経済界のパーティー当日・・・チェギョンは支度を整えドレッサーの前で最終チェックをしている
『あの・・・チョンさん、どこかおかしいところはありませんか?』
チェギョンは不安そうにメイドのチョンに問い掛けた
『いいえ、とってもお綺麗ですよチェギョンお嬢様。欲を言えば・・・ちょっと失礼いたします。』
メイドのチョンは以前化粧品と一緒にスンレがピンクのルージュを購入してある事を思い出し、
ドレッサーを開けるとそれを開封し、チェギョンの唇に薄く引いた
『これでいかがですか?お肌のお手入れも万全ですし、ルージュだけで随分華やかなお顔になります。』
『本当ですぅ~。ありがとうチョンさん♪では・・・行って参ります。』
『はい、チェギョンお嬢様、行ってらっしゃいませ。』
玄関先ではすっかり準備を整えた三人が、チェギョンを待っていた
『まったく・・・あの子は一体何をしているの?ホントやることがのろまなんだから・・・』
親を前にして言いたい放題の暴言・・・スンレは今にもその憤る想いを口に出しそうになったが、
夫のナムギルから手を強く握り締められ、その想いは阻まれた
なぜなら・・・ここでヒョリンの機嫌を損なってしまえば、必然的にチェギョンが八つ当たりを受けることとなり
折角チェギョンの社交界デビューが楽しい気持ちでなくなってしまうのだ
ナムギルとしてはそれは避けたかったのである
漸く支度を終えたチェギョンが階段を降りて来る
『大変お待たせいたしました。』
『遅いわよチェギョン!!はっ・・・さすが地味なあなたらしいドレスを選んだのね。
さぁ行きましょう。皆さんきっと待っていらっしゃるわ。』
先に車の後部座席に乗り込んだヒョリン・・・そのヒョリンを見ながらスンレは思う
(まだ経済界の子息たちがあなたに注目すると思っているの?
チェギョンのドレスを地味だと言ったけど、まぁ常にチェギョンの前を歩こうとするあなたに
あのドレスの魅力が解る筈はないわね・・・。さて・・・主人はパーティーで
皆さんにチェギョンをどう紹介するのかがとても楽しみだわ。)
四人を乗せた車は経済界のパーティーが行われるホテルに向かって行った
ホテルに到着し、四人はパーティーが始まったばかりの会場に入っていく
ヒョリンに至っては父であるナムギルを差しおいて先陣を切って会場に入っていったのだが、
何やらいつもと様子が違う
いつもだったら自分が会場入りすれば、すぐにでもダンスを申し込もうとする男性陣の人だかりが出来るのだ
ところが今日は・・・遠巻きにこちらを見ているだけで誰ひとりとして自分に近づいては来ない
誰よりも華やかな装いをしてきたにも拘わらず・・・その様な状態なのだ
ヒョリンは少し憤った気分でインを見つけると、インに近づいて行った
『イン♪』
『ヒョリン・・・今日も素敵な装いだね。』
『でしょう?でもなぜ・・・皆私に挨拶に来ないのかしら・・・』
ヒョリンの唯一の味方であるインにも、その理由は解っているというのに・・・当の本人は今までの自分の人気が
≪シン家の娘故≫だとは気が付いていない様子
それでもインはそんなヒョリンを傷つけたくないとばかりに、素知らぬ振りをする
『本当だ。どうしてだろう・・・』
『あ・・・チェギョンがパパに紹介して貰っているわ。私も行かなくちゃ・・・』
『君は行かない方がいい。』
『なぜ?』
『君は僕と踊ってくれなきゃダメだろ?そうしたらみんな君と踊って欲しくて、君の周りに集まって来る。』
『そうね。チェギョンはダンスなんかできやしないもの。ふふふ・・・』
颯爽とダンスを始めた二人。
だが会場の真ん中で踊る深紅のドレスのヒョリンに目を向ける者は・・・誰もいない
『シン社長!!』
『やぁ・・・ハン社長、ご無沙汰しております。』
『いやいやこちらこそ。ところでこちらが噂のお嬢さんですか?』
『あ・・・もう噂が広まっていますか。ええ。これが娘のチェギョンです。』
