皇女ウナの婚約が発表された日・・・シンは学校から戻ってきた皇太子ギョムを本殿に呼んだ
『陛下・・・お呼びでしょうか?』
『あぁ。太子・・・そこに掛けなさい。』
『はい。失礼いたします。』
『本日ウナの婚約を発表した。』
『そうでしたか。おめでとうございます。陛下は少しお寂しいのでは?』
『くっ・・・そんなことはない。ところで太子・・・ウナの婚約が決まった途端お前の話になってすまなく思うが・・・』
『私の・・・話ですか?』
『そうだ。太子の婚姻についてだ。』
『婚姻?陛下・・・まさかと思いますが今まで何度か開かれた宴にやってきた王族の娘の中から
妃宮を決めると仰るのですか?』
『そうだ。太子・・・気に入った娘はおらぬか?』
万が一ギョムに気に入った者がいたら、その者となんとかして縁を繋ごう
それが限られた娘の中から伴侶を選ぶしかなくなった、ギョムにしてあげられる事のすべてだった
『おりません!!』
『おらぬと・・・申すのか?』
『はい。陛下もご存知でしょう?あの娘達の頭の中は、如何に権力を握るか・・・そんな目論見でいっぱいです。
医大を目指している者もいるそうですが、それは恰好だけです。
頭の中は空っぽですよ。話の合う者などおりません。
そんな娘達が皇太子妃になるなんて・・・世も末です!!』
『だが太子・・・ファン・ミランは違うだろう?あの娘は本気で医学を・・・』
『アイツは別格ですよ。最近になって漸く私が首位の座を奪えるようになりましたが、それまでは勉強の虫で・・・
アイツくらいしかまともに話が出来る相手はいないのです。』
『ファン・ミランか・・・』
シンの胸の中に落胆の想いが渦巻いていく・・・せめて一人でも他に気の合う娘がいたなら良かった・・・
そんな想いで溜息を吐く
『ファン・ミランは・・・ダメです。アイツは医師になるために必死に勉強して来たんです。
その努力を知っている私が、彼女の翼を奪うことはできませんから・・・』
ギョムは俯くと顔に影を落とした
そして今まで黙っていたが、とうとう自分の本心を口にした
『陛下・・・陛下と皇后様は恋愛結婚だと聞きました。姉上もそうですよね?
チャン・ソンジュ氏と逢っている姉上を見れば解ります。
なのに私だけ政略結婚をしなければならないんですか?・・・不公平です・・・』
『ギョム・・・すまない。何か良い手立てがないか考えてみよう。もう下がってよい。』
まだ高校二年生のギョム・・・シンは自分がその年代だった頃を思い出す
(そうだ。いきなり告げられた許嫁の話に反抗し、好きでも無かったミン・ヒョリンにプロポーズしたんだった。)
自分のその時の気持ちを振り返れば、ギョムのやりきれなさも十分すぎるほど理解できた
(勝手だな。俺は・・・)
その夜シンは妻であるチェギョンに相談を持ちかけた
『チェギョン・・・ギョムの婚姻の事なんだが・・・』
『王族から催促されているのね?』
『あぁ。ファン・ミランの気持ちを変えさせることはできないか?』
『それは無理よ。私はミランの医師になりたい気持ちが十分理解できるもの・・・』
『そうか。どうしたらいいのだ・・・』
『シン君・・・顔色が悪いわ。あまり思い詰めないで・・・』
『そうはいっても・・・』
王族と息子の間で板挟みになているシンは、みぞおちの辺りを押さえ力なくソファーに身体を沈めた
『シン君・・・胃痛がするんじゃないの?』
『あぁ・・・』
『お薬飲んで横になって。明日ファン・ミランと話をしてみるわ。説得は・・・できないと思うけど。』
『あぁ。ファン・ミランの気持ちを聞いてくれ。』
『ええ。そうするわ。だから今夜は何も考えずに休んでね。』
握り締められた手に、昔・・・解毒を受けていた時と同じ様な安らぎを感じるシン
(ギョムにも自分を癒してくれる手があったら・・・)
父親としてギョムの幸せを願わずにいられないシンなのであった
翌日チェギョンはファン・ミランを呼び出した
ギョムの気持ちもシンの気持ちも・・・そして何よりミランの気持ちもわかるだけに、
今日もまたただいつものように医学談義で終わってしまいそうな予感もしたが、今日はギョムの母親として
ミランと逢おうと心に決めた
平日のこの時間だったら、いつもは制服でチェギョンの元に駆けつけるミランなのだが今日は違った
控えめな色合いのワンピースを纏いチェギョンの元を訪れた
『皇后様、こんにちは。』
『あら・・・ミラン、今日学校は?』
『今日までお休みしているんです。』
どことなく顔色の悪いミラン・・・チェギョンは何かあった事を察し・・・ミランを元気づけようと口を開いた
『来年は本格的に受験体制でしょう?勉強進んでる?』
『あ・・・はい。皇后様。あ・・・あのっ・・・』
