Quantcast
Channel: ~星の欠片~
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1451

蜃気楼の家 10

$
0
0

翌日・・・朝食を済ませたシンとチェギョンは、ミンに出掛ける旨を告げシンの運転する車に乗り込むとイ家を出た

シンは助手席に座らせたチェギョンに、昨日ヒョリンから連絡が来た事を告げる

『チェギョン・・・これからちょっとヒョリンと逢ってやってくれるか?』
『えっ?う・・・うん。』
『お前と話したい事があるそうだ。』
『う・・・うん。』
『くっ・・・大丈夫だ。俺も一緒に居る。』
『解った。』

一体どんな話になるのだろうかと、チェギョンは緊張を強めた

プライドの高いヒョリンの事だ。何を言い出すのか解らずかなり不安なチェギョンだった

シン家の少し離れたところでシンの運転する車は停車した。するとその車を見つけ歩み寄ってきたヒョリンは

いきなり助手席のドアをノックした

『ヒョリン・・・チェギョンを連れて来たぞ。』
『ねえチェギョン・・・私だけ後部座席に座れって言うの?』

正直言ってヒョリンは面白くなかったのである。自分さえも一度も座らせて貰えなかった助手席に

チェギョンは当たり前の様に座っていることが・・・正直我慢できなかったのだ

だが・・・許嫁が自分ではなかったと知り、イ家からも断りの連絡を受けた事を聞き・・・もうこれ以上シンに

執着する様な浅ましい真似は出来ないヒョリンだった

『あ・・・ごめん。私も後ろに行くよ。』

チェギョンとヒョリンを後部座席に乗せ、シンは行き先を二人に尋ねた

『どこに行ったらいいんだ?』

ヒョリンはチェギョンに視線を向けると口を開いた

『チェギョン・・・あの日記帳を読んだわ。』
『ホント?読んでくれたの?』
『ええ。あの日記を書いた人に逢いたいんだけど・・・』
『あ・・・ヒョリン、だから・・・言い難いんだけど事故で亡くなって・・・』
『それは聞いているわ。お墓に連れて行ってと言っているの。』
『あ・・・うん。解ったよ。シン君・・・あのね・・・』

チェギョンは運転席に身を乗り出しシンに道案内を始めた

シンはチェギョンの説明を聞いて頷くと、車を発進させた

娘への歪んだ愛情ゆえに手放した娘と、その娘と引き換えに手元に置いた娘

沢山の愛情を享受した娘と一切の愛情と縁遠かった娘が、揃って墓参りに行く

それは奇妙な光景だった

車は合同墓地の駐車場に停まり、三人はその建物の中に入っていく

チェギョンは二人の先頭を歩き、18年間母だと信じていた女性の墓の前に立つと

ヒョリンに母の写真を見せた

『これが・・・お母さんだよ。』

ずっと伏し目がちだったヒョリンは視線を上げ、その写真を凝視する

(あっ・・・)

ヒョリンはその女性に見覚えがあった

いや見覚えがあるどころか、会話をしたこともあれば花束を貰った事もあった

(この人が・・・そうだったの?)

突然母だと言われた人物が既に亡くなっており、しかも≪自分の熱烈なファン≫だったと知り愕然とするが

悲しいという感情は湧いてこない。もちろん涙さえ出ない

(産んだばかりの私をシン家に預けて、あなたは幸せだったの?)

娘の幸せの為・・・そんな理屈がヒョリンに理解できる筈はない

現に何不自由なく育てられた今までの生活を、今更変える気など毛頭ない

ヒョリンは暫く墓前で生母に心の中で話し掛ける。その様子をチェギョンは黙って見守った

(お母さん、良かったね。あなたの最愛の娘が逢いに来てくれたんだもの。嬉しいでしょう?)

愛されたいと願い続け愛されることのなかった母・・・その母の愛情を独り占めしてきたヒョリンに

少しだけ嫉妬の感情を持つチェギョンだった


『ありがとう。もう気が済んだわ。チェギョン私は・・・たとえあの日記を読んだからといって、
シン家の娘である権利は手放さないわ。その辺りは解って貰えるわよね?』
『うん。解るよ。そんなこと望んでいないもの・・・』
『だったら・・・』

