6回目のValentine's Day

『さてと♪』

出来上がったトリュフをチェギョンは箱に詰めた

『相変わらず不格好なトリュフ・・・』

その出来栄えを自虐的に笑いながらも、甘さ控えめなトリュフを口に運ぶシンの姿を妄想し、つい顔が綻ぶ

メッセージカードはもういらない。なぜならシン本人に手渡せるポジションに自分がいるからだ

いや・・・自分以外からのチョコレートなどシンはもう受け取らないだろう

その自信がチェギョンにはあった

＜ボーンボーン・・・・・・＞

引っ越し祝いにシンの両親から贈られた柱時計が、日付が変わった事を知らせる

『さて行くか～♪』

チェギョンは忍び足で玄関を出ると、庭を歩きイ家とシン家の境にある格子を開けた

そしてシンに電話をかけてみる

『もしもし？シン君？』
『チェギョン・・・何をしているんだ？お前の部屋明かりが消えていたから、てっきりもう眠ったのかと・・・』
『まさか～まだ寝てないよ。ちょっと出て来てくれる？』
『あ？あぁ・・・』

イ家の庭を少し歩いたところに新築したばかりの屋敷がある

そこはシンが就職してすぐに着工した二人の新居だ

自身の稼ぎの中で払える物をと20年の住宅ローンを組んだシン

そのローンが終わる頃、きっと子供達が大学に入り何かと物入りになるだろうと考えての選択だった

まさに二人の愛の城になる場所だ

その家の玄関の前でチェギョンはトリュフの箱を抱え待っていた

すぐにイ家の玄関が開き、シンが早足でやって来る

『シン君ごめんね。こんな時間に・・・』
『くっ・・・どうしたんだ？チェギョン。』
『どうしてもこれ・・・今渡したくて・・・バレンタインチョコなの。』
『くっ・・・朝になってからでもいいのに・・・』
『夜の内に渡したかったの。』

そう・・・二人が気持ちを通わせるきっかけとなったトリュフチョコレートを、チェギョンは今夜中にどうしても

シンに届けたかったのだ

『夜更かしして・・・明日化粧ののりが悪くても知らないぞ。』
『大丈夫だも～～ん♪』

渡したかったのは溢れんばかりの想い

思えば付き合う前も付き合ってからも、様々な苦難に立ち向かってきた二人

だが今は静かで穏やかな日々を送っている

『シン君が・・・大好き・・・』
『何を今さら・・・くくっ・・・』
『これからもよろしくね。』
『あぁ。一生よろしくな。』

シンは玄関前の明かりを灯し、箱からトリュフをひとつ摘まむと口に放り込んだ

そしてもうひとつ摘まむとチェギョンの口に放り込んだ

『寒いのにコートも着ないで出てくるなんて・・・』

シンは自分が羽織ってきたカーディガンをチェギョンの肩に掛けた

『でも・・・すぐそこだし。くすくす・・・』
『花嫁に風邪ひかれたら大変だろう？もう送る。早く休まないと・・・』
『送らなくていいよぉ。すぐそこだし・・・』
『送って行くのはこれが最後だから送る！』

シンはチェギョンの肩を抱いて、イ家とシン家の境にある格子をくぐりシン家の玄関に辿りついた

『また明日な。』
『うん。また明日。』

そういいながらチェギョンを抱き寄せたシンは、チェギョンを見つめそっと唇を重ねた

チョコレートの仄かな甘さが香るキス

独身最後のキスはシン家の玄関先で、秘めやかに互いの唇の熱を奪い合った

朝が来ればチェギョンは花嫁になる

イ家とシン家の中間に建てられたスィートホームで暮らすのである

漸く唇を離したシンは、苦笑しながらチェギョンの頬を撫でた

『はぁ・・・藪蛇だ。これじゃあ益々眠れなくなってしまう。』
『くすくす。本当だ。シン君・・・続きは次の夜が来たらね。』
『あぁ。おやすみチェギョン。』
『おやすみシン君。』

離れて寂しいのは今夜限り。夜が明ければおやすみの挨拶も互いの温もりを感じながら言えるだろう

寒い寒い冬の夜、チェギョン手製のトリュフの入った箱を抱き締めて家に戻るシンは、自分の体温でトリュフが

溶けそうな気がした

朝が来れば・・・チェギョンは花嫁になる

世界一幸せな花嫁に・・・きっとなる