何かを言い掛けて口ごもるファン・ミランに、チェギョンは心配そうな表情で問い掛けた
『どうしたの?顔色も悪いし元気がないわね。』
『皇后様・・・私、皇后様にお詫びしなきゃならない事があるんです。』
『ん?何かしら?』
『私・・・医師になるのは諦めようかと思います。』
『えっ?どうして?』
そう問いかけながらチェギョンの心が揺れた
『実は母方の祖父が亡くなったんです。ずっと病気で入院していて、臨終に間に合ったのですが・・・。
私、気がついてしまいました。医師は患者の病気を治す高い志を持った職業です。
でもその一方でどうしても治ることがない病もあるんですよね。
祖父の死を目の当たりにして思いました。私は人の死を見守ることはできないって・・・。
皇后様・・・あんなに応援して下さったのに、情けなくて弱い私で本当に申し訳ありません。』
ファン・ミランが妙に沈んだ表情だった理由が漸く理解できたチェギョンは、ミランに向けて首を横に振った
自分自身もインターンの頃幾度となく人の死に立ち会ったものだ
その都度折れてしまいそうな心を奮い立たせ、なんとか白衣を着続けたのだ
いい時もあれば・・・悲しみも存在する
生と死が隣り合わせにある現場で、その職を全うするのには強靭な精神力がいる
それに耐えられないと思うミランの気持ちも十分に理解できた
『いいのよミラン。そんなことは気にしないでいいの。でも医学の道に進むのを諦めてしまうの?』
『あ・・・それはやはり無理です。勉強は続けたいんです。なので王立大学の医大に行って、
医師免許は取るつもりです。』
『医師免許は取るけれど医師にはならないと言う事?』
『はい。そこまで勉強出来たら、きっと自分でも納得がいくかと思うんです。
自己満足のために・・・だけなんですけど・・・』
『いいじゃないの。医師免許は取っておいた方がいいわ。つまり医師免許は取るけど、
病院に勤務するつもりはないのね?』
『はい。申し訳ありません!!』
『だったら・・・』
意を決してチェギョンは一つの提案をしてみる
『東宮の主治医になるつもりはない?』
『えっ?皇后様・・・宮殿には侍医様がおいででしょう?』
『ええ。ギョムの主治医よ。ギョムの健康管理をしながら、ギョムと一緒に暮らすの。』
『えっ?・・・』
『役職名は皇太子妃よ。ミラン・・・』
『それは・・・』
『あなたも何度もパーティーに呼ばれているからギョムの婚姻時期が近いのも解るでしょう?
ギョムはどうやら、王族の中であなたと話をするのが一番楽しいらしいの。』
『ですが皇后様・・・そうなったら医大になどいけません。』
『いいえ行けるわ。私が約束する。必ずあなたを医大に行かせてあげる。
あなたは・・・ギョムの事が嫌い?』
『いえ!とんでもありません。ギョム君はとても成績優秀で、私が唯一議論できる相手なんです。
でも他の王族の女の子が、パーティーの時にはいつも群がっているので、ギョム君に近づく事もできず
皇后様にいつもご迷惑をおかけしている次第で・・・』
『そうよね?ここに来た時には必ず東宮に寄っていくものね。ギョムの事・・・決して嫌いじゃないんでしょう?』
『はい。尊敬しています。』
『だったら・・・どうかしら?ギョムは今・・・王族の中から婚姻相手を決めなければならない立場に立たされて
すごく気持ちが沈んでいるの。それを元気づけてあげられるのはミランだけだと思うけど・・・』
『皇后様・・・私で務まりますか?』
『くすくす・・・本音を言わせて貰うと、あなた以外には務まらないわ。』
『私にギョム君を元気にできるでしょうか。』
『ええ。あなたが東宮に来る事が何より楽しみだって顔しているわ。ほら・・・もうやって来たみたいよ。』
<トントン>
ミランが皇后の元に来ていると聞いたギョムは、制服姿のままその扉を開けた
『皇后様、失礼いたします。ミラン!!一体どうしたんだ。何日も学校を休んで・・・。
携帯の電源は切ってあるし心配になるじゃないか!』
『あ・・・ギョム君ごめんね。母方の祖父が亡くなったの。』
『そうだったのか。それで休んでいたのか・・・』
チェギョンはギョムに向けて満面の笑みで話しかけた
『太子・・・ミランは医師にはならないそうよ。』
『えっ?それは・・・』
『医大に進んで医師免許は取るけど、医師として病院勤務はしないんですって。
今・・・東宮にスカウトしておいたけど?くすくす・・・
後はギョムに任せようかしら。ミラン・・・私は約束は必ず守るわ。だからギョムを癒してあげてね。』
『はい!皇后様・・・』
少し困惑した面持ちのギョムはミランを伴い東宮に向かった
二人の話し合いの様子は・・・次回に
と・・・いうオチがついたりしてね(≧▽≦)ノ”ギャハハハ!