『おぉ・・・なんとも清楚なお嬢さんではないですか。近くで見るともっと愛らしい。
相当ご苦労なさったんでしょうなぁ。』
『ええ。だからこれからは、精一杯好きなことをさせてやりたいと考えているんです。
チェギョン・・・ご挨拶しなさい。』
ナムギルの後ろで微笑んでいたチェギョンだったが、ハン社長に愛らしく会釈をすると一歩前に出て
挨拶を交わす
『シン・チェギョンと申します。どうぞよろしくお願いいたします。』
『あぁ・・・チェギョンさん、こちらこそどうぞよろしく。あ!!うちの息子を紹介いたしましょう。』
ハン社長がそう言って自分の息子を呼び寄せている最中のことだった
『チェギョンちゃん!!』
会場の隅から早足でチェギョンに近づいてきた人物がいる
普段は≪こんなパーティーなど出席するより、仕事をしていた方が有益≫と決めつけ今まで一度として
このような場に顔を出したことがないイ・ユルだった
『ユルさん♪』
ユルはナムギルの前に立ち、微笑むと挨拶をする
『おじさんご無沙汰しております。イ・ユルです。』
『おぉ~ユル君か。少し逢わない間に随分立派な青年になって・・・』
『ありがとうございます。あの・・・実はチェギョンちゃんとはちょっとした知り合いなのですが
チェギョンちゃんにダンスを申し込んでも構いませんか?』
『えっ?あ・・・それは構わないが、チェギョン・・・踊れるかい?』
イ家でレッスンを受けていたことなどまったく知らないナムギルは、躊躇してチェギョンに問いかけた
『あ・・・はい。なんとなく・・・』
チェギョンの承諾を得たユルは、チェギョンの手をそっと握ると微笑んだ
『ではおじさん、少しお借りいたします。』
そしてチェギョンをエスコートして会場の真ん中に出て行く・・・
既に数組踊っている会場内。一曲踊り終わったヒョリンとインはその様子をじっと見つめていた
そしてヒョリンはチェギョンのドレスが、決して地味ではなかった事に漸く気がついた
音楽に合わせユルのリードで踊ってはいるものの、チェギョンはミンとシンの教え通りに
ユルの顔を見ようとしない
そんなチェギョンの視線を自分に向けさせようと、ユルはステップを踏みながらチェギョンに話しかけた
『チェギョンちゃん・・・僕を見て♪』
『はい。』
『ダンスをする時には相手の目を見なきゃ・・・』
『えっ?(うそ・・・それはマナー違反だってシン君が・・・)』
『そうやって僕の目を見て♪』
『はい。』
シンとミンの思惑はユルによって打ち砕かれてしまったようだ
『チェギョンちゃん・・・』
『はい?』
『君がシン家の娘になってよかった。』
『ん??』
『僕の母に反対されずに済むから。』
『えっ?』
『近々、君の家に遊びに行くよ。その時・・・。あ・・・いやその時ちゃんと話をしたい。』
『は・・・はいぃ?』
『ははは・・・いいよ。その時に解る筈だから。僕は本気だ。』
『(本気?)は・・・はい。』
そしてまさに二人が見つめ合いそんな会話を踊りながらしている時に、不覚にもパーティーに遅れた
イ家の面々が会場に姿を現した
『ナムギルさん!!』
『ヒョンさん!!』
『お~チェギョンさんはすっかりダンスをマスターしたみたいですね。』
『はぁ?』
『ご存知なかったのですか?うちのミンに手ほどきを受けていたのですよ。
両親に恥をかかせたくないって・・・チェギョンさん自らうちにやってきたそうです。』
『そうでしたか~、通りで上手だと思いました。ミンさんにはなにからなにまで本当にお世話になって・・・』
『いやいや、うちのミンが好きでしていることです。チェギョンさん・・・もう立派にシン家の娘ですね。』
『ありがとうございます。これもイ家の御蔭です。』
和やかに話しているナムギルとヒョン・・・
しかしユルとチェギョンが踊っている姿を目の当たりにしたシンは、胸の中に募るもやもやを抑えきれずにいた
(チェギョン!!なんだそのドレスはっ!!脚・・・出し過ぎだっ!
