『殿下・・・この問題なんですけどぉ~❤』
『こちらを先にお願いします~殿下ぁ♪』
シンの両隣に座る娘達はメイド服を着崩し、ボタンをいくつか外して本人達はセクシーさを
アピールしているようであるが、それを目の前で見せられているチェギョンにはセクシーと言うよりは
イヤラシイ部類のアピールに見えてしまい、思わず顔を背けた
その顔を背けた先にシム・ウンジュの顔があり、チェギョンとウンジュは思わず互いに苦笑いを浮かべた
見るとご令嬢方の中でウンジュだけは、きちんとメイド服のボタンを一番上まで留め
仕事の時となんら変わらない雰囲気であった
そのウンジュはチェギョンが指差している問題に目を留めると、チェギョンに話しかけた
『チェギョンさん・・・この問題がわからないの?』
シンに聞こうと思っていた問題だったが、シンは向かいの席で両隣とチェギョンの隣に座る三人のご令嬢の
質問攻めにあっていた
この分では今日は勉強どころではないと思ったチェギョンだったが、ウンジュだけは
どうやら他のご令嬢方とは趣旨が違うようだと安堵しウンジュに笑顔を向けた
『うん。実はこの問題がわからなくて・・・』
『これは・・・この数式を代入すればできるの。ほら・・・やってみて♪』
『ホント?・・・あっ本当だ。出来た~~♪ウンジュさん勉強もできるのね。』
『ふふふ・・・違うわ。王立高校は授業の進むペースが速いだけ。』
六人が腰掛けたソファーで、そのうちの二人は真剣に勉強をし・・・後の三人はシンを巡って諍いを始めた
ただでさえチェギョンと過ごせる貴重な時間を邪魔され、怒り心頭のシンはもう我慢が出来ないとばかりに
声を荒げた
『お前達、煩さすぎる!!一体何をしにこの部屋に来たんだ!!!』
シンの怒声に静まり返ったご令嬢方・・・その時、隣室の扉が開いた
『一体何の騒ぎなのだ。煩くて眠れたものではないわ。』
『申し訳ありません皇太后様・・・』
『もう出て行って貰えないか?私の眠りを妨げないでおくれ・・・』
『そういたしましょう。』
すごすごとチェギョン率いる四人のご令嬢方が立ち去った後、シンは皇太后に憔悴しきった表情で問い掛けた
『皇太后様・・・もうこのお部屋はお借りできないと言う事ですか?』
『仕方なかろう。王族の娘達は太子を目当てに宮殿に来ておるのだ。
太子と一緒に過ごせる時間があるなら、チェギョンとの間も邪魔しに来るだろうな。』
『では・・・この王族の娘達の見習い女官期間が済むまでは、チェギョンと共に過ごせないと言う事ですか?』
なんとも情けない顔をするシンに、皇太后は助言をくれた
『いや・・・チェギョンには負担になるだろうが、東宮に呼びだしたらどうだ?』
『ですがこの部屋に来る事も見透かされたのです。東宮にも図々しく訪れるに違いありません。
何かと≪公平に≫を強調して来る娘達ですから・・・』
『見つからない様に密会するほかないだろう。その辺りはチェギョンと打ち合わせて上手くやりなさい。』
『解りました。チェギョンに相談してみます。』
シンは後でチェギョンに電話を掛けようと思いながら、皇太后の部屋を後にし東宮に戻っていく・・・
一方・・・折角の皇太子殿下イ・シンと近づけるチャンスを逃したご令嬢方はそそくさと自室に引きあげてしまい
その廊下にはチェギョンとウンジュだけが残された
『あのぉチェギョンさん・・・』
『なにか?』
『みんなを皇太后様のお部屋に案内したのは私なの。』
『えっ?そうだったの?』
『ええ。隣の部屋だから見張ってろって言われて・・・断れなくて・・・』
『あ~いいよいいよもう。勉強も教えて貰ったしね。』
『怒っていなくて良かった。それでね・・・お願いがあるの・』
『なあに?』
『肩揉みのコツ・・・教えてくれないかしら。私・・・部活がソフトボール部で力加減が出来なくて
つい余計な力が入っちゃうの。陛下に合格点をいただきたいの。』
真剣に訴えるその瞳・・・その想いに嘘はないとチェギョンは思った
『うん。いいよ~♪』
『ホント?本当に教えていただける?』
『うん。明日からお仕事が終わったら、ウンジュさんの部屋で教えてあげる。』
『ありがとう。』
チェギョンにとって好感のもてるこのシム・ウンジュは、好感が持てる分だけ自分の首を絞めかねない
