シン君がユル君を伴い東宮へ戻ってきた報せに、私はいそいそとエントランスへ駆けつけた
『ユル君・・・退院おめでとう。』
『ありがとう・・・』
『シン君お帰りっ♪』
『あぁ・・・』
どうも二人共浮かない顔をしている
東宮で休む事もなく、その足で皇帝陛下の元へ伺うという二人
私は遠慮した方がよいのではないかと部屋に戻ろうとしたのだが、ユル君は私も同席して欲しいと言うので
二人の後に続いた
なんだろう・・・二人共とても深刻そうな顔をしている。恵政宮様の御加減は・・・それほどよくなかったのだろうか
心配になりながら私は二人について行った
『ただいま退院して参りました。』
三陛下に頭を下げるユル君。三陛下もユル君の今回の行いや辛い気持ちを察しているのだろう
優しく其々が声を掛けた
『大変であったな。』
『ユル・・・もうどこも苦しくはないのか?』
『ユルや・・・なんて不憫な・・・』
その様な恩情のある言葉を掛けられ、ユル君もいたたまれなくなったのだろう
その場に跪きユル君は頭を垂れた
『陛下・・・今、母に逢いに行って参りました。母は自分が皇太子妃である時代に逆行しておりました。
僕の事さえ解りませんでした。
陛下・・・あの状態では母に罪を償うことなどできません。
今回の一件はどうか僕の命をもって償わせてください。
それが・・・母が正気に戻った時に、一番重い罰となるでしょう。
すべては僕が企てた事・・・そう国民には発表してください。
陛下・・・どうかそのようにご決断ください。』
跪き項垂れたユル君の頬には悲しみの涙が伝っていた
つまり罪を償えない恵政宮様の代わりに、自分が罪を償うというユル君・・・
三陛下もシン君も苦悶の表情で言葉を失くした
皇帝陛下の部屋の中は誰ひとり口を開くことが出来ず、ユル君の嗚咽だけが響いていた
その静寂を打ち破ったのは、皇帝陛下の怒りの声だった
『ユル・・・そなたはまさか本気でその様な事を言っておるのか?私達の目を見てもう一度言ってみなさい。
その様な愚かな言葉は二度と言えない筈だ!!』
皇帝陛下の叱責する声にユル君は涙で濡れた顔を上げた
皆悲しい瞳でユル君を見つめている。そしてそれは私も同様だった
『ユル・・・そなたは悲劇の主人公を演じるつもりなのか?犯してもいない罪をなぜそなたが償うのだ!!
その様な言葉を言われた私たち家族が、どんな思いでいるか解らないのか?
辛いのはそなた一人ではない!!孫にその様な言葉を言われた皇太后様の心情を考えるがいい!!』
皇太后様は口元を押さえ、そのやつれたお顔に涙を零していた
ユル君の気持ちも確かに解るけど・・・皇太后様にとったら残酷な言葉だ
『申し訳ありません。でしたら僕はどうしたらよいのでしょうか?