まぁ踊っているユル兄貴には見えないとしてもだ!!あ~~そんなにくっつくな!!
それになぜ見つめ合ってる?相手の目を見るなと教えただろう?)
ずっとダンスのパートナーをしてきたシンにとって、チェギョンのパートナーは自分以外にはいない筈が
いざ会場入りしてみたら≪トンビに油揚げをさらわれた≫気分に陥り、非常に気持ちをむしゃくしゃさせていた
ダンスが終わる頃・・・それをずっと観察していたヒョリンは、会場内に居るスタッフからカクテルを受け取り
同時にそのスタッフに申しつけた
『あそこで踊っている女の子に、これと同じものを持って行って頂戴。すごく喉が渇いていると思うので
すぐに持っていってね。』
『かしこまりました。』
スタッフが去った後インはヒョリンに咎める言葉を口にする
『ヒョリン・・・君の飲んでいるのはカクテルだろう?口当たりはいいけどアルコール度数はすごく高い。
君は飲み慣れているから平気だろうがチェギョンは・・・』
『あんな子・・・恥をかいたらいいのよ。なにからなにまで私の物を奪って行こうとする子なんて!!』
正直な気持ちなのだろうがそれは間違っていると思うインだった
ヒョリンの気持ちもわからないではないが、それは八つ当たりというものだ
元々シン家の娘という名声も地位も、すべてはチェギョンの物なのだ
何一つとしてヒョリンの物ではない
それを悟らせてあげられるのは・・・自分しかいないとインは自覚したようである
言いつけ通りにスタッフは、ダンスを終えて両親の元へ戻ろうとしているチェギョンの元へ行き
ヒョリンの指示したカクテルを差し出した
『どうぞ。』
『あ・・・どうもありがとうございます。』
初めてのパーティー・初めての公式の場でのダンス・・・非常に緊張し喉の渇いたチェギョンは
その場でグラスに口を付けた
もちろんミンから教わったマナーを守り、一気に飲み干す様なことはせずゆっくりと味わって飲んだ
(これ・・・美味しい♪なんのジュースだろう?)
だがグラスが空になる頃、なんだか身体中がポカポカと温かくなってきたチェギョンは、そのグラスを返そうと
スタッフに声を掛けた時にふらりと足元をふらつかせた
『おい!!』
その様子を見ていたシンはすかさずチェギョンに駆け寄り、背後からチェギョンを支え持っているグラスを
取り上げた
『何をしているんだ!お前はっ!!』
『えっ?何ってジュースを飲んで・・・グラスを返そうかと・・・』
その顔色を見ただけで飲んだ物がジュースではないと察したシンは、グラスに鼻を近づけた
『馬鹿だな。カクテルなんか飲んで・・・。アルコールではないと確認してから飲めと言ってあっただろう?』
『えっ?お酒だったの?』
『ったく・・・』
チェギョンの様子が気になってやってきたミンに、シンは告げた
『母さん、チェギョンがカクテルを飲んでしまったんだ。少し酔いを覚まして来るからおじさんとおばさんには
≪人に酔ったみたいだから涼んで来る≫と言っておいてくれ!!』
『まぁ!!それは大変だわ。ちゃ~~んと介抱してあげるのよ♪
じゃあね~~♪おほほほほ・・・』
シンがチェギョンを支え会場から出て行くのを、ヒョリンは意地の悪い顔をし笑っていた
ミンもいそいそとチェギョンが≪人に酔った≫事を報告する為に、シン夫妻の元へ向かった
さて・・・そろそろシンがその独占欲を爆発させる時が来た様である
くくくっ・・・シン君、そろそろ自分の気持ちをはっきり言わないと
ユル兄貴に盗られちゃいますよ~~♪
そしてイン君は、ヒョリンの為にある決断をするんです。
次回どうぞお楽しみに~~♪