存在である事も解っていた
だが、どこか自分と同じ匂いを持ったこの少女の願いを、断ることなどできないチェギョンだった
その夜・・・チェギョンがすっかり就寝体制に入った時、携帯が鳴り響いた
発信者の名前を見ると≪イ・シン≫と書かれている。チェギョンはその電話を慌てて取った
『もしもし・・・』
『俺だ。』
『うん。ごめんね。宿題する場所がなくなっちゃって・・・』
『あぁ。さすがの皇太后様ももう部屋は貸せないと仰っている。だから今度は・・・東宮に来ないか?』
『えっ?東宮殿?でもぉ・・・また見つかっちゃうかも。』
『見つかったとしてもあいつらは東宮内に入れない。』
『不公平だって言われちゃうよ。』
『そんなこと知るかっ!宿題が終わらなくなってしまうだろう?』
シンにとっては宿題などこじつけただけの理由であり、本当はチェギョンと共に過ごす時間が欲しいだけなのだ
『でもダメだ。行けないや・・・』
『なぜだ?』
『シム・ウンジュさんに・・・お仕事が終わったあと肩揉みのコツを伝授する約束をしちゃったの。』
『あぁ?そんなことまでしなきゃならないのか?』
『うん、だって一生懸命なんだもん。私もそれに応えてやらないと・・・』
『毎日じゃないんだろう?』
『毎日じゃないとは思うけど、今のところまだわかんない。』
『そんなの断っちゃえよ。』
『そんなこと・・・できないよ。』
『じゃあ・・・空いている日があったら事前に知らせろ。その日に宿題をしよう。』
『うん。』
『チェギョンいいか!!お前の任務は王族の娘達が如何に何もできないかを知らしめることだからな!!
変な同情はするな。』
『そんなことしないよぉ・・・』
そう言いながらも何もできないと思っていたご令嬢方の中で、一人だけ見こみのある女の子がいる事に
気が付いてしまったチェギョン
これはチェギョンにとって苦悩の毎日になりそうである
翌日からは心を入れ替えた様に四人のご令嬢方は、点呼の前には廊下に整列をした
身だしなみもしっかり整え、見た目は申し分ない女官見習いの姿である
だが・・・やはりする事なす事が中途半端な様子である
たとえば廊下にモップを掛けていて花瓶を割ってしまったり・・・皇太后の食器を落としてしまったり
そんな中で小さなミスはあるものの、シム・ウンジュだけは文句ひとつ言わず必死に仕事を覚えようとしていた
女官見習いとしてご令嬢方が宮殿入りして一週間・・・チャ・ジュニが、あまりの器物破損件数の多さに音を上げ
宮殿を自ら去っていった
キム・セナが肩揉みの時間に、皇帝陛下の背後で深い溜息を吐き陛下から解雇を申し渡された
女官修行二週間目に入った時・・・残ったご令嬢はチャン・チムとシム・ウンジュだけとなった
その夜仕事が終わった後、シム・ウンジュの部屋で肩揉み伝授をして部屋に戻ったチェギョンは、
真っ暗な部屋の中に人の気配がするのに驚き、咄嗟に大声を上げそうになった
『きゃっ!!(もごもごもご・・・)』
その口は即座に大きな手で塞がれ何も言えなくなってしまったチェギョンであるが、その耳元に
暗闇で潜んでいた人物の声が小声で囁かれた
『俺だチェギョン・・・』
『ひっ・・・シン君!!もぉ・・・心臓止まるかと思った。なぜこんな暗い部屋に居るの?』
『お前に逢いたかったから・・・つまり夜這いってやつだ。』
『とにかく座って。』
部屋の明かりは灯さずベッドサイドに置かれた小さな明かりだけをチェギョンは点けた
そしてシンのいる方向に振り向いてみると、シンはこの小さな部屋に置かれているベッドに腰掛けていた
そう・・・よくよく考えてみれば、この部屋には腰掛ける場所などないのだ
仕方がないとチェギョンはシンの隣に腰掛けた
『シン君・・・小声でしか話せない。隣の部屋にシム・ウンジュさんがいるんだ。』
『あぁ。小声で話そう。』
さてさて隣の部屋にはシム・ウンジュがいる
いくらシンがチェギョンに逢いたかったとはいえ、二人にとっては非常にスリリングで危険な密室が
出来上がってしまったようだ
久し振りのお話の更新です~❤
お待たせしてしまいました。
でもさ・・・実は明日二年振りの
眼科の検査でね・・・
瞳孔開いちゃうので
明日の更新は、瞳孔が戻っていたらと言う事にさせて~~!!
すまぬっ♪