それが叶わないのであれば、海外に永久追放していただけますか?』
我慢できなくなったのだろう。皇后様はついに口を開いた
『ユル・・・そなたの母の欲は深かった。そなたに罪があるとすれば・・・優しい母の仮面の下に
そんな強欲さを隠していた事に気がつかなかった事だけだ。
そなたはどこにも行かず、この宮殿で生きるがよい。そして時折母に逢いに行ってやるのだ。
辛くても逢いに行くことがそなたに課せられた使命だろう。』
『ですが・・・皇后様それでは・・・国民が・・・』
『ユルや・・・』
声を震わせた皇太后様はユル君に優しく語りかけた
『もう国民にも発表は済ませた。心を壊した恵政宮がすべて企てた事だとな。
そなたはこの先・・・そんな母の犯した罪を背負って生きねばならぬ。
だが・・・今後太子を支えていけるのもユル、そなただけだろう。
こんな恐ろしい諍いはもう二度と起こしてはならぬ。その事を胸に刻み慈慶殿で私と共に暮らそう。』
『おばあ様・・・』
皇帝陛下は先程までとは異なる優しい口調でユル君に話しかけた
『ユル・・・妃宮を助けてくれて感謝する。皇孫を守ってくれてありがとう。』
泣き崩れるユル君の周りに、三陛下そしてシン君と私も集いユル君を立ち上がらせた
皇后様はユル君の頬に流れる涙を、ハンカチで優しく拭って下さった
今のユル君にとって支えになるのは、きっとここに居る家族だけだろう
ユルが皇太后様と共に慈慶殿に向かうのを見届けて、俺とチェギョンは東宮に戻った
疲れた・・・あのソ・ファヨンの様子を見てしまってから、俺の心の疲労は途轍もないレベルに達した
あれが13年もの間俺を苦しめてきた女の末路か?あまりにも呆気なさすぎる
ユルは今深い悲しみと心の痛みに苛まされているだろう
チェギョンと二人部屋でお茶を飲みながら、俺はユルを想い大きく溜息を吐いた
するとチェギョンは俺の隣に来て、俺の髪を撫でてくれる
『シン君・・・今日は大変だったね。』
『あぁ・・・』
『ユル君のあの様子から察しがつくよ。ユル君は皇太后様のところに住むことになったし、
ひとまずこれで安心できるね。』
『あぁ。ユルを一人にはさせられないからな。』
『うん。今のユル君を一人にしたらいけない。』
『お前もそう思うだろう?だから三陛下のご決断は有難かった。』
『うん。色んな蟠りがあっただろうけど、三陛下がユル君を優しく迎えてくれて安心した。』
『もうお前は何も心配しないでいいから、ゆったり過ごすんだ。』
『うん。そうする♪』
このところ心労の多かったチェギョン。身重な身体なのに俺の方が労わって貰ってばかりだ
『そうだ!シン君・・・気持ちが落ち着いたら宮の庭で三人でピクニックしようか~♪』
『ピクニック?』
『うん。お弁当持ってユル君と三人で・・・』
『馬鹿かお前・・・この真夏に・・・』
『ふ~~んダメなの?じゃあいいよ!ユル君誘ってショッピングにでも行って来ようかな~♪』
おいおい・・・妊娠中の皇太子妃が他の男とショッピングなんて、マスコミが嗅ぎつけたら大喜びしそうなネタだ
『解ったよ。ピクニック・・・それで妥協しよう。』
『ホント?じゃあ私がお弁当作るよ~♪』
『あぁ?お前が?食えるのか?』
そう言われてみればチェギョンの手料理を食べたことがない
『失礼しちゃう!!ファッションリーダーはね・・・お弁当だってファッショナブルなんだから~~♪』
本当かよと口に出そうになったが、美的センスに掛けては学校一のチェギョンだ
きっと綺麗な弁当を作るのだろう。味はともかくとして・・・くくっ・・・
ユルの引っ越しが終わって落ち付いたら、チェギョンのいうところのピクニックとやらに付き合ってやろうか
そうだな・・・一番涼しげな池のほとりの東屋がいい
あそこならきっと、真夏でも涼しい風が吹いてくれることだろう
その翌日、ユルは慈慶殿の内官や女官を伴いソ・ファヨンと住んでいたマンションを引き払い、宮殿に引っ越した
少しずつユルの気持ちも落ち着いて来るだろう
ソ・ファヨンに加担した者達はすべて罪に服すこととなり、ユルはその事に心を痛めているようだったが
それは俺達夫婦が徐々に癒していこうと思っている
ユル君も・・・早く元気を取り戻すといいね。
そして素敵な理解者が現れるといいね。
ドラマ・・・終わったね~❤
ひとまずハッピーエンドで安心しました。
次なる作品が楽しみです❤
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