ヒョリンは一呼吸置いて、次の言葉を発した。恐らくそれはヒョリンにとって相当な勇気のいる言葉だっただろう

『一緒に住んでも構わないわ。』
『えっ?』
『シン家にいらっしゃいと言っているの。』
『ホント・・・に?』
『ええ・・・ただ、私は今までの生活を変える気はないわ。パパとママはこれからだって私の両親よ。
その事に関して私が負い目を感じることは何もないわ。
だって私は・・・何も悪くないんですもの。その辺り理解していただける?』
『それはもちろん。そうしてもらえたら嬉しいよ。』
『じゃあ早速家に戻ってね。』
『あ・・・でも今夜はミンおば様のところにお邪魔するよ。ちゃんとご挨拶してからじゃないと・・・』
『そう。解ったわ。ところでこれからどうするの?』
『あ・・・あのね、元々私が住んでいたアパートに荷物を取りに行く予定だったんだ。』
『あなたの住んでいた・・・アパート?』
『うん、そう・・・』
『私も行くわ!!』
『えっ?・・・すごく狭いし汚いところだよ・・・』

そう言いながらもチェギョンは、本音を言えば自分が生きて来た場所・・・ヒョリンの代わりに暮らした場所を

見て欲しいという気持ちも湧き上がった

ヒョリンはヒョリンで生母の顔を知ってしまった以上、どんな風に暮らして来たのか興味が湧いた様だ

『連れてってちょうだい。』

ヒョリンのその言葉を聞き、シンは再び二人を後部座席に乗せチェギョンの誘導でアパート近くの駐車場に

車を停めた

そして車を降りた三人はアパートに向かって歩いて行く・・・

車を停めた駐車場は以前シンと逢った公園のすぐ近くだった

車を停めてアパートに向かって歩きながら、チェギョンは▼■食堂を指差した

『あそこが・・・私がずっとアルバイトしていた食堂だよ。良かったらランチ食べていく?
あのお店の≪おすすめ定食≫はすごく美味しいんだよ♪』

少しでもヒョリンに近づこうという考えから出た言葉だった

だが・・・

『遠慮しておくわ。あんな庶民の店の料理が私の口に合うとは思えないもの・・・』

即答で断るヒョリン・・・自分の今までの生活を否定された様で少し哀しくなったが、それでもチェギョンは

(ヒョリンには無理だよね・・・)そう心の中で苦笑しながら、二人をアパートに案内した

『ここだよ・・・』
『えっ?ここ?』
『古いアパートで驚いた?くすくす・・・』

軋む階段を上り二階に向かう三人。チェギョンはその一室の鍵を開け、二人を中に誘った

『狭いところだけどどうぞ♪』
『あぁ・・・』
『狭いって・・・いうか・・・こんなところに人が住めるの?』
『ヒョリン・・・これが私の18年生きてきた生活の場所だよ。よく見てね。』

チェギョンはあまり長居する場所ではないと、ビニールロッカーから制服と僅かしかない衣類を鞄に詰め込む

その間ヒョリンとシンは、その部屋の中をぐるっと見渡した

ぐるっと見渡しただけで、十分部屋のすべてがわかる狭さだった

(こんな場所で暮らしていたの?信じられないわ。
私を産んだ人に・・・感謝するわ。私にはこんな生活・・・似合わないもの。)

母という人がこの部屋で自分を想い、チェギョンになど一切目もくれず暮らしてきた事に

ヒョリンは自分の身代わりとなったチェギョンに同情の気持ちすら覚えた

(あなたには悪いと思うけど、あなたがここで暮らしてくれて感謝するわ。
私はこんな生活・・・一生するつもりはないもの。)

『支度は出来たか?』
『うん。ヒョリン・・・もういいかな。』
『ええ、気が済んだわ。』

アパートを出て歩きだした三人・・・ヒョリンは生母の墓でもアパートでも一度も振り向くことはなかった

恐らくそれは亡くなったヒョリンの生母の願いでもあるだろう

再び車に乗り込んだ三人・・・シン家へヒョリンを送り届け、シンはチェギョンと共にかねてから約束していた

食事に誘うことにした

『チェギョン・・・なんだか疲れただろう?約束していた食事に行こう。』
『いいよ♪でも・・・行きたいお店があるんだ。』
『どこだ?』
『▼■食堂~♪私・・・挨拶もしないで辞めちゃったから、ちゃんと挨拶したいんだ。ダメかな?』
『くくっ・・・構わない。じゃあまた・・・戻るか。』
『うん~~♪』

ヒョリンから一緒に住んで構わないという了承も得て、気分は晴れやかなチェギョンである

漸く本来の自分の家に帰れることになったチェギョン

それにはやはり先住者のヒョリンの賛成がなければ帰ることなど出来ないのも事実だった

笑顔を浮かべるチェギョンの横顔に安堵しながら、シンは▼■食堂に向かって車を走らせるのだった



イメージ 1

もうね~~明日の最低気温が10度って言うことで
ビニール温室掛けたりしていて
更新が遅くなっちゃいました。

ファイティン記事にコメントくださった皆様
本当にありがとうございます。
やっぱりお一人お一人にお返事したいので
明日そちらの記事にはお返事させていただきますね❤
感謝感謝❤

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1451

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>