったけれど、女優シン・チェギョンは完璧に女を演じきれたかしら
女の格好で男の歌を歌ったくらいだもの、二度とここに来ることはないわ
なぜなら・・・私が彼の前で女になってしまったら、それは天職である女優の道を捨てることになるもの・・・
(シンside)
シン・チェギョンのやつ・・・なんて侮れない女だ
皇帝陛下の目論見は失敗に終わり、王族の娘や夫人は口々にシン・チェギョンを褒め称えた
いや・・・もうそれは、崇拝に近いものがあった
シン・チェギョンの歌を聴いた王族さえも・・・どうやら虜になってしまったらしい
これじゃあ今後VIPルームは予約しにくくなるな
パーティーが終わり皆が帰って行ったあと、皇帝陛下は感心したように俺に言った
『しかし・・・肝の据わった女性だな。』
『シン・チェギョンですか?ええその通りです。』
『だが太子よ、婚姻となったら話は別だ。王族は決してあの娘を皇太子妃にするなど賛成せぬ。』
『それに関しては私に考えがあります。あとは本人の説得ですね。』
『本人の説得?』
『はい。まだ恋心を抱いているのは私一人ですので・・・』
『なんてことだ。なのになぜあの娘はここに来たのだ?』
『来るようにと言いくるめました。』
『そうか。太子の想いがあの娘に届くとよいのだが・・・』
『きっと届きますとも。その時は反対しないでくださいますか?』
『ああ。王族に対する対処方法も考えておるのなら、無碍に反対もできん。
なによりもあの娘が皇族となった暁には、太子は王族との付き合いが楽になるだろう。
あれほどの人気者なら。』
『はい。その通りです。』
それから皇太后様と皇后様は、彼女の舞台を観に行きたいと俺にせがむようになり、
俺は渋々一週間後の舞台にお二人をお連れすると約束した
なぜ渋々かというと、お二人を伴っていった場合、舞台が終わった後彼女に逢えないからだ
男役の彼女に逢った後は女性の彼女に逢って、それから宮に帰りたい
そんな習慣がついてしまった俺だった
皇帝陛下には自分の片想いであることを暴露してしまったが、俺は今回のパーティーに出席して
彼女の中で俺の存在が少し変わったことを知った
なぜならダンスを踊っていた時、彼女と身体が密着し感じとったのだ
彼女の胸の鼓動がとても速かったこと・・・
もちろんそれは俺自身の鼓動なのかもしれない
だがいつになく頬を染め、あの凛々しいイメージのない彼女を知っているのはこの俺だけだ
その自信があるからこそ俺は突き進む・・・
シン・チェギョン獲得に向けて彼女に猛アタックする
皇太后様と皇后様を率いて彼女の舞台を観に行ったあと、俺は執務が忙しくなかなか彼女に逢えなかった
逢えないとなると募るのが恋心だ
そして漸く時間が取れて、今日は彼女の舞台を観に行けることとなった
もちろん舞台が終わった後は、向かいのホテルの喫茶室で待ち合わせだ
俺の心は信じられないほど弾んでいた
その日はいつも通りVIP席で彼女の舞台を見守っていた
普段と何ら変わりなく凛々しい彼女は、観客の視線を一身に集めていた
ところが突如・・・客席で悲鳴が起こった
一人の男が立ち上がり通路を悠然と歩いていくのだ
何かとてつもなく嫌な予感がしたその時、その男は警備員に切り付け無理やり舞台の上に上がった
その視線は・・・チェギョンに向いている
俺は一瞬にして血の気が引き、VIPルームを飛び出すと駆け出した
イギサが必死に俺を止めようとするが、今の俺を止められる者などいる筈はない
あとからついてきたイギサに男を確保するよう命じ、俺は何の躊躇もなく舞台に駆け上がった
舞台上は騒然となり、チェギョンは切り付けられたのか腕を押さえ立ち尽くしている
『チェギョン!!』
舞台にまで上がってきてしまった俺に、チェギョンは首を横に振り≪ダメ…≫と小さく呟いた
男がさらにチェギョンを襲おうとするのを、俺は阻止しようとチェギョンの前に立ち
手刀で男の持っていた刃物を叩き落した
すぐに男は取り押さえられたが、舞台に上がってきて男役のシン・チェギョンの前に立ちはだかった俺の素性に
どうやら観客は気が付いてしまったらしい
観客席は騒然となっている
『皇太子殿下・・・すぐにお帰りください。』
背後でチェギョンの声がする
俺は振り向くとチェギョンに向けて言い放った
『いや、君を病院に連れていく。行こう。』
『えっ・・・』
血の気を失っているチェギョンを支え、俺は舞台から降りると平然と通路を歩いた
そしてイギサの運転する車を、王立病院へと向かわせた
(画像は近所の薔薇屋敷の薔薇)
えへへ・・・耐えてゾーンかと思うでしょ?
いやいやこの先の想像はつくと思います。
まぁ・・・チェギョンが心を決める
きっかけとなるんじゃないかな~~ってね❤
だから心配いりません❤
えへへ・・・耐えてゾーンかと思うでしょ?
いやいやこの先の想像はつくと思います。
まぁ・・・チェギョンが心を決める
きっかけとなるんじゃないかな~~ってね❤
だから心配いりません❤